9 佐倉真由子という女
帰宅部である私は、放課後はもっぱら図書室で時間を潰すことが多い。
花蓮はデートだし。葵と雪音は部活。
なので、大体一人で宿題をしたり、借りた本を読んだりしている。
両親は共働きだし、一人っ子なので、自分一人のために光熱費を使うのはもったいない。特に、夏場と冬場。
私ってば、経済的な女子高生だよね?
今日は金曜日だし、土日にゆっくり読書でもしようかと思って、読みでのありそうな本を探している最中だった。
フラフラと本棚の間を歩き回って、目星を付けた本を取り出してパラパラとページをめくってみる。
14歳の女の子が主人公の哲学の本。発売した当初は結構なブームになったらしい。字も割と大き目だし、物語風になってて読みやすそう。主人公が14歳ってことは、中学生でも読めるように書かれてるんじゃないかな?
よし。これにしよう。
パタンと本を閉じたのを見計らったかのように、スススッと近づいてくる影があった。
「葉山ちん。久しぶりー」
うわ。面倒なのに見つかった。
「あー、うん。久しぶり?」
はんなりとした日本画風の、好みは分かれるが、まあ美人の範疇に入るだろう。
佐倉真由子。一年生の時のクラスメートで、私の友達・・・ということになっている。
本人からは呼び捨てでいいと言われているけれど、私は真由子サンと呼んでいる。他のクラスメートがみんなそう呼んでいるので、私もそれに倣うことにしたのだ。
「葉山桜と佐倉真由子で、さくらつながりだね?」
とか、よく分からんことを言われて、何となく一緒にいるようになった。お互いに、同じクラスに見知った顔がいなかったせいもあって、結局一年生の間はずっとこいつとセット扱いになっていた。
クラスの違う花蓮とは、合コンに誘われたりお茶に誘われたりと、学校の外での付き合いもあったけれど、こいつとは外で遊んだことはない。
別に孤高を気取っているわけじゃないので、学校内ではやっぱりつるむ相手っていうのは必要じゃない?
だけど、学校の外で迄は一緒にいたくないっていうかさ。
まあ、こいつも悪い奴じゃないんだけどね?
「あ。葉山ちん、それ借りるの? 私も読んだことあるよ、その本。んー、でも、葉山ちんにはちょっと難しいかな?」
こいつのこういうところがなー。
一年生の時から不動の学年トップ様は、ナチュラルに他人を見下してくるんだよなー。
今のは、要するに「自分に理解できたけど葉山ちんには難しいと思うよ☆」って意味だよね?
本人的には親切にアドバイスしているつもりらしいんだけどさ。『葉山ちんには』の一言は別にいらないよね? 頭、いいんだからさ。もう少し、取り繕えよ。
そもそも、特に意見も求めてないし。
それとも、わざとなのか?
「そうなの? まあ、図書室の本だし、タダだから借りてみるよ。難しいかどうかは読んでみれば分かるし」
「あ。そうか、そうだよね。読んでみれば、難しいかどうかくらい、葉山ちんにも分かるよね。ごめんごめん。余計なこと言ったね。うん。葉山ちんが借りたいなら、借りてみればいいと思うよ」
真由子さんは慌てたように言い繕った。
いや、てゆーか。それで、フォローのつもりかよ?
むしろ、火に油を注いでいると思うんだが。
もしかして、わざとこういう物言いをしてるのかなーと思ったこともあるんだけど。こっちが微妙な顔をしていると、フォローというラベルの貼られた瓶に入っている油を降り注いでくるのだ。
一応、やっちゃったという自覚はあるらしい。
それとも。これも含めて嫌みのつもりなんだろうか?
こいつのことは、よく分からん。
そもそも。どうして、こいつはうちの高校を受験したんだろうねー? こいつなら、もっとランクが上の高校も余裕で狙えたと思うのに。
不思議には思っていたけど、聞いたことはない。
何か面倒な事情があったら面倒だし。
そこまで、どうしても知りたいわけじゃないし。
向こうも何も言わないし。
はっきり言って、あんまり関わり合いになりたくないし。
「うん。そうするー」
フォローという名の油をさらっと流して、本を借りるために受付のカウンターに向かうことにする。
真由子サンは、構ってほしそうに私の後についてきた。
お前は一体、図書室に何しに来たんだよ?
「じゃーね、真由子サン。ごゆっくりー」
「あ、うん。またね。葉山ちん」
本当はここで少し読んでから帰りたかったんだけど、気が削がれたので退散することにした。こいつと話してると、読書への意欲が失われそうだし。
真由子サンは、名残惜しそうに手を振ると、本棚の間に消えていった。
もしかして、あいつ。クラス替えしてから、クラスに友達いないのかなー?
大いにありうる。
たまにカチンとくることはあるけど、特に実害はないので私は流していたけどさ。気に障る人は、とことん気に障るよね? あの言動。
もう少し、構ってやるべきだっただろうか?
まあ、いいか。
また、今度で。
てゆーかさ。
あいつ、頭はいいんだからさ。
ちゃんとした友達付き合いしたいなら、もう少し考えてしゃべれよ。
もう少し本性を隠してしゃべるか。
いっそのこと、とことん高飛車にいくか。
どっちかにすれば、少なくとも取り巻きは出来るんじゃないかと思う。




