101話 嫁
「……どうして私なの」
やっぱりそうくるか。
少し長くなるが仕方ない。
「今から説明する」
「お願い」
まずはどこから話すか。
やはり最初からだよな。
「俺は同じ時を繰り返してる。つまりループしてるんだ」
「……え?」
「今のループは4回目。俺は桃花から何度も告白は受けてるんだ」
三周目では受けなかった。
でも一周目と二周目では受けてる。
一言一句頭の中には残ってる。
「俺を呼び出した桃花の第一声は覚悟を決めるかのように“言いたい事は分かってると思う”だった。もしも俺が呼び出しに応じてたら本当にそう言うかどうか自分の胸に確かめてほしい」
「……うん。多分そう言うと思う」
焦るなよ。
少しずつ固めていけ。
「それで俺はお前を振った」
「……やっぱりそうだよね。なんとなく分かってた」
少しだけ桃花が悲しそうな顔をした。
でも今はそんな事どうでもいい。
俺は桃花に構わず話を続ける。
「それが金曜日。すなわち今日で問題は土曜日」
「何かあったの?」
「白愛と買い物に行き帰ってくると神崎海っていう俺の双子がいたんだ」
あの時は驚いたな。
全てはその時から始まった。
俺の運命の歯車は狂い始めた。
「海は白愛。いや、暗殺姫をフィアンセにすると俺に言うとその日は家を後にした」
俺は白愛から暗殺姫に言い換える。
桃花にとってはそっちの方が馴染みがあってイメージしやすいだろう。
「……妹だから女同士だよね?」
「そうだな」
まぁ海の場合は色々とある。
あの時の海よ精神状態を考えると少し優しくされただけで男女構わず惚れてしまうチョロインと言っても過言じゃないだろうしな。
「分かった。続けて」
「それで暗殺姫は海が来たことにより全て話した。神崎家の事や夜桜に使徒について……」
実際は白愛がその時に話したのは神崎家のみ。
しかしここでまとめて知った事にした方がわかりやすいだろう。
「それで空君は私達の世界を把握したんだね」
「まぁな。話を戻すぞ」
「どうぞ」
桃花が一息つくかのように俺が作ったジュースを口に運んだ。
そして驚いたかのように目を見開いた。
口に合ってくれたみたいで何よりだ。
「そして日曜日の朝。海は俺達の元にやって来て俺に勝負を仕掛けた。白愛を賭けてな……」
「結果は?」
「ボロ負けだよ。そして白愛を取られて俺は一人になった」
今思えば海がいなければ桃花とも深い関係にならなかっただろうな。
やはり全ては海から始まっている。
「そんな時に一人になった俺に一通のメールが届いた。佐倉桃花。お前からだ」
「……私?」
「あぁ。振った時にお前はメアドを求めて交換したんだ。それでメールでお前は俺を呼び出して再度告白した」
あれは桃花が俺が苦しんでると直感的に感じたものだった。
今思えば彼女の勘の鋭さは凄い。
「結果は?」
「悪いけど断ったよ。その時の俺は何も考えられなかったからな。でもなんだかんだとあり昼食は一緒に食べてそこから桃花の家にも行って友達になった」
「……友達か」
平常を装って話しているが俺の足は震えている。
桃花にアレを話していいのか。
一周目の世界で桃花が世界を壊したのを知って傷つかないだろうか……
いや、多分大丈夫だ。
三周目の桃花は耐えたわけだしな。
「それから月曜。学校では海が転校生としてやってきて俺は昼休みに海に校舎裏に呼び出された。全て話したいと言われてな」
「……全て」
「言い忘れてたが海は俺を憎んでいた。でもどうして憎しみをもってるのかとか謎が多かったんだ」
あの時の俺はどうして海を許せたんだろうか。
やっぱり妹だからだろうか。
逆に海はどうして俺を受け入れたのだろうか。
見えないところで家族の繋がりがあるからだろうか。
「桃花。神崎家の女児がどうなるか知ってるか?」
「うん。昔から呪われてると信じられていて産まれるとすぐに殺される。だから私も空君に妹がいる事が驚きで……」
「そうだ。海は親父が必死に存在を隠したが故に生きている存在だ」
まぁ親父はクズだが。
それは追って話そう。
「そして海は存在を隠すためにヤクザの元に預けられ酷い虐待を受けていた。例えば金属バットで腹を思いっきり殴られたり吹雪の夜に全裸で外に放置されたり……」
「……酷い!」
「俺もそう思うよ」
聞いただけて胸糞が悪くなる。
そしてその原因と理由を考えると尚更……
