1 共学という名の女子高
授業が終わるなり、セーラー服の裾から手を突っ込み、中に着ているキャミの裾を引っ張り出してハタハタと仰ぐ。
中のキャミは汗ばんで、ちょっとしっとりしていた。
4月下旬ってさー、朝夕は肌寒かったりするけど、天気のいい日の昼日中は、初夏並みに暑かったりするよねー。
なんて、のんきにハタハタしてたら、隣の席の葵若菜に手を掴まれた。
「ちょっ、桜ちゃん! まだ、男子いるから!」
「ん?」
顔を上げると、教壇の真ん前の席で立ちあがっている男子と目が合った。
あー。まだ、いたのか。
男子は、仄かに頬を染めている。
目が合うと、さらに顔を赤く染め上げ、さっと視線を逸らして慌てて教室から出て行った。慌てるあまり、机の脚に足を引っかけて転びそうになっている。
これは、生腹を見られただろうか。
あ。いっけね。
男子を見送ってから、首を後ろに回して教室内を確認する。私の席は、廊下側の前から2番目なので、ちょっと後ろを向けば、教室内はほぼ見渡せるのだ。
教室内に男子が一人も残っていないことを確認してから、私は再びハタハタを開始した。
「いくら男子が少なくても、ここは女子高じゃないんだから。気を付けろって、いつも言ってるでしょ」
前の席から、高野花蓮の冷ややかな視線が突き刺さる。
アイドルの群れに混じっていてもおかしくない甘い顔立ちなのに、眼差しがクールすぎて少々近寄りがたい雰囲気だ。
「やー。だってさー。あいつら、いつも授業が終わるとすぐに、最初から存在していなかったかのように姿を消すじゃん? つい、うっかりいるのを忘れちゃうんだよねー」
「いや、一年の頃から存在してるし。男子、可哀想だから。てゆーかさ。そろそろクラス替えしてから一か月たつけど、クラスの男子の名前、全員覚えたんだろうな?」
斜め前の席から睨み付けてくるのは、牧野雪音。隣村の山奥から通ってくる山の民。色白で、腹の谷間が魅惑的なマシュマロボディーの持ち主だ。胸ではない。腹の谷間だ。
「あー。女子の名前を覚えるのに精一杯で。男子の名前は、これからぼちぼち覚えていこうかな、と」
雪音から目をそらしながら答えると、隣の葵にため息をつかれた。
「ぼちぼちって、クラスに男子は6人しかいないんだから、ちゃんと覚えようよ」
「はい。ごもっともです」
その通りなので、一応大人しく頷いておいた。
そうなのだ。
全員で40人のクラスに、男子は6人しかいないのだ。
私の通う県立鳩寺西高等学校は、何年か前まで女子高だった。
共学化に踏み切って以降、すこーしずつ男子生徒の数を増やしている。
増やしてはいるけれど。
クラスに男子が6人しかいなかったら、それはもう女子高も同然だよね?
あいつら、休み時間になると、スーッと教室からいなくなるしさあ。
うっかり女子高気分になっちゃうのも仕方ないよね?
あ。申し遅れました。
私は、葉山桜。前述の女子高・・・・じゃない、共学の高校に通う高2のうっかり女子です。
しかし、いくら身から出た錆とはいえ、生腹を見られたのは私なのに、なぜこんなにも集中砲火を浴びせられるのか。普通、こういう時は、たとえ理不尽な言いがかりであっても、男子に非難が集中するもんじゃないのか・・・・。
しかも、二年に上がった時にクラス替えがあったから、出会ってまだ一か月も立たないというのに。
みんな一年の時は、クラスがバラバラだったんだよね。たまたま、席が並んだ4人ともが、前のクラスで仲が良かった子とはクラスが離れちゃったので、なんとなくこの4人で行動することが多い。たぶん、今年はこのメンバーでやってくことになるんだろうな。
まあ、花蓮とは体育の合同授業で同じグループだったりしたので、一応付き合いはあったんだけど。残りの二人は、一年の時は全く面識がなかったんだよ?
もう少し、遠慮があってもいいと思う。
日頃の行い・・・・というやつなんだろうか?
「しっかしさー。中途半端に男子がいると、女子高よりもかえってよくないよねー。女子力の養成的な意味で」
男子を男子として意識しなくなって、生腹見られても「きゃー」でもなく。「あ、いたのか」くらいにしか思わないもんなー。これって、よくないよなー。
とか思っていたら、また怒られた。
「いや、まあ、そういう側面もないとは言わないけど」
「桜と一緒にされるのは、心外なんだけど」
「せめて、男子が教室からいなくなったのを確認してからやれよ、そういうのは。てゆーか、男子の存在を忘れるな」
しまった。
余計なこと、言うんじゃなかった。




