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ブルマーズラブ  作者: QOLI
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第二章 幼馴染は男装美少女

第二章 幼馴染は男装美少女

 

 少年は昔、孤児院にいた。幼い頃に両親をなくして、親戚に引き取られるまで孤児院に預けられていた。今の両親はその時の親戚だ。

 孤児院にはもう一人少女がいた。少年ととても仲が良かった。髪の色は銀色でいつもツインテールにしていた。

 その髪の色で、少女はいじめられていた。

 そのいじめから助けたのが少年だった。

 しかし、ある日少年は引越しが決まった。親戚に引き取られる事になったのだ。少年、少女共に悲しんだ。子どもながらに別れるのが嫌だった。ずっと二人でいたいと思っていた。

 そのぐらい仲の良い二人だった。

 少年は親戚にお願いした。少女も引き取ってくれと。しかし、親戚でもない、赤の他人の孤児を引き取るわけにもいかない。親戚の家もそこまで裕福ではなかった。

 別れの日、少年はいつも少女と遊んでいた公園で、別れの言葉を告げた。

「絶対、戻ってくるから。また会いに来るから、守ってあげるから……」

 少女は無言でうなずき、小指を差し出した。少年は小指を結び事で、それに答えた。

 そして少年と少女の姿はぼやけていく。


「んん……」

 目を覚ますと鼻をおいしそうな肉の香りがくすぶる。

 俺はソファに寝せられていた。

「あの子、どっかで見た事あるんだけど」

 今見たばかりの夢の事を思い出そうとするがなかなか思い出す事が出来ない。そうしている内にだんだんと記憶が薄れていく。

「…………っ!」

 目の前にききょうがいた。

「お、思い出したの?」

「何を?」

 俺が質問を返すとますます困った様子でききょうが顔をしかめる。

「思い出したんじゃないの?」

「だから何を?」

 俺が何を言ったって言うんだ。大体今日会ったばかりで共通の思い出なんて数えるほどというか無いだろう。

「お前と俺に共通の思い出なんてあったか?」

「……もう、いいわ。夕飯、あんたが気絶していたから、ライチと二人で作ったから」

 いつの間にライチと馴染んでいるんだ。まあライチは人がいいし友達も俺と違って多いからなすぐに友達になったって事か。

「ありがとな。元はといえばお前らが悪い気もするんだが」

「涼真。今回は本当に、本当に殺そうかと思ったんだぞ」

 キッチンで包丁を持ったまま、こんな野蛮な事を言っているのはエプロンをつけた美少年、藤堂ライチ。

 うん、なかなかエプロンもいいな。今度ききょうとライチのブルマを拝む時はエプロンもつけてもらってブルマエプロンにしよう。

「ハ、ハックション!」

 うー。

 そういえばまだシャワーも浴びられてなかったな。

「着替えはどこだ、着替えは?」

 部屋に干してある洗濯物の中から着替えのシャツとズボンなどを取り浴室に向かう。

「どこ行くの?」

「シャワー浴びに行くんだよ、お前らのせいで風邪引く所だろうが」

 俺の言葉を聞くとききょうは頬をふくらませムスッとして、

「もちろん、夕飯食べた後しか行かせないからね」

 可愛い顔した鬼がここにいた。鬼は鬼のブルマでも穿いていろ、いやブルマって鬼穿くのかな。

「モタモタしていると先にお風呂に入るわよ」

「へいへい」

 仕方なく体の向きを机の方にピシッと向ける。

俺の目の前にドカドカと食器、夕飯が置かれる。

 ホカホカと湯気を立てるおいしそうな白米。ジュージューと音を立て香ばしい香りを漂わせるハンバーク。かけられているのはデミグラスソースだろうか。他にはサラダとコンソメスープ。

 どれもとてもおいしそうである。流石はライチ。

「私も作ったんだからね!」

 やけに『も』を強調したな。こいつに料理が出来るとは思えない。このコンソメスープやサラダに入っている最後まで切れずにつながっている野菜を見る限りは、ききょうには料理が出来ないと見える。

 そんな不恰好な野菜たちはほっといて、おいしそうに音を奏でるハンバーグを箸でつまむ。

「うめえ!」

 思わず、飛び出た一言。

 俺がいつも作るものより数倍おいしい。どうしたら同じ材料でこうもおいしく、うまく作る事ができるんだ。

「ありがとう」

 ライチが首をかしげニコッと笑う。

「…………」

 今、不覚にもドキッとしたのは内緒にしておこう、俺の将来に関わるから。

「………ばかっ」 

「なんか言ったか?」

「なんでもないわよ」

 ききょうがなんか言った気がしたんだが気のせいだったのか。

 ああ、温かいスープは冷えた体を心から温めてくれるな。

「おいしいか?」

「ああ」

 もちろん! 

まずいわけがないだろう。

「……ふん!」

 どうしたんだろうききょう。先よりもますますと機嫌が悪そうだ。

「…………」

この学園に入り、初めての来訪者?

 見た目美少女の美少年ライチの笑顔と、見た目小学生の高校生ききょうのムスッとした不機嫌そうな顔という対照的な結果で一家団欒? を終えた。


ドバッと湯をあふれ出し床にぶつかり飛び散る音が浴室内に響く。

「……はぁ」

 やっぱり湯船に浸かると落ち着くな。

 安心して溜息が出ちまった。今日は全く安心できなかったからな。朝から女の子が押しかけて来て、今はライチまでも同居している。事務員さんとか先生にばれたら大変だな。ライチは男だからともかく、ききょうは一応、女だし。

 快帝学園の設備の良さには感動するね。足を伸ばせるなんて、あいかわず広いユニットバスだな。相変わるはずないけど。

 頭の上にタオルを乗せ半身浴をする。こうするとのぼせないんだとか。

「はぁ……………!!」

 突如聞こえた衣擦れの音。

 音源は洗面所、誰だ。たぶんききょうではないからライチかな。

 男同士とは一緒に風呂に入るのは気が引けるな。

 一応、止めるか。

「おい、ライチ。入ってい――!!」

 遅かった。

 何もまとっていない状態で入ってきたライチは驚いたまま固まっている。

 湯気が無くなってライチの姿が、体が鮮明に見えるようになる。そういえばこいつの裸まだ見た事ないな。

「りょ、涼真!」

 俺がいる事に気付いてフリーズするライチ。かろうじてタオルで隠しているのは胸元と股の部分。

 なんで胸を隠しているんだ?

