5 ガラケーにはさらなる進化を期待している
長かった飛び石連休の間にようやく冬物の片づけを終えて、晴れやかに登校した私に、花蓮の冷たい視線が突き刺さった。
ところで、飛び石の場合も長い連休って言うのかな? まあ、どうでもいいんだけど。
「おは・・・よう?」
「おはよう。桜。最後に携帯をチェックしたのはいつ?」
「携帯?」
そう言えば、連休中はずっと鞄の中だった気がするなー。飛び石登校した日も含めて。
もしかして、何かメールとか電話とかもらってたんだろうか?
確認しようと、鞄から携帯を取り出す。
「あ。死んでる・・・・」
壊れているという意味ではない。
充電すれば、息を吹き返すヤツだ。
つまりは、仮死状態?
「・・・・・・・・最後に充電したのはいつ?」
花蓮が質問を変えてきた。
口調からひんやりしたものが漂っている。
まあ、花蓮はシャーベットで出来てるからな。温めたら溶けちゃうから。仕方ない。
夏に冷房代わりになればいいのになー。世の中うまくいかないよねー。
「うん。たぶん、連休前かな。正確にいつだったかは思い出せない」
怒られるかなー、と思いつつも正直に答える。
花蓮はフーッと長い長いため息をついた。
もはや、怒るのを通り越して呆れているようだ。
「桜ってさあ、昭和の女子高生がタイムスリップしてきたみたいじゃね?」
「え? うーん。単に性格の問題じゃないかなあ?」
や、山の民に昭和人扱いされた。
こいつ、山の民のくせにスマホ使ってんだよなー。
雪音と葵は部活の連絡にLINEを使うとかで、スマホなんだよ。
私と花蓮は昔ながらのガラケー仲間だ。使い方とか、使用頻度には雲泥の差があるけど。
「えーと、それで。もしかして、何か連絡もらってた?」
だからこその、この話の流れなんだろうが、携帯が死んでて確認できないので、みんなに聞いてみる。
「うん。花蓮ちゃんから誘われて、昨日の午後、駅前のカフェでお茶してたんだよ」
「そうそう。一昨日の昼前にメールもらってね。返信の来ない桜には何度かメールしたって言ってたけど、まさか充電切れとはねー。そら、連絡もつかないわけだわ」
「一日一回は、メールチェックしろって言ってんのに。せめて、充電くらいはちゃんとしなさい」
「はい。ごめんなさい。帰ったら、速攻充電します」
いいなー。カフェでお茶かー。
私も行きたかったけど、自業自得なのでしょうがない。
私は素直に頭を下げて、充電を誓った。
基本的には、花蓮の休日は彼氏とのデートに費やされている。らしい。
のだが。
たまーに、お茶とかご飯とかに誘われる時がある。
たぶん、彼氏と別れて次の彼氏が決まるまでの繋ぎの時間なんだろうと勝手に推測している。もしかしたら、たまには女子とも遊びたいとか、そんな理由かもしれない。
実を言えば、花蓮からのメールをすっぽかすのはこれが初めてではない。
一年の時にも、何度かやらかしているのだ。
いや、決してワザとじゃないんだよ?
携帯は、基本、鞄の中に入れっぱなしだからなー。
部屋にいないと、鳴ってても気づかないんだよねー。
そのままうっかり、メールチェックや充電を怠って、結果的にそうなってしまったというか。
初めてやっちゃったときのことは、忘れられない。
隣のクラスだった花蓮が月曜の朝っぱら、私のクラスに冷気を漂わせながら乗り込んできたのだ。
「行きたくないなら、別に断ってもらっても構わないから。返信くらいはしてもらえる?」
言われて、慌てて鞄を漁って携帯を取り出したら、何やらお誘いのメールが何通か届いていてねー。
「ご、ごめん。気が付かなかった。メールが来るって分かってたら、気を付けてチェックしたんだけど」
「それじゃ、メールの意味がないでしょうが! 一日一回でいいから、ちゃんと携帯は確認しなさい」
悪気があったわけじゃなく、うっかりだったことは分かってもらえたけれど、結局怒られた。
それでも、懲りずにお誘いいただけるのは、ありがたいなーと思ってます。はい。
・・・・・・うっかりするたびに、ちゃんと確認しろって怒られるのも、ありがたいなーと思ってます・・・・・。思ってますよ?
「おっはよー。今日はちゃんと充電してきたから!」
忘れないように、宿題の出ていた数学のノートに、充電って書いておいたんだよねー。
手の甲とかに書くのは、ちょっと恥ずかしいしさー。
いやー、でも、効果ばっちりだったよ。
これからも、この手でいこう。
「充電するだけじゃなくて、チェックもちゃんとしなさいよね」
「あ、はい。もちろんです」
意気揚々としたあいさつは、冷たく叩き落とされた。
そうですね。そもそも、当然のことですよね。
そう言えば、充電終わってからメールチェックしようと思っててすっかり忘れてたなー、と鞄から携帯を取り出そうとしてハタと気が付く。
「あ。携帯、忘れた」
「充電しても、携帯してなきゃ、意味ないでしょーが!」
はい。ごもっとも。
充電器に刺しっぱなしだよ。
誰かさー。
自動で鞄から出てきて充電器まで行って、充電が終わったら自分で鞄まで戻ってくれる。
そんな夢の携帯を発明してくれないかなー。




