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没落の貴公子  作者: 南清璽
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刑事に告げる。この次第を。

あえて玄関前の通りに自動車を止めなかった。そのまま路地へと入っていった。何分入り組んでいて都合よかった。もし、田辺が俺を追おうとしても見失い諦めるだろうし。だが、平野の算段はこうだった。その場で警察署に通報に行くように勧める。そして、何気に俺の行先が大宮の事務所ではと田辺に告げる。そうすれば気が動転しているからきっと警察共々そこに顕れるというのだ。だったら急がないと。あそこを抜ければ別の通りだ。そこで待ってもらっていた自動車の後部座席に飛び乗った。

「申し訳ない。随分待たせたな。チップ弾まさせてもらうよ。」

「もう大分と戴いてますぜ。」

だが、こういうやりとりに時間を割く訳にはいかない。すぐに発進するよう願った。そうして程なく大宮の、それから俺が働いている事務所のビル着いた。

「お釣りはとっといてくれたまへ。」

「いいのかいこんなにたくさん?」

「ほんの気持ちだ。さあ遠慮せずに。」

運転手は降りて座席のドアを開けようとしてくれたが、「いいよ、急ぐから」と告げ、自分でドアを開け降りたった。事務所には大宮のほか、中崎と頼子さんがいた。俺は中崎に田辺から奪った手形の入った風呂敷包みを見せた。

「間違いありません。渡した手形、全部ありました。」

そして、手はずの通りそれらを大宮に渡した。

「祝着だ。」大宮はそう告げるとそのまま金庫に仕舞った。

こうなれば後は田辺のお出ましを待つばかりだ。やがてドアにノックの音が。

「大宮さん、警察ですが。」

大宮はドアを開け、彼らを迎え入れた。田辺の外に刑事と巡査がいた。刑事は巡査の威厳ぶった制服と裏腹に灰色の背広姿だった。見るからに怜悧で如何にも経済犯罪を扱っているという様相なのだ。

「あの男です。」そう、田辺を俺を指差した。

「少しこちらの話を聞いてもらえますか?」

大宮は、警察の二人に語りかけた。

「いいですか、この男が田辺さんから持ち去った手形は、元々は今此処にいる中崎さんが振り出したものです。その経緯は、田辺さんから株式並びに暖簾を譲り受けた際、不足した代金の代わりにご令嬢である頼子さんを差し出す様に求められ、その担保として預けたのです。そうですよね、中崎さん。」

「はい、此処にいる頼子を差し出すまで預かっておくということで渡しました。」

「刑事さん、これって公序良俗に反しますよね。」

大宮のその問いに対し、「事実ならそうでしょう」と刑事は答えた。

大宮は更に続けた。

「だとすれば、此処にいる谷もそれが違法な手形であると認識で持ち去ったもので不法領得の意思がないことになりませんか。如何です?だったら谷を今逮捕せず身柄をこのままにして事情を訊かれてもいいんじゃないですか?」

「ところでその手形は?」

刑事に訊かれ大宮は、「あそこです。」と指差し、「持っていくのならちゃんと令状で差押えして下さらんと。もう容疑者の占有下にはありませんので。」と刑事に告げた。

「そういう事情であれば、今日のところは逮捕を控え、上司の裁可を待つことにしましょう。谷さんとやら。失礼ですが貴方はかの谷社長の御子息であらして。」

「ええ。」

「御尊父にはいろといろと地域のことではお世話になりましたもので。」

俺は感激した。父は何かと奉仕を行っていたのは事実だ。それを覚えていてくれたとは。ただ、田辺が。見れば憮然としていた。それでいて俺の身柄が逮捕されない不平をぶちまける訳でもなく、二人に促されると共にこを退散した。やがて彼らの足音が聞こえなくなった。俺はそれを見計らい中崎に告げた。

「頼子さんを連れ出すがいいか?」

実は、まだ決着し終えていない事柄があった。

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