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「お呼びでしょうか、お父様」
呼び出された理由が分かっている私は頭を垂れてお父様に挨拶した。
お父様は「座りなさい」と言って、自分の隣に私を座らせた。
その顔はとても険しい。
いつぞやの王妃様からのお茶会ご招待の時よりも顔が険しい気がするのは私の気のせいだろうか。
「……今日、アルフィス殿下がティフォンヌに会いに来たようだね」
やっぱり今日のことはお父様の耳にも入ってるんだ。
そうですよね。どう見てもそうですよね。
でも、この期に及んで私は今日のことを誤魔化そうとした。
「確かにお会いしましたけど、アルフィス殿下はお兄様に会いに来られたのでないのですか?」
あくまでも私に会ったのは偶然、もしくはついでという感じだと捉えていると強調する。
でも、私のそんな姑息な言い訳はお父様には通用しなかった。
「エルシードから聞いているだろう。ティフォンヌは信じたくないかもしれないけど、アルフィス殿下がティフォンヌに好意を持っているのは本当だよ」
もう、私は何も答えられなかった。
誤魔化そうとした自分が恥ずかしいのもあるし、アルフィス殿下の好意にどう答えていいのか決められていないので答えようがない。
「アルフィス殿下がティフォンヌに会いに単独で我が公爵家を訪ねたことはすぐに国王陛下の耳に入って、殿下は陛下からお叱りを受けていたよ。私も呼ばれてそれを側で見ていたけど、殿下は王宮を抜け出したことは反省していたけど、ティフォンヌのことは真剣だと仰っていたよ。今日、ティフォンヌと会って確信したと。
ティフォンヌはどうだい?殿下のことをどう思う」
お父様から、アルフィス殿下が国王陛下に私のことを真剣だと告げたと聞いた時、私は血の気が引いた。
えっ、ちょっと待って。展開が急過ぎない?!
あまりの展開の早さに私の気持ちも思考もついていけない。
アルフィス殿下~~私を置いて一人で暴走しないで~~
「よく、分かりません……」
震える声で何とかそれだけ答えた私に、お父様は「そうか……」と呟いた。
「私自身、あんなに真剣なアルフィス殿下は見たことがなくてね。殿下が本気ならティフォンヌのことも認めてもよいかと思ったぐらいだ。あくまでもティフォンヌがよければ、だけど」
お兄様だけでなく、お父様までほだされてる。
私次第……みたいな言い方は止めてください!
「陛下もティフォンヌなら身分も年齢も殿下に相応しいと仰っているが、殿下とのことを無理強いするつもりはないとも仰っている。ティフォンヌの思いを尊重すると」
ああ、追い詰められた感じがする。
皆して、私に丸投げしないで。
「陛下に私からティフォンヌの気持ちを確認してほしいと言われたんだが、ティフォンヌは絶対に殿下の妃になるのは嫌なのかい」
どうしよう、何て答えればいいの。
迷う私がいる。
「妃にはなりたくありません」と言えば問題は即座に解決し、私は悠々自適に自分磨きに励み、平穏な人生を歩むことができる。
けど、ここまで話が大きくなって、ましてや国王陛下まで出てきて、自分の平穏な人生のために(きっと)良い人であろうアルフィス殿下との話をキッパリハッキリ断るのは小心者の私には到底無理な話だ。
「アルフィス殿下はとても素晴らしい方だと思います。でも、王太子妃になるのは……」
アルフィス殿下自身は持ち上げて、殿下の王太子という身分に難色を示すという回答をした私。
ちょっと卑怯な気もするけど、やはり王太子という身分は無視できない。
お断りする理由としては妥当だろう。
「ティフォンヌは立派な王太子妃になると思うけど。セイラン公爵家の自慢の令嬢だからね」
お父様は笑顔を浮かべて「そんなことを気にしてたのかい。もっと自分に自信を持っていいんだよ」みたいなフォローを入れてきた。
いや、その目はもしかしたら本気かもしれない。
お父様は私が思っている以上に親バカだ。
「ティフォンヌの気持ちは分かったよ。ティフォンヌは奥ゆかしいから一歩を踏み出せないんだね。でも、殿下のことを嫌いではないようだし、殿下と交流をもってもいいと思うよ。
実は国王陛下と王妃陛下から今度こそティフォンヌをお茶会に連れて来てほしいと言われてね。ティフォンヌが絶対に嫌だと言うなら断ろうと思っていたけど、殿下自身が嫌ではないなら出席の返事をしてもいいね」
えっえっ?
また、お茶会に誘われてたの?!
それを先に言ってよお父様~~
お父様を恨んでも時すでに遅し。
私のお茶会出席は決定してしまった。
王妃様主催のお茶会でも、アルフィス殿下は確実にお茶会の場に現れるだろう。
ああ、その時、私はどうすればいいのだろう……