「うわぁああああああああ!」

 やっと動けるようになったライチが胸元を隠しながらしゃがみうしろを向く。

 そのうしろ姿は男というよりどう見ても女。

 よく見ると少し胸の辺りが膨らんでいるようにも見える。男にしては曲線的な体つきだな。まあ、でもライチが女であるはずがない。

「涼真、……気付いたか?」

「な、何が? 早く入れよ。寒いだろ」

 俺がそう言っても躊躇するライチ。俺と入るのがそんなに嫌なのかな。

「僕は変態なんだ……」

「へ?」

 突然のライチの告白。

「僕は……女なんだ。男の格好をしたくなっちゃう変態なんだ」

 俺の頭の中で疑問がグルグルと回り始める。

 ライチの告白。それは今まであったことの何よりも衝撃的だった。

 そして分かった。

「お前は女なのか?」

俺は確かめるような口調でライチに聞く。

そしてライチは、

「……うん」

 深くうなずいた。

「そうだったのか……」

「ごめん、今まで黙っていて」

 謝るライチ。

「いや、謝らなくていいよ」

「で、でも」

 謝られる義理はない。今までずっと一緒にいたのにどうして気付かなかったんだろう。そういえばこいつ泳げないとか言ってプールも入らなかったし修学旅行も風邪で休んでいたじゃないか。

「僕が女でも、りょ、涼真は嫌ったりしないか?」

「大丈夫、お前は俺の親友だ」

 ライチ。

 美少女みたいな美少年じゃなくて本物の美少女だったか。

 なぜか俺は冷静にライチの話を受け止めていた。

 実は分かっていた事なのかもしれない。昔から男にしては違和感ある奴だったから。だから驚かない。いや、驚いているはずだ。だってこんなに心拍数が上がっているのだから。

 そんな俺の様子を見てとまどっていたライチも落ち着いたようだ。

「なんでわざわざ俺の部屋に泊まりに来たんだ?」

 泊まれば女だってばれる確率が高まるのに。

「それもこの事を涼真に報告するためだ」

「そうか」

 やっぱりこいつはいい奴だな。改めていい奴だと思う。

「なんで男のフリをしているんだ?」

 一気に核心に近付く。ここでライチが嫌がれば俺は無理強いをして聞くことはしない。

「……昔、小学生の頃を覚えているか?」

「ん……?」

「思い出せないなら今度思い出してくれればいい。小学校の時、僕はこの口調と性格で男の子達に馬鹿にされていた。だから中学の時、涼真と出会った時に男として入学したんだ。親も反対しなかったから」

 確かにライチの親は権力があるから、そうする事も不可能じゃない。

「そうか、ところでライチ、その状態だと……おしりが見えるんだが……」


 ズゴッ!


 俺の脳が振動で揺れた。

 カランカランと風呂桶が転がる音。そして明かりが落とされ目の前が真っ暗になった。

湯船にライチが入る音。波が立つ音が浴室内にこだまする。

「涼真も変態になったな」

「あ、あれは事故と言うかお前が勝手に見せてきただけだろう」

 なんて言いがかりを付けるんだ。

 ライチから漂ってくる名前どおりの果物のような甘い匂い。いつもは感じないその香りも今日は違う、女の子と分かってしまった以上はもう誤魔化しきれない。

そして果物を思い浮かべるとなぜかライチの白いお――

 自主規制だ。


 ズゴッ!


 再び俺の脳が揺れた。

「ば、ばか」

 ここの風呂桶は木製なんだぞ。

「ばかは涼真だ。今まで僕が女だと気付かずにいてその上、僕に断りもなく女の子を家に泊めているし……。ほんと、記憶力はなさ過ぎるし」

 なんでお前に断りをいれなくちゃいけないんだ。

「う、うるさいな」

「男という事にしていたから……イチャイチャも出来なかったし」

 何をブツブツ言っているんだ。

「そうだ……。涼真は僕の体に興味はあるか?」

「は?」

 間の抜けた声が俺の口から漏れる。

 そりゃ俺だって男だ、健全な男子高校生だ。ブルマを穿いてくれた方が個人的にはうれしいのだが、女の子の裸に興味がないわけがない。

 しかし、この事を正直に言ってもいいのか。ライチは男じゃない女だ、しかも美少女。女の子の前で、ましてや美少女の幼馴染の前でそんな事……

「ど、どうなんだ? それともまだ信じていないのか?」

「…………」

 確かに信じきれないと言うのもあるのかもしれない。

 そう俺が葛藤している内にライチは我慢を仕切れなくなったらしい。

 ゆっくりと体を動かし、

「涼真。信じてないなら証拠を見せてあげるよ」

「な、ななな何?」

 ライチは優雅な動きで湯から体を出した。暗闇にライチの柔らかな曲線のシルエットが浮かぶ。

 そして俺の方に近付いてくる。

「な、ななな、な!」

 慌てた俺はうしろを向き背中をライチの方に向けてしまった。

 これじゃまるで俺が背中に抱きついてくれってアピールしているみたいじゃな――

「涼真も大胆だね」

 ライチの白く細い腕が背中から回され俺の体をギュッと抱きしめる。

「涼真は昔から僕を守ってくれた、うれしかったよ。ありがとう……」

 ライチが耳元でささやいてくるが今の俺には俺の耳には全くと言っていいほど入ってきていなかった。馬の耳に念仏に近い。

 俺の背中に胸である。

さっきから俺の背中に当たっている二つの柔らかい物体。これは女の子の象徴だろう。普段は気付かないが以外と大きく育った幼馴染のそれは俺を誘惑、混乱させるのには十分な大きさそして柔らかさと気持ちよさだった。

 ライチが強く締めつけてくる度に胸が俺の背中に押し付けられそのっ……俺のいろいろが、とにかくやばい!

