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ブルマーズラブ  作者: QOLI
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プロローグ

プロローグ


 進級して新入生を迎えた日の翌日、春の心地よい陽気と風の舞い散る桜に包まれる快帝学園の屋上に、俺はいた。桜のほのかな香りが鼻をくすぐり、暖かな日差しが俺の高ぶる気持ちを落ち着かせる。

 胸が震え、今すぐ踊りだしそうになる。

「はあはあはあ」

 激しい衝動を静めようと深呼吸する。

 まず、俺がこの学園に入った説明をしよう。この学園は少し変わった体質を持つ者が入学を許される。しかしそんな事はどうでもいい。特筆すべきは古き良き、素晴らしい衣類を体操着にしている事だ。


 濃紺の宝物、艶やかな生地。女の子の美しさを最大に引き出す魔法の衣類。

 そう、ブルマだ。アスレチックブルマ、スポーツブルマ、スクールショーツ、ニットブルマ、呼び名はたくさんあるが全て美しいブルマを表す。

 おしりのくっきりとしたライン、露になる白い太腿。最高だ!

 戦国の世でも無双であろう、ブルマだ。

 俺の夢を無限に広げてくれる、ブルマ。

 俺の魂、信念、座右の銘であるブルマ。

 俺の人生を変えたブルマ。

 俺が生きる意味であるブルマ。


 分からないかも知れないが、俺はブルマが大好きだ。


ブルマこそ、人類史上最高の衣類。

 ブルマに尽きる。

 俺の人生はブルマに尽きるんだ。


 ブルマは最高、最強!


 これ以外にないと言っても過言ではない。

 なぜなら、俺は世に言うBL男子。ブルマーズラブ男子なのだ。ブルマ万歳!

 そして、授業終わりの放課後、帰宅部の俺は家に帰らずに、部活動中の女子のブルマ姿を堪能しているというわけだ。なんとも言えない有意義な時間。

 屋上は素晴らしいな。ブルマだ、ブルマだ、ブルマ祭りだ。

 女子陸上部の汗のにじんだブルマは最高だな。そして美少女のブルマ姿も。

「しかし、これもそろそろ見納めか……」

 始業式の日に俺にとって悪魔の知らせが届いた。

 そう、今年から生徒会の方針でブルマの廃止が決まったのだ。執行はまだ少し後らしいが、俺にとっては命にも等しいブルマが見られなくなるのはなんとも惜しい。

「どうすれば、阻止できるんだ」

 俺には分からない。


第一章 やってきたのは銀髪美少女


 カーテンから漏れ出た日光が朝を知らせる。まだまだ眠り足りないが、今日は月曜日。学校だ。新しい学年になってまだ一週間、まだまだ春休みのボケは取れきっていない。ただでさえ、春休みの宿題を徹夜でやって寝不足、疲労困憊だったんだ。あげく学校なんて疲れがどんどんと溜まっていく。二日の休みごときでこの世紀末級の疲労など取れるはずもない。

まだ寝ていたいという気持ちと眠気と激闘しながら布団、じゃなくてソファで寝てしまったようだ、硬いソファに寝そべってぐずぐずとしているとインターフォンが鳴った。

「……誰だ。朝早くから」

 朝早いせいで、ガラガラとした声が出た。

 しかし俺が住んでいるこの部屋は、快帝学園内の近くにある男子寮の部屋の一つだ。なので、たまに事務員さんとかが来る事があるがこんなに早くは来ない。

壁にかかった時計を見ると時刻は午前六時。もう一度、インターフォンが鳴った。

「うるさいな」

 布団から抜け出し玄関へと急ぐ。

 鍵を開け、玄関のドアを開くと春の香りが部屋の中に入ってきた。そして、

「あんたが上杉涼真?」

「……そうだけど」

 そこに立っていたのは小学生ぐらいの背丈の女の子。透き通るような銀髪をツインテールに結び、風になびかせている。俺と同じ快帝学園の制服を着ている。高校生なのだろうか。

それにしてもブルマが似合いそうな超絶に可愛い子だ。

 しかし、なぜ男子寮に女の子がいる?

