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「まあ!素敵!是非とも出席いたしますわ!ねえ、ティフォンヌ!」
「え~お姉様とお母様だけなの?私も行きたいわ」
心の中でお茶会への出席を完全拒否する私を余所に、お母様は楽しそうに出席すると言うし、ミルティナは自分も行きたいと可愛らしく頬を膨らませてふて腐れている。
自由だ。当の本人の気持ちなど無視して美女という人種はいつ如何なる時も自由だと私は思った。
「ティフォンヌはどう?出席したいかい」
お父様は自由人達を無視して、私に出席の有無を訊ねてきた。
よかった。これで「マリーシアがそう言うなら…」 って強制的に出席決定にされたらグレるところだった。
「私は…出席したくありません。でも、もし断ってお父様の立場が悪くなら…」
これも私の癖で、気持ちは決まっているのに相手の立場とか気持ちまで考えて言葉を濁してしまう。
もし、これでお父様が「じゃあ、出席してくれ!」って言ったら、絶対ブーブー文句言う癖に。
後で文句を言うなら最初からはっきり言えばいいのにって自分でも思う。
「お父様のことは気にしなくてもいいよ。ティフォンヌが乗り気でないなら断るよ」
お父様は私の気持ちを尊重してくれた。
私はホッとする。
「お父様、ありがとうございます」
お礼を伝えるも、そこで終わりじゃなかった。我が家の自由人達が黙っていなかったのだ。
「まあ、ロディったら、そんな簡単に決めてしまうなんて酷いわ。せっかく王妃様がお茶会に誘ってくださったのに断るなんて失礼よ。ねえ、ティフォンヌ、どうして出席したくないの?」
お母様は私に出席したくない理由を求めてきた。
お母様はかなり出席したいようだ。
お母様こそどうしてそんなに出席したいの?って思うけど……ほんとだ、どうして私、そんなに出席したくないんだろう?
理由を問われると、言葉に詰まる。
でも、少し考えるとすぐに答えは出てきた。
王妃様のような高位の方とお茶をするなんて緊張するから、だ。
その理由を正直に伝えるのは何だか情けないような気がするし、人と合うのが苦手で避けているのは前世と同じじゃないかと自己嫌悪に陥る。
どうしよう、どうしよう、と私は頭の中はまたプチパニックに陥った。
そんな黙ったままの私をフォローしてくれたのはお兄様だった。
「僕も出席するのは反対だよ。王妃様がどういう思惑があってティフォンヌを招待したのかは分からないけど、先日のお茶会に出席したばかりで、すぐに王妃様の私的なお茶会に招かれたとなると、世間はティフォンヌが王太子妃候補に選ばれたって思うだろう。もし、王妃様にそのつもりがなくても、今回は辞めた方がいいよ。ティフォンヌに妃候補になるつもりが無いなら尚更だ。
父上もそれを懸念しているのでしょう」
お兄様の言葉に、お父様が頷いた。
私もお兄様の考えに首を大きく縦に振った。
正直私はそこまで深く考えてなかった。
でも確かに、私がお茶会に出席すれば世間様に誤解されてもおかしくない。
それは、さすがに避けたいと本能が訴える。
やはり、悪役令嬢は避けたいというのが本音である。
「あら、別にそれでもいいではありませんか。王妃様がティフォンヌを気に入ってもう一度会いたいと思ってくださったのだから。ティフォンヌだって今は嫌でも、また王太子様にお会いすれば妃になってもいいかもって思うかもしれないし。本当に嫌な時はお断りすればいいんだから。ねっ、ティフォンヌ」
ねっ、って随分楽観的なお考えを仰りますね~お母様。
その、ポジティブな性格はどこから生まれるんだろう?
「そんな簡単な問題じゃないよ、マリーシア。よく考えて返事をしないと。王妃様が王太子妃のことを関係なしにティフォンヌとマリーシアを招待してくれたとしても時期が悪すぎる。エルシードの言うとおり今回は断った方がいいだろう」
お父様の気持ちは断る方向で決まっているようだ。
お母様は残念そうな顔をしているけど、お父様にここまではっきり言われれば、それ以上は何も言えないのか「分かったわ」と返事をした。
実は私は、ミルティナがまた何か口を挟むかなって思っていたけど、ミルティナはもう会話には寄らずデザートを美味しそうに食べていた。
ミーハーそうで実は空気の読めるミルティナが一番最強だと私は確信した。
◇◆◇
「えっ、贈り物?」
翌日、王妃様のお茶会を体調不良ということでお父様からお断りしてもらったその次の日のこと。
執事のルーイが私宛の贈り物を持って来てくれた。
贈り物といっても、物ではなくて花だったけど。
小さな篭に入ったピンクや黄色の可愛らしい花籠を私はルーイから受け取る。
そして、花籠にはメッセージカードが添えられていて『早く元気になってください』と書かれていた。
元気?
私、病気じゃないけど、宛先を間違えてるのかしら。
「どなたから?」
花を贈ってくれた人の名をルーイに訊くと、ルーイはコホンと咳払いしてから恭しくこう答えた。
「アルフィス王太子殿下からでございます」
それを聞いた瞬間、可愛らしい花籠が私の手を離れ、地に落ちた。