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「新入生の諸君、入学おめでとう」


 アルフィス殿下の挨拶が始まった。

 王族が学園に通っている場合、その年その年の入学式と卒業式は必ず挨拶することになっているらしい。

 入学する時は新入生、卒業する時は卒業生、その他は在校生代表として挨拶する。


 結構大変よ、これ……と、思いながらアルフィス殿下の挨拶を静聴するが、意外や意外。殿下の挨拶はとても上手だった。

 ユーモアさはやや欠けるが真面目で前向きさがビシバシ感じる挨拶だった。


 その姿に、ちょっと胸がキュンとなるが顔には出さない。


 新入生への挨拶が済み、今度は婚約者である私の紹介となる。

 アルフィス殿下の少し後ろに控えていた私は、殿下に促されて、殿下の隣に立つ。


「こちらの令嬢はティフォンヌ・セイラン公爵令嬢で、私の婚約者だ。今年からバルリアンドル学園に通う。皆、よろしく頼む」


 アルフィス殿下からの紹介を受けて、私は一礼する。

 そして、簡単に挨拶をする。

 公爵令嬢で王太子殿下の婚約者ならもっと立派な挨拶しろよ!と、自分で突っ込みたくなるぐらい簡単な挨拶だ。

 我ながら、ヘタレだと思う。

 でも、婚約破棄されるのが分かっているのに、ドヤ顔で「私がアルフィス殿下の婚約者ティフォンヌよ!」なんて挨拶も、「将来はリディア様がアルフィス殿下の妃になりますが、それまでは私が婚約者を務めさせていただきます」なんて挨拶もできない。

 自分の本当の役割のことを思えば、自己紹介ぐらいの簡単な挨拶しかできない私だった。






「ティフォンヌ、緊張した?」


 挨拶も終え、入学式も終わり、私は今、アルフィス殿下とお兄様と校舎内の上位専用のサンルームにいる。

 アルフィス殿下とは向かい合って座り、隣にはお兄様が座っている。


 上位専用サンルームとは全学年の王族・公爵・侯爵家のみ使用できるサンルームである。今のところ、王族はアルフィス殿下しかいない。

 アルフィス殿下には弟が一人いるが、入学するのは二年後だ。


「はい、とても緊張しました」


 私はお兄様の問いに素直に答えた。

 すると、私の隣に座っていたお兄様が私の頭を撫でてくれた。


「とても上手な挨拶だったよ」


 お褒めの言葉ももらって、私のテンションはちょっと上がる。


 へへ、ありがとう、お兄様。


 私がお兄様に褒められて嬉しそうに笑うと、アルフィス殿下が面白くなさそうに口をはさんできた。


「おい、ティフォンヌは私の婚約者だぞ。兄と言えど気安く触るな」


 私とお兄様が仲睦まじくしていると、いつもアルフィス殿下はお兄様に注意してくる。

 私自身も何度か「私といる時とエルシードといる時では表情が違う」とアルフィス殿下から言われたことがある。

「そんなことありませんわ」って、都度答えているが、うん、ごめんなさい。それは嘘です。本当は自覚あります、アルフィス殿下。


 やっぱりお兄様は無条件で安心できるというか甘えられる存在なのだ。それは、血の繋がった兄だからなんだけど。

 そして私は、いずれはお別れしなければならないアルフィス殿下とはやはり意識的に一線置いている。

 殿下のために頑張ろうって決めたけど、これ以上、好きになり過ぎると本当に悪役令嬢になってしまいそうで怖い。

 嫉妬でリディア様に必要以上に意地悪して、アルフィス殿下に完全に嫌われるのは避けたいなぁと思っている。

「お前、悪役令嬢なんだから、そこはやれよ!」っていう声が聞こえてきそうだけど、嫌なものは嫌!それだけは絶対に譲れない。


 ここまで漫画の修正力が働いているのだから、私がリアクションを起こさなくてもアルフィス殿下とリディア様の恋は進んでいくと思うんだけどな~と考えたこともあったけど、でも、もし、進まなかったら……どうなるんだろ?その時は覚悟を決めてリディア様を苛める?なんて、色々考えて、私はそこそこ苛めるという結論を出した。


 がっつり苛めるとアルフィス殿下からも、最悪家族からも嫌われ兼ねない。だから、私はアルフィス殿下にフラれるのは仕方ないにしても「お前のような性悪女の顔など二度と見たくない!」と言われないように、あまりがっつり苛めないで、アルフィス殿下とリディア様の二人の恋が成就した暁には「ティフォンヌ、すまない。君のことが嫌いになったわけじゃないんだ。ただ、君よりもリディアの方が好きになってしまったんだ。どうか許してほしい」……という言葉をぜひ頂きたいという願望を持っている。


『君よりも好き』……結構、これもズシッとくるなぁ。

 でも、『性悪女の顔も見たくない』よりはましだとかなぁ。うん、ましだ。欲を出しては駄目だ。『君よりも好き』で満足しよう。


 そんな結論を導き出したものだから、もしかしてリディア様より私を選んでくれるかも……なんて期待をしたり、好きになりすぎて馬鹿な行動を取らならないように、アルフィス殿下が好きだと自覚していても一線を置いて、自分が悪役令嬢という立場だということを忘れないようにしているのだ。


 そうなると、自然とアルフィス殿下との間に見えない壁ができるのは当然で、殿下はそれに気付いて、私が心を許している人に対して敏感になっているようだ。

 私が心を許しているのは家族と友人(同性のみ)だけなのに、そこまで気にするアルフィス殿下がリディア様と出会って恋が始まったらどう変わるんだろうとちょっと心配になったりする。


 いきなり態度が変わるのだろうか。

 それとも徐々に変わっていくのだろうか。


 私は……どちらがいいのだろう?


 いきなりだと衝撃が凄そうだし、徐々にだと蛇の生殺しみたいだし。この場合、どちらのパターンも覚悟しておくべきかな。

 はぁ、失恋って辛いなぁ。世の女性は失恋をどう乗り越えているんだろう。


「ティフォンヌ、暗い顔してどうした?」


 アルフィス殿下に捨てられることを考えていたら、どうやら暗い顔をしていたようだ。殿下が心配そうに声をかけてきた。


 いつかは、こんな風に私の変化にすぐに気付いてくれて心配してくれる殿下の目がリディア様に向けられる日がくるのだ。

 すぐに悪い方にばかり考えてしまう私の心はますます暗くなるが、それを悟られまいと必死で笑顔を作る。


「何でもありませんわ、アルフィス殿下」


 笑顔でそう答えた私を見て、アルフィス殿下が少し悲しそうな顔をしたように見えたのは気のせい……だよね。


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