4
勝手にタイトル変更をして、早一年。
私は13歳になりました。
ティフォンヌが王太子殿下と出会う年です。
出会うといっても運命的な出会いとか、一対一のお見合いとかではない。
お茶会という名の集団お見合いである。
実はラングリド王国は貴族社会には珍しく恋愛結婚が多く、さすがに平民と貴族が結婚する事は滅多にないが無くもないし、貴族同士なら全くといって問題ない。
ただ、やはり王族は特別で正妃になる女性は高位の女性が望ましい。
よって、お茶会に参加する高位の令嬢は王太子殿下の目に留まろうと必死になるのだ……私を除いて。
この日、王妃様が主催するお茶会は大規模なものだという。
婚約者がいない未婚の男女が総勢30名は集まるそうだ。
ラングリド王国の成人は16歳だか、貴族の子女は14歳から17歳までバルリアンドル学園に通うことを義務づけられている。
免除されるのは健康面の理由だけだ。
14歳までに婚約者が決まらなければこの学園が出会いの場となる。
卒業までにはほとんどの令嬢が婚約者をゲットして、卒業後に結婚という流れになっている。
それなら、学園に入ってから見付けたらいいのではないかと思われるかも知れないが、のんびりしていると私一人取り残されて売れ残ってた、なんてことになりかねない。
悠長にのんびり構えている暇はないのだ。
私は、このお茶会で良い人とぜひとも巡り会いたいと、密かに気合いを入れる。
あくまでも密かに。
ガツガツしているところを周りに悟られたくないからね。
良いご縁に恵まれるようにとこの一年、私なりに努力をしてきた。
まず、前世のように独り者だからといって好きなだけ食べてぶくぶく太らないように、食生活にはかなり気をつかった。
野菜中心の食事に甘いおやつは控え目にした。
前世は中々食事制限に苦労したが、不思議と現世では苦にならなかった。おかげで、ぶくぶく太ることはなく、私の体型はスリムと言ってもいい。ただ、これは貴族の令嬢なら当然の体型ではあるのだが。それに、わたしは細いだけで決してスタイルは良いわけではない。
胸もお尻もぺったこんこなのだ。
しかし、デブよりはましだと私は思っている。
デブはいかん、デブは。
デブは99%の男を遠ざけるのだ。これは、私の前世から得た教訓だ。
売れるまでは絶対に太らない!
これは、私が幸せな結婚をするために誓った二つのうちの一つだ。
容姿は太ってさえいなければ後はどうとでもなる。
幸いなことに私は美少女ではないが、ブスというわけでもない。
ただの平凡顔。
なら、メイクである程度はフォローできる!……と私は信じている。
肌は綺麗な方なので、あとはインパクトのある眉を整えて二重を少し強調する。これだけでも大分印象が違う。
この日の私は、肌の露出が少ない青のドレスに華美になりすぎないように小ぶりのエメラルドの宝飾品を選んだ。
髪も派手な髪型は避けて横髪だけ後ろで纏めた。
王妃様主催のお茶会に出席するのに地味すぎると侍女たちに言われたので、渋々髪にユリの花を挿す。
確かにこれだけでも豪華になるし、ユリの花だから清楚な感じもする。
今日のコンセプト『清楚・純情な女』のイメージぴったりに仕上がったと私は鏡の前で大満足した。
侍女たちから「とてもお綺麗です」と褒められて、調子に乗りそうになるもそこは必死で自制をかけ気を引き締める。
婚活は命懸け。
捕まえて、法的に契約するまで決して気を緩めてはいけない。
私は自分にそう言い聞かせ、お茶会に参加するためにお兄様と一緒に馬車に乗り込んだ。
◇◆◇
今回のお茶会に妹のミルティアは参加しない。
まだ12歳なので招待されなかったのだ。
私もぎりぎり呼べる年齢だったと思う。
人生初の(前世も含めて)婚活に最大のライバルがいなくてホッする私がいた。
もちろん他のご令嬢たちも可愛い人や綺麗な人はたくさんいるけど妹は別格だ。
どのご令嬢たちよりも美しいのだ。
まだ、12歳だというのに末恐ろしいとはこの事だ。
しかも、性格もいい。絶対に不平不満を言わないのだ。
意識的に言わないようにしている私とは違って、その姿は自然なものだ。
そう。私が幸せな結婚をするために誓ったもう一つのことは、人の悪口を言わない!だ。
これは、あまり度が過ぎると恋人どころか友達も減る。
空気を読むって、思っていたよりも大事なことだ。
だから我慢しているのだけど、妹の自然さを見せ付けられると胸が苦しくなる。
私はなんて打算的なのかと。
しかし、実行しないよりはマシだろう。
妹が社交界にデビューして世の男性を虜にする前に、私は良い人を見付けなければならない。
私は馬車の中で再度決意を固めた。
「随分真剣な顔をしているんだね」
隣に座るお兄様に話し掛けられて、私はとっさに笑顔を作った。
「王妃様主催のお茶会ですので緊張してしまって……」
気合い入れてます!とは言えないので、私は模範的な答えを返す。
「そう……でも、今日のティフォンヌはとても綺麗だから、気合いが入っているのかと思ったよ」
綺麗……はお世辞でも嬉しいけど、気合い……は気付いてても言わないで欲しかったです。
「気合いなんて……でも、良い方とお近づきになれたらとは思っていますけど」
お兄様に誤魔化しや嘘は通用しないので、ちょっと正直に伝えてみた。
もしかしたら協力してくれるかもしれないし。
「ふふっ、ティフォンヌはこの一年自分磨きを頑張っていたからね。でも、そんなに身構えなくてもティフォンヌなら選び放題だよ。こんなに綺麗で優しいご令嬢を僕は見たことがないからね」
うほーー!!
お兄様、それは褒めすぎです!!
私は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
こういうところが、まだまだ子供というか未熟なんだと思う。
ミルティアなら「お兄様ありがとう。ミルティアお兄様大好き」と言って頬にキスの一つでもしているだろう。
さすがにキスは無理でも、それぐらい返せないと男性の気を引くことなんてできないと思う。
私は脳内で男性に(お世辞でも)褒められたときに黙ってしまわないように「お上手ですこと。でも、嬉しいですわ」という返しが出来るようにシミュレーションを何度も何度もした。
そんな私をお兄様が笑いを堪えながら見ていることも気付きもしないで。