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世界調整  作者: 虹某氏
3章【妹】
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104話 モヤモヤ

「ガウッ!」


 強靭な顎で俺を噛み砕こうと突っ込んで来る。

 それをギリギリで回避。

 回避に精一杯で俺はまったく攻撃出来ずにいた。


「……ハァ……ハァ」


 肺が痛い。

 足の骨が軋む。

 そんな俺に対してフェンリルは余裕の表情。


「透明じゃないだけマシか」


 再び俺の体を引き裂こうと飛び掛ってくる。

 先程までならギリギリで回避できた。

 しかし体力を消耗してきた俺にそれは不可。

 爪が腹を軽く撫でて血が吹き出る。

 それにより意識は朦朧となる。


 でも、気合いで倒れないように堪えヤツをまっすぐ見る。


「ニンゲン。ここまで我と戦えるとは驚きだ」

「……喋れたのかよ」


 少しばかし驚きだな。

 喋れるなら最初から喋れよ。


「我を誰だと心得る」

「少し休憩をくれませんかねぇ」

「やるわけないだろ。戯け」


 再びフェンリルは引っ掻こうとしてくる。

 もうそろそろ俺の体が裂ける。

 そんな時に突如、世界の動きが遅くなった。

 しかし俺の動きが早くなったわけじゃない。

 ここで俺は死ぬのか……

 死ぬ間際は世界が遅くなる言うがそれだろうか。


「いや死なねぇよ!」


 そんな中で彼女の顔が浮かんだ。

 可愛い妹である海の顔だ。

 彼女で思い出した。

 俺が死んだら悲しむ人がいる!

 桃花だって悲しむ。

 ヤツの爪が届くまでコンマ二秒。

 考えろ。

 海だったらどうする。

 間違いなく彼女なら突破出来る。

 俺の妹である海はどうやって突破する。

 そんな事を光の速さで思考する。


 すると自ずと答えが見えてきた。

 俺が死ぬまでコンマ一秒。

 俺は手を伸ばしてヤツの足を掴んだ。

 鋼のような体毛が俺に刺さるが無視。

 それに驚いたのか動きが一瞬鈍った。

 そのチャンスを逃さない!


 ありたっけの力を込めろ!

 俺はそのままフェンリルを背負い投げする。

 めちゃくちゃ重い。

 おそらく1トンは軽くオーバーしてるだろう。

 手足の肉が重さに耐えきれずメシメシと避けていく。

 それでも今は我慢だ!


「正気か!?」


 耐えろ。

 今は気合と根性の見せどころ!

 俺はそのままフェンリルを地面に叩きつけた。

 ズドドンと激しい音が辺り一面に響いた。

 しかしまだ終わってない。

 俺は急いでヤツの体をよじ登り顔を踏みつける。


「……俺の勝ちだ」


 無茶をしすぎて力が入らない手を無理矢理動かす。

 そして右手をフェンリルに目に突き刺した。

 血が吹き出るが無視。

 水晶体を突き破りそのまま目の中を掻き回す。

 生き物の目を生きたまま掘るの初めての経験だ。

 目にしっかり手がくい込んだのを確認すると思いっ切り目ん玉と一緒に引き抜いた。


 視神経が顕になったのでナイフを出して残った左手で持ち切り裂く。

 体毛がないだけあり随分とあっさり切れた。

 フェンリルが痛みのあまり転げ回る。

 しかし俺はそんな事は気に止めない。

 目を抜いた事で体毛が無い場所ができた。

 そこにナイフを何度も何度も何度も突き刺す。

 その度にズブリ、ズブリ、ズブリと音が鳴る。

 俺はそれを動かなくなるまで繰り返した。


「……終わったぞ。狼狩り」


 最後の背負い投げ。

 アレは海で思い出した。

 今回は海のお陰で勝てた。


「グレイプニル。俺の物になれよ」


 そう呟く。

 すると空から鎖が降ってきた。

 間違いなくグレイプニルだ。


「お見事だよ! 神崎空」

「知の神か。見てたのか」

「もちろん! 本来はフェンリルに力を認めさせるだけで良かったんだがまさか勝つとは思ってなかったよ」


 そういうのは早く言え。

 そんな文句を言おうとした時だった。

 急に体から力が抜けた。


「うわぁ酷いねぇ。全身の骨がバキボキに折れてるじゃないか」

「……背負い投げした時か」

「ここは精神世界であるから心とイメージさえ出来れば確かに行えるけど限度があるよ。それと鬼化による底上げか」


 鬼化?

 まぁなんでもいい。

 とりあえず言えることは本来の世界であのような無茶は無理って事か。

 当然と言えば当然だよな。


「私がいて良かったね」


 知の神が指を鳴らすと先程のことが嘘のように傷が回復した。

 さすが神としか言い様がない……


「君が契約したのはグレイプニル。触れた者は能力が全て使えなくなる拘束の鎖だよ」


 狙い通りの効果だ。

 これなら白愛がいなくても戦える。


「また触れた者にかけられた魔法や能力も解除できる。例えば真央の共有とかね」

「予想以上だ」


 ようやく勝ち筋が見えた。

 これで一方的に負けるなんてことはなくなった。


「でも神器の能力は封印出来ないから注意してね」

「同格は無理って事か」

「そういう事」


 でも一番大きい戦果は神器じゃない。

 この経験だ。

 俺はまた次のステージに行く事が出来た。

 また一歩強くなれた。


「空。今のはフェンリルの呪いのようなものだ。間違っても本物のフェンリルに勝てるとは思わないように」

「分かってる」

「本当に分かってるかどうか微妙だがまぁいい。本物のフェンリルは今の十倍は速いしもっと賢いよ」


 絶対に戦いたくねぇな。

 今回は動きが単調だったから勝てたって面もあるしな。


「それに本物は会話だって出来る……」

「おい。会話は出来たぞ」

「それはおかしいな。あくまで呪いだから喋れないはずだが……」


 じゃあアレはなんだったが……

 間違いなくヤツは喋った。

 しかし知の神は喋る事なんてないと言っている。

 では喋ったのは一体……


「まぁ考えたって仕方ない。時が来れば分かるさ」


 とても気持ち悪い感じだ。

 何か重大な見落としをした。

 そんな気がしてならない……


「空。私がホラーが苦手だってよく分かったじゃないか。たしかに少しからかい過ぎたって思うが……」

「俺は冗談なんて言ってねぇよ」


 そして知の神は俺が彼女を怖がらせるためについた嘘だとしか思っていない。

 アイツの事は俺の頭の中だけに残ってる……


「神崎空。貴様の名を覚えたぞ……」


 そう思った時に再び声がした。

 ハッキリと俺の名前を呼んだ……


「どうしたの?」

「いや、今フェンリルが俺の名を……」

「冗談はやめくれないか。しつこい男は嫌われるよ」


 知の神には聞こえなかったのか?

 それじゃあ今のは一体なんなんだ。


「ほら。早く行くよ」

「そうだな……」


 俺はなんとか神器を手に入れた。

 しかし心に新たなモヤが生まれた。

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