7 それはまあ、不慮の事故ってもんだよね?
牧野雪音は隣村の山奥に住んでいる山の民だ。
山の民とみんなから呼ばれている。
言い始めたの、私だけど。
雪音は、その名の通りに、雪のように白い肌の持ち主だ。
だが、特筆すべきはそこではない。
魅惑の腹の谷間だ。
胸ではない。
腹だ。
二段腹ともいう。
マシュマロ肌、若しくは大福腹でもいい。
とにかく、あの腹は、夢見心地の揉み心地なのだ。
今回は、そんな雪音の腹にまつわる話である。
・・・・・・・・・・私的には、概ね。
「おはよー」
「おっそい、桜! 待ってた。超、待ってた!」
「え? ごめん?」
清々しい朝だというのに、机の上に鞄を置くなり、何だか不機嫌そうな雪音にいきなり怒られた。
えー?
遅いって言われても、まだ予鈴10分前だし。私的には普段通りなんだけど。
何コレ?
既に席についている花蓮と葵の様子を窺うと、二人とも肩をすくめながら挨拶を返してくれる。
事情は分からないが、とにかく不機嫌、と。
「事件は、昨日の夜に起こったんだよ」
山の民の事件かー。
お手柔らかにお願いします。
心の中で呟きながら、とりあえず、席に座った。
「風呂上りに髪の毛拭いてたら、マッパを覗かれたんだよ」
「はあ!?」
何、ソレ?
大事件じゃん!?
と、動揺しかけて我に返る。
いや、待てよ。
風呂を覗かれたんじゃなくて風呂上りってことは、痴漢とかじゃなくて身内の犯行? いや、不良の事故ってやつか。
うっかりドアを開けちゃったお父さんに見られちゃったとかかな。
うん。まあ。ご愁傷さまです。
事件性はなさそうなことに安心しつつも、誰かに訴えたい雪音の気持ちも分からないではないので、大人しく拝聴することにする。
「運の悪いことに、ドアの方を向いてたんだよ。両手は頭で、仁王立ちでさ。モロにバッチリだったんだよ」
う、うわー。
それは気まずい。
見ちゃった方も見られた方も、お互いに。
乙女としては「きゃっ」とか言いながらが、慌ててバスタオルで体を隠すとかしたいところだよね。
「ノックもなしにいきなりドアがガラッと開いてさ。目が合ったわけよ」
それで、相手は?
雪音って確か、お兄さんもいたはずだよね?
お父さんとお兄さん。
どっちの方がマシだろう?
「あのクソ親父。しばらく見つめあったあと、ゆっくりつま先まで見下ろしてから、またゆっくりと顔まで戻ってきて、その後。チラッと腹を見てフッとか鼻で笑って、何も言わずにドア締めて去っていきやがった!」
うくっ。
きゅっと腹筋に力を入れて、机の脚を握りしめる。
笑いたいけど、ここは我慢だ。
雪音ちゃんの乙女心に傷がついちゃうし。
一日中不機嫌でいられても面倒くさいし。
隣を見ると、葵も腹を抑えてプルプルしている。
でも。
こんな時でも、花蓮だけは至ってクールだった。
「雪音のマシュマロ腹の価値は見ただけじゃ分からないんだから、お父さんの手を掴んで触らせてやればよかったのに。一揉みすれば、お父さんもその真価に気付いて、娘の成長に感動したはず」
「ぶはっ」
もう駄目だ。
私は吹き出しながら机に頭をガツンと打ちつけて、爆笑することだけは何とかこらえる。
ふ、腹筋が捩れる。
「あんたたち、失礼でしょーが!」
うん。ごめん。その通りなんだけどさー。
「失礼? でも、事実だし。うまくすれば、今後その腹を使ってお小遣いとか稼げるんじゃない? 一揉み百円・・・・は、ちょっと高いか。1分間百円とかで」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
か、考えてるっ。
ふ、ふくっ。
か、花蓮さん。も、もうその辺で勘弁してください。
腹筋が、腹筋が壊れる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、しないから! そんな体を張った商売」
即答じゃないところが、なんともっ。
二人とも。頼むから、もうやめて。
「なんで? 別に減るもんじゃないし。ってゆーか。減ったら減ったで、雪音的には嬉しいんじゃないの? お金ももらえてダイエットも出来るなんて一石二鳥じゃない?」
も、揉みほぐしダイエット・・・・・・っ。
く、くふっ・・・・・・。
「んなっ!? た、確かに、減ったら嬉しいけど。でも、それやったら、減ったらいけない大事な何かが失われるでしょーが!?」
う、うーん。
乙女心とか? ソレ的なもの?
そして、やっぱり。脂肪は減ったら嬉しいのか。
「雪音にもあるの? そんなもの?」
うわ。
花蓮さん、ひどい。
てゆーか。
一連の発言は、冷静さを装って雪音をからかってるの?
それとも、冷静にアドバイスをしてるつもりなの?
「失礼でしょーが!?」
雪音の雄たけびはチャイムにかき消された。
よ、よかった。
これ以上、続けられたらたまらん。
腹筋的に。
しかし、今日。
まともに授業受けられるのかなー、私。
雪音の席は斜め前なんだよね。しかも、教卓より。
真面目に授業を受けようとすると、必ず雪音の姿が視界に入るのだ。
ダメだ。
目に入ったら、絶対思い出しちゃうよ。
一日中、腹筋酷使しまくりだよ。
もー。
どうしてくれるんだよー!?




