城下町サイヴァッタ
道中喧嘩などをしながら、最初の目的地であるサイヴァッタにようやく到着しました。
そんなこんなドタバタを繰り返し、ゲイエスたちはようやくサイヴァッタの城下町に入った。
さすが城下といったところだろうか。行き交う人々の数が違うし、あちこちに店も出ていて活気にあふれている。
そこで見る日常は、まるで魔王との戦いなど起きていないかのようだ。
ふと見上げると、城の入り口前の広場には、この国のかつての英雄ホリィ・ベヤスビィの像がたっている。
「駄目ですからね、ユベーシ様…!」
「ミルフィ?」
「ベヤスビィ団子食べるって駄々こねてるのよ…!絶対許さないから…ただでさえ、今朝はめおと饅頭に、スミョシでは棒状黒糖蒸しパン食べてるんだから…これ以上食べるわけにはいかないんだから…!」
象の下にあるベヤスビィ団子というのぼりのある茶屋のまえで、ミルフィは必死にユベーシと戦っていた。
「あー、もしかしたら、城の中にはもっと美味しいものがあるかもしれないキンよ」
「なんと、それはまことか!」
「市役所も兼ねているここの食堂は一般にも開放されているキン」
キンちゃんの言葉に、ミルフィの意識をあっという間に乗っ取ったユベーシはウキウキとついてくる。
なんでそんなことまで知っているんだとあきれるが、あそこではミルフィがパントマイム状態になって注目の的になりかけていたので正直助かった。
「ミルフィちゃんはどうしたの?」
キャラ違くない?と首をかしげるハレイに、キンちゃんはため息をついた。
「いま彼女には女神ユベーシが入っているキン」
「へぇ、憑座なのか。面白い子だな」
ハレイは興味津々という感じでミルフィを眺める。
「おい、変な気は起こすなよ」
ハレイの言葉にヴォールが牽制のように忠告する。
「は?お前と一緒にするなよ」
「どういう意味だ」
「お前さっき治癒術してもらってるとき、鼻の下伸ばしてただろ」
「伸ばしてねーよ、ふざけんな」
「ちょ、けんかはやめてください」
慌ててゲイエスはまた不穏な空気になりかけて、メンチを切り合う二人の間に割って入る。すぐ何かとけんか腰になるのは本当に困る。止めなければ本気の闘いになりかねない。
二大ギルドのトップクラスの戦闘力の二人が戦ったら、町は壊滅するだろう。
「大丈夫じゃ。お主らは喧嘩なぞせぬわな?」
「ええ」
「もちろん」
「ほらの。心配無用じゃ、ゲイエス」
ユベーシの問いに、にらみ合いながらも答える二人からは不穏な気配しか感じられない。
殺気だつものをを背後から感じつつ、城門前の兵士に声をかける。
城の解放されている入り口は西門と東門があり、市役所を兼ねている東門が一般の通用口になっているのだ。
「すみません、王宮神官様にとりついでもらえますか?」
「あ、あの、もしやあなたはゲイエス・タサイバ様ですか?」
名乗る前に門番から尋ねられ、キンちゃんと顔を見合わせる。もう石戸神社の神官から連絡が行ったのだろうか。
「あ、はい。そうです。あの石戸神社の神官様からこれ…」
「あぁ、よかった、さ、早くこちらへ」
手紙も受け取らず、門番はゲイエスを押して城の中に入る。
その中では、事務服に身を包んだ一人の中年男性が汗を拭きながらせわしなくあちこち歩いていた。
彼の決して多くはない髪の毛は、汗の湿気で膨らんでいる。
「ダーミア様、ゲイエス・タサイバ様ご到着にございます」
門番が声をかけると、汗を異様なほどかいたダーミアは弾かれたように顔を上げ、ものすごい速さでゲイエスの元へやってきた。
もう少しでうっかりキスをしてしまいそうなくらいに勢いづいて近くに来たので、唇を手でガードして思わず後退りした。
「ああ、よかった、助かった!お疲れのところ申し訳ありませんが、こちらへ、さ、早く」
「あの、手紙…」
「なんだか慌しいキンね…」
ダーミアに腕を引かれ、手紙を持ったまま小走りに城の中を進んでいく。
初めて見る城の内部だが、全く堪能する暇などない。
「これ、そなたら、待ちや!」
ユベーシとギルドの二人組も慌てて置いていかれまいと走る。見失えば城の中で迷子になってしまう。
いい歳した大人たちが迷子センターにいるのを考えるととても笑える。
「ここです」
連れてこられたのは大きな扉の前だった。
「あの子に何かあったら、私、許しませんからね!!」
「奥さん、とにかく落ち着いてください」
分厚い扉の向こうからでさえも通り抜けてくる大声が聞こえてきた、聞き覚えのあるその声に、ゲイエスは冷や汗が背を伝い落ちるのを感じた。
「どうしたキン?ゲイエス?」
キンちゃんの問いに答えず、唾をごくりと飲み込む。
扉の向こうにいるのは間違いない。ゲイエスの母親だ。
扉の向こうにいたのはなぜかゲイエスの母親でした。何のために来たのでしょうか。
次回はお城で四者面談(外野あり)です。
ホリイ・ベヤスビィは、名前で誰かわかる人がいたら嬉しいです。




