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世界調整  作者: 虹某氏
1章 【愛】
10/305

10話 俺

 部屋に目覚まし時計が鳴り響いた。

 いつもなら目覚まし時計を使わないが起こしてくれるメイドがいないから仕方ない。

 僕はすぐに歯磨きをして制服に袖を通して学校に向かった。

 そしてマヌケな事に朝ごはんは食べてない事に家を出てから気づく。

 そんな事もあり憂鬱な気分で登校して教室に着くといつも机が置かれていないところに机が置かれている。

  おそらく海が来るからだろう。


「おはよ。神崎君」


  そう挨拶してくれるのは桃花だ。

  制服だからよく見慣れた姿である。


「おはよう」

「机と椅子が置かれてるけど転校生でも来るのかな?」


 そういえば桃花には海がいた事は言ったが同じ学校に来るとは言ってなかったな。


「多分、僕の妹だ」

「そっか。考えてみたら同じ学校だよね」


 そしてHR(ホームルーム)開始のチャイムと共に静まった。


「それじゃあまたね。神崎君」

「あぁ」


 みんながその音で一斉に席に着く。

 そして先生が入ってくる。

 このクラスの担任は三十代のメガネをかけた男の人だ。

 一部ではいつデスゲームを始めても驚かないとまで言われる少し扱いが可哀想な先生だ。

 しかし本人がそれをどう思ってるのか誰も知らない。


「おはよう。さて、突然だが諸君に一つだけ伝えねばならない事が出来た。このクラスに仲間が一人増えることになったのだ。さぁ入ってきたまえ」

 