「何か用か?」

 普通、用がなければこんな朝早くに来ないけどな。

「私は柚木ききょう。私をここに少しの間泊めなさい」

 なんで命令口調なのだ。ゆぬきききょう……聞き覚えがあるな。いや、気のせいか。

「何よ、その目! しょうがないわね。し、下着を見せてあげるから泊めなさい」

 そう言って柚木ききょうは制服のスカートの裾を掴み上げた。白い太腿があらわになる。

「ちょ、ちょっと待て!」

 いきなり下着を見せるとか言われても。

 俺が止めると柚木ききょうは困惑し、すぐに顔を真っ赤にする。

「な、何よ。下着でもダメって言うの!? しょ、しょうがないわね、むむ、胸を触らせてあげるから私を部屋に泊めなさい!」

 そう言うと柚木ききょうは俺の手を掴み、自分の胸に近づける。

「だから、待てって!」

 お前に胸はない。その小学生並の背丈からして胸のサイズはAカップないだろう。

そして展開を急ぎすぎだ。

柚木ききょうの方は先程より数倍顔を真っ赤にする。

「……まさかそれ以上を求める気……。この変態!」

そして『ド変態! ドド変態!』と叫ぶ柚木ききょう。先まで下着を見せようとして、胸を触らせようとしたりした奴には言われたくない。

ドをいっぱい付ければいいってもんでもないぞ。

「用が無いなら帰れよ」

「だから、私を泊めてって、言っているの!」

 なんで俺がお前を泊めないといけないんだ。男が全員、美少女に弱いと思うなよ。ブルマを穿いていない美少女など、美少女でもなんでもないわ。興味はあるけどな。

 俺はドアを閉めようとする。すると柚木ききょうはドアノブをガッシリと掴み、凄まじい力でドアを引っ張ってくる。

 ドアがきしんでる! ドアノブ唸ってる! 歪んでる!

「今すぐ服を脱いで犯されましたって叫ぼうかなー」

「な、何を言い出すんだお前は」

「じゃあ、部屋に入れて」

 そう言って、柚木ききょうは強引に部屋に入ってきた。しょうがない、何か事情があるんだろう。話を聞いてやろう。

 柚木ききょうをもう一つのソファに座らせて、俺は向かいにあるさっきまで寝ていたソファに座る。

 柚木ききょうは持ってきた旅行用の大きなカバンをドカッとテーブルに乗せると、話を切り出した。

「私は寮を追い出されて、寝る場所がないの。か弱い乙女が一人、公園で寝るのは危険でしょ。だから私を泊めて」

 お前が襲われる危険は少ないと思うが。襲ってくるのは、ロリコンとか言われる変態ぐらいじゃないのか。

「何で寮を追い出されたんだ?」

 快帝学園は全寮制だし、寮のお金さえ出せば追い出せる事はないはずだが。

「私は家族がいないの。だけど、今まで才能ランキングの上位者の学費免除でなんとかなっていたの。だけど今年から学費免除は第一位だけになったの。だから私は寮から追い出されたの」

 この場合の才能はテストの点数とか、運動とかではない。

数十年前にアインシュタインの相対性理論が崩れ、新しい理論を世界中の科学者が考えている時に起きた事件。『空飛ぶ鎧』から始まる。

文字通り鎧が空を飛んだわけではなく、鎧を装備した人間が、初めて飛行機などを使わず飛行したため『空飛ぶ鎧』と呼ばれている。おかげで相対性理論が崩れたわけだが、日常生活に大きな変化はもたらさなかった。

 鎧とは、自分だけの新たな仮説を作り上げる事によって、今までの常識や科学で通用するような法則が全く関係なくなる未知の武装、兵器の事である。兵器と言っても、ロボットとかいった類の物ではなく、全くの別物、科学法則なんか無視して、性能を発揮する。かといって、魔術とかオカルトとかいった分類でもない。ただの超能力でもない。

 その空飛ぶ鎧、正式名、超F武装を構築、装備し使える人間を、才能を持つ者のことを能力者と呼び、その能力者となりえる高校生を集めたのが世界で唯一ここ、快帝学園。

 最初の能力者が重力を無視して、空中を浮遊する能力を得たためスーパーフライングアーマーズ、超F武装と言うのだが、今では個人の才能によって多種多様になっている、しかし共通して空中を浮遊できる。

