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 告白の練習をしているところを弟のフィリックに見られた私は恥ずかしさでいっぱいで魂が抜け出て脱け殻のようになっていた。


 そんな私にフィリックはまた笑顔で爆弾発言をぶちかましてきた。


「ふふっ、お姉様、アルフィス殿下に好きだって伝える練習をしてたのでしょう」





 ……子供はスルーするという言葉を知らないようだ。


 どこまでも私を追い込むフィリックに私は半ばやけくそになる。


「……フィリック、お姉様の命令よ。今すぐさっき見たことは忘れなさい。いいわね」


 良い言い訳も誤魔化しも思い浮かばないので、問答無用で忘れろとフィリックに伝えるが、フィリックはそんな私をキョトンとした顔で見た後、また天使の笑顔を浮かべてこう言った。


「お姉様、照れているんですね。そんなこと気にすることないのに。アルフィス殿下に好きだって伝える練習をするお姉様はとっても可愛いですよ」



 ドッカーーーン!!


 告白の練習を7歳の子供に『気にしないで』とか『可愛い』ですよとか言われるなんて思いもしなかった。

 びっくりし過ぎて、私の頭は爆発した。


 それにしても、世の7歳の子供はこんな台詞をサラッと言えるものなのだろうか。

 それとも、フィリックが特別なのか。


 弟だし子供だし恋することはないけど、こんな甘い台詞をサラッと言われると少しドキドキする。

 前世が男運ゼロだったから、神様が現世は少し男運アップしてくれたのかな。


 どちらにしても、この話題はもう勘弁してほしいって思う私を余所にフィリックの質問攻めは続いた。


「でも、お姉様、どうして今さらそんな練習をしてるのですか?もしかしてアルフィス殿下に好きって言ったことないのですか?」


 子供は残酷だ。

 痛いところをビシバシつついてくる。


「答える義務はないわ。忘れなさい」


 私は素っ気なく答える。

 それでも、フィリックはへこたれることなく、さらに突っ込んでくる。


「婚約も済ませているのに今さら好きって伝えるなんて確かに勇気いりますよね。もしよかったら僕が練習相手になりましょうか。アルフィス殿下役やりますよ」


 何、そのいい提案したって顔?!

 しかも、私の忘れてっていう本気の願いは無視なの。


「もう練習はしないわ。フィリックは出ていってちょうだい」


 可哀想な気もするけど、これ以上このネタでフィリックと話をしているとストレスで血を吐きそう。もう、早々にご退場願おう。


「えー、そんなぁ。お姉様は僕のこと嫌いなのですか?」


 出ていってという言葉がショックだったのかフィリックは泣きそうな顔になる。


「そ、そんなことないわ。お姉様はフィリックのこと大好きよ」


 フィリックの泣き顔には弱いのだ。

 可愛い弟を泣かせたくなくて、私はフィリックに好きだと伝える。


「本当に?」

「ええ、本当よ」

「じゃあ、アルフィス殿下と僕とどっちが好きですか?」


 えっ?!


 思いもよらない質問に私は戸惑う。


 それは……やっぱりアルフィス殿下だけど、フィリックは子供だしやっぱりここはフィリックって答えるべきなのかしら。でも、そうしたらフィリックが「お姉様はアルフィス殿下より僕の方が好きなんだ!」って言い触らしそう。それはそれで、誤解を与えることに。いやいや待てよ。そんなの誰も本気にしないわよね。それに、フィリックは弟、家族なんだし。


 う~ん、どう答えよう。




「私はアルフィス殿下もフィリックも大好きよ。アルフィス殿下は婚約者だし、フィリックは大切な弟だもの」


 結局、どっち付かずの無難な答えを返した。

 お願い、これで納得して。子供らしさを取り戻して、フィリック。


「……わかりました。でも、お姉様ってアルフィス殿下のこと婚約者だから好きなのですか?婚約者じゃなかったら好きじゃなかったんですか?」


 ええーー?!


 そんなツッコミくる?!


 もう、フィリックは子供じゃないよ。

 子供の仮面を被った取調官だよ。

 何々?!私、どんな罪を犯したの?!


「そ、そんなことないわよ。アルフィス殿下は立派な方だし私は殿下を尊敬しているわ」

「んー、それって恋愛感情なんですか?公爵令嬢としての義務感からくる好意なんじゃないですか」

「なっ……フィ、フィリック、難しい言葉知ってるのね」


 何故か、変な方向で感心してしまった。


「僕はお姉様のこと大好きだから、お姉様に幸せになってほしいんです」


 ええぇぇ~~なにソレなにソレ、めっちゃ可愛いこと言ってるんですけど!!


 やっぱりフィリックは天使だわ!


「ありがとう、フィリック。でも、安心して。私はちゃんとアルフィス殿下のことが好きよ。殿下の妃になれるなんてとても幸せだわ」


 フィリックはじっと私を見る。

 さっきまで取調官のようだったのに急に黙るなんてどうしたのかしら?


「やっぱりお姉様は可愛いです。さっきの台詞すごく自然で、あんな風に好きって言われたらアルフィス殿下絶対喜びますよ」


 ズッキューーン!


 ああ、私のハートはフィリックに撃ち抜かれた……


 私の負けだわ。

 もう、フィリックに白旗を上げて敗北を認めるしかないわ。


 たとえ年下でも恋愛事に関しては、私はフィリックに生まれた時から負けていたのだわ。


「……おかしくなかった?」

「とても可愛いらしかったです」

「アルフィス殿下、引いたりしないかしら?」

「泣いて喜ぶと思いますよ」

「……大袈裟ね」

「本当のことですから」




「ありがとう、フィリック」

「お姉様のためなら何なりと」


 きっとフィリックは私を元気付けようとして色々言ってきたのね。

 取調官みたいって思ってごめんね。

 子供、子供って思ってたけどフィリックは素敵な紳士ね。将来有望だわ。


 フィリックの慰めで落ち着きを取り戻した私だけど、まさか、フィリックとのやり取りの全てを扉の隙間からあの人に覗かれていたなんて、この時は思いもよらなかった。


 いっそ一生知りたくないと思う出来事だったけど、世は無情。

 あの人もスルーするという言葉は知らなかったようだ。



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