 先生がそう言うと海が教室に入ってきた。

 その瞬間教室が再びざわめく。

 主に男子の声が多い。


「ヤバイ可愛い」

「なに? あの子。めちゃくちゃ可愛いんですけど」


 クラス内の至る所から“可愛い”という声が挙がる。

 海の容姿はかなり良い方だし仕方ないだろう。


「あの黒髪をクンカクンカしたい」

「もしかしたら佐倉さんより可愛いんじゃやいか?」

「いや、佐倉さんの方が可愛いだろ」


 そして一部では変な会話も聞こえる。

 海はそれを聞こえてるのかどうか知らないがとりあえず微笑んだままだ。


「諸君。静かにしたまえ。さて、自己紹介をどうぞ」


 先生の促しによって海が自己紹介を始めた。


「初めまして。私は神崎 海です。お察しの方もいると思いますがあちらの神崎空(かんざきそら)の双子の妹でございます。どうぞよろしくおねがいします」


 海が透き通った声でそう言った。

 どうやら海も僕の妹である事を隠すつもりはないらしい。


「先生」

「なんだい?」

「血縁者は同じクラスにならないって話を聞いたんですが……」

「それは上からの命令だよ。深くは考えない方がいい。その方が諸君の身のためだ。それに意味の無い事を考えるほど無駄なことはないからね」


 上からの命令か。

 海がなんかしたのだろうか。

 しかし簡単にそんな事が出来るとは……

 いや、私立だし金さえ積めばどうにでもなるか。


「はい。分かりました」

「これでHRは終了だ。各自次の授業の準備をしておくように」


 HRが終わると共に一斉に海に近づき質問攻めを始めた。

 しかし海は面倒くさそうな素振りを見せるどころか笑みを浮かべて丁寧に一つ一つ答えていく。

 あれならかなり好感が持たれるだろう。


「おい。お前の妹めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。ちょっと俺も行ってくるわ」


 そして拓也も海の方に向かってく。

 まるでアイドルみたいだな。


「神崎君の妹さんって可愛いんだね」

「そうか?」

「そうだよ。特にあの髪なんかとっても艶があって嫉妬しちゃう」


 たしかに腰まである黒髪は前に見た時よりは艶が全然違う。

 おそらく白愛が手入れしたからだろう。

 凄く綺麗だ。

 指を通してサラサラとしたくなる。


「神崎君ちょっと今変なこと考えなかった?」

「そんな事はない」

「……そう」


 別にそこまで変な事は考えたつもりはない。

 それにしても本当に綺麗な髪だな。

 そんな事を考えてると海がこっちに近づいてくる。


「そう言えばお兄様」

「なんだ?」

「白愛があなたにこれを渡してほしいそうです」


 海が弁当を僕に渡してきた。

 その瞬間、クラス内から甲高い声が聞こえるが反応するだけ無駄だろう。

 それに今日は弁当無かったからかなり助かる。

 白愛が無理を言って海に頼んでくれたのだろう。

 本当に彼女には頭が上がらない。


「ありがとうと伝えといてくれ」

「分かりました。そう伝えときますね」


 海はそのまま自分の席に戻っていった。

 それにしても久しぶりの白愛の料理だ。

 凄くワクワクする。

 一体中身はなんなのだろうか。


「そろそろ授業始まるから席に戻らないとね」

「そうだな」

 

 チャイムが鳴ると共にみんなが海から散って席に着き授業が始まった。

 一時間目は化学だ。

 

「さて、今日は抜き打ちでテストをしましょう」


 その瞬間、クラスから色々な声が上がる。

 半分以上が文句だ。

 抜き打ちテストが行われのだから仕方ないだろう。


「先生。今日は転校生がいて急にテストじゃその子が可哀想だと思います」

 

 誰かが突然そう言い始めた。

 たしかに海を理由にすればテストは延期できるかもしれないな。


「ふむ。たしかにそうだな」


 しかし突然海が変な事を言い始めた。

 その一言に僕は戦慄せざるおえなかった。


「先生。私は大丈夫でございます。だってお兄様に勉強を教えてるのは私ですから」


 一体なんのつもりだ?

 それに何故そんな事を言う。

 クラスからは“ざわめき”が生まれた。

 当の海は僕に発言の隙を与えずペラペラと喋り始める。


「お兄様はテストの成績はトップのはずです。そのお兄様に勉強を教えてるのは私ですよ。問題あるわけないじゃないですか」

「なるほどな。たしかにそれなら問題もなさそうだしテストを始めよう」


 その瞬間、クラスからたくさんの呻き声が聞こえた。海の言う通り僕のテストの成績は学年内トップだ。

 その僕に教えてると言ったのだから先生も問題ないと判断したのだろう。

 そして肝心のテストは問題は二十問ぐらいで内容はどれも簡単なものだ。

 これなら五分足らずで終わってしまうだろう。

 解き終えると僕は海について考えた。

 海は一体何をしたいのだろうか?

 色々と頭を巡らせるが答えは出ない。

 そして答えが出ないままテストが終わった。

 テスト時間は二十分と言ったところか。


「さて、これでテストは終了だ。後ろの人はプリントを集めて前に持ってきてくれ」


 その声と共にクラスが再び絶望の声に包まれる。

 周りからは“全部解けなかった”や“詰んだ”の声が聞こえる。

 たしかに今回のテストは授業でやってない所だから予習してないとキツいかもな。

 平均点はとても悪いだろう。


「これから丸つけするから残りの二十分は自習だ」


 自習の言葉で教室がさっきの絶望とは裏腹に活気っいた。

 自習で静かになった試しがない。

 自習という名の自由時間だ。

 その自由時間に海が僕の方向に歩いてきた。

 一体何の用だろうか。


「……お兄様」


 海がテスト前のあの発言について弁解に来たとはとても思えない。

 間違いなく何か仕掛けに来た。


「さっきのはどんなつもりだ?」

「……フフッ」


 海は不気味に笑った。

 その笑みはまるで勝ちを確信したような笑みだ。


「もしお兄様がこの場で私に手を出したらどうなるでしょうか?」

「……まさか!」


 その一言と共に海は膝を地面につきお腹を押さながら呻き声を上げた。


「……ウッ」


 海は無理矢理胃の中のモノを吐き出す

 床が海の嘔吐物で埋まっていく……

 海の吐瀉物は辺り一帯を侵食していき僕の足元まで来た。


「どうした!」


 それを見た先生が近寄ってくる。

 やっぱり海の目的は……

 

