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 今日のお茶会は立食方式だった。

 会場や会場に面したバラ園に設置してあるテーブルに何種類もの飲み物やお菓子が置いてある。


 お兄様は大人気らしく、お茶会が始まると何人かのご令嬢に拉致された。

「ごめんね。すぐ戻るから」と申し訳なさそうに連れ去られたお兄様を見送った後、私は庭に出ることにした。


 外の空気を吸いたかったし、王宮のバラ園は大陸一と評判だったので是非とも見ておきたかったのだ。


 本当はお兄様と一緒に散策したかったけど、お兄様はモテるから仕方ない。

 それに、あの狩人みたいなご令嬢たちからお兄様を引き止めるなんて自殺行為、私には出来ない。


 私は一人で庭に降りて、バラ園を散策する。


 日和もよく、日射しも穏やかで散策日和にもってこいだ。

 周りを見るともうカップルになったのか何組かのカップルがイチャイチャしながら散策していた。

 一人で散策しているのは私一人だけのようだ。


(フンッ、リア充め!滅びろ!)


 心の中で悪態をつくも、それを顔に出してはいけない。

 私は仲の良さそうな貴女たちを見ても何にも感じませんよ~みたいな顔をして、バラ園の奥に進んだ。


 奥に進むと人気もなくなり、気が付くと私一人になっていた。

 ここまで来て、私はハッと気付いた。


 お見合いの場で誰もいないところに来てどうするんだ、と。


 無意識に積極性のない行動に出てしまったことに落ち込みながら、私は近くのベンチに腰を下ろした。


 ベンチに座って、私は大きな大きなため息を吐く。


 幸せが丸ごと逃げていきそうなため息だ。


 今すぐ会場に戻って、色んな人と会話を楽しめば良いのにと分かっていても身体と心が拒否している。


 それは、前世の記憶があるからだ。


 友達も少なくて、恋人もいない私が気軽に他人と会話を楽しめる術があるわけがないのだ。


「何この人?変な人」って思われるぐらいなら……って思ってしまう。


 そんなことを考えていると、私はまた大きなため息を吐いた。


「はぁ~~私って、どうしてこうなんだろう」


 周りに誰もいないと思い込んでいたから、ついつい独り言を言ってしまった。

 誰もいないなら何の問題もないのだが、どうやらそうはいかない所が私の運の悪さだ。


「さっきから、はあはあ、うるさいな。発情期か」


 明らかに私に向けられた悪口を後ろから投げ付けられて、私の心臓はショックよりも驚きの方が大きかった。


 誰かに聞かれていたなんて、恥ずかしさで今なら死ねる……




 私は後ろを振り向くことさえできずに、両手で顔を隠し、下を向いて固まってしまった。


 願わくば、このまま発情期を迎えたように見える女を無視して立ち去ってほしい。

 けれど、現実はそんなに甘くなかった。


「おい、何、無視してるんだ。聞こえてるんだろう」


 聞こえてます。

 聞こえてますけど、無視してるんです。お察しください。


「おい……おい!」


 ああ、何て空気の読めない人なの。

 この空気の読めなさは私以上ではないだろうか。


 そうだ……この人は近年稀に見る、私の上をいくKY野郎だ。


 何を臆することがあろうか。


 さあ、ティフォンヌ!

 KY野郎の面を拝んでやれ!


 何が、発情期だ!ため息が発情期だと思うお前の方が万年発情期だろう!


 そんな風に思うと、恥じている自分がバカバカしくなってきた。


 私は手を顔から外し、上を向いた。

 そして、私を馬鹿にした男の顔を見る。





 ……。


 ………。


 ……………。


 殿下?


 王太子殿下?


 ふーあーゆー?


 アイム、デンカ!



 なんて、頭の中でプチパニックを起こしていても、現状は何も変わらない。現実とは残酷なものだ。


「おい、また固まったのか」


 はい、瞬間冷凍でございます。


「おい、無視するなよ」


 無理、私は貴方を全力で拒否いたします。





 一言も返さない私に呆れて、殿下はこの場を去った……となるはずだったのに、あれ?おかしいな?どうして殿下は私の横に座っているんだろう?不思議だな?世の中、不思議なことがいっぱいだな?


「現実逃避してないで、そろそろ戻ってこい」


 はい、そうですよね。

 王太子殿下相手にいつまでも無視なんてできませんよね。


 私は観念して、殿下の相手をすることにした。


「申し訳ありません。まさか、殿下にお声をかけていただけるなんて思ってもなかったので緊張してしまって……失礼いたしました」


 私は今、ないない尽くしの37歳のおばさんじゃないのだと自分に言い聞かせる。


 私はセイラン公爵令嬢!

 公爵令嬢として振る舞えと、自分を奮い立たせる。


 そして、声は少し震えながらも王太子殿下にプチ無視をしたことを謝罪した。


 うん、頑張ったね、私!


「フンッ!か弱い振りをしても無駄だぞ。あのエルシードの妹なんだ。どうせお前も腹黒なんだろう」


 ん?今、なんと仰いましたか?


 エルシードの妹だから腹黒?


「王太子妃の座を狙って、こんな奥まで俺を追いかけて来たのが何よりの証拠だ。言っておくが、俺はエルシードの妹を妃にするつもりはないからな」


 追いかけて来た?

 王太子妃の座を狙う?


「だいだいエルシードのやつ、妹を王太子妃にするつもりはないと言っていたのに、肝心の妹が妃になるつもり満々じゃないか」


 妃になるつもり満々?




 王太子殿下の口から次々と見当違いな暴言が繰り広げられて、私はまた絶句。

 しかし、ここまで言われて黙っていては悪役令嬢ティフォンヌの名が廃る。

 私は王太子殿下の言い様に、正直カチンときたのだ。


 私は普段はチキンだし、勢いに任せて言いたいことを言った後はまた気にするタイプだから、相手が頓珍漢なことを言っていても相手にせず聞き流せばいいのにって分かっているのに、黙っていられらくなってしまった。

 しかし、言わなくてもいいことまで言うのは駄目だとそこは自制をかける。


 私は感情的にならないように、冷静に言い返した。


「王太子殿下、お言葉ですけど私は王太子妃になりたいなんて微塵も思っておりませんわ」


 ここ!ここが一番重要だから最初に断言しておく。

 そして、次に許せないのがお兄様への悪口とも言える言葉だ。


「それに、お兄様が腹黒なんて絶対にありません。お兄様は優しくて賢くて、とても素晴らしい方です」


 高ぶった感情を我慢しているせいか、ちょっと涙声になってしまった。

 少しカッコ悪いと思ったけど、言いたいことは言えたのでスッキリした。


 王太子殿下と言えば、目を見開いて驚いた顔をしていた。


 



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