以上、教科書から抜粋。つまらない説明だったが、要はとんでも武装ってことだ。

それにしてもこいつはどうやら上位の人間らしいな。こんな小さい子より俺は弱いのか……

上位には学費免除の制度があったのか。知らなかった。

「私の武装ランクは天才」

 ランクは下から浮遊能力と少しの武装しか持たない凡才、凡才より強力な武装を持つ良才、さらにパワーアップしたのが秀才、立派に軍隊と戦えるレベルが鬼才、そして軍隊を叩き潰せるのが天才。こいつ、最高ランクかよ! ちなみに俺は凡才だ。

結構、うらやましかったりする。

「事情は分かった」

「泊めてくれるの?」

「ブルマを穿いたところを写真に撮らせてくれたらな」

 ブルマほど最強のアイテムはない。ブルマさえ穿いてくれたら、俺はなんでもする。そして銀髪美少女のブルマ姿はぜひとも見たい、例え死んでも、何を言われようとも。

「うむ」

「うむじゃなあぃいい! な、何がブルマよ!」

 柚木ききょうは顔を耳まで赤くすると勢いよく立ち上がった。

「なら、泊めてやらない。大体、俺が泊める必要は無いだろう」

 美少女だけでは俺は動かない。ブルマこそ俺を動かす原動力。

「……た、確かに変態だわ。……でもここで承諾すればなんでも聞いてくれるって噂だし」

 なんかブツブツ言っている。

 ブツブツ言うのをやめて決心したように顔を上げた。

「分かったわ。その代わり、私を泊めるだけじゃなく校則を変えるのも手伝いなさい。校則を変えない限り、私はこの部屋から出て行かないから」

「もちろんだ!」

 俺だって校則の変更は必要だ。

「じゃあ契約完了ね。えっとりょう、じゃなくて涼真」

「……ああ、ききょう」

 なんか面倒くさい事になったがブルマの写真が撮れるならいいかな。体育の時間だけじゃ足りないし。もう廃止になるかもしれないし。

 ふと時刻を確認する。

「やばっ! 遅刻する!」

「ええっ!」

 俺は週明け早々遅刻することとなった。


 登校時刻ぎりぎりで学校に着く。

「そういえばお前って何年?」

「どこから見たって二年でしょ」

 その身長で高校二年か……

 教室に向かって走り出そうとするとききょうは逆の方向に行こうとする。

「どこに行くんだ?」

「屋上よ。学校の勉強なんて興味ないの。何か生徒会を潰すいい方法が見つかったら呼んで」

 そう言ってききょうは屋上に向かう階段に行ってしまった。そうならわざわざ走って登校する必要は無かったんじゃないか。

 しかしどうやって生徒会を倒すんだ? 

 そんな事を考えているうちに教室に着く。自分の席に座る。

隣の席には、

「おはよう。涼真」

「おはよう」

 肩まで伸びた艶やかなブラウンの髪。健康的な白い肌。細い足腰。完璧な美少年。こいつは残念ながら男だが俺の中学の時からの幼馴染、藤堂ライチ。男の俺から見ても羨ましいほどの美しさである。

「今日はどうしたんだ?」

「相談に乗ってくれるか?」

「もちろん。涼真の相談ならいつでも僕は聞くよ」

「そうか」

 俺は朝の出来事を全部話した。

「涼真はその子のブルマ姿が見たいのか? 僕ならいつでも見せてやるのに……」

「人の話を聞け!」

 全く小学校の時から人の話をスルーするからなこいつは。

「ライチ、方法を考えてくれ」

 なんだかんだ言ってもこいつはなかなか頭がいい。悪知恵にいたっては学年トップである。

「やっぱり生徒会に直接言うしかないと思う」

「生徒会に直接か?」

「うん」

 ライチが俺の目をしっかりと見つめながら首を縦に振る。その真剣な眼差しに少し気圧される。

 だが、生徒会と言えば才能ランキングの上位の集まりだし、生徒会長にいたっては毎年、ランキングで一位になった奴がなる制度だし。話を聞いてくれる気がしない。むしろ追い返される気がする。

