宝刀(ほうとう)亜弥瑪(あやめ)
ナガハルとゲイエスの勝負にようやく決着がつきます。
ナガハルから何度も繰り出される烈しい突きと斬撃を辛うじて竹刀で受け流して躱していく。
一打一打が重く、だんだんと手がしびれてくる。
なんとか押し返さなければ、と柄を握る手に力を入れるが、受け流すのが精一杯だ。
「ほらほら、どうしたの?!」
低い位置からの突きを、竹刀を縦にして防ぎ、柄まで押し上げて鍔迫る。
「手がしびれてき出るでしょ?もう限界なんじゃない?」
諦めたら?とナガハルの目が言っている。
ゲイエスはその目を睨み返すと、柄を握る手に力を込めた。
それに気づいたナガハルもグイとさらに力を込めて押してくる。
負けるわけにはいかない。
この世界が魔王エリスに奪われたら、ライブにいけなくなるどころか、セシリアはライブができなくなるかもしれない。
彼女の愛らしい笑顔を見ることもできなくなるかもしれない。
「そんがこと…させねこってやー!!」
思わず方言がとびでてしまった。
だが世界の誰のためでもない。何より、セシリアのために。
ただそれだけのためにゲイエスはなんとしても宝刀亜弥瑪を手に入れるのだ。
ゲイエスは競り合っていた腕の力を抜き、受け流すと同時に身を低くした。
「何…っ!?」
急に押し合う力を失い、バランスを崩したナガハルが驚いたように目を見開いた。
そのまま身を反転させ、素早く後ろに回り込むとナガハルの頭上に竹刀を振り上げた。
「てぇええい!」
そして、渾身の力を込めて振り下ろす。
狙い通り、竹刀はナガハルの頭頂に当たった。
「もー、幽体だからって痛くないと思わないでよ…?」
竹刀をうけた頭をさすりながら、ナガハルが唇を尖らせた。
「す、すみません」
竹刀の感触から、普通の人間と同じように当たったのがわかったが、全て後の祭りだ。
「だが、さすが我が子孫だ。なかなかやるなぁ。うん、しかたないけど、約束通り亜弥瑪は貸してあげるよ。でも貸すだけだからね。あとでちゃんと返してね」
ナガハルは満足そうに言うと、念を押しながら骨壷の隣に飾ってあった亜弥瑪を差し出してきた。
ずっしりと冷たく、重たいその刀をどう扱っていいのかわからず、それを持ったまま、ゲイエスはあたふたと周囲を見渡した。
「鞘から抜いてみてくれないか?どんな刀か見てみたい」
寄ってきたハレイに促され、亜弥瑪を鞘から抜き払う。
しかし出てきた刀身は赤茶色をしていて、だがそれより何よりも驚いたのは。
「刃がない…これは、石か?」
ハレイのつぶやきにまじまじと刀身を見つめる。刀身は鋼でもなく、ものを切れそうにも見えない。
「なんだこれは。刀じゃないのか?」
首をかしげるヴォールに、ゲイエスはナガハルを振り返った。
「亜弥瑪は瑪瑙という石でできた宝刀さ。強い魔払いの力があるんだ」
だから装飾品としての価値は高いが、武器としては全く使い物にならないらしい。魔王を倒す魔払いの力はありそうだが、普段の魔物との戦闘にはむかないようだ。
「いいかい?この刀に何かしたら、祟るからね?」
おどろおどろしく両手を幽霊のように垂らしていうナガハルに、ゲイエスはこくこくと水差し鳥のようにうなずいた。
何か強い力が加われば、すぐに折れてしまいそうにも見えて、ゲイエスはぶるりと震えた。
「幽霊が幽霊の仕草とは、滑稽だな」
口に手を当て、ユベーシがつぶやいた。
「じゃあ、私はそろそろ寝ようかな」
まるで軽く昼寝をするような言い方で伸びをして、自身の骨壷を振り返った。
「え?もう?」
一応ゲイエスの先祖でもあり、剣の打ち合いをしたことで親近感を強く持ち始めていたので名残惜しくて尋ねると、ナガハルにはいたずらっぽく笑って片目を閉じた。
「ついて行ってあげてもいいけどね」
「いや…それはちょっと…」
幽霊と旅をする度胸は残念ながらもっていない。
「ふふ、冗談だよ。それに、この姿じゃここから長い時間出られないからね」
少し残念そうに肩をすくめていう。
「じゃあね。亜弥瑪を絶対返してね!!約束だからね」
「待ってください、あの…」
骨壷に帰ろうとしたナガハルを呼び止めたのはタツミだった。
「タツミちゃん、私が伝承にあるナガハル像とかけ離れてて驚いているね?」
言わんとしていたことを言い当てられ、タツミは一瞬目を見開いて驚いたようであったが、素直に頷き、肯定した。
「ナガハルといえば悪政で民を苦しめた…って伝わっているからね。そのイメージだとほら、こんな肖像画みたいになるよね」
おかしいの、と笑いながら飾られている自分の肖像画を指差した。
それは目の前のナガハルとはかけ離れた顔貌で、血走った目を見開き、髪とひげは逆立っていて、まるで鬼のようなものだ。
「これも強そうでなかなか気に入っているよ」
「そうではなく…」
ナガハルは明らかにわざと話をはぐらかそうとしている。タツミが聞きたいのはそんなことではなく、もっと重要なことだ。
ナガハルは苦笑を浮かべると、小さく息を吐いて首を振った。
「歴史というのはね、伝わっているものが全てではないこともあるんだよ。例えばこの絵のようにね。全然別人。でもそれは今、私が君たちに伝えるべきことではないし、伝える必要のないことだ。だからタツミちゃんは自分が見て感じたままに受け止めればいいんだよ。今の私から言えるのはそれくらいだよ」
「……そう、ですか…」
「うん、そう、だよ」
にっこりというが、まだ納得しきれていないようでタツミは顎に手を当てたまま考え事を始めたように俯いている。
「それじゃあ、ね。私はここから無事、魔王を倒せるよう祈っているよ」
そう言ってナガハルは光の粒子となり、骨壷に吸い込まれるようにして消えた。
ゲイエスに方言しゃべらせてみました。方言を全くかけていないので…!
次の話あたりでキンちゃんと合流できたらいいなぁ。