 先より強く感じられるライチの甘い匂い。クラッとさせられる。

 これが男装幼馴染の威力。

ちょっとだけラノベの主人公の気持ちが分かる気がする。もちろん俺には世界を変える力など無いが。凡才だし。


 そして二人の間の沈黙と湯船から溢れ出た水がゆっくりと流れていった。


「ああ、もう!」

 うううう! とうなっているのは下ろした銀髪を濡らし、いつもよりは大人っぽく見える柚木ききょうである。

 顔を半分、鼻が出るくらいの所まで水に浸かりブクブクと泡を立てている。

 顔を水から出し深くためいきをついてみる。

「ふあー」

 気の抜けたためいきが漏れた。

「なんで、涼真は昔の事を覚えてないのよ。藤堂ライチだっけ、あいつはあいつでどこかで見た事あるけど……」

 ああ、もう! 

 本日、二回目の『ああ、もう!』である。

 なんでこんなにむしゃくしゃするのかききょうには分からなかった。

 昔見たあの涼真のかっこいいところをもう一度見たいと思い願うばかりである。

「なんで、あんな変態になってるのよ」

 ブルマが好きすぎて女子の間で便利屋の地位を絶賛、確立しようとしていたようだ。『ブルマを穿いてあげる』もしくは『ブルマを穿いている写真をあげる』この二言で頼みを聞いてもらえるらしい。こんな噂まで流れている。

「全く、何がしたいんだか」

 しかし涼真を諦められないききょうであった。


 フニュと顔にやわらかい物が当たる。枕だろうか。

 まだまだ寝ていたい。

 という事で頭を枕にこすりつける。

 手で触れてみるとやけに温かい。

「ん?」

 疑問に思い目を開けるとそこにあったのは白い枕、いや何かがおかしい。もう一度重たいまぶたに神経を集中させて目を開ける。

「……くにゅ」

 耳に届いたのは明らかに女の子の声。

「…………っ!?」

 そして目から飛び込んできた映像は……柔らかそうな白い肌、白い肌によく映えるピンク色の女性用下着(上)一体これは。

「ん……すう……すう」

 頭の上で聞こえる可愛らしい鼻息。いやもう鼻息ではない。これはなんだ? そうまるでオルゴールから奏でられる音楽の如く俺の心を揺さぶっていた。

「……りょま……すう」

 そしてもう一つ可愛らしい音楽が奏でられていた。

 遅れて感じられる背中からの熱。たぶん人間の体温。

 誰かの胸から顔を離しおそるおそる首を後ろに回すとスヤスヤと眠る柚木ききょう。

 そして柔らかな白い枕の正体は昨日の夕方まで美少年、今は美少女の藤堂ライチ。

おかしい。

 おかしいぞ。

 昨日の夜、俺はききょうがいるせいでソファをどかしリビングに布団を敷いて寝ることになったはずだ。ライチは一応男という事になっているので、俺と同じくリビングにて就寝。もちろん俺とライチの布団は別々である。

 しかし、今の状態は同じ布団に女の子が二人。

 それも一人はパジャマのボタンが取れピンクの下着が見えておりもう一人は俺の背中に抱きついてピッタリとくっついている。

 なぜ?

 いつ?

 どこで?

 何をしたら?

 誰がって俺か。


(ノォオオオオオオオオオオオオオン!!)


 心の中で叫ぶ雄叫び。

 少し考え事したせいかいつもの頭の調子に戻ってきた。

 どうすればいいんだ?

 俺が動くと二人が起きる、そうすると以下省略で俺がぶっ飛ぶ。

「……ん」

「!」

 なんでライチは俺の頭を抱えているのかな!?

 そんな事をすると俺の顔が胸にダイブする。というかしているじゃないか!

「むごっ」

 息が……息が苦しい。

「うぐっ……ぐっ……」

 ライチ、そんなきつく抱きしめると俺の理性と呼吸が。


(がぁああああああああああああああああ!)


 ライチの普段はさらしで分からないが、意外と豊満な胸に吸収されて、俺の叫びは声にならなかった。

 首の締め付けと理性の崩壊と呼吸の苦しさでドンドンと遠のいていく俺の意識。

まだ二度寝できる時間だけど……

 陥落と歓楽が俺を呼んでいる。


 目の前に広がる花畑。

 まぶしいほどの光が照らされている。たくさんの色とりどりの花や蝶達かぐわしい香りが俺の鼻をくすぐる。

 まるで天国のようだ。

 しかしその天国も異変が訪れる。

 なぜか物が焦げる悪臭が漂い俺の鼻をくすぐる。

「…………うっ」

 危うく三途の川いや天国に永住するところだった。

 救ってくれたこの臭いに感謝する前に、なんだこの物が焦げる臭いは!