「お、お兄様にお腹を殴られました」


 海がそう嘘をついた。

 海は間違いなく冤罪で僕の信用を落とすつもりだ。


「どうしてこんな事をした!」


  先生は僕を怒鳴る。

 しかし僕が答える前に海が答える。

 それは自分に有利に話を進めるためだろう。

 全て後手番に回っている……


「嘘をつくな、勉強を教えてるのは僕だろって言われて……」


 完全にしてやられた。

 さっきのはこれをやるための布石か。

 海はテストが始まる前からこれをする事を考えていた。

 いや、もっと前からかもしれない……

 間違いなく海の理想通りに物事が進んでいるだろう。


「とりあえずお前は保健室に行け」

「……大丈夫です。慣れてますから」


 これは海の復讐のプランの一つだ。

 僕は何故海が復讐するのか知らない。

 しかしそれなりの理由があるのだろう。

 それに僕は海の兄でもある。

 これぐらい大目に見よう。

  兄とはどんなものか分からない。

 しかし妹の悪戯を許すのが兄なのではないだろうか。

 悪戯にしては少し度が過ぎているが気にしたら負けだ。


「すまん。少しカッとなった。怪我はないか?」


 僕は迷わず謝まる。

 許すとは言っても黙る気はない。

 とりあえず海が一番予想出来ない行動を取る。


「……えぇ」


 海は軽くそう答える。

 間違いなく罵倒を想定していたのだろう。

 僕の読み通りだ。


「空は後で職員室に来い!」

「はい。分かりました」

「海はやっぱり保健室に……」


 保健室に行って怪我がないのが公になるのも面倒だ。

 海は怪我の偽造ぐらいしてる気がする。

 しかし海は何故か嫌がっている。

 さて、どうしたものか。


「先生。実は海は人に裸体が見られるのが嫌いなんです。おそらくそれで保健室に行きたくないのかと」

「だからと言って……」

「あと海はそのくらいなんともありませんよ。もちろん手加減しましたし海を殴り慣れてる僕が一番よく分かります」


 とりあえず虐待してるというままでいいだろう。

 クラスメイトからの株は落ちるかもしれないがそれは知ったこっちゃない。

 それに火種は僕の元に行き海の方には飛ばなくなる。

 僕が虐待を否定したら誰かが海の自作自演だって事に気づいてしまうかもしれないしな。

 そして先生がこちらを睨みながら一言いう。


「……お前見損なったぞ」

「どうぞご勝手に。これは家族の問題なのでこれ以上は首を突っ込まないでくださいね」


 そう言うと先生は僕に何か言うのを止めて生徒を払い海の嘔吐物の処理を始めた。


「……お兄様は何を考えてるんですか?」

「言うわけないだろ」


 今回の僕の行動は間違いなく海の予想外。

 僕は始めて海を上回った行動をした。

 僕はさらにそれに追い打ちをかける。


「海の復讐なら何時だって受け入れる。妹の可愛い悪戯を許せないで何が兄だ。それに海がそれ程までに恨んでるなら記憶にないだけでそれ程の事を僕がしたんだろ?」


 出来れば海とは温厚に行きたい。

 折角の妹だし仲良くしたい。


「でも理由だけは聞かせろ」


 仲良くなるためには理由を知るのは不可欠だ。

 なんとしても話させなければ。


「わかりました。お昼を食べ終わったら校舎裏でお話しましょう。あそこなら誰にも聞かれないでしょう」


 たしかにあそこは人目も少ない。

 聞かれたくない話をするなら絶好の場所だろう。

 しかし、海は学校に来て二時間も経ってないはずだ。

 それなのにそんな細かいところまで把握したというのか。

 いや、下調べしたのだろうか……


「分かった」

「それとあのお弁当に毒は入ってないので安心してください。私も白愛の想いを踏みにじるのは不本意なので」


 僕は内心で毒に警戒していた。

 しかしそれはお見通し。

 海は疑われる事に最初から気づいてたようだ。


「……その言葉信じるぞ」

「えぇ。ありがとうございます」


 そして嘔吐物の処理を終えた先生が僕を生徒指導室に連行した。

 海はそれを眉一つ動かさず見ていた。

 生徒指導室で僕はまず最初に座らされた。

 当然の事ながらお茶の一つも出ることはない。

 それから先生は重い口を開きはじめた。


「いつもお前は家ではこんな感じなのか?」

「深くは追求するなと言いましたよね」

「でもな……」


 僕はかなり強めにそう言う。

 先生は僕を生徒として認識している。

 つまり当然の事ながら格下に思われている。

 それじゃあダメだ。

