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 いつものように家族皆で楽しく夕食を頂く。

 お父様は仕事でまだ帰宅していないので、お父様を除く5人での夕食だった。


 何も変わらない、いつもと同じ夕食の風景は、このままずっとこんな風に過ごせたらと、また甘い考えを甦らせてしまう。


 絶対にこのまま同じ風景が続くなんてことはないのに。


 いずれはお兄様も結婚し、リリアナも嫁ぎ、フィリックも可愛いお嫁さんをもらう。


 お父様、お母様は年を取って兄弟たちは結婚して子供ができて、我が家は賑やかになることだろう。


 その時、私は……ただ、年だけ取って結婚もせず子供も産まず、其々の人生を送る兄弟たちに紛れて笑っているのだろうか。





 虚しい……すごく虚しい想像をしてしまった。

 今なら想像だけで泣ける。


 私は頭の中で生まれた侘しい未来を打ち払うかのように頭を振った。

 前世だったら一人で生きていても、たくさんの娯楽が周りにあったけど、こんな中世な世界の娯楽なんて限られていて、ましてや公爵令嬢なんて肩書きがあったら、お金はあっても世間体というものが終生ついて回る。


 狭い貴族社会の中でどこに行っても『行かず後家』とコソコソ陰口を叩かれる自分の姿が容易に想像できるのが悲しい。


 悪役令嬢のような派手だけどプライドをこれでもかと踏みにじられる人生も嫌だけど、地味でも楽しみがなーんにもなくて後ろ指を指される人生も嫌だなぁ。


 私は夕食が終わり、自室に戻ってすぐに反省会の続きをした。








『男性への苦手意識をなくす=傷付くことを恐れない』と書いたところでノートは終わっている。

 私はまず、苦手意識をなくすにはどうすればいいのか、傷付くことを恐れないためにはどうすればいいのか考えた。


 具体的な案を……案を……


 あれ?どうしよう?何も思い浮かばない。

 ここをクリアしなければ前に進まないというのに、さっそく私は課題に躓いてしまった。


「苦手意識をなくす……か」


 どうにも良い案が浮かばず、私は知らず知らずの内に呟いていた。

 そんな私の呟きを侍女たちが聞いていて、私に「ティフォンヌお嬢様、何をお悩みですの?」と訊ねてきた。

 家に帰ってきてからずっと机に向かって書き物をしていたのだから、かなり気になっていたのだろう。

 2人の侍女がわらわらと私の周りを囲んだ。


 私の侍女はルーナ、フィンリーと言い、2人とも17歳で、私のお姉様的存在だ。

 いつも優しくて心配してくれる私の大切な人たちだ。


「何かお悩みでしたら、私たちでよければ相談にのりますわ」

「何でもおっしゃってください」


 こんな風にいつも私のことを気に掛けてくれて、私は嬉しくて泣きそうになる。特に今は行き詰まっていたから余計に嬉しかった。


 ここで「何でもないわ。心配してくれて、ありがとう」と前世の私なら言っていただろう。

 でも、また一人で考えても答えは出ないと思う。

 変に遠慮して立ち止まるよりは、こうして救いの手を差し伸べてくれた二人に甘えてもいいかもしれない。


「実は……恋愛について悩んでいるの」


 私は勇気を出して、自分の悩みを二人に打ち明けた。











「まあ、恋愛について」

「では、好きな方でもできたのですか?」

「もしや先日のお茶会で」

「素敵な出会いがあったのですか?」


 私が恋愛のことで悩んでいると打ち明けると、二人から質問攻撃にあった。

 好きな方とか、素敵な出会いとか二人はかなり誤解している。


 うん、でも、私が悪いね。あんな曖昧な言い方した私が悪い。


 私は二人に落ち着いてと言い、好きな人ができたわけではないと説明した。

 そして、私の悩みを詳しく説明することにした。


「恋愛のことっていうのは、好きな人ができたということではなくて、どうすれば好きな人ができるのか悩んでいたの。私は男性が苦手で上手く話が出来ないから……でも、優しい方と結婚して幸せな家庭を作りたいとは思っているのよ。だから、余計に自分の欠点を克服したくて」


 出来るだけ二人に理解してもらえるように、言葉を選びながら私は説明をする。

 悩みの内容も誉められたものではないけど、公爵令嬢としての品を失うような言葉は使いたくなかったから。

 あまりネガティブになり過ぎず、年相応の悩みとして受け取ってくれたらいいのだけれど。


 その願いは通じたのか、二人は「なんて奥ゆかしい」と言って感動していた。


 奥ゆかしいは大袈裟だし、気恥ずかしいけど「つまんねーことで悩んでんだな」と思われなくてよかったと、私は胸を撫で下ろす。


 二人は私の悩みを真剣に考えてくれて、色々な意見を出してくれた。

 それでも、二人の意見にどうもピンとこなくて、私は心の奥に仕舞い込んで、自分でも気付かない振りをしていた気持ちにだんだん気付かされていった。


 それは自分の容姿(コンプレックス)についてだ。


 前世よりはスタイルは良いが、やはり顔は公爵令嬢としては平均点以下だと思う。


 周りに美形しかいないこともそうどけど、家族の中で私だけ……という思いが一番強い。


 まるで、私だけ間違ってこの家に生まれてきてしまったみたいだと何度も考え、その都度、考えるな考えるなと自分に暗示を掛けて、この思いに蓋をしていた。

 でも、蓋をしたからといって思い自体がなくなったわけではない。

 心の奥底にいつまでも燻っているのだ。


 その気持ちが相談に乗ってもらっている内に沸き出てきて悲しい気持ちになる。そして、またその思いに蓋をしてしまいそうになる。そんな惨めな思いを忘れたくて無いことにしたくて。

 でも、今の私はそれじゃ駄目だと警告を鳴らす。今、自分の気持ちに背を向けたら同じことの繰り返しだと。

 そう思うと、不思議なことに私は消し去りたいコンプレックスの悩みを二人に打ち明けていた。

 いつも側にいて親身に世話をしてくれる二人だからこそかもしれない。


「私……平凡な顔でしょ。私以外の家族は皆綺麗なのに私だけ平凡だから、周りの人は影で笑ってるんじゃないかって思ってしまうの。でも、それじゃ駄目だって思うから自分を磨こうと必死で頑張ってるんだけど、やっぱり気になっているのかな。どうしても積極的に人と接することができなくて」


  悲しいことに、せっかく胸の内を打ち明けたのに、どんどん前世のことを思い出してしまい、暗い気持ちになる。

 それは、己のコンプレックスを克服出来ない理由を思い出すからだ。


 私は知っているのだ。


 平気で他人のコンプレックスを抉り、心を傷付けて笑う人がいることを。


 何度も何度も傷付けられて、これ以上、傷付けられたくないと閉じ籠った殻は、新しい人生を歩むことになっても打ち破ることが出来ないほど……


 生まれ変わりたい!前世と同じ人生を送りたくない!と決意したのに、結局はセイラン公爵家という居心地の良い場所で自分を磨いていたつもりになっていただけで、そこから一歩でれば何も出来ない昔のままの私がそこにいた。




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