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2 自然発生する彼氏

「彼氏なんて、普通に生活してれば自然とできるものでしょう?」


 は、はあ?

 何言ってんだ、こいつ?


 なにか、とんでもないセリフを平然と言い放った後、クールに紙パックの牛乳をストローで吸い上げている高野花蓮を、みな唖然として見つめた。

「え・・・・と。まあ、花蓮ちゃんはそうかもしれないけど・・・」

 引きつった笑顔を浮かべながら、葵若菜は弁当箱の中に取り落としてしまった肉団子にブスリと箸を突き立てた。今度は落とさないようにするためなのか、あるいは別の意図があるのか。

 箸の先の肉団子がプルプル震えているところの見るにつけ、まあ聞くまでもない。

「そりゃまー、花蓮はそうかもしれんけどさー」

 呆れ顔でため息をついているのは、牧野雪音。隣村の山奥から通ってくる雪音には、妙な訛りがある。山の民の方言だろうか。

「自然発生するなんて、なんかボウフラみたいだよねー」

 最後の発言はこの私、葉山桜でございます。




 昼休み。

 お弁当を食べ始めた矢先の事件だった。

 事件は言いすぎか? いや、たぶん、葵的には大事件だと思われる。

 冒頭の発言が衝撃的過ぎて、前後の話は正直覚えていない。

 けど、たぶん。

 4人の中では比較的普通の女子高生が好みそうな話題を振ってくる葵が、彼氏欲しいなーみたいなことを言ったんだろう。

 それを受けての回答があれでは、そりゃ肉団子も取り落とすってもんだろう。落とした先が弁当箱の中だったのが、不幸中の幸いである。

 問題発言の主、花蓮は平然とした顔でサンドイッチを咀嚼しながら、フルフルしている葵を不思議そうに見つめている。

 こいつ。心の底からそう思ってるんだろうなー。

 悪気がないのが、恐ろしい。

 どこぞのアイドルグループに所属していてもおかしくない甘めの顔立ちにクールな眼差し。さっぱりしたショートカットの花蓮は、所謂男を切らさないタイプというヤツだった。

 彼氏といるときの花蓮は、冷やかさの中にも甘さが伴う。

 ミントシャーベットにグラニュー糖をふりかけたかの如く、ひんやり甘くてキラキラしている。甘々になりすぎないところが、かえって男心をくすぐるのだろうか。

 一人の相手と長続きするタイプではないんだけれど、別れてもいつの間にか新しい彼氏が出来ているのだ。

 噂によると、花蓮の彼氏希望の男たちが列をなして二人の破局を待っているとかいないとか。しかも、その花蓮の彼氏になり隊の管理を私がやっているとかいう説もあるらしい。

 私は花蓮のマネージャかよ。

 そんな面倒くさいこと、誰がやるんだっつの。

 もちろん、そんな事実は皆無なので、列をなしてるっていうのもただの噂なんだろう。

 まあ、次の彼氏になるべく虎視眈々と機会を狙っている男子は少なからず存在すると思うけれど。


 あー、でも。

 そういや、この間。「花蓮さんの彼氏になり隊に入隊させてください」とか、他校の男子にいきなり話しかけられたことあったっけ。

 知るかっつーの。



 みんな、知ってた?

 フェロモンって、出し入れ自由なんだぜ?

 いや、みんながみんなってわけじゃないけどさ。

 少なからず、自在にフェロモンを操れる人種がこの世には存在するんだぜ?

 そして、そのうちの一人が花蓮だ。

 それくらい、彼氏といるときの花蓮は別人だった。

 正直。

 首の後ろ辺りに、切り替えスイッチがついてるんじゃないかと思っている。

 スイッチを入れると空からなんかキラキラしたグラニュー糖が降りかかってきて、スイッチを切ると自然と振り払われるのだ。



「あー、うん。でも、確かに、ボウフラみたいにいつの間にか発生してるよね。ふふ。ボウフラ彼氏かー」

 ふふっと笑って肉団子を頬張る葵の口元から、何か黒いものが漂っている。

 怒っていらっしゃる。

 いつも控えめで割と大人しいタイプだと思っていた葵の以外な一面を見た気がする。

 ま、まあ。女の子ですもんね。これくらいは、むしろ、標準装備ですよね。

「ちょっと、人の彼氏をボウフラ扱いするのはやめてくれない?」

 憮然とした顔の花蓮に味方するものは誰もいない。

 てゆーか、早く話題を変えたい。

 チラリと様子を窺うと、雪音は我関せずを決め込みひたすら白米を口に運んでいるし、葵は口元に笑みを称えたまま、肉団子を咀嚼している。

 けど。

 滲み出る黒さが隠し切れていない。

 葵が怒っていることには気づいたものの、その理由までは思い至らなかったらしく、花蓮は怪訝そうに首を傾げながらサンドイッチに齧りついている。



 みんながみんな、おまえと一緒だと思うなよ。花蓮。


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