「ん?」

 目を開けると目の前にはもうライチの白い肌もたわわな果実も無く背中に巻きついていたききょうの拘束もなくなっていた。

「た、助かった」

 ゆっくりと体を起こし時間を確認、まだ余裕があることを確かめてから問題の臭い、キッチンから漂ってくる臭いの方を見る。

 キッチンにはエプロンを装着したライチ、そしてききょうがいた。

 ライチはききょうの隣に立って何かいろいろ指導をしているみたいだ。

「おい、何してんだ?」

 のそりのそりとだるい体をキッチンまで運んで二人に話しかける。

「だから、焼き過ぎだって」

「う、うるさいわね。このぐらいの方が、歯ごたえがあるはずよ」

 ライチの注意に対してききょうが言い訳をしている。

 朝っぱらから何をしているんだ。

「おーい」

「りょ、涼真! お、起きたのか……。抱きついちゃったけど知らないはず……」

 びっくりしたかと思うといきなり考える人になる。その間にもフライパンにかけられた肉がジュージューと焦げているんだが。

「りょりょ涼真、もう起きたのか?」

「もうって結構いい時間だけど」

 ついに肉から黒い煙が出た。

「おい! 肉、肉が焦げている!」

「え!」

「どいて!」

 慌ててアタフタするききょうをどかしライチが処理をする。

 男の癖に……じゃなかったな、なかなか料理上手いんだな。

「そ、そんなに見つめないでくれ照れるじゃないか……」

「す、すまん」

 そんな意識してなかったのにそう言われると気恥ずかしくなってくる。

 頬を紅潮させながらもライチはお弁当箱におかずやさっきの肉を詰めていく。

「なんだ、それ?」

「お弁当よ」

 そう答えたのはききょう。

「僕達は涼真の部屋に泊めてもらったんだ、お礼ぐらいさせてくれてもいいだろう」

 そのお礼がお弁当なのか。

 いつも学食で済ましている俺にとってはかなりありがたい事だ。

 それも女の子二人の手作りお弁当。制服エプロンで。

「ふっふふふふふ」

「涼真きもいんだけど」

 うっ、つい暴走してしまった。いつもは体育の女子のブルマ姿なのに制服エプロン如きで暴走してしまうとは情けない。

「ありがとな、ライチ、ききょう」

「ど、どういたしまして」

「べ、別にたまには料理してみてもいいかなと思っただけだしついでよ! ついで!」

 分かっているよ、そんな強調しなくても。

「それじゃあ、朝ご飯食べようか」

「おお」

 口に入ってくるライチの手料理。そのおいしさに心が躍り、唾液が過剰に分泌される。

「そうそう、涼真、ライチ。今日の放課後、超F武装戦闘用競技場の第六更衣室に集合ね」

「「分かった」」


 その後、俺達はのんびり登校した。


 本日最後の授業。

 一応は超F武装の能力者の専門学校なので、才能についての講義がある。全く、なんて憂鬱な授業なんだ。俺みたいな凡才には関係のない話だ。

 ふと隣を見るとライチが先生の話に聞きいっていた。

 そして俺の目線に気付きこちらを向くライチ。

「「………………」」

 ライチが頬を桜色に染める。

 流石に恥ずかしい。

 気を紛らわすために目線をそらす。そういえば今日もききょうは屋上登校だな。なんであいつは教室に来ないんだろう。屋上に一人なんて寂しくないのか。

「であるから、超F武装の装甲部分の性能、特性は個人の精神に関係してくるですぅ。科学的な法則に自分だけの新たな法則を仮定させる事によって武装に自分だけの特性を付加することができるですぅ。この仮定した法則をネクサスと呼びます。それと一年でもやったように超F武装のスーツはある一定の攻撃まで肉体への直接ダメージを吸収することができるですぅ。でも衝撃はそのまま伝わるですぅ。その衝撃に耐え自我を守りながら武装の強制分解を防ぐ事と武装の特性を付加する事が実戦では重要になるですぅ」

 凛とした声で担任が説明を行う。

 そう言われても凡才というランクをもらった連中はその特性が付加できないから凡才なんだぞ。

 凡才は実戦ではほとんど役立たずということか。

 余計にやる気がなくなってきた。

「………はあ」

 机に突っ伏しひんやりとした机の表面に顔をつける。ああ、気持ちいい。

 そうしてくつろいで……サボっているとヒュッと何かが風をきる音がする。

「……っ!」

 顔を前に向けると目前に白い物体が見えた。

 その一瞬の内に全てが見えた。まるで時間が止まったかのように。白い物体の正体はチョーク。しかもジャイロ回転。その軌道は真っ直ぐ俺の眉間に向かっている。速さはエアガンのBB弾と同じぐらい……だと思う。

 当然、俺の反射神経ではよけられるはずもない。

「ぐっ、わっ!」

 見事に俺の眉間に食い込んだ。

 痛い! 地味に眉間にじんわりと痛みに広がる。

「何するんですか!?」

「涼真くん、あなたが悪いのですよですぅ! 先生の話をしっかりと聞かないからですぅ」

 そう言って、クラスのアイドルこと超巨乳教師、石狩結先生が俺をしかる。

「けどチョークを投げるのはひどいです」

 大体この学園に旧型のチョークを使う黒板なんかない! 全て電子黒板だ。どこからチョークを取り出したんだ。

「このチョークは特注品なのです。ちゃんと投げる用に硬さを通常の二倍にして長さも投げやすいようにしてありますですぅ。先端は突き刺さりやすい角度に削りましたし、昔から生徒がサボっている時はチョークを投げると決まっているですぅ!」

 決まってねえし、何その凶器。ただの石膏の固まりじゃねえか。そんなもん生徒に投げるな!

「まあ、いいです。でもサボった罰としてトイレ掃除を命じますですぅ」

「………本当ですか?」

「マジです」

 即答で返ってきた。

 もちろん通常の掃除もした上でのトイレ掃除。腰痛必至のケブラドーラである。一回でかかる時間はおよそ十五分だがそれだけで背骨や腰が砕けた感覚になると言われる。そのぐらい働かされるらしい。

「…………はあ」

 さっきとは違う意味のためいきが漏れた。


 みっちりと結先生の指示のもとでのトイレ掃除を終えた俺は、超F武装戦闘用競技場に向かって走っていた。もちろん行った事など入学式と才能テスト以来だ。凡才の俺にとっては関係のない場所だ。

