母親と王宮神官
四者面談がいよいよはじまります。
「さて、本題に入りましょうか。改めて自己紹介させていただきます。私は王宮神官のマツヤです」
目の前の偉そうな人が王宮神官だと知り、ゲイエスは持っていた手紙をようやく渡すことができた。
「あの、これ」
「石戸神社からですね。確かに受け取りました」
しかしマツヤは中を確認もせず、テーブルの上にそれを置いた。
「手紙の内容は、あなたのお母様のお話を聞いて見当がついておりますので」
ゲイエスの心を読んだのか、マツヤが補足した。
「先ほどから言っていますが、魔王討伐にこの子を行かせるなど、親として認められません。この子はまだ高校生です。危険なことなど…」
「ですから、騎士を護衛につけますと言っているではありませんか」
「学校の勉強はどうなるんです。出席日数が足りなくて留年することにでもなったら、責任とってもらえるんですか?」
「それは…」
母親の言葉にウンウンと頷く。
留年するのは嫌だ。
マツヤは予想外の質問に、しばらく何かを考えているようだったが、おもむろに顔を上げ、よし、と自らを納得させるように頷いた。
「では、ゲイエスさんの高校の先生を呼びましょう」
え?と思う間もなく、マツヤが指をパチン、と鳴らすと、そこに校長と担任の教師が現れた。
スーツ姿の校長はざるそばのめんつゆを、ジャージ姿の担任はバナナを持っている。
そう言えばもうお昼時だ。
「ここはどこだろっかね…?」
ふたりはキョロキョロと辺りを見回している。
「サイヴァッタ城です。何しろ緊急事態ですので、急に召喚した無礼をお許しください」
「王宮神官さま…!」
神官の装束を見た校長はその場にひれ伏し、担任もまたそれに倣った。
「そう、ですね…えぇ、ハイ、今回は特別なケースでして…えぇ、ハイ、全て終わったら補習をうけてもらうということで、ハイ、日数をカバーしましょう。えぇ、もちろん、同行するミルフィ・ユバラさんもです。ハイ、これでよろしいですか校長」
「うむ、そのようにいたしましょう」
マツヤから大まかな話を聞き、担任と校長の相談がまとまった。
その間、ゲイエスの母親の刺すような視線にさらされ、二人とも冷や汗を滝のようにかいている。
「それ、ちゃんと書面に記してくださいね。あ、校長先生と担任の先生の母印とサインもここにお願いしますね」
母親は手際よく今の内容を紙に書き、簡易的な契約書を作って校長と担任から母印とサインをもらった。
そうして、校長と担任のふたりは再びマツヤの手によってもとの場所に飛ばされた。
再び広い部屋に四人と一台だけとなった。
マツヤの背後にかざられた大きな鏡には、困惑した顔の自分の姿が写っている。
留年を言い訳に断ろうと思っていたのに、その件はもう解決してしまった。
雲行きが怪しくなってきて、ゲイエスは焦り始めた。
「さて、これであなたの懸念は晴れましたよ。タサイバさん」
マツヤは母親から視線を外さずにいう。そしてまだ何か言いたそうにする母親を手で制した。
「もういいでしょう。伝承の先をあなたはご存知のはずです。ナガハルの子孫である、あなたは」
王宮神官マツヤが言ったその名前に、母親の顔からさっと血の気がなくなり、引きつった笑みを浮かべた。
ナガハルの子孫とは、なにものでしょうか…??




