緊急脱出
おやおや?墓の中のようすが…??
ナガハルが消え、宝刀亜弥瑪だけがゲイエスの手元に残った。
激しい戦いを終えた墓室の中は、途端に静けさが漂う。
ゲイエスは飾られているナガハルの肖像画を見上げた。実際に見たナガハルとは本当に全く違う。
肖像画の荒々しい姿とは全く正反対の柔和な青年だった。いつか、彼の本当の姿を伝えられたら…などと思うのは、やはり自分がナガハルの子孫たる所以だろうか。
「これでここでの目的は達成されたわけだけど…キンちゃんは一体どこにいるんだろ…」
ナガハルの墓所をあとにして、辺りを見回す。
「キンちゃーーーん?!」
呼びかけても反射した声が返ってくるだけで、あの男の裏声のような声をした金魚台輪は現れない。
その時だった。突然地響きがし始めた。何事か、と辺りを見回すと、アナウンスが流れてきた。
「ナガハルの墓所を閉鎖します」
抑揚のない女性の声で繰り返される。
「閉鎖だと?!どういうことだ!」
「今はそのようなことはよい。早う出ねば!」
苛立つように言うヴォールをユベーシがたしなめる。
「みなさん、こちらへ!」
タツミが入り口に向かって駆け出し、ゲイエスたちも後につづいた。
「もしかしたら、管理人かもしれません…!」
道を知っているタツミが先頭を走りながら言う。
重い鎧を着て 走りながら息を切らせず話すのはさすがと感心した。自分なんかは大した重さの装備でもないのに
もう息が上がっている。
「管理人!?」
ナガハルの墓は国で管理されているため、事務所を設置して管理しているらしい。
「はい。ナガハルの墓地に入ることは王宮神官から連絡が入っているはずですが…おかしいですね」
赤地に金色のアヤメの国章が記された、翻るマントを必死で追う。
多分タツミはなるべくゆっくり走ってくれているのだろうが、それでも追いつくのがやっとだ。
「早く出ないと、中からは開けられないので、閉じ込められてしまいます!」
「そうだキン!急ぐキン!」
聞き覚えのある男の裏声と特徴的な語尾に隣を見ると、いつの間にかキンちゃんが浮いて居た。
「キンちゃん!どこに行ってたの!!」
走りながらたずねると、キンちゃんも息を切らせながら答えた。
「キンちゃんにも、わからないキン!逃げていたら、ここにいたんだキン」
ずっとパニックを起こしてあちこちを飛んでいたのか。
でも、無事に合流できてよかった、とゲイエスはホッとした。
「キンちゃん、ほら」
「亜弥瑪キンね!手に入れられてよかったキン。頑張ったキンね」
持っていた宝刀亜弥瑪を見せると満足そうに頷いた。
「でも今は脱出が先だキン。出たらそれはキンちゃんが預かるキン」
「あぁ」
亜弥瑪の刀身は瑪瑙の石であり、攻撃力は低い。壊すのも怖いので、素直に頷いた。
「待ってください!閉めないで…!」
前方に光が見えたが、その光は段々と細くなっていく。タツミは絶叫するように言ったかと思うと、さらにスピードを上げて光の方へ向かって行った。
タツミが入り口に辿りついたようで、閉鎖を告げるアナウンスも止まり、扉も人一人が通られるくらいの隙間を開けて止まっていた。
追いついたゲイエスたちは外に出て、地面に転がり、全力疾走の後、荒い息を吐く。
墓所から出てきた大人数に、事務服を羽織っている管理人とみられる中年の男性は驚いた顔をしていたが、やがて怒りのためかわなわなと体を震わせた。
「こら!こんがとこでおめさんがた何してらってがね!ここは立入禁止だこてや!!」
「いえ、実は…」
唾を飛ばしながら怒鳴る管理人に、タツミが事情を話そうとしたが。
「まーずおめさん、そんが騎士みってな格好して!ごっこ遊びなら他所でやりなせ!」
「ご…っ!っ、私は…!」
全く聞く耳を持たずにそっぽを向き、手を振る管理人に、タツミはショックを受けて顔を強張らせた。
「あーもぉいーこていーこて、とりあえずおめさんがた、事務所まで来なせ」
「だから、私は騎士団の…!」
騎士章を取り出し追いすがるが、管理人は土産物店で見たことがある、と取り合わない。
憮然とした表情のタツミから怒りのオーラを感じ、ゲイエスはぞくりと背筋を震わせた。
穏やかな物腰の彼女が怒りの気配をまとっている。
「おい、待てよ、話くらい聞けよ、おっさん!」
「話すは事務所で聞くすけ、はよ来なせてば!」
ハレイの手を振り払い、それどころかその手を掴んでそのまま建物の中へと入ってしまった。
「おい、離せ!」
開いた扉の向こう、廊下からはハレイの声が響いてきている。
ハレイが連れ去られてしまい、ゲイエスたちも慌ててそのあとを追った。
キンちゃんとようやく合流です。
次話、誤解は解けるのでしょうか?




