五章 生徒会戦当日
五章 生徒会戦当日、生徒会長は金髪碧眼
生徒会戦当日、ソファに寝ていた俺は、ゆっくりと目を覚ました。
キッチンの方では物音がしているが、どうせききょうだろう。床に敷かれたライチの布団には、誰もいない。先輩の布団は……小さな山がある。時々ブルブルと震えているのは、寒いからだろうか。
布団は二枚しかないので、俺がソファで寝る事になったのだがこれがなかなか寝心地が悪い。首は肘掛で痛いし、腰は沈みすぎていけない。
「おはよう、涼真」
洗濯物を持ったライチが規則正しく朝の挨拶をかけてくる。もちろん非優等生である俺もライチの挨拶には、挨拶をちゃんと返す。
「おはよう」
俺の部屋に泊まる事になってから、ずっとライチに洗濯とか家事を任せっぱなしだな。今度お礼しておこう。
「涼真! 朝ご飯」
朝から元気いっぱいききょうである。
「朝ご飯作ってあげたわよ、感謝するなら今よ」
エッヘンと胸を張るききょう。だから、小さな胸を張っても見苦しいだけだぞ。口には出さないが忠告する。
「ありがとさん」
適当に感謝をして、起き上がる。
テーブルに置かれた朝ご飯。白米と昨日の残りの天ぷら、そしてもう一品追加されていた。余計な事をしやがって。昨日の残りの天ぷらでも大変なのに、もう一品追加って……
「……頑張れ」
ライチから激励の言葉がかけられる。救助要請の目線を送るも、そのあとは無視である。ひどくないですか、ライチさん。
「き、ききょう。これは何だ?」
真っ赤に染まったスープ。いまだグツグツと煮えくりたっていて、目に染みてくる湯気を空気中に発散している。
「滋養強壮スープよ、材料は高麗にんじん、ニンニク、ナツメ、長ネギ、唐辛子、まむし、あとはタウリンのドリンクよ」
こいつ、滋養強壮ドリンクでその材料を煮込んだのか?
しかも、唐辛子とかまむしって朝から食べるものじゃないだろ。
「生徒会戦に備えて栄養満点にしてあげたんだから、全部食べなさいよ!」
俺からしたら良い迷惑だけどな。というか迷惑すぎる。
栄養満点どころじゃないと思うぞ、これ食べたら今日の夜は寝られない。明日も寝られないレベルだぞ、これは。
屈託のない笑顔で微笑まれたら、食べないわけにはいかないのだが。
一口で燃え上がりそうだな。いろんな意味で……
そのあと、俺が発狂したのは言うまでもない。
そして放課後、生徒会戦を前に俺達は競技場選手控え室にいた。
朝食べたスープのおかげで口がヒリヒリと痛むが、戦いには関係ないだろう。精力を大幅に増強されたせいか、授業中ブルマが見たくて、見たくて仕方がなかった。
絶対にこの戦いで勝って、ききょうの、銀髪美少女のブルマ姿を見せてもらおう。そう決意していた。
「行くぞ」
先輩が指令を出す。その瞳は今までにないほど強い。眼力というか、覇気が出ているというか、先輩の意志の強さが伝わってくる。
「作戦は……ない」
「え?」
「自分を信じろ」
そう言うと先輩は、超F武装を展開し、赤い装甲を身にまとう。そして競技場に出て行く。
「僕も頑張ろうかな、涼真のためだし」
ニッコリと笑顔を見せてライチが武装を展開する。青い装甲と巨大な盾を装備したライチもまた、競技場に出て行く。
「ききょう、俺達も行くか」
「涼真、一つ言っておくわ。あんたの記憶は超F武装が関係しているかもしれないから。この戦いで武装を成長させなさい、そして記憶を取り戻して」
「お、おう」
「分かったなら、いいわ」
よく分からないが、たぶん昨日の事だろう。
俺としては忘れていたいのだが、記憶を取り戻すか……
「武装が成長したら思い出すのか?」
まあ、いい。
「武装構築、展開」
超F粒子が制服を超Fスーツに変える。装甲が展開され、武装に干渉された脳がだんだんと澄み切ってくる。グレーの地味な武装、標準装備もネクサスも追加装備もない。これが成長する事があるのだろうか?