「絶対遅れちまったな」

 一応はききょうに伝えてくれるようにライチに頼んだんだが、それでもあいつ怒るだろうな。

「うわっ!」

 考え事をしていて気付かなかったが、前に女の子がいたようだ。思い切りぶつかってしまった。

「す、すいません」

「……大丈夫です」

 俺があやまるとすぐに立ち上がって立ち去ってしまった。それこそ下着が見える前に。

 それにしても美人だった。うしろ姿から確認しても分かる。輝くような金色の髪。スラッとした体型でも出る所はしっかりと出ていた。

「名前聞けばよかったかな」

 でもなんか人付き合い悪そうな感じだったし、友達少なそうだったな、気安く話し掛けていいタイプではないだろう。孤高の天才、一匹狼といった印象だ。

「やべっ、早く行かないと」

 突然現れた金髪碧眼美少女のうしろ姿に見とれている場合ではなかった。

 

 校舎の外、体育館の横に超F武装戦闘用競技場はある。未知の戦闘兵器である超F武装の危険性を考えて大きさは野球ドームほどある。放課後、生徒は自由に使う事が出来る。それこそ、天才といった連中ぐらいしか使わないのだが。

 ちなみに更衣室の数、その他部屋の数も半端ではない。

 ということで俺は道に迷っていた。

「第六更衣室ってどこだよ」

 年に二、三回来るぐらいである。道を覚えているはずがない。

『涼真来ないわね』

 どこかで聞いた事のある声である。

 ルームプレートを見ると第六更衣室とある。

「ここか」

 ドアを開けると、女の子の甘い香り。目に飛び込んできたのは見知らぬ女の子達の下着姿。白、水色か。

「間違えました。すいません」

「「きゃああああああああ!」」

 女の子のかん高い叫び声。

 ドアを素早く閉める。直後ドアに何かがぶつかる音が聞こえてくる。

 どうやら、隣の部屋のドアを開けてしまったようだ。眼福、眼福。

「すまん、遅れた」

「遅い!」

 第六更衣室に入るとすぐに聞こえてくる、ききょうのアニメ声。

「先に行くから、武装してきて」

 そう言ってライチと一緒に競技場に出て行くききょう。

 武装か、久しぶりだな。

「確か、武装構築、展開」

 だったと思う。

 俺の言葉に呼応するかのように超F武装が構築される。体の周りに白い粒子が浮かび上がり、制服に張り付く。これは超F粒子と言って、繊維と繊維の間に入り込んで、ただの制服を超Fスーツに変えるのだとか。これだけで防弾、防刃なのだから凄い。

 超Fスーツとなった制服の上にグレーの装甲が展開される。このグレーは凡才である証だ、いらないが。

 すぐに景色が鮮明になり、いろんな所から出る雑音を耳が受け取れるようになる。これは超F武装が脳に影響を及ぼすかららしい。詳しい事は知らん。

 背中からはエネルギーの翼が生み出されて地面から少しだけ浮遊する

凡才でも装備できる標準装備、これが俺はない。何個か種類があって人それぞれの性格とか、武装の特性で変わるらしいが俺はない。標準装備が無いのは天才クラスの武装だけらしいが、俺は凡才で無いのでもうどうしようもない。あとネクサスと言うやつが追加装備ということだ。ちなみにこれも俺はない。

「よしっ、準備完了」

 競技場に続く道に出て浮遊したまま直進する。

 競技場に出るとその広さに圧倒される。外から見るよりもよく分かる。

「涼真、早く」

 ライチの声がいつもよりも綺麗に高音質で聞こえる。

 ライチの武装は青色の装甲と両肩の辺りに浮かんでいる巨大な盾が印象的だ。背中には日本刀のような形のレーザーブレードが差されている。

 ききょうの武装は銀色のガントレットと、首元で光る同じく銀色のペンダントだけのようだ。他には背中の翼以外何もない。

「涼真、標準装備は……無いわね。追加装備は?」

「ない、何かあった気がするけど思い出せない。お前こそないじゃないか」

「ここにあるじゃない」

 そう言って両手をかざすききょう。

「何の事だ?」

「ま、まさか胸のことを言ってるんじゃないでしょうね! この変態!」

「言ってない、そのガントレットとペンダントが追加装備なのか?」

「そうよ」

 そう言ってない胸を張るききょう。自殺したい人はぜひあの絶壁を見てください。女性だったら救われます。

「何か失礼な事を考えているでしょ」

「考えて――」

 一瞬でききょうが俺の目の前に移動して、見事なコークスクリューパンチを俺のレバーに叩き込む。

「がぐっ!」

 超Fスーツ越しとはいえ衝撃が走る。そのまま空中を滑る。

「バカ、レバーはスタミナが削られるんだぞ」

「変態は黙って! このぐらいも避けられなかったら生徒会長に瞬殺されるわよ。才能も武装も無いんだからせめて攻撃を避けられるようにしなさい」

 分かっているよ……

「涼真、僕も頑張るから一緒に頑張ろう」

「お、おう」

 ライチの優しい言葉だけが頼りだ。

「ライチ、あんたは追加装備のコントロール練習をしてて、私はこのバカ変態にいろいろ教えないといけないから」

 俺の幼馴染で先日、美少年から美少女になったライチが離れていく。

 ライチのネクサスは水の状態変化をどうとかだっけ。

「ききょう、ネクサスは?」

「ネクサス? ああ、私の仮説は相対性理論で説明出来ていた全ての法則を変えるという仮説よ。法則を変えるだけで攻撃性能は低いけどね」

「そんな難しい仮説、精神力たくさん消耗するんじゃないか?」

 強力で難しい仮説にすればするほど精神力を消耗して超F武装を装備できる時間が短くなるらしいけど。だから超F武装は日常的に使えないって教科書に書いてあったはず。

「精神力なんか気にしなくても私は最強だから大丈夫なのよ!」

「でも、法則を変えただけでは攻撃が出来ないんじゃないか?」

「ああ、もう。分かったわよ。攻撃できるって証明して見せればいいんでしょ」

 あきれたように首を左右に振ってツインテールを揺らすと、ききょうはライチを呼んだ。

「ライチ、ちょっと私と模擬戦やるわよ」

「え? 僕?」

「さっさと完全展開しなさい」

 ライチが慌てて、展開する。

「展開、キリサメシズク!」

 超F武装には二つのモードがある。一つは今の俺の状態、待機展開。まだ攻撃態勢になっていない状態だ。そしてききょうとライチの状態が完全展開。攻撃態勢ということで待機展開の時よりも性能が格段に上昇するらしい。