「それでそんな海を救ったのが暗殺姫。その時の彼女は名前がまだなくて“白愛”は海が付けた名前だ」
「……そうなんだ」
あ、ヤバい。
肝心な所を伝え忘れた。
まぁなんとかなるだろ……
「それから白愛と海は半年の間一緒に暮らしなんだかんだとあって俺の元へ来て海は再び一人になった。そこから全てを奪った俺に憎しみを覚えて……」
「なるほど。そう言えば空君のお父さんってどうしてるの?」
「後々話すよ。今は黙って聞いてくれ」
「分かった」
俺の記憶が消えたのをカミングアウトするタイミングは決まった。
やっぱりあの時しかないな。
その方がわかりやすいだろう。
「そう言えば空様はその時になんて言ったんでしたっけ?」
「たしか“俺はお前の復讐を止めやしない。気が済むまで俺に復讐しろ。その度に俺はお前の正面からお前の復讐を失敗させてみせる”だったな」
いや、よく覚えてるな俺。
そして今思うと少しばかし恥ずかしい。
なんかカッコつけ過ぎた感が否めないが……
「そっか。そのセリフで海ちゃんは少しだけ空君に心を開いたんだね」
「そうかもな」
そうか。
白愛は分かってて聞いたのか。
たしかに海がどうして心を開いたのかを説明するにはこれは説明不可欠だな。
「それでこの話を盗み聞きしてた人が一人いてな」
「え?」
「それがお前だ。桃花」
「ウソ。私そんなことを……いや、私ならやりかねないかもしれない……」
よかった。
“私は絶対にそんな事しない”なんて駄々を捏ねられてたら凄く面倒だった。
「その時に暗殺姫の話もしたからお前は必然的に暗殺姫の事を知ったんだ」
「そうなんだ……」
そこから桃花が拗ねたりとあるのだが省略。
ややこしくするような事は出来るだけカットだ。
「しかし問題はそこからだ。俺は学校を終えて家に帰ると親父がいたんだ。しかも銃を片手に構えてな」
「え? 親子でしょ?」
「そうだ。実はこの時の親父はラグーンってやつの能力で乗っ取られてたんだ。それに親父の能力は触れた者の記憶を消すという厄介なもの」
親父の能力は最初は戦闘面においても強いと思った。
でも今は違う。
近距離にしか対応してない扱いにくい能力。
しかしそれを差し置いても強力。
「それによりラグーンは俺から白愛の記憶を奪い白愛がショックを受けた時に白愛の記憶も奪い自分に都合の良い記憶を埋め込むつもりだった」
「そんな事が……」
しかしどこまで本当なのか……
ラグーンは白愛を引き込もうとした。
でも二周目の真央はアカシックレコードに干渉するために親父の能力が必要だと言った。
目的が違いすぎる。
もしかしてヤツらは一回も真実を述べてないのではないか。
そもそもアカシックレコードが存在するのかも怪しい。
「その時の俺は弱くてラグーンから命からがら撤退。桃花の家に逃げ込んだんだ」
間違いなく今の俺ならラグーン如きなら秒殺出来る。
そのくらいには強くなったと自負している。
能力のお陰と言われたらそれまでだが自分も少しは成長してると信じたいな。
「そのまま月曜日を終えて学校の校門でラグーンに待ち伏せされて見つかるのも最悪だから火曜日は学校を休みお前の家に引き篭もった」
説明する事により自分の中でも整理できる。
問題はなんなのか。
俺はどうしたいのかが分かってくる。
「しかし火曜日の夜。逃げ入る所をラグーンに見られてな。そのまま桃花の家で戦闘となった」
「……結果は?」
「俺は互角の善戦したよ。でも少し力が及ばず負けかけた。その時にお前が意図も簡単に蹴散らしたよ」
考えてみたら桃花の戦闘を見るのはアレが初だった。
動きに無駄がなく容赦もしない。
一言で例えるなら悪魔。
誰よりも冷酷に命を刈り取っていく……
「さすが私!」
「そのあとにお前が保険として呼んだ海と白愛が来た。それとその時にお前がエニグマの娘だと聞いてラグーンの身柄はお前の父親に任せることになったんだ。ちなみにその時は夜も遅いから白愛と海も泊まることになった」
「なるほどね。でも問題はこれからだよね?」
その通りだ。
これからは問題しかねぇ……
「あぁ。全てが始まる水曜日。水曜日はお前のお父さん達に事情を説明するために学校を再び休み。そしてお父さん達と会って軽く話してラグーンの身柄は後日引き取る事になって帰った」
「なるほど」
さて、覚悟を決めますか。
あまり言いたくない。
