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本日、二回目の更新になります。
入学初日は授業がない。
ただし、ホームルームはある。
そのホームルームの時間が近付いてきたので、私たちはサンルームを出て、各々のクラスを目指す。
私は一年生で東の棟の一階に教室はあり、アルフィス殿下とお兄様は三年生なので西の棟の一階に教室がある。この上位専用サンルームは南の棟にあるので、サンルームを出れば左右に別れることになる。
「では、行ってきます」
サンルームを出て私はアルフィス殿下とお兄様と別行動になるので、そう挨拶したのに、何故かアルフィス殿下は私の手を取った。
えっ?と思ったら、アルフィス殿下に「教室まで送る」と言われた。
いやいや、アルフィス殿下だってホームルームがあるのに、私を一年のクラスまで送ってたら殿下がホームルームに遅れるよね。
「それは、結構です。ホームルームまであまり時間がありませんし、殿下がホームルームに遅れます」
私の言葉にアルフィス殿下は「少しぐらい構わないよ」と言うけれど、そんなことは許されないだろうと思う。
体調不良とかなら仕方ないないが、女を送って行ってホームルームに遅刻して先生や他の生徒を待たせるなんて、上に立つ人のすることではない。
手を離さないアルフィス殿下に、私はやや強く意見を言う。
「いいえ、殿下、そんなことをしてはいけません。殿下がホームルームに遅れれば先生や他の生徒を待たせて迷惑をかけることになります。それでも、相手が殿下なら誰も文句は言わないでしょう。しかし、皆から『アルフィス殿下は時間にルーズだ』と思われるんです。敬愛する殿下が皆様にそんな風に思われるのは堪えられません。ですから殿下はご自分の教室に向かってください。私は一人で大丈夫です」
遅刻をしても平気なんて、好きになった人には言ってほしくなくてついつい熱弁してしまった。
アルフィス殿下も納得してくれたようで、私の手を離してくれた。
怒らせてしまったかなと思ったけど、アルフィス殿下は「気を付けて行くように。何かあったらすぐに私を呼ぶんだ」と私を気遣ってくれた。
その優しさと懐の広さに、またキュンとときめいてしまった。
それも顔に出さずに、私は「ありがとうございます」とお礼を言ってアルフィス殿下とお兄様と別れた。
廊下に出て、教室に向かおうとするとすぐに私の周りに友達のご令嬢達が集まってきた。
リリアナ様、シルビア様、ローザリエ様の三人だ。
同然このお三方も今年十四歳なので、バルリアンドル学園の新入生としてこれから学園に通うことになる。
「相変わらず仲が良いですわね」
「アルフィス殿下はティフォンヌ様をとても大切にされていますのね」
「遠慮しないで教室まで送ってもらえばよかったのに」
三人ともが私とアルフィス殿下の仲の良さを口にする。
その事に嬉しさを覚えるが、ここで流されては駄目だと気を引き締めることも忘れない。
「アルフィス殿下はとても気遣いのできる方ですから。私は殿下の邪魔にならないようにしなければ」
ここで「私の婚約者は、私にメロメロよ」なんて調子に乗った言動はご法度だ。
のろければのろけるほど、後で痛い目に合うのは私なのだから。
「さあ、急ぎましょう。ホームルームに遅れてしまうわ」
そう言って、アルフィス殿下の会話を終わりにして、私たちは教室に向かった。
クラスは身分ごとに別れている。
王族・公爵・侯爵家で一クラス(Aクラス)。
伯爵・子爵家で一クラス(Bクラス)。
男爵・準男爵家で一クラス(Cクラス)。
よって、クラスの人数はまちまちだが、一学年に三クラスなのは変わらない。
そして、このクラス編成は漫画そのままなのだ。
学園の建物も構造も授業も漫画通り。
だからか、初日にして特に違和感なく私はこのバルリアンドル学園に溶け込めそうだと思っていた。
そう、あの人の存在以外は――




