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お父様に婚活宣言をしてから、私はまた自分磨きを頑張ることにした。
自分の目標を口にしたせいか、妙な遣る気が出たというか達成しなければという変な使命感が生まれてしまった。
それに、恋愛方面の話を家族にすることが苦手だった私だけど、お父様に啖呵切ったおかげか一皮剥けた感じがするのだ。
これからは裏でこそこそしないで周りにも協力してもらおうと思う。
よって、誰に相談するのが一番良いかと考えた結果、私がまず選んだのは友達の令嬢たちだった。
「私、優しくて穏やかな方と結婚したいと思うのですけど、皆様は結婚についてはどうお考えですか?」
ある晴れた日、私はホルドアン公爵家のリリアナ様主催のお茶会に参加していた。
主催と言えば大袈裟だが、要するに友達同士で集まってお茶を楽しむのだ。
参加者は主催者のリリアナ様と私、そして、アレンシー侯爵家のローザリエ様、ロミネット侯爵家のシルビア様の4人だ。
この四人は皆同い年で、家も近いこともあり小さい頃から仲が良い、幼馴染み的な存在だ。
前世ではそんな存在微塵もいなかったから、今の私にとって、とてっも大切な人たちだ。
リリアナ様もローザリエ様もシルビア様も皆、優しくて可愛い私の自慢のお友達である。
「結婚……ですか?そうですわね。私もティフォンヌ様と同じで優しい方と結婚したいですわ」
おっとりとした口調で私の考えに同調してくれたのはリリアナ様。
リリアナ様はピンクブロンドに薄い紫色の瞳をしている。
あまり自己主張はしないけど、誰に対しても態度が変わらない心優しい人。
「私は燃えるような恋をたくさんしたいわ。だから、結婚は急がないわ」
自分の考えをしっかりと述べるローザリエ様はストロベリーブロンドに赤い瞳をしている。
容姿からも情熱的な雰囲気を醸したしているが、とても正義感の強い人。
「私は甲斐性のある人がいいですわ。男の価値は身分や顔ではなく甲斐性です。人生なにがあるか分かりません。いざという時に頼りにならない男は御免ですわ」
現実的意見をしたのはシルビア様。
プラチナブロンドに青い瞳をしていて、儚いイメージの容姿なのにかなりの現実主義者だ。
皆、それぞれに美しく、まだ、13歳なので幼さの方が勝るが、後、2、3年もすれば光彩奪目という言葉がぴったりな美少女になると断言できる。
妹のミルティアにも引けを取らない美しさだ。
漫画には登場しない美少女が4人も私の周りにいると、誰が王太子妃になってもおかしくないとも思う。でも、こんなに綺麗で品行方正な悪役令嬢が相手だとリディア様は苦労するだろうな。
漫画だったら顔とスタイルは良かったけど野心と独占欲剥き出しのティフォンヌ(私)が悪役令嬢だったから楽勝だったけど……うーん、この世界のリディア様はどうするんだろう?
それとも、悪役令嬢無しで二人の恋は進むのかなあ。
盛り上がりに欠けるかもしれないけど、やっぱり友達や妹が悪役令嬢になるのはやっぱり嫌だなあ。だって最終的には王太子殿下に婚約を破棄されるんだもんね。
そんな悲しくて屈辱的な目に皆を合わせたくないよ。
でも、悪役令嬢に相応しい性格の持ち主――傲岸不遜な人物が殿下の婚約者になるのはそれはそれで殿下が気の毒だし、世の中上手くいかないものだ。
やっぱり一番平和なのは悪役令嬢なんて誕生しなくて、王太子殿下とリディア様が順調に愛を育んでくれるのが一番良いよね。
頑張れ!殿下、リディア様!
「ティフォンヌ様はずいぶん結婚に積極的ですけれど、先日のお茶会はいかがでした。理想の男性に出会えましたか?」
リリアナ様が私にお茶会の成果を訊ねてきた。
あの時のお茶会に参加していたのは私だけで3人はお茶会に参加していない。
高位のご令嬢たちなのでお声は掛かっていたのだが参加はしなかったそうだ。
シルビア様は「お茶会のような生ぬるい場では男の真価は見抜けない」と言って不参加。
ローザリエ様は参加する気満々だったのに、両親に必死で止められたそうだ。もしかしたら狩人の顔になっていたのかもしれない。
リリアナ様は行こうかなって思っていたらしいけど、二つ年下の男の幼馴染みに「行かないで!」と泣きつかれたそうで参加しなかったようだ。
不参加の理由を聞くと、リリアナ様はリア充の匂いがプンプンする。リリアナ様はその幼馴染みを弟みたいだと言っているけど、その子はリリアナ様を姉として見ていないだろう。
11歳にしてシルビア様に悪い虫がつかないようにするとは、末恐ろしい……
「お茶会ではずっとお兄様と一緒でしたの。ですから、お兄様狙いのご令嬢たちにずっと囲まれていましたわ」
私はここでも、王太子殿下のことは話題にしなかった。
「王太子殿下と少しお話できましたの。とても気さくで紳士的な方でしたわ」と話してもいいけど、もし、それが自慢話として捉えられて嫌われたらって思うと恐くて言えない。
前世でも同性の前で少しでも自慢と取れる話をすると場が白けた。
テストの点が良かったとか、おもちゃを買ってもらえたとか、先生に褒められたとか、他の子が言うと「すごーい」「いいなー」とか場が盛り上がるのに、私が言うと場がシーンとなる。
「何それ、自慢」みたいな。あれは結構辛いものがある。
もう、あんな空気は味わいたくないので、少しでも自慢話と思われる話は封印する。
なのに――
「あら、私はティフォンヌ様と王太子殿下が庭の奥で仲良さげに話をしていたと聞いたわよ」
「そうそう。殿下がティフォンヌ様のことをとても気に入ったと」
ローザリエ様とシルビア様がさらっとお茶会のことが噂になっていると言ってきた。
リリアナ様は知らなかったようで、二人の話を聞いて「まあ、素敵!」と喜んでいる。
王太子殿下と噂になっていることは複雑だけど、こうして友達と自然に恋バナができることが私には嬉しかった。