間違いなく彼女を傷つけるだろうから……
「これで終われば良かったんだ。桃花。多分お前は傷つく。それでも聞くか?」
「当たり前だよ」
「分かった。問題が起きたのは海と白愛も帰ったあとだ」
桃花がゴクリと唾を飲む。
俺も息を深く吸いもう一度覚悟を決める。
「お前が壊れた」
「……え?」
「お前は俺の事しか考えなくなった。無理矢理俺を押し倒して大人のキス。それから晩御飯を作りそれを全て口移しで……」
「待って! 私がそんな事!」
悪いが事実だ。
受け止めてもらうしかない。
「使うのは選別された言葉。それから俺とお前は身体を重ねた末に付き合う事になった」
「何よ。それ……」
「他にもある。お前はそれにより【愛】の使徒になった。能力は俺の元への転移だ」
「……私が……使徒?」
桃花は唖然としている。
信じられるのも無理はない。
でもそれを分かった上で俺は問おう。
「この話。信じるか?」
「……うん。空君が嘘つくようには見えない」
本当に彼女には頭が上がらないな。
こんな突拍子もない話を信じてくれるなんて……
「それで木曜日。この日はエニグマ局長であるルークさんがやってきたくらいで特になかった。ちなみにルークさんの能力は時間を無制限で止めることが出来てなおかつ神崎家の者を過去に飛ばす事が出来る。また飛ばした時は自分の人格が複製されて過去の自分に上書きされる」
「そうだったんだ。局長さんの能力なんて初めて知った」
改めて思うと本当に強力だな。
ルークさん一人で真央も夜桜も倒せるじゃないな。
夜桜の再生なんて時間を止めてる間にコンクリ詰めにして海に沈めれば終わりだしな。
「そして木曜日は何もなく終わった。問題は金曜日だ」
桃花は口を挟むことなく真剣な目付きでこちらを見ている。
問題の金曜日。
アレさえなければ今も平和に暮らせていただろうか。
「あの日は普通に学校に行った。しかし桃花は用事があるって言って早退。そのあとに色々とあって放課後に俺と海の二人で教会の隣にあるお菓子屋に行ったんだ」
思い出すだけでゾッとする。
あれは今まで見た中で一番の地獄だ。
「店内でたわいもない話をしながらお菓子を食べていると突然近くから焦げ臭い匂い。慌てて外に出ると教会が焼けていた」
淡々と話していく。
何一つ隠すことなく。
「呆然と立ち尽くす中で教会の中から人が出てきたんだ。しかも火だるま。でも問題はそこじゃない」
「どこが問題なの?」
「その火だるまになってるのが白愛だったんだ」
「暗殺姫を火だるまにするなんて無理じゃ……」
俺もそう思った。
火だるまになるということは白愛が負けたということ。
間違いなく彼女に勝てる人なんていないだろう。
でも現実は違う。
「俺達も白愛が負けるとは思わなかった。しかしそんな事を考える時間を与えてはくれない。教会の中からある人が出てきた」
「誰?」
「桃花だよ」
目の前にいる彼女。
彼女が暗殺姫を火だるまにして殺したのだ。
「お前は俺と身体を重ねた時に子供を作った。恐らく退任器具に加工でもしたんだろうな」
桃花はただただ話を聞いている。
なんとか理解はしてるが話についていくのがやっとって感じだな。
「それが……どう関係するの?」
震えながら口を開いた。
声も震えている。
まるで自分のしたことが信じられないとでも言うかのように……
「それでお前は俺との子供を胎内で魔法を使って急成長させて分解して自分を神崎家と同格まで引き上げたんだ」
「そんな高度な魔法は不可能よ! 成功率なんて百回に一回成功したら良い方……」
「でもお前はやってのけた」
失敗したら死ぬ。
しかも成功率はとても低い。
常人なら死の恐怖に震えて出来ないだろう。
でも、桃花はやってのけた。
それがあの桃花の強さだ。
俺のためなら平然と自分の命すら賭け皿に乗せる。
「神器って知ってるか?」
「……まさか!」
「そうだ。お前は使徒でなおかつ神の血を引く者となった。それで神器の一つである“ソロモンの指輪”を現界させて暗殺姫を倒した」
改めて思う。
やはり異常だと。
「それからお前は海を殺し街を滅ぼした。なんでも俺と二人だけの楽園を作るとかな……」
「それで私がこんな事になる前に殺すためにルークさんに頼んで時間逆行したの?」
「そうだ」
街は荒野となった。
そんな中で俺はループした。
