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 王城に到着し、私はお兄様にエスコートされて会場となる「薔薇の間」へ案内された。


 ラングリド王国は大陸でも一、二を争うお金持ち国家で軍事力も強い大国だ。

 その国の王城は流石というか何というか、絢爛豪華の一言だった。


 私はこの日初めて王城に来たので、お上りさん状態である。

 廊下を歩いていても、目線を動かしてキョロキョロ周りを見てしまう。


 こんな豪華な王城に、私が公爵令嬢としてお茶会に参加するなんて場違いもいいところではないだろうかと急に不安になってきた。


 顔も強張って、手足も震える。


 そんな私の様子に気付いたお兄様が、私の手をギュッと握ってくれた。

 手を握られて、私は顔を上げてお兄様を見た。


 王子様とも見紛うほどの笑みを浮かべたお兄様は私の緊張を解くようにこう言った。


「ティフォンヌ・セイラン公爵令嬢。貴女は誰よりも愛らしい。だから、笑っておくれ。貴女の笑顔は百万本の薔薇よりも美しいのだから」


 ……はい、即死です。


 お兄様から誉め殺しの刑を受けた私は魂が抜けたまま、覚束無い足取りで会場入りした。










 ◇◆◇



「ようこそ、エルシード。それに、ティフォンヌ。ティフォンヌとは会うのは初めてかしら。セイラン公爵ったらこんなに可愛らしいお嬢さんを隠していたのね」


 私たちは会場に入り、一番に主催者である王妃様のところに挨拶をしに行った。

 王妃様の印象を一言で言うと「華やか」だった。

 パッとその場が明るくなるという感じの華やかさがあった。


 それに、そのお姿もとても美しく、スタイルも抜群である。

 同じ女から見ても惚れ惚れしてしまうほどだった。

 性格も明るく気さくな感じで、ガチガチだった私の身体から力が少し抜けた。


「はじめまして、王妃陛下。ティフォンヌと申します。今日はご招待ありがとうございます」


 緊張しながらも無事挨拶を言えたことにもホッとする。

 少しぎこちなかったかもしれないが、それも愛嬌だと思おう。


「本当に可愛らしいわ。そうだ、息子を紹介するわね。アルフィス!」


 王妃様の行動は早かった。

 王太子殿下の名を呼び、すぐさま私に紹介しようとした。


 ここは「結構です」とか「失礼します」とか言ってはいけない場面なのはいくら私でも分かる。


 私はまた身体を強張らせた。


 王太子殿下は近くにいたようで、王妃様に呼ばれてすぐに私たちの所に現れた。





 颯爽と私の前に現れたアルフィス王太子殿下――それは漫画のような甘いマスクの方ではなかった。






 漫画の王太子殿下は金髪に緑の瞳だった。二重のアーモンド形の瞳、優しげな口元。


 お兄様もそうだけど、THE王子様って風貌だったのに、今、私の前に立つ王太子殿下は――


 黒髪に金の瞳。

 その目は鋭く、高く鼻筋の通った鼻も、薄い唇も冷たい印象しかなかった。


 実際、私を見るその目も口も笑っていなかった。


「アルフィス、こちらはセイラン公爵家のティフォンヌ殿よ。とても可愛らしいお嬢様でしょう」


 王妃様にそう紹介されて、私は慌てて頭を下げた。


「はじめまして、王太子殿下。ティフォンヌと申します」


 かろうじて、それだけは言えた。

 これ以上は許してください、と思うほど王太子殿下から圧力を感じる。


「アルフィスだ。今日は楽しんでいってくれ」


 王太子殿下からの挨拶はそれだけだった。

 私の挨拶も短かったけど、殿下も短かった。


 さらに「それじゃ」と言って、すぐにこの場を離れた。


 残された3人はしばらく無言だった。


 そして、最初に口を開いたのは王妃様だった。


「まあ、あの子ったら……ごめんなさいね、無愛想な子で……」


 息子のあまりにも無愛想な態度に王妃様も苦笑いするしかないようだ。

 そんな王妃様をお兄様がフォローする。


「とんでもありません、王妃陛下。王太子殿下はとても思慮深い方です。態度には出さなくても、我々を歓迎してくださっているお心は伝わりました」


 おおー、なるほど!こういう時はそう言えばいいのか!


 私には「はよ帰れ。あ~お茶会なんてめんどくせぇ」って声が聞こえたけど。


 私はお兄様の高度な話術に心底感動した。










 王妃様と王太子殿下への挨拶を終えた私たちは会場の隅に移動した。

 まだ、招待客が全員揃っていないから、まだ開始の挨拶は始まらない。挨拶が始まるまでここで待つことにした。

 お兄様が私にグラスに入ったジュースを手渡してくれる。

 緊張の連続で喉が渇いていたから、とても有り難かった。

 この然り気無い気遣いは国宝級だと思う。

 兄弟じゃなかったら好きになっていたかも。でも、兄弟じゃなかったらこんなに私に優しくなんてしてくらないか。






 待っている間、何もすることがないので、私はある質問をお兄様にしてみた。


「お兄様、王太子殿下のことですけど……」


 私は漫画とキャラが違う王太子殿下のことが気になっていたのだ。


 この先、関わることなどないといっても、かつては漫画を読んでキュンキュンさせてもらった王子様なのだ。やはり気になるというのが乙女心。


 なぜ、あんな別人のようなキャラになってるの?


 私は自分のことを棚に上げて、王太子殿下の変わり様に少なからずショックを受けていた。








「アルフィスはいつもあんな感じだよ。無表情で口数が少なくて」


 お兄様が私の質問に答えてくれた。

 どうやらお兄様は王太子殿下のことを名で呼んでいるようだ。しかも、呼び捨て。かなり親しい間柄なのだろう。


「女性にも興味がないしね。今日のお茶会も嫌がってたよ。だから、余計にぶっきらぼうだったのかもね」


 やっぱり嫌がってたんだ。

 それはすごく感じたけど、私個人に対してじゃなくてよかった。


「それでも、自分の感情を表に出すのはよくない。王妃様の顔を潰すことになるし、僕の可愛い妹にあんなに素っ気なくするなんて許せないね」


 あれ?お兄様の声のトーンが下がった。


 私はお兄様の方を見ると、お兄様は私と目を合わせてにこっと笑った。


 あ、悪魔の微笑みの方だ。


 私はお兄様が怒っていることに気付かない振りをして、グラスに入ったジュースを一気に飲んだ。






 そして、とうとう王妃様の挨拶と共に、お茶会という名の『集団お見合い』が始まった。



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