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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
105/305

105話 グレイプニル

「神崎空の名の元に命ずる。望むのは束縛。心は常に勝利と平和を望む。どうか彼女に安息があらんことを」


 唱えるのはグレイプニルを呼ぶための詠唱文。

 知の神から教えてもらったものだ。

 一度唱えれば頭に思い描くだけでグレイプニルを出せるようになる。

 それはとてもありがたい事だ。

 戦闘中にこんな長い詠唱は出来ないからな。

 そして詠唱は第二節に移行する。


「我が呼ぶのはかつてフェンリルを縛りし最強の鎖。作られる時にはこの世から七つの物を使い、七つの物を世界から消失させた鎖。他者の命を踏み台にして生きる俺に相応しき鎖」


 そして最終節。

 これが俺の武器だ!

 来てくれ俺の神器!


「至れグレイプニル! 北欧神話から生まれし鎖! 今こそ我に力を貸さんことを!」


 俺の手が光輝く……

 そのまま流れに任せる。

 ただそれだけでいい。

 俺は契約者だ!

 グレイプニルは俺の物!

 俺が正当な権利を持って契約した物!

 ドンと構えておけ!


「……来たか」


 手にはズッシリとした重さがある。

 それは間違いなく鎖。

 鎖の色は金色だ。


「……振り回すには少し狭いか」


 とりあえず呼べるのは確認出来た。

 使うのは実践。

 それまでは出来るだけ隠そう。


「空様。凄い音がしましたけど……」

「悪い。ベッドから転げ落ちただけだ」

「……そうですか」


 時計を確認すると朝の六時を指していた。

 少し不思議だったな。

 そう思ってると携帯がピロロンと音が鳴った。

 メールが来たのだ。

 俺は確認するために携帯を開く。


「……メール2032件に不在電話が74通だと!?」


 携帯にはありえない件数のメールに電話。

 俺が試練を受けてる間に来たものだ。

 まさか桃花か?

 たしかに桃花ならやりかねない。

 それに彼女になったわけだから……

 俺は恐る恐るメールを開いた。

 しかしそれは桃花からではなかった。


『さっさと電話出てください。クソ兄貴』


 適当に開いた一通にはそう書かれていた。

 この大量のメールの送信者は海だ。

 とりあえず俺は一番下に埋もれてるメールを確認する。

 おそらくそこに全て書かれてるはずだ。


『今日の晩御飯はピザでした。そういうば二枚頼むと一枚無料になるってキャンペーンをピザ屋はよくやってますけど倒産しないんでしょうか?』


 期待した俺が馬鹿だった。

 凄くどうでもいい……と言いたいがたしかに気になるところではある。

 予め倍の価格に設定しているから大丈夫というのが俺の考えたが実際はどうなのだろうか。

 しかし今は関係ないとメールを返信しようとした時だった。


「……続きがある?」


 なんとこれで終わりではなかったのだ。

 メールは下にスクロールが出来た。

 表のメールはダミー。

 下のが本命……

 俺は下に書かれたのを音読する。


「追伸。明日の土曜日のお昼頃にクズと一緒にそちらに行くのでよろしくです」


 声に出しながら思った事を一つ言おう。

 何を考えてんだこの妹は!

 そもそもお前が親父と一緒にアルカードを向かい打つ予定だっただろ!

 それなのに親父と一緒に来たら時間逆行を疑われるだろ!

 この馬鹿妹が!


「……空様?」

「悪い。なんでもない」


 そう白愛に返事をすると共にメールが再び来た。

 ヤレヤレと思いながらとりあえず確認する。


『お兄ちゃん。まだ起きないの。起きないならキスしちゃうね』


 コイツ。ふざけてるだろ。

 絶対にお前がそんな事をするわけないのを俺は知ってるぞ。

 そう思った矢先に再びメール。


『まぁどうせ寝てて見ないでしょう。流石に溜まってるメールを全部閲覧するとも思えないのでいくらでも変な事を書けますね』


 いや、待て。

 少しだけ面白い事を思いついた。

 俺は急いでメールを打ち込み海に送る。


「これでいいだろ」


 メールを送り数秒した時だった。

 電話が鳴った。

 俺は動じず電話を取った。


「お。どうせ読まないと思って黒歴史を兄に送った可哀想な妹じゃないか」

「……言わないでください。それにメールを確認したらすぐに電話をくださいよ……」

「悪い。今さっき起きたばっかでな」


 久しぶりに海の声を聞いたな。

 まぁ元気そうで何よりだ。


「私の方はクズを土下座させたあとに作戦会議。その結果とりあえず白愛一人で夜桜以外なら問題ないということで合流するべきだという結論に至りました」


 ……土下座?

 とんでもない事が聞こえたがとりあえずスルーだ。


「なるほど。俺の方はと言うと何だかんだとあり桃花と付き合う事に……」

「は? 人が徹夜で頑張ってる中でお兄様は何してるんですか?」


 一体何に徹夜したのか。

 特に徹夜するような事はなかったはずだが……


「とりあえず桃花に協力を頼んだ。それと後で大事な事をメールするが内容は他言無用で読んだら消してくれ」

「……分かりました。多分重要な事なんですね」

「あぁ。あれを知るのは海だけでいい」


 今日の昼には海が来る。

 思った以上に時間が無い。


「そうですか。それと合流したらすぐにアリスの元へ行きますよ。体に刻まれた忌々しい傷を消したいので」

「あぁ分かった」


 そうか。

 過去に戻るってことは傷を消した事もなかった事になるんだな。


「海。親父と電話を代わってくれるか?」

「分かりました」


 少し間を置き親父が電話に出た。

 聞くのも嫌な声だ。


「……空」

「どうせ海の記憶を覗いたて大体の事は把握したんだろ」

「まぁな。それで僕になんの用だ?」


 分かってる癖によく言うな。

 お前は二つ返事で頭を下げればいいんだよ。


「ルークさんへの連絡とアリスに救援要請はしたんだろうな?」

「もちろんだ。ルークは火曜日に来るそうだ」

「火曜日か。それと超電磁砲(レールガン)とか武器もちゃんと持ってこい。お前も戦うんだからな」


 親父は戦力としては上質。

 夜桜と戦う上には必要不可欠。


「……分かってるよ」

「それと会って夜桜の件が終わったらてめぇの顔面を腫れ上がるまで殴ってやるから覚悟しとけ」

「手厳しいねぇ」

「お前が海にした事を考えれば生温い」


 そう言い残して電話を切った。

 海が来るまでの間にやる事が多い。

 やはり白愛にだけは神器の件は言おう。

 そうしないとダメだ。


「白愛。お前の亜空間を貸してもらっていいか?」

「いいですけど……どうして?」

「ちょっと新しい武器を試したくてな」

「まさか神器!?」


 俺は含みがある笑みで白愛に答えた。

 契約したんだろうなと匂わせる程度で良い。

 明確に知らせるメリットもないしな。


「分かりました」


 世界が真っ白になった。

 近くには色々な物が散乱している。


「終わりましたら思いっ切り叫んでください。声は私に聞こえますので」

「分かった」


 さて、いっちょ練習といきますか!

 とりあえず敵の手足を絡め取れるくらいは使いこなさいとな。

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