秋のすれ違い
学校帰りに寄れるコンビニは三件。一件目で一冊は見つかったけど、もう一冊は売り切れなのか見当たらず、もう一冊を求めて二件目のコンビニに向かう。
あった!
ちゃんと早めに見つかるなんてラッキー! これで希星が不機嫌になることも、役立たずって言われることもなくなる。よかった。たったそれだけの事だけど嬉しくて仕方ない。
誰でも当たり散らされるのは嫌だもん。
付録があるせいで厚みのあるファッション雑誌を手にレジに並ぶと、先に男の人が缶の甘酒を買うところだった。美味しいよね、甘酒。ショウガとか入れるともっと美味しいし。寒くなると奮発して自分のご褒美に缶の甘酒を買うことがある。まあ、お金がないから滅多にチャンスはないけれど。
でも甘酒は自分で作っても美味しいんだ。両親が健在だった昔、お母さんと甘酒を作って飲んだら、お父さんが「甘酒を飲んだから有海は大人だな。おもちゃのお片付けも一人で出来るもんな?」と笑ってくれたっけ。
甘“酒”だから大人に思えたんだよね、おっかしいの。
昔を思い出していたら不意に着信音が鳴った。
私は携帯なんて持っていないから、音源は目の前の男の人だ。メールかな? 慌てて胸ポケットからスマホを取り出し、横に逸れて紳士的に私にレジの順番を譲ってくれる。
素敵なな人だなあ……地味だけど。
そう。その人は失礼だけど、すごく地味な人だった。
スタイルはいいし、着ている服もきちんとしているのに、残る印象は地味。
平凡な髪形、凡庸な顔つき、凡百な顔のパーツ。
パーツの一つ一つが平均で、その平均がさらに平均的に集まった結果、決し不細工ではないのに印象が残りにくい顔つきになってしまっている。
最後尾の人に譲って貰ったレジで商品を出せば、従姉妹に頼まれたファッション雑誌は790円だった。お金を支払うと店員がにこやかにクジの箱を差し出してくれた。どうやら700円分商品を買うと、クジが引けるやつらしい。
クジを引くと当たったのは野菜ジュース。レシートを従姉妹に渡すと金額チェックするだろうし、その金額でクジの事を言われるかもしれないから、手を付けずにこのまま希星に渡そう。
レジ袋に野菜ジュースを入れてコンビニを出ようとしたら、不意に鼓膜を震わせる豊かな声で呼び止められた。
「あの、お嬢さん?」
声をかけたのはレジを譲ってくれた甘酒の人。
おお! 見た目の平凡さから想像もつかないバリトンボイスでびっくりしてしまった。
地味な容姿だけど声はめちゃくちゃイケボな人な口に手を当て、入り口にあるアニメの一番くじをちらちら見ている。
「ええっと……なにか?」
「……いや、その……失礼は重々承知なのですが……知り合いがそこにあるクジを引いてきて欲しいとメールを貰ったものの、どうも私には敷居が高くて」
見ず知らずの人間に声をかける方が私には敷居が高いけど、この人、よく声を聴いたら日本人じゃないや。イントネーションが微妙に違う。
日本人というか、アジア系の顔だから気づかなかったけど。
その日本に来たらしい外国人のジミー(勝手に命名)の視線の先にあるのは、アニメとコラボしたコンビニの一番くじだった。
なるほど。お子さんにでも頼まれたのかな? 確かにアニメは子供の物と考える外国人だと、恥ずかしくてちょっと躊躇うかも。
「代わりに購入してくればいいんですか?」
我ながら召使い体質だと思う。
伯母宅で過ごすうち、相手の少ない言葉や表情でやって欲しいことを先回りして考えるようになってしまった。だってその方が嫌味も叱責も受けないから。
召使い体質を見ず知らずの男の人にまでそれを発揮しなくてもいいとは思うけど、でも、この人は困っているみたいだし。
「ああ、そうです! ――お嬢さん、よろしいですか?」
ジミー(勝手に命名)は明らかにほっとしたような顔になった。いいパパさんだね。
「それくらい構わないけど、でも欲しいものが必ず引けるとは限りませんよ?」
大人買いで全部のセットを購入するなら話は別だけど。さすがにそれはないと思いたい。
「いえ、それは本人も理解していまして。運試しで一つだけでいいと。欲しいものが当たるかどうか、神様に委ねるとのことです」
神様ってあたりが海外の人だなあ。
私はそれならとお金を受け取って一番くじを購入した。当たったのは、A賞の書下ろしバスタオルとかいうものだった。
……これ、お風呂で使うの?
これが良いのか悪いのか私にはわからないけど、ジミー(勝手に命名)はとても喜んでくれたからいいか。
お礼にと自分が買った甘酒までくれて。いいひとなのに平凡なんて考えてごめんなさい。
代わりに買いものしただけで貰えないと最初は断ったんだけど、あのバリトンボイスで感謝しているのでこれくらいは受け取って欲しいと言われれば、固辞し過ぎるのも失礼だし有り難く甘酒を受け取ったんだ。
嬉しいな。
とても嬉しいよ。
だってさ?
嬉しかったのは甘酒の暖かさより、甘い味より、行動すれば当たり前に貰えるはずの「感謝」っていう、久しぶりの言葉だった。
一番くじを欲しがっていた人、実はバスタオルを運試しに狙っていたらしく、運よく手に入ったことで私をこっそり「幸運の女神」と呼ぶようになったとか。
それを知ったのは、ずっと後にバスタオルで喜んだその人と出会ってからだった。