いや、今やる事は生徒会長を倒す事だな、ブルマのためにも。
若干引っ掛かりを覚えながら、俺は切り替える。戦いに集中しようと。
拡張領域を広げ、浮遊する。そして控え室から競技場に出る。
控え室から出ると、青い空と白い雲が目に飛び込んでくる。いつもはドーム状になっていて、空が見えない競技場だが、今日は屋根が開かれており、明るい日差しと涼しげな風が入り込んでくる。
絶好の戦闘日和なのだろう。
競技場内中心に集まる。
黄色の装甲をまとった結先生が、審判らしく指示を出す。
「一同、整列です!」
横一列に並ぶ俺達の前に生徒会長が立つ。生徒会長は金色の超F武装を展開していた。全身に装甲が展開されている。これだけでも俺との格の違いが分かる。
それに……金髪で碧眼。人が近寄りがたい雰囲気を放っている。
「ってあれ?」
「……私が生徒会長です」
ききょうの話によると狂っているんじゃなかったか。
(おい、ききょう。どういう事だ? 狂っているどころか大人しいぞ)
頭の中でききょうに話しかける。
意思疎通をしているので、伝わるはずだ。
(いいから、これは違うのよ)
(何が?)
(いいから)
一方的に話を切られてしまった。
「……二年……柏倉来月……生徒会長です」
ボソッボソッと自己紹介を始める生徒会長柏倉来月。こんな引っ込み思案な感じで、よく生徒会長が務まるな。
「弦時蛍だ。あとは藤堂ライチ、柚木ききょう、上杉涼真だ」
先輩が簡単にこちら側の自己紹介をする。
「俺達の要求は、ブルマ廃止案の撤廃と学費免除の復活だ」
「は、はい……」
先輩の強気な態度に、弱弱しくうなずく来月。こんなんでききょうや先輩に勝ったのか?
「あの……」
「それでは生徒会戦を開戦しますです!」
「あっ……」
来月が何か言いたそうにするが、結先生の声に掻き消される。
何が言いたかったんだろう?
「涼真、準備しろ」
「は、はい」
少し先輩と離れたところに立って、戦闘の構えを取る。
「「「「完全、展開!」」」」
「……展開」
俺達四人の声とつぶやくような来月の声が、競技場内に響く。
とりあえず装甲が硬くなったような気がする。
先輩の両手には赤い光の粒子を刃に変えた剣、紅牙と紅閃が、展開されている。ライチは背中の日本刀型のレーザーブレードを構えている。ききょうは何か他の事を考えているのか、待ちに待った戦いだと言うのに表情は暗い。
来月の手には、金色の大鎌が展開される。
「行かせて貰うよ!」
ライチがレーザーブレードを構えると来月に特攻を仕掛ける。エネルギーの翼の出力が増大し、ライチの飛行速度が加速する。
「霧雨!」
ライチの追加武装の能力が発動し、湿度、飽和水蒸気量を無視して霧が発生し来月を包む。
「居合い!」
ライチが立ち込める霧の中に突っ込む。
霧がゆっくりと晴れていく。
ライチと来月は、レーザーブレードの刃と大鎌の刃を交差させている。来月が持つ金色の大鎌からは火花がバチバチと散っている。
(ききょう、レーザーに触れているのに何で斬れないんだ?)
(……あれは装甲と同じ金属で構成されているのよ)
そうなのか。
鎌の刃は日光を反射させ、刃の鋭さを誇示している。
「……クレセントサイザー」
来月は短く何かつぶやくと、ライチと距離を取る。
「……不可」
目には見えない速さで、来月が金色の大鎌を振るう。
来月の周りの空気が歪むような錯覚。
「っ!」
ライチの体がくの字に曲がり、遥か後方へ吹き飛ばされる。
「な、何だ!?」
ライチが驚いたように言葉を吐き出す。未だに苦痛に表情を歪めるライチ。
一体、何があったんだ?