「展開、カオスインバーター!」

 二人の背中の翼がさらにエネルギーを放出して大きくなる。ライチの周りに盾がもう一つ構築されてライチの背後で浮かぶ。

 ききょうは……変化してない。

「なんで、ライチの盾は浮いているんだ?」

「……そんな事も知らないの? 超F武装が脳に干渉することによって通常脳の周りで発生する磁場よりも、もっと大きな磁場が発生するの。その磁場の空間は拡張空間と言って自由に支配できるの。ていうかそれが無いと浮かんでいられないんだけど、分かった?」

「分かったよ」

 途中から難しくて分からなかったが言うとききょうが怒るので黙っておこう。なんで屋上登校のくせに頭いいんだよ。これが天才と言うやつか。

「行くよ、ききょう。霧雨」

 ライチが右手をかざすと空気中の水蒸気が水となって、霧となる。だんだんとライチが生み出した霧は深くなっていってききょうを包んでいく。俺の角度からはもうききょうの姿は確認できなくなった。

 ライチがゆっくりと背中の刀を抜き、刀身からレーザーの刃を出す。

「居合い!」

 独特の構えからライチがききょうのいる方向に向かって突進する。ライチが霧にのまれて見えなくなる。

「どこだ?」

 霧が少しずつ晴れてきて、ききょうとライチの姿が確認できた。ライチの一撃はききょうの右手で押さえられ、ききょうがライチのおでこにデコピンをする。

「圧力変換」

 ただのデコピンにしか見えなかったのに、ライチは特殊合金の床に叩きつけられた。

「え?」

「私の強さは分かった?」

「微妙だ」

「な、なんで?」

「確かにライチの攻撃は完全に防いでいたし、圧力に干渉出来るのも――」

 俺が言い終わらない内に言葉を挟まれる。

「久しぶりだな、法撃の魔女。こんな所で才能自慢しているのか?」

 男勝りな口調でききょうに話し掛けてきたのはききょうよりも身長の小さい小学生ぐらいの女の子だった。一応改定学園の制服を着ているけど、いろんな意味で年齢不詳だ。

 髪の色は鮮やかな赤色でポニーテールに結ってある。胸は……皆無だ。

特徴的なのは真っ赤な武装だ。肩に装着されたブースター、両腰に中世ヨーロッパを思い出させる剣が付けられている。そして騎士の鎧のような赤い装甲を身に纏っている。

「ライチ、誰?」

「俺様の事を知らないのか? 才能ランキング第三位、二つ名は双撃の女神。三年の弦時蛍様だぞ!」

「知らないです」

 そんなわけの分からない口調の女の子知っているわけがない。この身長で三年ってやっぱいろんな意味で凄いな。

「第三位のチビが第二位の私に何の用?」

 ききょう、三年の先輩に対してその口調はってお前は第二位かよ。じゃあ、さっきの法の魔女が二つ名なのか。二つ名って格好良いな。

「あんなテストの結果まぐれだ。その前に俺の方が背高いし」

「何センチ?」

「百三十八だ」

「私は百四十二よ」

 ききょうが発展途上の胸を張る。

「まさにどんぐりの背比べだな」

「「うるさい!」」

 息ピッタリの突っ込み。熟練の味が出ていた、……気がする。

「何でお前はここにいるのだ?」

「生徒会長を倒すために特訓中」

「む、俺も同じだ」

「協力したらどうだ?」

「僕もそう思うけど」

 ライチが同調してくれたいい幼馴染だな。しかも男装美少女、この場で泣いてもいいと思う。

「きょ、協力してやってもいいぞ」

「だとよ、どうするききょう?」

「私と勝負して勝ったら協力してくれてもいいわよ」

「な、勝負。望む所だ」

 なんでそうなるんだ。素直に協力してもらえよ。第二位と第三位の勝負なんて死闘が展開されるに決まっている。そんな事を考えている間にもバチバチと火花を散らす二人を止める事は俺には出来なかった。

「展開、ファイアフライ!」

 蛍先輩? が両腰の剣を抜いて構える。剣身から赤いエネルギーの刃が出る。

「俺のネクサスは、光は粒子であるというニュートンの学説から光の粒子を輝子と新たに定義して、それを操る能力。この剣の刃も光の粒子の塊だ」

 ふむふむ、分かった事はよく分からんという事だ。

「行くぞ、魔女!」

「かかってきなさい!」

 ききょうのガントレットと蛍先輩の剣が交わる。必死に押している蛍先輩だけど、ききょうも法則を変換させたのか一歩も譲らない。両手で二つの剣を持ったままききょうが蛍先輩の腹部に蹴りを打ち込む。

 これをスカートでやるのはぜひとも止めてもらいたい。パンチラどころの騒ぎじゃない。ガチチラ、いやパンガチ? だ。

「っ!」

 装甲に当たったようだが、蛍先輩の体がききょうから離れる。そして目にも留まらぬ速さで、真面目に見えなかったがききょうが蛍先輩の背後に回る、いや回っていた。

 無駄のない動きから繰り出される空中での胴廻回転蹴り。ききょうのかかとが蛍先輩の左肩のブースターを粉砕する。

「っ! やるじゃねえか」

 そう言って蛍先輩がさっきのききょうと同じくらいの速さで動き回り、光の剣を振り下ろす。対して、ききょうはガントレットで剣を裁きながら格闘技を絡めた攻撃を展開する。

「くそっ、俺の仮説は変換できないくせに……」

「ふんっ!」

 ききょうの後ろ回し蹴りが蛍先輩の頬をかすめる。蛍先輩の振るった剣が空を斬る。ききょうの攻撃が蛍先輩をかすめ、蛍先輩の斬撃のコンマ何秒前にききょうが動く。

 そんな一進一退の攻防が何分続いただろうか、二人とも息を上げて向かい合っていた。

「はあはあ……次で終わりよ」

「……そうだな」

 二人が本気の一撃をぶつけようとした時、その瞬間。俺の脈拍が上昇し血流が勢いを増した。

二人が傷付く、そんな事を考えていた。その時、なぜだか俺は二人の間に入った。

 もう意識は無かった――


 ききょうは才能ランキング第三位、弦時蛍とは才能テストで会ったことがあった。

 結果はききょうの勝利。そして再戦。

 しかし、

(なんで、涼真が入って来たの!?)