 まずは対等あるいは格上だと思わせなければ……


 コイツを黙らせる事なんて出来ない。


「追求するなと言ったのが聞こえなかったか?」


 もっと強く言え。

 生物的な本能に訴えかけろ。

 今の僕ならそれが出来るはずだ。

 もう一押し必要だ。


「これ以上追求するなら僕はお前を壊すぞ」


 やるのは脅迫。

 原子的な方法だが効果はある。

 現に先生の足が震えだした。


「わ、分かった」


 もう完全に声が震えている。

  予想通り先生は完全に怯えているのだ。


「もう教室に戻っていいですか?」

「あ、あぁ」

「この件は他言無用でお願いしますね」


 僕はニッコリと笑って言う。

 先生は震えながらうなづいた。

 ちゃんと平和的な解決が出来て本当に良かった。

 そして教室に戻ると桃花が話しかけてきた。


「……神崎君どうだった?」

「特になにもなかった」

「……そっか」


 それにしても桃花は普通に接してくれるのか。

 彼女だけは何があっても信用出来そうだ。


「海はどうしてる?」

「あれから特に誰にも話しかける事なく勉強してる」

「そうか」


 そう言えばまだ一時間目の途中だったな。

 でも授業所では無くなったが……


「私は神崎君はそんな事してないって信じてるよ」

「ありがとう」


 桃花は僕が無実だと信じているようだ。

 今度彼女にはすべて話そう。


「それにしても海ちゃんと神崎君はどんな関係なの?」

「と、いうと?」

「色々と気になるの。海ちゃんは神崎君を凄く嫌悪していた。いや、嫌悪しなきゃならないって使命感に駆られてるって言った方が正しいかも」


 使命感か。

 もし桃花の思う通りだとすると海も海なりに悩んでいるのか。


「そうだな」

「それと何で今になって海ちゃんが出てきたの?」


  来た理由は復讐が目当てだろう。

 しかし何故このタイミングなのだろうか。

 少しばかり謎が残るな。


「神崎君も分からないんだね」

「あぁ」


  桃花はと何か察したのか一歩引いた。

  それで僕が追求してほしくない事に気づいて一歩引いたってところか。

 それと共に一時間目を終えるチャイムが鳴った。

 でも号令をかける先生はいないという奇妙な光景だ。


 そしてその後は特に何もなく普通に授業が進み昼休みになった。

 

「さて、お昼食べるか」

「神崎君。一緒にお昼食べよ?」

「いいぞ」

「俺もご一緒しても?」


 拓也が話しかけてくる。

 別に僕は良いのだが桃花が強い拒否反応を示す。


「嫌。私は神崎君と二人っきりで食べたいからごめんね」


 拓也がガックリと肩を落として席に戻っていった。

 なんかその背中には凄く悲壮感があった。


「神崎君! 見て! 今日のお弁当はお兄ちゃんに作ってもらったの!」


 そして桃花がお弁当を見せてくる。

 トマトの赤色や卵の黄色にレタスの緑色。

 いろんな色があり綺麗だ。


「神崎君のお弁当も見せて」

「あぁ」


 一体白愛はどんな弁当を作ってくれたのだろうか?

  考えるととてもワクワクする。

 そして弁当を開けると何故か紙が入っていた。


「……手紙?」


 おそらく白愛が何か伝えようとしたのだろう。

 もしかしたら海関連のものもあるかもしれないな。


「桃花は見ないでくれるか?」

「……分かった」


 そう言い手紙に目を通した。

 




 ―――――――――――――――――――


 空様へ


  この手紙が届いたという事はきちんとお弁当が届いたという事ですね。

  海様は貴方様に復讐するため色々な準備をしています。

  本来なら私がお守りしたいのですが力及ばずすみません。


 ―――――――――――――――――――





「……なるほど。桃花」

「なに? 私に出来ることなら何でも言って!」

「ライターかマッチあるか?」

「もちろん」


 僕は桃花からマッチを受け取った。

 恐らくこの手紙はあぶり文字があるだろう。

 白愛にしては少しばかり短すぎる。

 ちなみにあぶり文字というのは火を近づけると文字が浮かび上がるというものだ。

 そしてマッチで火を付けて近づけると案の定文字が浮かび上がってきた。





 ―――――――――――――――――――


  PS


 空様ならこの仕組みに気づくと信じていました。

 お弁当は二重底になっていて底に小型通信機が入ってるのでそれをつけてください。

 詳しくはそこで言います。

 

