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「んん、あれ?」


 朝になり、目を覚ました私は洗顔をした後、ドレッサーの鏡の前で自分の顔を二度見した。


 心なしか肌が綺麗になっている感じがする。

 透明感というか、肌が明るくなっているというか。


 肌は綺麗な方だと今まで特別な手入れなんてしてこなかったけど、やはり高級品を使うとこうも効果が現れるのかと鏡の前で感心した。


「肌が輝くようですわ、ティフォンヌ様」

「一晩でこんなに綺麗になるなんて」


 シーラもフィンリーも私の肌を見て大満足のようだ。


 それにしても、昨日のお手入れに何の意味があるのかと思っていたけど、いざ効果があるとなると結構嬉しいものなんだと思った。


 そりゃ、肌が綺麗になっただけで顔は平凡顔のままだけど、それでも、何だろうこの気持ち?


 嬉しい気持ちで身体中がいっぱいになって、もっと綺麗になりたいって思う。


「シーラ、フィンリー、ありがとう。こんなに綺麗になるなんて私、嬉しい」


 私は嬉しい気持ちをくれた二人にお礼を言う。

 二人は嬉しそうに笑っていた。

 そして、さらに努力が必要だと教えてくれた。


「ティフォンヌ様、勝負はこれからですわよ!“美”は一日にして成らず。世の女性たちは日夜努力しています。ティフォンヌ様も頑張りましょう!」


『美は一日にして成らず』


 何だろう。この浅いような深いような、その格言は。

 でも、的を得ているような気はする。

 たった一日で綺麗になったりするなら誰も苦労はしないよね。


 前世では周りの女の子がファッションがどうの、彼氏がどうの、流行りがどうの、とキャピキャピしながら話していたのを横目で見ながら『くだらなーい』と冷めた目で見ていたけど、本当はくだらないことじゃなかったのかも。自分には関係ない、縁がないと避けていたけど本当は必要なものだったのかもしれない。

 だって、昨日までは自分用の石鹸や香油、化粧品を買うのがめんどくさい、意味がないって思っていたのに、今日はとても楽しいことだと思える。

 お母様やミルティナみたいに、色んな石鹸や化粧品を使ってみたいって思ってる。


「どうやらティフォンヌ様もやる気が出てきたようですわね」

「毎日の努力の積み重ねが女性を輝かせるのですよ」


 二人の励ましも今なら素直に受け取れる。


「そうね!私、今日から生まれ変わった気で頑張るわ!今までサボりすぎてたものね!」


 俄然やる気が出た私は、気合いを入れた。









 少し前向きになれた私は、今日はドレス選びを自分でしてみた。

 いつもなら、シーラとフィンリーが選んだドレスを着るだけだけど、今日は衣装部屋に並ぶドレスを自分で選ぼうという気持ちになったのだ。


 が、ここで問題(大袈裟)が起きた。


 私の持っている普段着のドレスは28着しかない。ラングリド王国は四季があるので春物×7、夏物×7…という感じで、全部で28着。なので今着れるドレスは7着だけだ。

 しかも、どのドレスもデザインも色も似たり寄ったりなものばかりなのだ。


 お母様はもっと買っていいと言ってくれるけど、私はこれだけあれば十分だと思っていたのだ。

 だって、毎年買い換えるんだよ。まだまだ、着れるのに勿体無いって思うでしょ。でも、古いドレスは孤児院とかに寄付されるからって教えてもらったから、それならって毎年ドレス変えてるけど、それでも、全部で28着あれば十分でしょ。よそ行きは別で何着か用意してあるし。


 って、思ってたのに、今日は7着しかないことがすごく物足りなく感じる。

 もっとたくさんのドレスが欲しい、もっと色んなタイプのドレスを揃えて、その中から今日着るドレスを選びたいって思う。


 ほんの少しだけど、自分に自信が持てるってこんなに前向きになれるんだ。

 外見なんて上部だけの問題じゃないかって思ってたけど、そんなことないね。


 気持ちがウキウキして、前向きになれるんだもん。

 外見に気を遣うってとても大切なことなんだ。


 今日は特に予定もないし、シーラたちが言ったとおり色々買い物してみようかな。


 おっと、その前に、お父様から買い物の許可をもらわないとね。










 ◆◇◆



「お父様、私、欲しいものがあるのですけれど買ってもいいかしら」


 私は今、お父様の執務室にお邪魔している。

 今から、お父様はお城に出勤するので、その前に許可をもらおうと思ったのだ。


 お父様は出勤の準備をしていた手を止めて、驚いた顔で私を見てきた。


 なにもそんなに驚かなくても思うけど、前世を思い出してからはこれといって物をねだったことがないから驚くのも当然かもしれない。


「ティフォンヌが買い物……珍しいね。別に構わないけど、何を買うの?」

「えー、と、化粧品とか香油とかドレスを…」


 ちょっと気恥ずかしいけど、私は正直に伝えた。

 お父様は私が買おうとしている物を知って、さらに目を見開いた。


「そんなに驚くことですか?」

「…そんなことは…いや、正直少し驚いたかな。ここ2、3年、ティフォンヌはそういう類のものを欲しいって言ったことがなかったから。お母様も年頃なのにって気にしていたし。でも、急にどうしたの?」


 随分食い付いてくるね、お父様。

 でも、ここでめんどくさくなって「じゃあ、いいです」って引いちゃ駄目だ。


 頑張れ、私!


「それは…今までは必要だと思っていなかったから。でも、シーラたちが色々用意してくれて、それで、欲しいなって思って…」


 頑張ったけど、全然説明になっていない。

 もっと綺麗になりたい、オシャレしたいっていう気持ちを人に言うのがこんなに恥ずかしいなんて思わなかった。


 恥ずかしくて俯く私の様子にお父様も察してくれたのだろう。

 それ以上、食い付いてくることもなく、笑顔で「好きなだけ買っていいよ」と言ってくれた。


『好きなだけ買っていいよ』――彼氏or旦那に一度は言われたい台詞の一つをあっさりもらってしまった…父親に。


 物欲的欲求を満たす台詞ではあるが、甲斐性がある男じゃないとこの台詞は言えない。


 俗物的とも思われるかも知れないが、やっぱりこの台詞は夢の一つだよね。


 今度は本物の彼氏or旦那に言われてみたいな。


 私はお父様から買い物の許可を快諾してもらって、ご機嫌で自分の部屋に戻った。

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