 空気の抵抗、エネルギー様々な法則を変換して、音速での飛び蹴りのモーションに入ってしまったききょうは、もう軌道を変える事が出来ない。それは蛍にしても同じことだろう。

 軌道を無理に変えようとすれば地面に墜落する。激しい衝撃は意識を落としかねない、意識が落ちれば自動的に超F武装は解除される。

 しかし、このまま涼真に直撃するのもまずい。超Fスーツとなった制服によって、流血事故は避けられるだろうが、衝撃はそのまま伝わる。天才二人の同時攻撃。保健室送りは決定だ。

 もう圧力を力の向きを変換する時間はない。ききょうの能力は拡張領域内でしか使えない、時間の概念は壊せない、蛍の仮説には介入できない。

 もうききょうに出来ることはない。

(……っ!?)

 涼真の灰色の目立たない武装が黒く色を変える。涼真は眼を瞑っていて、意識そのものが無さそうだ。涼真の周りに結界らしきものが張られる。

 涼真が生み出した黒い結界にききょうの飛び蹴り、蛍の斬撃が直撃する。

 結界は波紋を生み、

「「……っ! 何!?」」

 ききょうと蛍、二人を吹き飛ばす。

「な……」

 流石に意識を落とすことは無かった二人であったが、ただの凡才に過ぎないはずの涼真が生み出した結界に興味を覚える。

「俺の攻撃をはね返したのか? 威力が倍になった気がするが」

「……えっ、涼真!」

 二人を驚かした涼真本人は完全に意識を失い、武装が強制解除されて地面に向かって落下し始めていた。

 すんでのところで待機していたライチがフォローに入る。しっかりと涼真の体を支えているのはライチ。

「とりあえず、保健室だ」

 四人は、涼真はライチに抱きかかえられたままだが、競技場をあとにした。


 体に感じる重みに気付き目を開ける。

 目を開けると白いシーツ、俺の横に寝転がり、寝ている小さい女の子が目に入る。辺りを見回すとガラスの棚に入っている様々な薬品、絆創膏、消毒液が目に付く。

「…………ここは保健室か」

 空気を吸い込むと、保健室特有の消毒液の強烈な臭いが、俺の鼻に侵入してきた。

「……むにゃ」

 眠気まなこの両目をこすり、隣の小さな女の子を確認する。

「ん?」

 鮮やかな赤色の髪。そのつややかな髪はポニーテールに結われて、腰まで伸びている。身長はききょうと同じくらい。顔を確認すると幼い顔立ちの……蛍先輩だった。

「……うにゅ。なんだ? エロ杉。起きたのか?」

「なんだ、じゃないですよ! なんで、隣で寝ているんですか!」 

 小学生と既成事実を作っちまったかと思ったじゃねえか。

 しかし、

「エロ杉って誰ですか、俺は上杉です」

「そうか、エロ真。上杉だったか」

「エロ真ってエロい悪魔みたいじゃなくて涼真です!」

「まあ、いいだろう、俺様と同じベッドにいることを光栄に思えよな」

 そうなのだ、俺と蛍先輩は同じベッドに寝ている。

「なんだ、上杉。俺様の体を見て欲情しているのか?」

「ち、ちち違います。大体、蛍先輩の体で欲情するのはロリ――」

 言葉を言い終わる前に先輩の細く白い脚が俺の首に巻きついて、ロックする。これは首砕き。女の子の脚ってスベスベしているんだな。

「あがっ」

 気絶する寸前、俺の首を締め付けていた蛍先輩の脚から力が抜ける。

 ほのかに香る蛍先輩の甘い、椿のような匂いに一瞬クラッとする。

「あ、危ないじゃないですか」

「ちゃんと止めただろ」

「そ、そういう問題じゃ……」

 ベッドの上で女の子座りする蛍先輩は少し頬が赤くなっていて、その……とても、いやめちゃくちゃ可愛い。

「どうした、上杉。そんなにジロジロ見ると先生に言いつけるぞ」

「見てないです。そういえば蛍先輩は俺達に協力してくれるんですか?」

「生徒会長を倒すついでだ。人数は多いほうが良い。あんな怪物、一対一で勝てん」

 この人なら一対一にこだわりそうなんだけどな。

「生徒会長ってそんなに強いんですか?」

「あいつは幽霊というかなんというか、わけの分からない力を操りやがるからな」

 うん、分からない。

 あれ、なんで俺って保健室に。

「俺はなんで保健室にいるんですか?」

「今更聞くのか、ぶっ倒れたんだよ。競技場で」

「え?」

「覚えてないのか?」

 覚えているどころか、倒れたのか俺っていう状態。競技場に行って、ききょうと蛍先輩が喧嘩し始めて……そこからよく覚えていない。

「まあ、覚えていない事は無理に思い出そうとするな」

「そういえば、ききょうとライチは?」

「あー、柚木と藤堂は話があるとか言って、先に帰ったぞ」

 ええええ。薄情な奴らだ。ましてやライチは幼馴染だろう。

「さあ、もう大丈夫だな。帰るぞ」

「え、ええええ!」

 腕をガッシリとつかまれベッドから引きずりおろされる。痛い、痛い。

「立てるから、引きずらないで下さい」

「そうか」

 俺を引きずれるって、どんな怪力なんだ。

「って、うわぁ!」

 突然、腕を離され床にベタッとはいつくばる羽目になる。保健室の外の廊下はひんやりとして冷たい。春の陽気とは正反対の温度が結構、気持ちいい。

そんな事を長く感じている時間は無いので、早々に立ち上がり、蛍先輩のうしろ姿を追いかける。もう先輩は下駄箱を通り過ぎていた。

「待ってください」

「早く来い、上杉」

待ってくれと言ったのに、それを無視してスタスタと歩いていく蛍先輩。先輩が歩いていると、鮮やかな赤色のポニーテールがキラキラと輝いて、風でなびきモデルというか、一種のオーラを出している。小さいけど。