  白愛


 ―――――――――――――――――――





「桃花悪い!」

「ちょ、ちょっと!?」


 桃花には少し悪いがとりあえず校舎裏以外で人目につかなそうな所に移動する。

 そして弁当を開けて小型通信機を取り出す。

 やる事は一つだ。


「白愛!」

「あ、空様。ちゃんと気づいてくれて良かったです」

「何かされていないか!?」

「流石に心配しすぎですよ」


 それなら良かった。

 しかし、今は別に聞くことがある。


「海と白愛はどんな関係だったんだ?」


 結局聞きそびれてしまった事だ。

 それは白愛と海の関係性について。


「空様の前の主人が海様でした」

「なるほど」


 おそらく白愛にとって海は僕と同じくらい大切な人なのだろう。


「それと海様はまだ能力に目覚めてません」


 ……何故そんな事を言うのだろう。

 別に言わなくてもいいはずだ。


「あら。空様ならてっきり警戒してると思いました」

「まさか。完全に頭から抜け落ちてたよ」


 考えてみたら能力があったら厄介だよな。

 例えば海に転移の能力が目覚めたら背後から何時刺されてもおかしくないわけであり……


「しかし海様は貴方様と同じ十七歳。超能力は人によって差はありますが大体二十歳前後で目覚めます」「それは知ってる」


 一体白愛は何を言いたいのだろうか?

 二十歳前後ならまだ目覚めないはずだが……


「しかしその前後というのがプラスマイナス三年ぐらいで数字で言うと十七歳から二十三歳の間」

「なるほど。早ければもう目覚めるのか」

「はい」


 しかし早くて十七歳だ。

 能力にあまり期待はしないでおこう。


「それと最後に一つ。これが一番重要です」

「……なんだ?」

「土曜日に海様と結婚する事になりました」


 その瞬間僕は唖然とした。

 それじゃあ一週間後は既に海の嫁って口実で僕の元に返さない可能性も高い。

 いや、海が結婚に合わせて一週間という時間設定にしたのか。

 海は最初から僕に白愛を返すつもりはなかったのだ。


「……なんで断らなかったんだよ!」

「これ以上、海様を傷つけたくないんです」

「……そうか」


 ……これ以上か。

 もしかしたら海の過去はめちゃくちゃ重いのかもしれないな。

 

「分かった。なぁ白愛」


 だけど白愛は渡したくない。

 だったかどうにかしろ僕……いや、俺!


「はい?」

「たまには俺を信じろ。俺がどうにかしてみせる」


 俺は力強くそう言った。

 何度でも言うが白愛は絶対に渡さない。


「……空様?」

「どうした?」

「一人称が……」


 それの事か。

 そんなのは簡単だ。


「何事も形からだ。流石に“僕”のままじゃ締まらないしな」


 しっかりと締めるところは締めねば。

 それにもっとカッコよくならなけらばならない。

 カッコよく二人共救えるようになるんだ。

 完全に私観だが僕より俺の方がカッコイイと思う。

 それに形が出来たら後は勝手に付いてくるものだ。


「そんな事はないと思いますが俺呼びの空様も素敵です」

「あぁ俺に任せろ。どうにかしてやるよ」

「はい! 任せます」


 もう僕という一人称は捨てた。

 これからは俺だ。

 この行為に意味があるかなんか知らない。

 でも間違いなく踏ん切りは付いた。


「俺はこれから海と話してくる。切るぞ」

「はい。お気をつけて」


 そして、通信を切る。

 同時に弁当も食べ終えた。

 海をどうするか考えはない。

 しかしどうにかするしない事に変わりはない。

 

「とりあえず校舎裏まで行くか」


 まずは 海の話を聞かない事には始まらない。

 さて、本当に言ってくれるだろうか?


「……来たわね」


 校舎裏に行くと既に海はいた。

 普段の制服にいつも通りの黒タイツ。

 顔と手以外の露出を一切許さない服装だ。


「あぁ」

「それじゃあ話すわよ」


 そして海は自分の過去について語り始めた……

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