「そして戻ったのは一週間前の金曜日。俺は白愛に全て話して登校。そして学校でお前を殺した」
「やっぱり殺すよね……」
しかしそれだけで終わらない。
もしそれで終わればどんなに楽か……
「それから親父を助けに行った。親父が襲われるのは土曜日で……」
「どうして土曜日って分かったの?」
「海が家を出たのは金曜日。運良ければ間に合うんじゃないかって賭けだ」
「そっか」
親父の街は一年中雪が降る街“ジュネー”。
とても寒かった。
「それと言い忘れたが二週目に入ると同時に【知】の使徒になる試練が始まってな……」
「それでクリアして使徒になったんだね」
「まぁな。なんでも使徒という情報は魂に刻まれるから時間逆行しても残るらしい」
【知】の使徒になったのはもう少し後だが言う必要はないだろう。
「親父に会うとそこで親父は元エニグマだって知らされた。まぁあんな便利な能力持っててエニグマじゃないわけないよな」
「そうだな」
「そして親父を襲ったのはヴァンパイアのアルカードって奴と触れた人と身体を入れ替えることが出来るラグーンの二人。俺は白愛と親父と協力してなんとか退けてた」
アルカードはとても強い。
あの時に生き残れたのが奇跡と思える程に……
「それから俺達は元いた街。すなわちここに帰ろうとした。しかし問題はそこで起きた」
あれが彼女との初対面。
真央との初対面だ。
「俺達の前に突然一人の女性が現れたんだ。名前は神崎真央。神崎家当主の隠し子で箱入り娘として誰の目にも触れられることなく育てられたとか。しかし彼女が目覚めた能力は転移で外を見たくて旅に出たとか」
「それが何か問題あるの?」
悪いが大ありだ。
真央が全ての原因……
「アルカードやラグーン。彼等に指示を出していたのは真央だったんだ」
「つまり真央が敵の親玉なんだね」
「その通りだ。しかも彼女には他者に能力を一つ出来て使徒だ」
真央の能力は三つ。
彼女の代名詞である転移。
回避不能絶対即死のハートキャッチ。
痛覚や聴覚などを共有させる事が出来る能力。
「つまり三つ持ちか」
「そうだ。そして真央は海を拉致したとホラを吹き白愛と親父を拉致した」
あの時は完全に真央に騙された。
彼女はとんでもない策士だ。
「それから?」
「一人残された俺はそのままここに向かった。そして電車の出る駅に着くと一人の女性がいたんだ」
「誰?」
「アリス・ローズベリー。エニグマの人でルークさんが派遣してくれたんだ。何でもこの街には夜桜もいるらしくてな」
夜桜百鬼。
能力は略奪で神崎家を真央と親父と海と俺を除いて皆殺しにした人物。
力は圧倒的で白愛も一度彼には敗れている。
「ここで夜桜か……」
「あぁそのあとはアリスと街に戻り海と合流。三人で夜桜を討伐する事になった」
「それで?」
今思うと愚かだった。
夜桜にあの程度の戦略で戦いを挑むなんて……
「それと予め言っておかないといけない事がある。夜桜は鈴木拓也だ」
「やっぱり」
やっぱり?
どういう事だ?
この世界の桃花は……
「直感だけどそんな気はしてたの。でも決定的な証拠は無くて……」
女の勘って怖いな。
まぁなんでもいい。
「俺達はそのあとすぐに夜桜に戦いを挑んだ。あまりに圧倒的な力の前に敗北。アリスは首を落とされて俺は捕まった…… 」
「海ちゃんは?」
「四肢を落とされて慰め者にされたよ」
ホントに胸糞悪くなる。
やっぱり夜桜だけは絶対に許さない。
「……そっか」
「それから真央に拉致られてた白愛が俺を助けに来た。しかし真央と夜桜はグルで夜桜は取り逃してしまった。それから俺達は敵のアジトを散策した」
あの時に見た光景を忘れない。
あの場の匂いに空気を俺は忘れない。
「ある部屋に“お兄ちゃん”って言いながら呻く肉塊があったんだ。それは夜桜の妹だった」
「……え?」
「彼は昔は少年兵だった。しかし彼の妹が軍の実験台にされて人格破壌して死ねない体になって苦しんでる。そして夜桜はその妹を殺せる能力を探してるんだ」
夜桜の妹の名前は姫。
俺も彼女は助けたい。
「それを見たあとに親父が俺達の元へ駆けつけた」
ヤバいな。
ここら辺は記憶が混乱してる。
姫を見てから親父に会ったのか親父に会ってから姫を見たのか記憶があやふやだ。
まぁ支障はないだろう。
「そして俺は親父に白愛の存在について聞かされた」
「どういうこと?」
