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「ティフォンヌ、何か怒ってる?」


 二人で昼食を食べていると、アルフィス殿下が突然尋ねてきた。

 突然といっても、サロンに入ってから私は殆ど喋っていない。だから、アルフィス殿下がそう私に問うのも当然だ。




『怒ってなどおりませんわ。そんな風に思わせてしまい申し訳ありません』


 そう謝罪するべきなのに、私は口を閉ざしたまま。

 これって『私は怒ってます』って言ってるようなものだよね。


 一番嫌なやり方だと自分が嫌になる。


 私はリディア様のことが気になって気になって仕方がない。

 それは認める。

 でも、今は行動に移すべきではないと思っているのに、気になるとことを少し口にしただけで、自分の感情を隠すことが出来なくなってしまった。


『気になる』なんて言わなければよかった。


 言わなかったら、笑顔でアルフィス殿下と昼食を食べていたのにな。

 ムスッとして、言いたいことも言わないで場の空気を悪くして、相手の方から話を振ってくるように仕向けている。


 一番嫌いな自分だ。

 どうして感情を抑えきれなかったんだろう。

 まだまだ、私は未熟だ。


「……怒っているわけではないのです。やはり体調が優れないようです」


 嘘に嘘を重ねて、どんどん自分が身動きできなくなる気がする。

 今、私はどんな顔をしている?

 醜い顔になっていないだろうか?

 ううん、きっとなってる。

 好きな人にこんな顔見られたくないよ。


「アルフィス殿下……申し訳ありませんが…席を外してもよいでしょうか」


 アルフィス殿下の許可の言葉を待たず、私は席を立った。

 もう、殿下の顔は見られない。

 私自身、泣くのを堪えるので必死だった。


 泣きたくない。

 泣いてアルフィス殿下を困らせたくない。

 泣いて同情を引くような、卑怯な真似をしたくない。



「失礼します」


 サロンから出て行こうと私は扉に向かって歩く。




 けど、それはアルフィス殿下の手によって阻まれた。

 私の腕を掴む力は強い。

 それでも、私はアルフィス殿下の顔を見ることができなかった。


 でも、


「待って、ティフォンヌ。急にどうしたの?




 やっぱり……僕のことが嫌い?」


 アルフィス殿下の言葉に私は全身が凍りつくほどの衝撃を受けた。


 私がアルフィス殿下のことを嫌い?!


 どうしてそんなことを言うの?

 どうしてそう思うの?


 私はアルフィス殿下のことが好きで、殿下が優しくしてくれるのが嬉しくて嬉しくて、たとえ近い将来、殿下がリディア様のことを好きになっても、それまで側にいたいって思うぐらい好きなのに……そんな思いが全然伝わっていないの。


 私はアルフィス殿下の言葉が悲しくて辛くて、口には出さなかったけど、心の中で殿下を恨んだ。


 もう考えが纏まらない。

 今、どの対応がベストなのか判断できない。


 私は殿下の手を振りきってサロンを飛び出した。

 これ以上、この場にいたくなった。

 あれ以上、殿下と話したくなかった。


 私は振り返ることなく思いっきり走った。

 それこそアルフィス殿下の言う、『嗜みがない』行いだろう。


 アルフィス殿下は私を嗜みがないと蔑むだろうか。


 公爵令嬢としてアルフィス殿下の婚約者として恥ずかしくない行動をしなければといつも気を張っていたのに、やはり急な展開に私の心は現実についていけなくなっていたようだ。


『アルフィス殿下とリディア様が二人きりで会っていた』事実。

『会っていたことを何も言ってくれない』アルフィス殿下の真意。

『リディア様のことを悪く言う』アルフィス殿下の本音。


 そして、


『自分のことを嫌いなのか?』と問うアルフィス殿下の思考。







 今日一日で色んなことがありすぎて、私の頭の中はパニック状態だ。処理しきれず逃げ出す始末。


 ああ、春舞会が楽しみだと浮かれていた昨日の自分を殴ってやりたい。




 昨日までまだアルフィス殿下と暫くは何事もなく一緒に過ごせるだろうと甘い考えでいた私は、そのまま走って走って、教室に戻ることなく公爵気の馬車に乗り込んで屋敷に帰った。










 ◆◇◆


 私は屋敷に着くなり部屋に一人閉じこもった。

 心配するお母様やシーラ、フィンリーに「一人にしてほしい」とだけ伝え鍵を閉める。


 我が儘なことをしているのは分かっているけど、今は誰とも話したくないし気持ちを落ち着かせたい。


 殿下は逃げた私をどう思ったんだろう。

 それに『やっぱり僕のことが嫌い?』って、どうしてあんなことを言ったんだろう。


 私がそう思わせる態度を取っていたから?






 ……絶対に取っていないって言える、私?


 言えないような気がしてきた。


 だって、将来はアルフィス殿下と別れることになるって分かっていたから「好き」とか言葉で伝えたことないし、態度で表したこともない……と思う。


 ただ、公爵令嬢としてアルフィス殿下の婚約者として恥ずかしくない行動をしなければとそれだけを考えていた。

 もちろん、アルフィス殿下のこと好きは好きなんだけど、それを伝えたいとか分かってほしいとか考えてなかったし、でも、尊敬を持って接していたから好意は持っているぐらいは伝わっているだろうからそれで十分だろうって。

 でも、アルフィス殿下がそれを『嫌い』として受け取っていたとしたら。


 私がアルフィス殿下の婚約者になったのは王家からの申し入れを断れなかったから、尊敬を持って接しているのはアルフィス殿下が王太子だから。そして、それをよそよそしいとアルフィス殿下が感じていたら……


 もし、私が反対の立場だったらどうだろう。

 将来、違う相手と恋に落ちるかといってその前の段階で一線を置かれていたら……


 それは…すごく辛い。


 この事は何度も考えてアルフィス殿下に負担をかけないようにしようと決めたけど、それは私の勝手な判断だ。


 もし、アルフィス殿下が私の態度に不満を感じていたとしたら……


 だから、アルフィス殿下はリディア様を。





 いやいや、話飛びすぎた。

 もうこの際、リディア様のことは無視して、今はアルフィス殿下のことだけを考えよう。


 理想だけで考えると、私はアルフィス殿下のことが好きで(愛情表現薄いけど)、アルフィス殿下も私のこと(今は)好き。

 おまけに婚約者同士だしもっとラブラブでもいいのかなぁ。もっと甘えて甘やかしてあげた方がいいのかなぁ。


 もっともっと、アルフィス殿下を幸せに……


 そして、振られた時は潔く文句も言わず静かに去っていくようにした方がいいのかなぁ。


 何だか、おかしいなぁ。

 こんなこと前世の私だったら絶対にしなかった。


 どうして私が損しなきゃいけないのってそれで終わり。

 それなのに、本当にこれでいいのかなってもう一度考えて、損とか得とか関係なしにアルフィス殿下のために……って思える自分がいる。


 不思議だな。

 そんな風に思うとさっきまでのモヤモヤした気持ちが薄らいでいく。



『逃げてごめんなさい』って、謝ってみようかな。

『アルフィス殿下のことが好きだ』って、伝えてみようかな。


 そうしたら、もう一度アルフィス殿下の、私の大好きな殿下の笑顔が見れるかな。







久しぶりに更新しましたがたくさんの方が読みに来てくださって、感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございました。

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