(おい、ききょう)
(うるさいわね、あれはクレセントサイザー。気を付けないと巻き添えになるわよ)
俺に忠告したあと、ききょうの体がぶれる。
「法則変換!」
音速、いや光速を超えている。超F武装を展開した状態でもききょうの体がぶれて見える。
「輝子加速倍加、エネルギー翼の補助。勝負!」
先輩もエネルギーの翼を赤色に染めると剣を構え、来月に攻撃を仕掛ける。
ききょうと先輩、二人の同時攻撃。
「…………」
沈黙を守り、受け身にまわっていた来月が空気を蹴る。
「「なっ!」」
来月は先輩の剣を大鎌で受け、脇から突っ込んできたききょうの腹を蹴り飛ばす。そして大鎌を支点にして、回転。つま先で先輩の腰を貫くように蹴り抜く。
「ぐっ」
先輩が腰を抑えながら、体勢を整える。
ききょうはゆっくりと空中に着地し、受けたダメージを和らげている。
「や、やるじゃない」
蹴られた腰が痛そうな先輩。
この戦いハイレベル過ぎて、参戦する隙がない。大体、俺のレベルじゃあ攻撃しても一撃で、強制分解されるだろう。ここは大人しく来月に隙が出るのを待つ。
ん、何かノドが渇いているような気がする。
「氷奏氷槍」
俺から少し離れたところ、先程吹き飛ばされて着地した地点でライチが攻撃の溜めを始めたようだ。
競技場内の空気中の水分を自分の右腕に集めている。ゆっくりとライチの右腕に水が集まり、凍りついて巨大な氷の槍を作り出す。
「これで粉砕する!」
ライチが来月の懐に潜り込み、右腕の氷の槍を突き出す。
「くらえっ!」
だが、ライチの渾身の一撃も、学園最強の女王である来月には傷すら付けられない。
来月の金色の大鎌がライチを襲う。
「……っ」
ライチも咄嗟に三枚の盾で防御するが、来月は攻撃を盾越しに通す。
「ぐっ、あああああ!」
来月の攻撃を受けて、ライチが床に叩きつけられる。床に叩きつけられたライチの武装は強制分解する。ガックリとライチの体から力が抜けていく、どうやら気を失ったようだ。
(涼真、ボケッとしてないとライチを守りなさい。流れ弾が当たったらどうするの!)
ききょうの大きな声が頭の奥から響いてくる。
そうだ、ライチを守らないと。
高度を落としてライチが倒れているところに移動する。
ライチは完全に意識を失っていてグッタリとしている。
「くそっ、あいつ」
俺に協力してくれたライチが倒れているのを見ると、なんだかふがいない。
来月、絶対に倒してやる。
ライチをお姫様抱っこして、流れ弾が来てもすぐに逃げられるようにしておく。友達の一人ぐらい守れないなんて男じゃない。
一方、上空では蛍と来月が激突していた。
「くそっ! くそっ!」
蛍が一心不乱に剣を振り回す。だが、怒涛の連続攻撃も全て来月に弾き返されてしまう。
蛍は下級生に負ける自分が嫌だった。
「紅紅閃牙!」
両手の剣をクロスさせて、輝子を加速させ、増大させる。光の刃が今までの二倍の程の大きさになる。
「くらえええええ!」
全力で剣を振るう。
来月が受け止めようとするが、蛍の攻撃に押されて吹き飛ばされる。
「ここからが問題なんだ……」
先輩の攻撃で来月が、飛ばされ観客席に落下する。砂ぼこりが舞い上がり、来月の様子は分からない。
(勝ったのか?)
(来月はここからよ)
ききょうに聞くが、意味深な答えが返ってきただけだった。
砂ぼこりがおさまり、来月の姿が確認できる。
「ん?」
様子がおかしい。来月の装甲は金色の光を発し、左目は金色に色を変えていく。
「きたか」
「くっふふふ、よくも追い詰めてくれましたね」
さっきまでしどろもどろだった来月の口調が、ガラリと変わる。金色の大鎌は粒子になって消える。
「私は快帝学園最高最強第一位砕撃の女王ですよ、逆らってもいいと思っているんですか」
来月の全身に展開されていた装甲が、粒子となり消えていく。残ったのはスカート状のブースターと胸部のみの金色の装甲。
来月の左目は完全に金色に変わる。
(あの左目は超F武装を使用する代償。来月の超F武装は強力すぎて精神力、体力共に消耗が激しいの)
(さっきまでは本気じゃなかったのか?)
