旅は道連れなんとやら
出発しようとしたゲイエスですが、引き止められます。
「ごめんごめん、もうしないよ」
「ほんとキンか?約束キンよ!」
間近に寄ってくるキンちゃんを手で覆い、後手に持った目打ちを座布団の下に隠した。
「じゃあ、ほんとに俺、今からサイヴァッタ城に行っていいんですね?」
「あぁ、行きなせ。頼んだわ」
キンちゃんはまだゲイエスを疑っているが、目打ちはもうないよ、と仕草で示すとようやく納得したようだった。
「ゲイエス、おまたせ、学校行こう!」
そこへミルフィがやってきた。すでに巫女服から制服に着替えている。髪型はいつものツインテールだ。
「すまん、これからサイヴァット城に行くことになったんだわ。学校休むから、後でノートとか見せてくれよ」
そう言って立ち上がろうとしたら、ミルフィに引き止められ、強引に再び座らせられる。ふかふかの座布団じゃなかったら、尻を痛めているところだ。
「あ、あたしも一緒に行く!」
「何でだよ」
「なーして」
「何でだキン?」
隣に座ったミルフィの言葉に全員が同じことを思って聞き返した。
「何でみんなそういうこというの?!ひどい!」
「いや、ひどくないだろ。お前は学校行けよ」
そう言いながらふくれっ面のミルフィに、落着け、と饅頭の入った皿を勧めたが、ダイエット中だから、と断られた。
「だっていま街道に魔物が出るでしょう?あたし治癒術つかえるし、きっと役に立てると思うよ」
「だーめだ。遊びじゃねんらて」
「魔王を倒しに行くんだキン。危険だキン」
珍しくキンちゃんも真面目に心配している。自分のことも少しは心配してくれてもいいんじゃないか?とゲイエスは少し不満に思った。
「ていうか、魔王倒すのやるなんて一言もいってない…」
部活で剣道をやってはいるが、魔王に通用するのかなんてわからない。
「世界の危機だけに、おめさんには選ぶ権利なんてねーんだて」
「ええー…」
自分に拒否する権利はないと言われ、がくりと肩を落とした。
「大体そんが危険なとこにミルフィな連れてけねーがね」
諦めなせ、とミルフィに神官がいうが…。そんな危険なところに自分は送り込まれるのか、と呆然とした。
「否、ミルフィも行くべきである」
「ミルフィ?」
「違う、ミルフィじゃねーわね」
神官の言葉によく見ると、瞳の色が金色になり、瞳孔は獣のそれのように縦に細長くなっている。
ミルフィに入っている何かはゲイエスをゆっくりと、まじまじと眺め、それからキンちゃんに視線を移した。
「そなた、何やら面妖なものを連れておるのお」
「…何者だキン」
キンちゃんが珍しく緊張した声で、警戒心を露わにする。
ミルフィに入っているものはふふ、と妖艶な笑みを浮かべてババサ饅頭を一口食べた。
ミルフィは ダイエット中だって言っていたのに、やはりミルフィではないのか、と妙に納得してしまった。
「ん、美味じゃ。わらわはこの神社の神ユベーシぞ。そこな金魚、そなたは誰の使いぞ?」
「キンちゃんは金魚神さまの使いキン」
「そのような神、はて、おったかのう…?」
ババサ饅頭を全て平らげ、神官が入れたお茶をすする。
「金魚神さまを知らないなんて、モグリだキン」
「わらわをもぐり、とな?ふふ、おもしろい。無礼で度胸のある金魚だの」
キンちゃんの言葉をふっと笑い飛ばし、神官の方を向く。
「世界の危機なのであろ?わらわも一肌脱ごうぞ」
「ユベース様、それは…」
なまっている神官は、ユベーシの事をユベースのいっている。
ユベーシ自身は何も言わないので気にしていないのだろう。
「神様がいなくなったら神社はどうなるキン」
戸惑う神官とキンちゃんに、ユベーシはゆっくりと首を振った。
「狐らがおるゆえ、心配無用じゃ」
そうしてちらりと鳥居そばの狐の像を見遣る。
「ふふふ、サイヴァッタ城下町のベヤスビィ団子に、ゴジューコーノの菖蒲最中…楽しみじゃ」
「あのー、キンちゃんたちは魔王を倒しに行くんだキンよ?」
こんどはズズサ饅頭を食べながら指折り各地の銘菓を呟き始めた。
神のくせに行儀が悪いユベーシに「わかっているキンか?」と念を押す。
「わかっておる。わらわを誰だと思うておる。さて、ここからサイヴァッタに行くにはスミョシを通るのか。あそこは蒸気で蒸した黒糖蒸しパンが美味らしいの。しかも、三百サイーヴで九本も入っておるとか」
楽しみじゃ、といってユベーシはニコニコと茶をすする。まるで旅行を楽しみにする年寄りのようだ。
「え、これって結局ユベーシ様もくることになったってことですか?」
「んだな」
神官は複雑な表情で頷いた。
「ユベーシ様だけがついて来ればいいのにキン。取り付くならゲイエスもいるキン」
「わらわは、めのこぞ?おのこに入るなど、考えたくもないわ。おぞましいことをもうすな」
キンちゃんの言葉に自分を抱きしめるようにしていう。
そんなに嫌がらなくても、とゲイエスはすこし傷ついた。
「こうなったらユベース様はミルフィを憑座にしてるすけ、ミルフィも連れて行かねばねーこてね」
「どっちも連れて行きたくないんですが…」
「もう決まったことじゃ。諦めるが良い、ゲイエスとやら」
ふふ、と笑みを浮かべた、と思ったら、いきなりがくりとうなだれた。
「お帰りになられたようだな…」
神官の言葉にミルフィが上体を起こした。その手には食べかけのズズサ饅頭が握られている。
「うう、体が痛い…って、やだ、なんであたしお饅頭たべてるの?!あ、またユベーシ様ね…!信じられない!」
ダイエット中って言ったのに、という悲惨なミルフィの叫びが、社務所兼自宅の居間にひびいた。
ユベーシの名前は柚餅子からとりました、
別に名産品でもありませんが、食べたいな!とおもっていたので
ミルフィは考えてる時に白菜と豚バラのミルフィユ鍋をつくっていたので、目に入った値札からおもいつきました。
黒糖蒸しパンは、地元では蒸気パン、新潟市ではぽっぽ焼きと呼ばれているものをモデルにしています。
ミルフィとユベーシいなくても物語は成立しますが、花が欲しかったので…いれました。




