打ち合い
ゲイエスはナガハルと剣の勝負をすることになりました。
ゲイエスはナガハルから防具も勧められたが、丁重に断った。
墓の管理人が手入れをしてくれているそうだが、やはり置いてある場所が場所だけに、使う気になれなかったのだ。
「準備はいいかい?」
頷き、位置につく。
「本当の試合っぽくはしなくていいよね。君の実力を見せて欲しいだけだし」
ゲイエスか大切な亜弥瑪を預けるに足るかを知りたい。
万が一亜弥瑪を失うことになれば浮かばれない、とナガハルが冗談めかしていうが、その目は笑っていない。
「私は審判などやったことはないのですが…」
「大丈夫大丈夫。本当の試合じゃないんだから。タツミちゃんはこの一回だけ、『始め』の声だけかけてくれたらいいから。頼むよ、ね、お願い。あとは適当に打ち合うし」
困惑するタツミにナガハルは構わず馴れ馴れしい口調で審判を頼んだ。
「なぜわたしの名を…?まあいいです。わかりました…では…はじめ!」
タツミは号令をかけると、邪魔にならないように、ユベーシたちがいる隅の方に避けた。
ゲイエスは、中段に構えた竹刀の先、向き合うナガハルの隙を探す。
ナガハルは笑みを浮かべたまま構え、そのまま動く様子はない。
どうゲイエスが打ち込んでくるかを見ているのだろう。だが、ナガハルの立ち姿には隙が見えなくて、ゲイエスも動けない。
引いて動くのを誘い出すか…しかし、カウンターが恐い。
じりじりと剣先をすり合わせたまま、時だけが過ぎていく。
「ゲイエス!何をしておる、いけ!気合いでまず負けるでない!先制じゃ先制!」
「ヤーー!」
ユベーシが怒鳴る、と同時にナガハルが竹刀を一瞬引いて振り上げ、素早く右足を踏み込んできた。
ユベーシに気を取られ、隙を突かれた、と慌てて防御のために竹刀を斜めに構えたが、ナガハルは振り下ろそうとしていた竹刀を素早く引き、ゲイエスの胴をとん、と打って抜ける。
「本当の戦なら、今、君は真っ二つだよ。相手と向き合っているときによそ見なんかしたらダーメ」
強打はせず、軽く打って手加減してくれたらしく、打ち込まれた脇腹はそれほど痛くはない。
勝てないことはわかっていた。だから別に悔しくはないのだが。
振り向くとナガハルは左手を腰に当て、右手に持った竹刀で自分の肩を叩いている。
「あのさ、君がやられたら、亜弥瑪は当然敵に奪われちゃうわけよ。君がそんなに弱いままだと貸せないなぁ」
弱い、という言葉に腹が立ち、ゲイエスは唇を引き結んだ。
そもそも歴戦の武士の剣技に、高校生の部活剣法が敵うものか。
「あのね、部活の剣道だって基本は教えられるでしょ?戦いではその基本をどう応用するかが大事なんだよ。敵と戦うときなんか、まず号令かかったりしないからね」
「基本の…応用…」
腹立たしさも忘れ、ナガハルの言葉を反芻する。
「ほらほら、私から一本取らないと、亜弥瑪は貸せないよー?」
ハッとしてナガハルに向き直り、再び竹刀を中段に構えた。
「こんどはこっちから、行くよ?」
ナガハルはそう言うや否や、素早く踏み込み、竹刀をまっすぐに振り下ろしてくる。
「そんな、いきなり…っ!」
「何がいきなり?戦場で遭う敵や魔物は待ってはくれないんだよ」
なんとか振り下ろされた竹刀を防ぎ、右に払って受け流したが、素早く振り上げられ、押し返されてバランスを崩して尻もちをついた。
「さっきよりやるようになったね。筋は悪くない。いやー、千年ぶりに動いたけど、私も結構動けるもんだなぁ」
ゲイエスに手を貸し立ち上がらせたナガハルは、コキコキと首を鳴らした。
ゲイエスは間合いを取るためナガハルから離れて竹刀を構え、幽体に肩こりなんてあるのかよ、と心の中で突っ込んだ。
「肩こりくらいあるさー!幽体だって、立派な体だよー」
心の中を読まれたことにおどろくと、ナガハルは笑みを深くした。
「顔を見れば大体わかるよ。それに君、なんでも顔に出るタイプだね。さて、もう一本やろうか。あ、やろうかってそういういやらしい意味とかじゃ全然ないからね、勝負しよって意味だからねもーやだ〜ふふふ」
そう言ってナガハルもまた、竹刀を中段に構えた。
「さあ、楽しませておくれよ?」
にこやかな笑顔の中に、潜ませられた狂気を感じて、ゲイエスはぞくりと背筋を震わせた。
まぁ、実戦経験の豊富なナガハルに、ゲイエスが敵うわけはないですよね。
でも勝たないと亜弥瑪は手に入らない…。
ゲイエスが勝つのはいつになるでしょうか。
ナガハルは打ち合いが本当に好きなようで、楽しそう…に見えたらいいな。
剣道のことはよくわからなくて、元剣道部の従姉妹に聞いたり、YouTubeで試合の動画をみて参考にしました。
表現などは読んでもらっていないので、剣道部から見たら『こんなんじゃない!」と思われるかもですが、頑張りました。