「とりあえず、朝会った奴とも相談しなくちゃいけないから、放課後に詳しく考えようぜ」

「うん、分かった」

 俺達の話が終わるタイミングとジャストのところで朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。


 退屈な授業も終わりを告げ、いつもならブルマを見られる至福の時間である放課後が訪れる。今日はもちろんききょうとの作戦会議があるので、見ることはできないだろうが。

「ライチ、行くぞ」

「分かったけど、どこ行くの?」

「屋上だ」

「屋上?」

「朝会った奴が屋上で待っているんだよ。ほら、早く行くぞ」

 ライチが少しとまどったような表情をしながらもうなずき、カバンを持って俺についてくる。後ろでクラスの連中が騒いでいる気がするが俺達のことではないだろう。

『ライチ君と涼真君って付き合っているのかな?』

『私もそう思うよー』

 なんだ、その的外れな予想は。

 俺とライチは男同士だぞ。幼馴染とは言っても男だ。いくら俺がブルマ好きの変態だったとしても断じてボーイズラブではない。俺のBLはブルマーズラブだ。

「……手繋いでいいか?」

「どうした、ライチ」

 クラスの連中の話を聞いてライチが発狂してしまったようだ。

「……なんでもない」

「そうか」

 頬をほんのりと桜色に染めてライチがボソッとつぶやく。そして顔を少し背ける。

 その仕草とライチの可憐な横顔は俺の男心を見事に打ち砕いた。なんだ、こいつ。めちゃくちゃ可愛いじゃないか、男だけど。

 桜色に染まった頬に、長いまつげで隠れる大きな目。夕日に照らされるライチの横顔は情緒を生み出していて、絵になる風景だった

「そんなに見つめるな、涼真。恥ずかしいじゃないか」

「ご、ごめん」

 恥らうかのように耳まで赤くなるライチ。細い指で、髪をかきあげる。その単純な仕草にまたドキドキしたというのは内緒にしておこう。本当にライチは男なのだろうか、腰とかもほっそりとしていてくびれているし、指なんか女の子みたいに細くて制服の首元からのぞく白い肌は雪のようだ。

「「…………」」

 俺とライチの間に気まずい空気が流れる。やっぱ見すぎたかな。

 何も話せず、沈黙を守っている内に屋上の入り口の前までくる。

「開けるぞ」

 屋上の金属製の重いドアを押し開き、屋上の広場に出る。昨日と同じように春の香りが俺の鼻をくすぐる。

「おーい、ききょう」

 大きめの声でききょうを呼ぶ。

「あ、来たのね」

 屋上にある木製の長イスの陰からききょうが顔を出す。本当に屋上に登校しているんだな。出席していることになるのかな、なるんだったら俺も屋上登校したい。

「お前が来いって言ったんだろ」

「ん? 隣の子誰?」

 ききょうがライチは指差す。

「藤堂ライチです。僕も協力することになったので、よろしく」

「柚木ききょうよ。よろしく」

 二人が自己紹介を終える。美少年と美少女のツーショットは屋上にはピッタシだな。

「で、作戦は考えた?」

 ききょうの銀髪ツインテールが揺れ、光を反射させて煌く。こいつも外見だけなら相当の美少女なのだが、性格が……

「とりあえず、生徒会に掛け合うのがいいのと思う」

「生徒会か。いいんじゃない」

 偉そうにききょうが長イスにふんぞり返る。

「涼真、言い忘れたんだけど、校則で生徒会の方針、政策に異議がある者はその才能を持って生徒会役員と決闘し勝つ事によってその異議を通す事ができるって書いてあるんだけど」

 ライチが長い説明をしてくれる。

「簡単に説明してくれ」

「生徒会と戦って勝ったら意見を聞いてやるってこと」

 ということは俺達三人で生徒会と戦って勝たないといけないのか。それは無理だろ。俺の武装ランクは最低の凡才だぞ。ききょうが天才だとしても無理があるだろ。

「まあ、大丈夫なんじゃない。私は天才だし。今年は生徒会のメンバーは生徒会長一人だし」

 ききょうが楽観的な意見を言う。

「生徒会って一人でできるのか?」

「できるでしょ、実際やっているし」

 そんな事でいいのか。この学園いろいろとむちゃくちゃだな。学費は安いし、他に払っているのは寮のお金と個人的な出費だけだ。寮の部屋もキッチン、リビング、寝室、トイレ風呂付。俺みたいな貧乏学生にとっては天国以外の何物でもない。