靴を履くと走って、蛍先輩に追いつく。

「上杉、ちょっと付き合え」

 俺の制服の袖をガッチリと掴むと蛍先輩が走り出す。その人懐っこい笑顔と怪力に俺は抵抗する気が出なかった。

『上杉くんと弦時先輩だよ』

『本当だ、腕組んで走ってる。付き合っているのかな?』

『でも、上杉くんって藤堂くんと付き合っているんでしょ』

 クラスメイトのささやき声が耳に入ってくる。人間の耳は便利だよな、自分に関係あることだけちゃんと聞き取れるんだから。

 みんなに凄く誤解されているから止まって欲しいと蛍先輩に言う勇気は、俺には無いんだよ。明日、登校しづらいだろうな。

(あー、あ)

 そんなこんなでクラスメイトの誤解と男子たちの殺気が飛び交う中、美しい夕日に照らされながら、俺は蛍先輩と下校した。いや、連行された。


ところ変わって、一足先に帰っていたはずのききょうとライチは男子寮の近くにある公園にいた。日が落ちかけているせいか、もう周りに遊んでいる親子は、いない。騒がしい小学生たちももう既に帰って、ききょうとライチ二人だけが公園にいる状態だ。

 日陰にある少しコケむして、湿った木製のベンチに二人は腰掛けている。ここに来ようと提案したのはききょうの方。

 ききょうがゆっくりと口を開き、話を切り出す。

「ここは私と涼真が昔遊んだ公園。あんたも遊んだ事あるでしょ」

「……うん。でも僕はききょうの事を知らない」

「私は一時期、違うところにいたから。たぶん、私が引越しした後にライチが来たんだと思うわ」

「そうなのか……」

 まず、ききょうは自分も涼真の幼馴染であることをライチに話した。二人の手に汗がにじむ。

「で、本題に入るけど。なんで私がいない間にあんな変態になってるの?」

「僕にも分からない。だけどブルマが大好きっていうのは……」

「嫌よね」

「……うん」

 ここにきて息の合う二人であった。

「私の事も忘れているみたいだし……」

 ライチに聞こえないようにボソッと小声でつぶやくききょう。そして何か閃いたかのように目を輝かせる。

「ねえ、ライチ。記憶が無いから変態になったと思わない?」

「え?」

 ライチの顔が少し曇り、考え事を始める。

 ライチの顔とは対照的にききょうの顔は輝き、自分の考えに自信満々なようだ。

「でも、確かに……記憶がない理由になるかも」

 学年トップクラスの頭脳がグルグルと回転し、考えを導き出す。しかし、今回は学年トップクラスの頭脳も役に立たなかったようだ。

「そうかもしれない」

「でしょ! よしっ、問題は解決ね。あとは涼真に私のことを思い出してもらえば変態は治るはずよ」

「……そうかな」

 涼真以外の人間の前では男のライチの女心は複雑である。ききょうは涼真の男友達として話しかけてくるので、少し傷付くライチであった。

「……ききょうも涼真のこと好きなのかな?」

「ん、なんか言った?」

「えっと、ききょうは涼真のことが好きなのかなと思って」

 器量よし、性格よし、正直者のライチであった。

「そ、そそそんなわけないじゃない! 馬鹿じゃないの。私が涼真を好きになるなんて、百万光年早いわよ!」

ライチの言葉を聞いて耳まで真っ赤になっているのは銀髪美少女、ききょう。真っ赤な顔と銀髪が相まって、可愛さ増量中だ。

「……脈ありなんだ。ききょうって恥ずかしがると可愛いね」

「かか、か可愛くなんかない!」

 涼真以外の男とはいえ美少年に言われて、少しドキッとしたききょう。

「……何言い出すのよ、ライチ。涼真の親友はやっぱり鈍いのね」

「なんか言った?」

「な、何も。それより涼真の武装、あれは何?」

 と疑問を漏らすききょう。その疑問の答えをライチが知っているはずが無く、分からないという返答が続く。ききょうは少し考えた後に自分の考えを述べる事にする。

「涼真ってランクは凡才よね?」

「うん」

「なのに、二人の天才の攻撃を受けきった。普通の凡才ではありえない。部長は気のせいと言っていたけど、そんなわけない。いくら手を抜いていたとは言っても、私と部長の武装の攻撃力は凡才の武装ごときじゃ受け切れない。一撃で吹っ飛ぶはず。で結論を言うと私もまだ見た事無いけど、涼真の武装は」

「「成長型超F武装」」

 文字通りに成長していく武装。絶対に存在すると言われながら、その武装を構築できる才能を持つ人間はいない。机上の空論とまで言われる超科学の未知と謎。その武装を涼真は持っていると二人は予想する。

「確か、あれは武装自体が意思を持っていて装備する人間に働きかけるらしいけど」

 そのききょうの言葉を聞き、ライチが閃く。

「武装が涼真の記憶を操作している可能性があるかも」

「仮説では装備を完全に成長させれば、意思には干渉されなくなるはず」

 二人の考えが一致する。

「涼真の変態を治すには生徒会との戦いも重要ってことね」

「僕もそう思う」

「じゃあ、涼真の変態を治すために生徒会を倒して、私のことを思い出してもらうわよ!」

「分かった」

 二人は心の内に熱い思いを秘めて、思い出の公園を立ち去った。

 日は闇に沈みかけ、空に鮮やかな赤色と藍色のグラデーションを生み出していた。


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