103話 神話の獣
様々な武器が落ちている。
どれも神器だ。
赤い槍に金色の剣。
それに面白い事に本も落ちている。
おそらく本の中には人類が一生かけても知る事の出来ない内容が書かれていたりするのだろうな。
「でも違う。俺に合う武器を探せ」
一人で言い聞かせるように呟く。
俺の戦い方を思い出せ。
基本的には雷をメインとしている。
その前はナイフや剣だった。
しかし武器はダメだ。
俺が耐えられない。
「違う。どれも違う。俺には合わない」
白い羽衣に紫色の靴。
名称は分からない。
ただピンと来ないはたしかだ。
そもそも俺は何を望む?
どんな戦い方を望む?
「……自問自答だな」
お前は人を殺して楽しいか?
そんなわけないだろ。
お前は人を殺したいか?
誰が好き好んで殺すものか。
お前は皆を救いたいか?
当たり前だ。
「……決まった。俺が選ぶのはこれだ」
やる事は殺しではない。
無力化だ。
俺は必死に走り目当ての物を探す。
何処まで走っても似たような武器ばかり。
ハァハァと息が零れる。
本当に目当ての物があるかなんて分からない。
それでも探すしかない。
走るにつれ汗が吹き出て熱くなる。
早く見つけろ。
時間制限があるわけじゃないが急ぐに越した事はないぞ。
そう思った矢先だった。
俺は何かに足が掬われ転ぶ。
「痛てぇな」
何に引っかかったのかすかさず確認。
そして俺はこれを見た時に思わずガッツポーズした。
俺の目当てのものがあったからだ。
名前は偶然覚えている。
「神獣フェンリルを縛りし鎖“グレイプニル”。お前を探したぞ」
迷わず俺はそれを手に取った。
その瞬間、体がピクリとも動かなくなった。
「猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液。全部この世界には存在しないものだ。なぜならその鎖を作るのに使われたから」
のんびりと歩いてきたのは知の神。
彼女はグレイプニルの概要を説明していく。
「試練が始まるけど覚悟は出来たかな?」
「出来てなくても始まるだろ」
「まぁね」
それを最後にプツリと意識が落ちた。
次に目を覚ますとそこは荒野だった。
どうやら試練が始まったらしい。
「グルゥゥゥゥ」
目の前には5m近くある大狼。
金色の体毛に赤い目をしてる。
おそらくコイツがフェンリル。
実際はフェンリルの呪怨かもしれないが倒すのが試練だろう。
「やるか。加速!」
俺は間合いを使おうと能力を使おうとした。
しかし問題はすぐに起こった。
「……発動しない? そういう仕様か!」
フェンリルはそんな俺にお構いなく飛び交ってきた。
それをギリギリで体を転がして回避。
フェンリルはそんな事を気にも止めず獰猛な目でコチラを見ている。
「……ん?」
俺は腰に違和感を覚えた。
何か少し重さを……
「あぶね!」
フェンリルは待つことを知らず鋭利な爪で俺を引き裂こうと引っ掻いてきた。
俺はそれを回避しながら自分の腰に触れた。
そこにはナイフがあった。
違和感の正体はこれか。
これで戦えってことか。
俺はナイフを構える。
かなり鋭利で銀色に輝いている。
こんなナイフは初めて見た。
「グルルルルゥゥゥゥ」
牙を伝わら涎が零れる。
改めてヤツは獣なのだと実感させられる。
かつてないほど大きな壁。
少しの油断も許されない戦い。
それなのに能力は一切使えない。
厳しくないわけがない。
でもやるしかない!
「人と獣の差を見せてやるよ」
言葉では強がる。
本心を言えばめちゃくちゃ怖い。
だからこそ強い言葉を使う。
気を紛らすために。
「ガウッ!」
返事をするかのように吠えると弾丸のような速度で俺に飛び交ってきた。
体を捻り回避するも間に合わず爪に俺の右腕が掠りそこそこ深い傷がついた。
掠っただけでこれかよ……
「化け物が」
めちゃくちゃ痛い。
でも今は我慢するしかねぇ。
「今度はこちらから行くぞ!」
見てから動くな。
予測で動け。
こいつの攻撃はそうしなきゃ避けられない。
それも今まで以上の速度で攻撃を予測して行動に移さないと間に合わない。
俺はそのままフェンリルに飛び込む。
来るのは恐らく右足での引っ掻き。
それを予測して急ブレーキをかけるかのように止まり回避。
右足が落ちて来たのを確認してそこをナイフで切り裂く!
「……おかしいだろ!」
しかしナイフは体毛に阻まれ届かない。
なんて硬さの体毛だ。
まるで鋼……
「クッ」
本能的にバックステップで回避。
俺のいた所を確認するとそこにはクレーターが出来ていた。
それを見てゾッとする。
少しでも反応が遅れたら俺は間違いなく死んでいた。
フェンリルは右足で地面を叩いただけ。
それでクレーターが出来たのだ。
間違いなく化け物だ。
さすが神話の獣としか言い様がないな。
一時撤退して……
「ワオゥゥゥゥゥゥン」
そう思った矢先だった。
フェンリルは雄叫びをあげた。
それと共に地面は競り上がり俺の周りを塞ぐ。
逃げ道を塞ぐかのように……
「……マジかよ」
あまりにもスケールが違い過ぎて言葉にならねぇ。
こんなのどうやって……
いや、まだ手はあるはずだ……
クリア出来ない試練なんてあるはずない。
「もしかしてナイフは罠……」
考えてみたら不自然だ。
試練で援助があるなんて異常。
例えるなら定期テストを受けようとしたら先生が教科書を渡してそれを参考にやりなさいと言うようなものだ。
一部の大学ではあるらしいが普通に考えればそんな手助けはない。
「そういう事だよな」
俺はナイフを捨てる。
こんな物は瞞しだ。
フェンリルは少しだけ動きを止めた。
俺を警戒しているのだ。
そんなのは初めての行動。
「第2ラウンドといこうぜ」
凶と出るか吉と出るか。
そんなのは分からない。
でも、今は賭けるしかないんだ!