「そういえば生徒会長一人なんだ?」

「私もだけどやめたのよ。会長が天才というか狂っているから」

 そうか会長さんは狂っているのか、ききょうに狂っていると言われるとはどんな人間なんだ。妖怪か吸血鬼かゾンビか。

 ん? ちょっと待てよ。

「今、私もって言わなかったか?」

「面倒くさいから、辞めたのよ。文句ある?」

 透き通るような綺麗な瞳でききょうが威圧してくる。だが、俺は文句を言う。

「あるも何も、辞めなきゃ戦う必要も無かったんじゃ」

「うるさいわね、辞めちゃったものは仕方がないの! ちゃんと私のパートナーになりなさい!」

「パートナーっておい。そこまで約束してないぞ」

「ふぇ。べ、別にそういう意味じゃないし、変な事考えるな、この変態!」

 立ち上がって必死に弁解するききょう。これで何回目かなこいつに変態って言われるの。そんな事言っても、健全な男子高校生という生き物は変なこと考える生き物だし。ライチは健全じゃないからな、清純派美少年を地で行っている。

 怒ったききょうがイスに手を付き、体を反転させてジャンプ。見とれるほど華麗な動きだった。

 しかし、見とれている場合ではなかったようだ。手でイスを弾き、俺の頭上にジャンプしたききょうは小さな足を俺の脳天に振り下ろした。靴の硬いかかと部分が頭皮にめりこむ。

 見事な空中かかと落としが決まった、俺に。

「ぐがっ」

 肺から口に空気が漏れる。

 脳に激痛と振動が走る。目の前が少しずつ暗くなってきて、平衡感覚を失う。

「涼真!」

 ライチの叫びを聞いて、目を開けると灰色のコンクリートの床が見えた。白い果物の果実のような甘い匂いが鼻をくすぐった。その心地よい匂いに心を奪われ、もう一度目を瞑り、鼻をこすりつけて匂いを堪能する。