「白愛がホムンクルスだって事を教えられたんだよ。しかも主従契約っていうのをしてて俺が死ぬと白愛も死ぬとか……」
たしか白愛は俺の汗が蒸発して空気中に満たされた魔力を吸って生きてるとか。
もしかしたら彼女は俺から一定期間離れると死ぬ可能性もあるな。
「なるほど」
「そして俺は親父から海についても聞いた。親父は海を故意的にヤクザの元へ預けた。冷酷さを身につけさ虐待により痛みになれさせてエニグマの戦闘員にするために」
知らず知らずのうちに俺は握り拳を作っていた。
何度思い返してもクズだ。
「……許せない」
「俺もそう思う。それから俺達は海の元へと向かい海の願いもあり俺は海をこの手で殺した」
もう嫌になる。
なんで海はこんなに不幸なんだ。
いや、不幸にさせないために俺がいる。
「それからすぐにルークさんが来て俺はやり直す事を選んだ。海を助けるために……」
「大変だったね。頑張ったんだね」
本当はそのあとにルークさんが殺されて佐倉家との総争い。
そして夜桜によって過去に飛ばされるってイベントもあった。
しかし言う必要はない。
いや、俺が言いたくないだけかもな。
「そして三周目。俺は神器と契約しようとした」
「そっか。使徒で神崎家の血を引いてるから出来るもんね」
「でも結果は失敗して廃人化。その時に支えてくれたのがお前だ。桃花」
あの時の彼女には感謝してる。
桃花が居なければ俺はここにいない。
「三周目の世界は本気を出した夜桜が街を半壊させた。そして俺の能力は受けた攻撃の再現。つまり過去に飛ばすのを攻撃と認識して再現出来るようになったんだ」
「そうなんだ……」
「それで俺は海を過去に飛ばして現在に至る」
全て話し終えた。
夜桜の能力とか真央については協力してくれるって言ってから話しても遅くないだろう。
「大変だったね。多分私だったら心が折れてると思うよ……」
「それはないだろ」
今まで色々な桃花を見てきた。
彼女は死体の一つや二つで動じるような人間ではない。
「私にどうしてほしいの?」
「夜桜と戦う戦力として俺に力を貸してほしい! 桃花の力が必要なんだ! 何にもない空っぽな俺を支えてくれ」
「空君。私決めたよ」
桃花がおっとりとした表情で言った。
一体何を決めたのだろうか。
「私は空君のお嫁さんになる。ずっと隣で支えたい。私は頑張る人……ううん。空君が大好きだから!」
「どういう事だ?」
理解が追いつかない。
わけがわからない。
どうしてそんな結論に行き着いた。
「私は空君をずっと応援したいと思った。ずっと一緒に戦いと思った。一生を付き添う伴侶としてね」
あまりにも重い言葉。
もういい加減答えを出さないとな。
「私は桃花。桃の花って書いて桃花。桃の花言葉って知ってる?」
「天下無敵だろ?」
「うん! だから天下無敵の私がずっと空君の剣となるよ! 空君を困らせるものとか全部壊してあげる」
優しい言葉。
桃花の決意表明だ。
「待ってください! あなたは……」
「白愛さん。黙ってもらっていいですか」
それにより白愛が押し黙った。
俺は前に白愛の事を好きだと思った。
でも桃花にも同じような事を思ってたのかもしれない。
「空君。君はこれからもっと苦しむと思う。だから私はそんな空君をずっと支えて一緒に悩みを解決したいと思ってるの」
「何が桃花をそこまで突き動かすんだ?」
「よく分からない。でもずっと空君の隣にいたいし力になりたいと思ったの。それなら嫁になるのが一番でしょ?」
そうなのだろうか。
たしかに一生を付き添うって意味では嫁が一番適してるかもしれないが……
「それに私は特等席で空君の行く末を見てみたい!」
俺の行く末か。
たしかに俺は夜桜を倒したらどうするのだろうか。
未来は未だに不透明。
だからこそ桃花は興味がある。
そして彼女は俺が小物で終わらないと信じている。
「どうか私を選んでください」
“私を選んでください”
そこまで言われて動かないのは男が腐るというもの。
結局俺には彼女が一番だ。
困った時には彼女がいた。
桃花が俺を支えてくれた。
神器で廃人になった時だってつきっきりで看病してくれた。
やっぱり彼女しかいない。
「君を選ぶよ。桃花。こんな俺だけどこれからもずっと支えてくれるか?」
「はい!」
そして俺は桃花と晴れてパートナーとなった。
今の俺は最強だ。