(たぶん、今も本気じゃないと思うわ)
恐ろしい、大人しいって思った俺がバカだった。狂っているどころじゃない。人格が豹変している。これも超F武装の精神への影響のせいなのか。
「砕いてあげます。その超F武装ごと、肉体を」
そういえば来月は一度も完全展開とは言っていない。それは今もだ。本気になったら先輩もききょうも俺も怪我しないはずがないぞ。
「ああ、望む所だ」
「さあ、苦しみながら砕かれろ。私の圧倒的なこの力で」
先輩、ききょうがまた同時に攻撃を仕掛けようとする。
「くっははは、無謀なんだよ。スコーチドアース!」
来月の周りの空気が歪む。その瞬間、来月の足元の観客席が音を立てて崩れ落ちる。先輩とききょうも危険を察知したのか、攻撃を仕掛ける寸前で止まる。
「孤独の中で生きてきた私の力に、お前ら甘ちゃんが勝てるわけがないんだよ」
来月の高笑いが競技場内に響き渡る。こいつ二重人格なのか? 超F武装がここまで人を変えてしまうのか?
「握り潰してやるよ」
来月が右手を上げ空気を掴むような仕草をする。空気を握り潰すそんな仕草だ。
「ぐっ!?」
ききょうの様子がおかしい。
まるで本当に来月に掴まれているかのように、もがき苦しみ始める。全く装甲を展開していないききょうにとっては、相当なダメージだろう。意識を保つのも難しいはずだ。
これが快帝学園の生徒会長の力。
「上杉、お前はその場から離れるな!」
先輩が来月に特攻を仕掛ける。ききょうに気が向いている今の内という考えだろう。だが、そんな考えは甘かった。
「自分からやられにきたか、きゃ、ははは!」
来月が左腕を横なぎに振るう。空気が歪み、また先輩が飛ばされて壁に激突する。
ききょうは来月の攻撃から解放されたようだが、肩を上下させ呼吸を整えている。攻撃出来るような状態ではない。
「せんぱぁーい。もっと戦いましょう」
「……っ」
先輩が立ち上がりながら、体にかかった特殊合金のかけらを払う。口角は少し上がり、まるで戦いを楽しんでいるようだ。
「ああ、戦ってやる」
ゆっくりと先輩が口を動かす。
「俺様の本気を見せてやろう。やっと経験地が溜まったみたいだからな」
先輩の体が赤い粒子に包まれていく。地面に落ちている紅牙、紅閃もまた粒子となり宙を舞う。
「成長型超F武装って知ってるか?」
「くっ、いいねえ。本気でやるのかぁ」
(……えっ?)
(どうしたききょう?)
(……何でもないわ)
成長型超F武装。文字通り成長する武装なのだろうか? 戦いの前にききょうが言っていた事と同じじゃないか。
俺にも関係があるのだろうか?
「成長型超F武装、段階的にパワーアップする世界に一つだけある武装。まあ他にも特殊な武装はあるけれど、これは最強クラス」
先輩の挑戦的な口調が戻ってくる。
「成長展開! 紅揚羽!!」
先輩の左手と右手にそれぞれ新たな武装が構築される。背中のエネルギーの翼は形を変えて、蝶の羽のようになる。
「吸牙、展開」
先輩の右手の武装が展開される。先輩の身の丈程の大きさの武装。肉食動物の口のような特殊な武装。牙のような突起が出ている。
「レッドシード、展開」
紅牙と紅閃を合体させたような巨大な剣が姿を現す。
「乱舞しろ、紅揚羽!」
回転しながら先輩が上昇する。巨大な剣が、赤い光の螺旋を描き背中の羽から粒子が撒き散らされる。
「ふっはははは!」
来月はまた高笑いし、床を強く蹴る。見えない力でも働いているのか上昇速度は先輩よりも速い。
「クレセントサイザー!」
来月の右手に金色の大鎌が、再び展開される。
上空で激突する先輩と来月。赤い光の刃と金色の刃が激突する。
先輩が空いている右手の吸牙で、来月に攻撃を仕掛ける。
吸牙の口のような部分が大きく開き、来月をはさもうとする。
「舐めんじゃねえ!」
来月が大鎌を振るう。
見えない力に押されるように先輩が、空中を滑る。
「どうしましたか、先輩。私の不可視の攻撃には勝てませんか!?」
不可視の攻撃? そんな事出来るのか?