 もう一回気を失いそうなほど、幸せだ。

「りょ、涼真。そんな顔を押し付けないで」

「……ごご、ごめん」

 急いでライチの腰の位置にあった手を離し、飛び跳ねるようにライチから距離を取る。ライチが少し寂しそうな顔をする。

「…………そんな勢いで離れなくてもいいのに」

 なんかボソボソと喋っている。

「何か言ったか?」

「な、何も言ってない」

 ライチが両手をブンブンと振りながら首を横に振って否定する。

 そんな一生懸命に否定しなくてもいいのに。

「ちっ……、そのぐらいで気絶するな」

 振り向いて後ろを見るとききょうが腕を組んで立っていた。残念ながら身長的な問題で俺を見下ろすどころか、見上げる状態だが。

「お前な、手加減しろよ」

「今のは五割よ」

 マジか、今ので五割か。あと五割は出さないで欲しい、できれば一生。

「というか、涼真。あんたランク何?」

「凡才だけど」

 くそっ、屈辱だ。

「涼真、あんた変態で凡才なの。顔も平凡だし、量産型変態とはあんたのことね」

 変態を量産してどうする。男はみんな変態だと思うけどな。ライチは男ではない、……そう思いたい。というかそう思わないとボーイズラブということになってしまう。

「ライチは?」

「僕は秀才だよ」

「量産型変態よりは役に立ちそうね」

 俺は量産型じゃねえ、特別製だ。

 変態でも――

「何か言いたいの? 変態」

 はい、変態です。

 認めざるおえません。

「お前だって朝から胸触らせようとしたりしたじゃねえか!」

「っ! う、うるさいこの変態! あんたが素直に部屋に泊めようとしないから悪いのよ」

「いや、俺が部屋に泊める義務も権利もない。というかなんで俺の部屋なんだ?」

 他に行く当てもというか、女子に泊めてもらうべきだろう。

「あんたが変態だから。それに私に女友達は必要ないの!」

 そうか、俺が変態だからか……

「答えになってないから」

「もう、うるさい! それ以上言うと裸で校庭を走らせるわよ!」

「お前、ものすごいエロいことを叫んでいるぞ」

 俺の忠告を聞いて、真っ赤になるききょう。小さな顔が赤くなってさくらんぼみたいだ。

「だ、黙りなさい」

 さっきまでの元気はどこへ行ったのやら。

「なあ、涼真。ききょうは涼真の部屋に泊まっているのか?」

 静かに沈黙を守っていたライチが口を開き、俺に疑問を投げかけてくる。

 うん、そうだな。これはどうやって答えればいいのかな?

「そうよ」

 俺が必死に誤魔化しの言葉を考えているとききょうが返答してしまった。

「そうか……涼真……それでききょうの頼みを聞いたのか。付き合っているから……」

「ち、違う――」

「こ、こんなゴ、ゴミ屑と付き合うわけないでしょ」

 さりげなく、いや堂々とバカにされたな、俺。

「やっぱりそんなはずないか。涼真に彼女なんて」

「納得するな!」

 なんでそこだけはっきりとした口調で言うんだよ。仮にも幼馴染、少しは俺のいい所をだって見つけているはずだろう。

「でも泊めているんだな?」

 ライチが確かめるような口調で聞いてくる。

「ああ」

 これだけは否定しようがない事実だしな。

「……うーん……そうか!」

 ライチが小声で何か言っている。考え事をしているようだ。

そして何かひらめいたように顔を上げる。

 おもむろに口を開くとライチは、


「じゃあ、僕も涼真の部屋に泊まる事にする」


こう断言した。

 その言葉には迷いもとまどいもない。俺に聞いているわけでもない。もう決まった事かのように言いはなった。

「「えぇえええええええええええええええええええ!!」」

 俺とききょうの反応は数秒後にきた。

「いいだろう、涼真。僕も涼真の部屋に泊まる事にするよ」

「……いいけど」

 あまりに力のこもったライチの言葉についつい押されてしまった。

 しかし、女子を泊めておいて、男子をそれも学園一の美少年を泊めないのは矛盾している。まあ、ライチのブルマ姿も拝めるかもしれないし。

 デメリットは少ないだろう。

「じゃあ、そろそろ帰るわよ」

「ああ」

 ききょうに言われて、帰る事にする。

 下駄箱で靴を履き、男子寮に続く道を歩いているとききょうが口を開く。

「涼真、ブルマのどこがいいの?」

ブルマ? そりゃもちろん。

「あらわになる女の子の白い太腿、下着とは違った間接的なエロさ。そしてなんとも言えない食い込みいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

 最後の言葉を言い切らない内にききょうの鉄拳制裁がきた。

「ぐおっ」

 まあ、女の子らしい小さな手なのでそこまで威力は強くないが。

「それ以上言ったら――」

「なんだ?」

「な、なんでもない」

 顔をほんのりと赤らめながらききょうが誤魔化す。

「そうか」

 どうせ、俺の頭蓋骨でも粉砕するつもりなのだろう。寒気がするので聞かないようにしよう。想像ももちろんしない。


 男子寮は学校から近い場所にあるので、少し歩くだけだ。

「とりあえず、僕は荷物を取ってくるよ」

 そう言うとライチは自分の部屋に行った。ライチの部屋は最上階、俺は三階。なんと言ってもお金持ちと貧乏人の扱いは違うのだ。

「ふぅ……入るわよ」

 ききょうが俺の部屋にズカズカと入っていく。

まだ俺はお前を泊めるって決めた訳じゃないしそんないつもの事みたいな顔をして入っていくな。あくまでお前は居候だ。

ブルマさえなければいつでも追い出してやるからな。

部屋に入りながら一人、心の中で文句を言っているとききょうが話しかけてきた。

「とりあえずシャワー借りるわよ」

 美少女の入浴シーンか。

 ききょうを横目で見てみる。

 やっぱり、胸の膨らみはないな。断崖絶壁、刑事ドラマのラストに最適な絶壁具合だ。

「何見てるのよ、変態!」

 すいませんでした。

 こいつ、俺の目線に気付いていたのか?

