おさななじみ
キンちゃんが夢オチでなかったことにびっくりして家を飛び出したゲイエスが向かったのはどこでしょう?
ゲイエスが向かったのは、近所の石戸神社だ。
小さな神社だが、小さな頃から遊び場にしていた馴染みの場所でもある。
昔は古ぼけた公会堂と遊具があったのだが、いまは真新しいコミュニティセンターが建ち、遊具があった場所は更地になってしまっている。
石造りの鳥居をくぐった先にある狛犬代わりの二体の狐が並んでいるそこでは、巫女服に身を包んだ幼馴染のミルフィ・ユバラが箒で参道の掃除をしていた。
彼女はこの神社を管理する家の一人娘で、朝のお勤めをしているのだろう。
普段はツインテールにしている髪を、いまは下の方でひとまとめにしてしばっている。
学校の男子たちのあこがれの的にもなっている幼馴染は可愛い方だと思うが、やっぱりセシリアの方が可愛い、と彼女とあうたびにいつも思い知らされる。
アイドルのセシリアはだれよりも可愛いのだ。
「ゲイエス!こんな早くからどうしたの?まだ、学校に行くには早いよ?」
ゲイエスの姿を見つけたミルフィは、すぐに駆け寄ってきた。
やっぱりセシリアの方が可愛い。
「あ、あぁ、ちょっと神官様に話があって…」
「おじじ様に?もしかして、あたしをくださいってお願いしに来てくれたの〜!?」
「何でだよ」
別に付き合ってもいないのに。それに、ゲイエスにはセシリアという大切な人がいる。
ゲイエスは密かに胸ポケットに入れてある生徒手帳にはさめたセシリアのブロマイド写真に制服の上から手を当て、心の中で語りかけた。
(セシリアちゃん、俺の気持ちは君のものだよ)
「あ、お願いするならお父様にか!テヘッ間違えちゃった」
舌を出して頭をコツン、と自分で叩く。そうじゃない、と脱力してつぶやく。
(セシリアちゃん、誤解しないでくれ…)
「ぶりっ子キン。初めて見たキン!」
そんなミルフィを見てキンちゃんがまるで天然記念物を見たときのように感心して言った。
「え、なぁに、この金魚台輪」
「お前にも見えるのか?」
自分にしか見えていないと思っていたが、誰にでも見えるものらしい。
「懐かしいね!昔は一緒に引っ張ったよね」
「あぁ…」
「そして未来には私たちの子供が引いているのよね…目に浮かぶようだわ」
ゲイエスの腕に抱きつきながらうっとりと言う。
(セシリアちゃん、あぁ妬かないでくれ、これは不可抗力なんだ…)
ゲイエスの頭の中では、嫉妬したセシリアがプンプンしている。
(でも嫉妬してくれている君も可愛いね)
そして想像の中のセシリアの怒り顔に鼻の下を伸ばす。セシリアは何をしても魅力的なのだ。
「カオスだキン…」
その様子を見て、キンちゃんは呆然とつぶやいた。
「これミルフィ、何してらってがね、みったぐない。神に仕える身だってがに」
咎める声に、ミルフィはムッとして声の方を向いた。
そこに居たのは、この神社の神官であるミルフィの祖父だった。
「えー、お仕えしてるのはおじじ様だもん。あたしはただお手伝いしているだけよ」
ミルフィはゲイエスに腕を絡ませたままツン、とそっぽを向いて祖父に言う。
「手伝いだかね。ならバイト代払わねでもいいな」
「えー!」
「えーじゃねーわね。嫌だったらはよ掃除しなせ。学校行かれなくなるこてや」
「ぶー…」
祖父の言葉にミルフィは唇を尖らせてまた参道の掃除を再開した。
「ったく…」
「神官様…あの!」
「何じゃ、ゲイエスか…なっ、それは…!」
ゲイエスが何かを言う前に、その傍らに浮かぶキンちゃんを見て神官の顔が変わった。
「とにかく詳しく話を聞きたいすけ、まーず、家に上がりなせ」
神官に促されゲイエスとキンちゃんは顔を見合わせる。
「あ、あたしも行く!」
「おめさんは掃除が先だこて!」
ほうきを置いて一緒に来ようとした孫娘を一喝し、三人は連れ立って奥にある神官の社務所兼自宅に上がった。
「ぶーー…おじじさまのケチ〜」
残されたミルフィは、ほおを膨らせなからも、神官に言われた通り、ほうきをさかさかと振って掃除を再開した。
神官のセリフは新潟弁です
祖父母が入っていた言葉をつかいました。
下越地方の海の方と、中越地方の海の
言葉です。




