ゲイエスの理由
ナガハルとの勝負、果たしてどうなるか…!
何度か打ち合い、ゲイエスは結局一本も取れなかった。
「ねー、キミ、本当に剣の心得ある?」
何度目かの打ち合いの中、つばぜり合いながら、至近距離でナガハルはにこやかな顔をして聞いてくる。
幽体のくせに体重をかけて押してくる力は相当なのに、ナガハルの表情は爽やかで。竹刀に力なんてまるで入れていないかのようにみえる。
押し負けないよう、ゲイエスもまた、体重をかけて懸命に押し返す。
「君はなんのために亜弥瑪が欲しいの?」
「それは…っ、魔王を倒すため…っ」
王宮神官マツヤの話によれば、伝承の『ナガハルの願い聞き届け、アヤメの花開くとき』とは、ナガハルの宝刀、亜弥瑪を示しているのだという。伝承にあるとおりならば、亜弥瑪がなければ魔王を倒すことはできない。
「そう。でも本当はそんなことしたくないんじゃないの?めんどくさいって顔に書いてある」
笑いながら言われた言葉にどきりとして顔を上げると、ナガハルは笑顔を浮かべて間合いを取るため強く押し、離れた。
押してくる力が消え、バランスを崩して少しふらつきながらもゲイエスは中段に構え直し、体勢を整える。
「君、ソコソコの腕前だけどそれじゃ魔王は倒せないよ。これから先はゲームのようにやり直しなんてできない。命を落とすかもしれない。辞めるならいまのうちだよ」
ナガハルの言葉に、握る手に汗が滲みていく。死ぬかもしれない。という言葉に思わず唾を飲み込み、喉が音を立てた。
「確かに俺は魔王退治なんかやりたくないと思っていた。でも…守りたいものがあるんだ」
「へえ、守りたいもの?」
まっすぐに竹刀を構えていうと、面白そうだ、とナガハルもまた竹刀を構えたままで笑みを浮かべる。
「大切な人がいるこの世界を守りたいんだ」
そう、セシリアのために魔王を倒すと決めた。それに、学校の決まりで全員入部を義務付けられている部活動は、いつかセシリアの親衛隊になるためにと剣道部に入ったのだ。
この勝負だって、セシリアの姉であるタツミがみているのだ。かっこ悪いところなんてみせたくない。
タツミにいいところをみせられれは、彼女からセシリアに話題がいくかもしれない。
「ありきたりな理由だね。もっと他にないの?英雄になってちやほやされたい、とか」
「俺は魔王を倒してライヴにいくんだ!それ以外望むものはない!」
できればセシリアと握手やお話なんかもしたいが、心の中にとどめ、言わずにおいた。
「もう残り時間もないから、次で決着つけようか」
そう言って、ナガハルは身を低くし、竹刀を下段に構えた。
「秘技、菖蒲繚乱!」
そして一息に間合いを詰めると縦横無尽に竹刀を振るい、一打一打重い斬撃を浴びせてくる。
辛うじて剣先を読み、竹刀を辛くもかわしていく。
激しく竹刀がぶつかり合う音が墓室に響く。
「っく、負けて、たまるか…!」
そう、すべてはセシリアのライヴに行くためだ。
そしてあわよくば、セシリアちゃんと握手ができたらいい、とそう思っている。
ゲイエスのもくてきは、あくまでもライヴに行く、ことのようですわ、。