「油断は禁物よ!」
来月の背中に回っていたききょうが、渾身のパンチを繰り出す。
宙で停止するききょうの手。
透明な壁でもあるかのように、停止し攻撃が来月に届かない。
「っ!」
「惜しいなー、法撃の魔女。双撃の女神がもうちょっと強かったら成功だったよ」
来月がききょうをバカにして、高笑いする。
「こんなもんなのかー。やっぱり孤独の中で育ってきた私に勝てるわけがないんだよ」
「っ!」
ききょうが来月の発言に目を見開く。ききょうも両親がいないと言っていたし、孤独の中で生きてきたからだろう。
「私だって、私だって……」
「やめろ、ききょう!」
今ここで闇雲に来月と戦っても、速攻で倒される。
「完全展開、インビジブルストリングス」
来月の右目も左目と同じように金色に染まり始める。
(涼真、逃げなさい! 来月は目に見えない力を操る事が出来るの、涼真も巻き添えをくらうわ!)
ききょうが慌てた様子で指示を飛ばしてくる。
だけど、昨日と同じ頭痛が俺を襲っていた。ききょうの指示も聞こえてはこない。
「死ね、ストリングスコール!」
競技場の床が目に見えない力によって、破壊されていく。ききょうも先輩も床に叩きつけられる。
ききょうがまた立ち上がる。
「さっさと倒れろぉおおおお!」
来月の腕がまた横なぎに振るわれる。あざ笑うかのような笑い声が耳に聞こえてくる。
また空気が歪む。
ききょうが傷付く。
ききょうが傷付く。
ききょうが傷付く。
意識がまた遠くなっていく。
そして頭に巡る過去の記憶。失われた思い出が鮮明に思い出される。そして分かった。ききょうは昔友達だった。そして俺はききょうと約束した。
その約束を守るためには、俺はききょうを助けないといけない。
俺はライチを床に寝せ、ききょうの所に必死に向かう。
黒い粒子が俺を包むが、それを押さえつけて進む。俺の武装は全ての力をはね返す。それじゃあダメなんだ。
ききょうの腕を掴み、抱き寄せる。背中を来月の方に向けて、ききょうに攻撃が当たらないようにする。
「ぐっ、ふっ」
背骨がきしむような音、体全体に伝わる鈍痛。鈍く深い痛み。
「なあ、お前。孤独が嫌なんだろう?」
俺は来月に話しかける。
「…………」
ピタッと来月の笑い声が止まる。
こいつはたぶん寂しいんだ。孤独が寂しいんだ。
俺にも少しだけ分かる、今の親は里親だから。
だから、俺はこいつを、来月を助けてやりたいと心底そう思った。だから俺は超F武装を使わない。
「そ、そんな……私は最強なんだああああああああああああああああ!!」
狂ったように来月が叫ぶ。
来月が両腕を右往左往振って、見えない力で俺の背中をドンドンと叩いてくる。だだをこねる子どものように。
「私に友達なんか出来ないんだ。みんな私から離れていく。私が強すぎるからいけないんだ、悪い子だからいけないんだ」
こいつの人格が途中で変わったのは、精神的苦痛からだろう。
「……出来るさ」
「無理だ、無理だ……」
俺はききょうから離れて来月に歩み寄る。
「く、来るな!」
来月が焦ってように声を荒げる。
「展開、エクスハンザー」
これが俺の超F武装の名だ。黒の装甲が展開される。
来月が腕を振ろうとする、その腕をしっかりと掴む。
「やめろ、俺のネクサスの能力はお前の攻撃をはね返す。他人を傷付けようとしたら、自分が傷付くんだ」
「な、なら他人を傷付けた私に友達なんか出来ないんだ……」
「俺が友達になってやる。ストリングスの意味は力だけじゃない、友情という意味もある。俺がお前の支えになってやる、だから……」
俺は言葉を続ける。
「ブルマ廃止案を撤廃してくれ」
…………俺は競技場内にいる全員からありがたいお叱りを受けた。