「うーん」

 いつの間にかききょうがいなくなっている。

 あいつ、着替え……チャックを開けたままの旅行用カバン。

なんという早技。

 そういえばバスタオルは洗面所に置いてないな。

「どこだっけ……」

 部屋の中に干してある洗濯物の中からバスタオルを探し出しききょうがシャワーを浴びて出てくる前に置いてこようと忍び足で洗面所の入り口まで移動。

「…………」

 しかし、ここからが問題だ。

 ゆっくりと音を立てないようにドアを開ける。よし、まだ出てきていないようだ。シャワーの音が聞こえてくる。

 すりガラスにうつるききょうのシルエット。

「…………くっ」

 じっと我慢し自我をなんとか保つ。

「!!!!!!」

 乱雑に脱ぎ捨てられた制服、そして……純白の下着。サイズはAカップ……寄せてあげ、じゃない!

 目線を明後日の方向に向けながらバスタオルを洗面台の上に置く。

 後は気付かれない内に戻るだけ。

 少しでも音を立てないようにしながら移動する。


 そして開かれたドアのきしむ音。


 ちなみに俺はドアを開けていないしドアノブに手をつけてもいない。手にあるのはバスタオルと驚いて握ってしまったききょうの下着。

 という事は必然的に開かれたのは……

「涼真ぁあああああああああ! 一体ここで何をしているのかしら」

 後ろから向けられる殺気。

「い、いや、バスタオルを置きに来ただけだよ」

「じゃあ、その右手に持っている白い布は何!?」

 ゆっくりと右手に握られているものに目を向ける。

 それは、

「いや、これは偶然というか……」

 純白の布、ききょうの下着である。

「ふーん、そうなんだ」

 何だ、納得してくれたのか。

「じゃあ俺は出るよ」

ドアノブに手を掛けようとする。

「殺ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおス!!」

 ききょうの声とは思えない、断末魔の叫び。

 俺が振り向き受身を取ろうとした時にはもうききょうの体は目の前に、

「うわあ!!」

 どうやら濡れた足で走り、飛び蹴りをしようとしたせいで滑ったらしい。

 そしてバランスが取れず前屈みになるききょう。その前には俺。

 ドカッボカッドカッ!

 まるでアニメのような効果音。

 あまりの勢いでぶつかったものだから洗面所のドアを押し開き外に飛び出していた。

「……うっ…………」

 体にかかる体重。

 俺の上にききょうが乗っかって気絶していた。

 髪の毛が俺の頬をなでききょうの体温が俺の冷え切った体を温める。ほんのりと香る柑橘類、柚のような匂い。

俺の首にかかるしっとりとした息と胸の辺りから感じる柔らかい物体。

ききょうみたいな小さな胸でも、こんなに柔らかいんだな。

こんな小さな胸なのに俺の心拍数はドクドクと上がっていた。

「……………ふぅ」

 なんか優しい気分になってきた。


 しかし無常にもインターフォンが鳴る。


 洗面所は玄関のすぐ横にある。という事で、今俺とききょうがいる場所は玄関のまん前。

「おーい、涼真。入るぞー」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 俺の必死の願いも届かず開かれる玄関のドア。

 やばい、今の俺の状態は相当やばい。

 男の上に覆いかぶさる裸の女の子。しかも気を失っている。

 そして乗っかっている男は俺。この状態から考えられる事は……

「涼真。どこだー!?」

 玄関で固まる俺の親友、藤堂ライチ。

「涼真、お取り込み中失礼するがそれはお前がわざとやった事か?」

「わ、わざとじゃない、だ、だから一緒にどかすのを手伝ってくれ」

「それは出来ないな。僕は変態と友達になった覚えは無いからな」

 ゆっくりと歩み寄ってくる俺の幼馴染だった……藤堂ライチ。

「さよなら、涼真」

 そう一言だけ俺に向かって言うと、ライチは勢いよく足を上げる。

 そしてライチの必殺の踵落としが身動きの取れない俺の眉間に直撃した。

「…………ぐっ」


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