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よろしくお願いします。

私の前世を一言で表すと「無」だったように思える。


年齢=彼氏ない歴の私は37歳の時、交通事故で死んだ。

仕事帰りに横断歩道を渡っていたら信号無視した車にひかれたのだ。


無念……と思いきやそれほど内容の濃い人生でもなかった。


両親より先に、とか、素敵な彼氏がいたのに、とか、結婚したばかりなのに、とか、まだ子供が小さいのに、とか、37年間も生きてきてそんな人様から惜しまれる事なんて何一つなかった。


親もとっくに亡くなってるし、彼氏もいないし、結婚なんて夢のまた夢だし、子供なんて私にしたら異次元の生き物だ。


こんな私だから、この世に思い残す未練なんてひとつもない……って、死ぬ前までは思ってた。


親もない、彼氏もない、友達もない、金もない、明るい未来もない。待っているのは孤独死だけ。

そう割り切っていた私だって本音を言えばもっと幸せになりたかった。

大好きな人と結婚して、子供を産んで幸せな家庭を作りたかった。


ああ、神様。

もし、神様が本当にいるならどうかもう一度私にチャンスをください。

可愛くてスタイルもよくて、あと家がお金持ちなら尚良いです。

そして今度こそ幸せな人生を私に……


遠ざかる意識の中で、私は一度も見たことのない神様に図々しいお願いをしながら意識を手放した。









ああ、神様。

私ごときの願いを叶えてくださってありがとうございます。

可愛くてスタイルもよくて、お金持ちの家に生まれて、こんなに嬉しいことはありません。


ああ、神様。

けど、けど……ひとつだけ不満があります。

もちろん、贅沢を言うつもりはありませんし不満を言うなんて駄目だって分かっているんです。

でも、でも……やっぱりどうしても納得がいかないんです。


可愛くてスタイルもよくて、お金持ちの家に生まれたのに、なのに!神様、どうして私……悪役令嬢に生まれ変わってるんですかーーー!?!?









神様は意地悪だと思う。

死ぬ間際の私の願いは全て叶えてくれたけど、まさか漫画の世界に生まれ変わるなんて思ってもないし、ましてや悪役令嬢になんて……神様、絶対私のこと嫌いなんだ……


なんてことを10歳の時に前世の記憶を思い出してから、ずっとメソメソ考えていました。はい、不毛です。


でも、いつまでもメソメソしていられないし、とりあえず私が今いる世界についての説明をします。


私が生まれ変わった世界は前世で私が愛読していた『子爵令嬢の恋愛事情』という漫画の世界。

あらすじはというと、子爵令嬢のリディア・ロシェドが社交界デビューの夜会で高貴な貴公子と恋に落ちる。その相手はラングリド王国の王太子アルフィス・ラングリド。恋に落ちた二人は惹かれ合いながらも身分違いの恋だと諦めようとする。しかし、諦めようとすればするほど二人の恋は燃え上がる。しかも、王太子には公爵令嬢のティフォンヌ・セイランという婚約者がいた。二人の関係に気付いたティフォンヌは王太子を取られまいとリディアを苛めぬくも、王太子はリディアに『必ず正妃として迎える』とプロポーズして……と、私が読んだのはそこまで。


その続きは死んでしまったから分からないのだ。


プロポーズのシーンを見たときは、ウッホーついに、ついに言っちゃった!って、キャッキャッ言いながら読んでたのに、まさか私が二人の恋路を邪魔する悪役令嬢に生まれ変わるなんてその時は思いもよらなかった……


どうするのよ私?

どうしたらいいのよ私?


確か、ティフォンヌが王太子殿下と知り合ったのは13歳の時。そして、その一年後に婚約の打診があり、さらに、その一年後に正式に婚約者になる。


今は12歳だから、私は後一年で振られ女の人生を歩むことになるのだ……


後一年――


一年間で私は自分の危機的転換期を迎え、その危機に備えて対策・方針を決めなければならないのだけど……ダメだ。ありきたりの対策――王太子殿下に嫌われて、婚約回避とかそれぐらいしか思い浮かばない。


だって、外国に逃亡するとか、女一人で逞しく生きていくとか、この世界ではちょっと無理がありすぎる。

王太子以外の男性と恋をするっていうのも現実的ではない。国で二番目に偉い男性に「貴方よりも好きな人がいるんです!」なんて宣言した日には両親から抹殺されそう……


よって『候補』の段階で嫌われて、婚約者に選ばれないというのが理想的ではあるが、それは果たして可能なのだろうか?


王太子妃候補の中では私が一番条件が良かったと思う。

実家は公爵家でお父様は宰相、お母様は侯爵家出身。お兄様は王太子殿下と同い年で側近候補だ。いずれはお父様の跡を継ぎ、宰相になると言われている。


が、漫画ではお父様は宰相という立場を利用して横領を行い、お兄様はボンクラという設定なのだ。

読者の予想では最後にセイラン公爵の横領がばれて、兄は王太子殿下の不興を買い、公爵家は没落するだろうと言われていた。その流れでティフォンヌも婚約を解消されるだろうと。


しかし、実際はその辺の設定が漫画と少し違うのだ。

お父様は勤厳実直な人柄だし、お兄様も有智高才という言葉がぴったりだ。そして、ここが重要。二人ともかなり美丈夫なのだ。

見とれてしまうほど美しいのだ。


金髪碧眼という王子様必須の容姿に長い手足。贅肉など少しもついていない完璧なスタイル。

頭の先から足の先まで欠点のない二人。

そして、お母様もとても美しいし優しく、銀髪碧眼という女神様のような容姿だ。


漫画のセイラン公爵はチビデブの中年で、公爵夫人も高慢知己な女性だったのに……


他にも漫画の設定と違うところがある。


漫画ではティフォンヌの兄弟は兄だけだったけど、この世界は妹と弟もいる。

妹は一つ年下で、弟は7つ年下。

妹はお母様似で、弟はお父様似。二人ともすごく可愛い。


えっ、私は?


そう。ここも重要なのです。

私は残念なことにお父様似でもお母様似でもない。


周りからはおばあ様によく似てますねって言われてます。


黒髪黒目のどちらと言えば平凡顔だった前セイラン公爵夫人だったおばあ様に。

ここだけは漫画と同じ設定にしてほしかったと悔しく思うところです。


漫画のティフォンヌはさすがヒロインのライバルだけあって、とても綺麗な令嬢だったのに、この世界のティフォンヌの容姿はかなり平凡な造りになっている。

黒髪黒目なのもあまりいただけない。

せめて、髪と瞳ぐらいは両親に似てほしかったと思う。


まあ、こんな感じで漫画の設定との相違点は多々あるものの、そこを踏まえながら私なりに悪役令嬢の悲惨になるであろう行く末を回避すべく対策を練ろうと思います。





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