第1話 賽は投げられた
「大学に受かりますように、っと」
鐘が鳴る音、手を叩く音、竜笛の高らかな音。活気に満ちている神殿。少々疎外感のある学生服の男は望みを絵馬に書き込む。絵馬を奉納し手を合わせる。
絵馬掛所の隣、御神籤売り場に男は体を移す。元旦の翌日だからだろうか、それ程行列は出来ていない。
待つ事約3分。アルバイトと思われる巫女が心なしかぎこちない笑顔で迎えてくれた。
小銭を先程の少女に渡し、無作為に対象を選び出す。
これだ!、と言わんばかりに手にとる。少女に一礼してその場を立ち去り、少し離れた所で御神籤を開封してみる。期待を胸に、心が高鳴る。
結果は末吉。何とも微妙な結果である。無論、去年一昨年と凶が出た僕としては大吉みたいなものなのだが。だが、運はついてなくても所詮受験は学力だ。家に帰ってきっちり勉強すれば怖いものは無い。その前に参考書買いに行くか。何て事を考えながら神社を後にする。
段差に差し掛かった時、事件が起きる。重心がずれた。足が浮く感覚。階段が崖のように見える。脳裏に浮かぶ嫌な予感。ドスッと重く鈍い音。ギャラリーがどんどん増えていくのが音によって耳に伝わる。
最悪だなぁ。受験間近に滑り落ちるなんて。