ーー許しの天使ーー
短編です。二話完結予定です。改行いたしましたご迷惑おかけいたします。
「ローザンヌ・ブロークンハート公爵令嬢!! 君との婚約を破棄する!! 」
ここは、上級貴族の社交の場である国王陛下主催王宮パーティーである。そんな華やかで場で、第一王子ナル・ビーエルニー殿下の婚約者・上級貴族公爵の位の父を持つ、ローザンヌ・ブロークンハートは、高らかに婚約破棄された。
「でっ殿下! いったいどうなされたのです? 婚約破棄だなんて……。」
ローザンヌは美しい顔を歪ませ、ナル王子に駆け寄る。殿下はそんなローザンヌを振り払った。
「寄るないまいましい!! お前は私の愛しいフィオーレをいじめ、悲しませた! それが王妃になる者のする事か! 」
国の黄金と呼ばれる程美しい金の髪と容姿を持つ婚約者が居るのにも関わらず他の女に手を出した自分の事を棚に上げ、ローザンヌを罵倒する王子。
「も、申し訳ありません殿下! そんなつもりは無かったのです! お許しを! 」
「ええい、誰が許すものか! 衛兵この者を引っ立てい。」
衛兵がローザンヌを捕らえようとした。
「待って下さい! やめて下さいナル殿下! 」
殿下の前に一人の少女が飛び出して来る。ここに居る筈の無い下級の準男爵貴族令嬢、フィオーレ・ホーリーだった。
「愛しのフィオーレ、何故止めるのだ! この者はそなたを苛め、悲しませたのだぞ?! 」
「……ああナル様! なんてお優しい方! でも良いのです。私はローザンヌ様が反省して下さればそれで……。」
「ああ! フィ! 君は何て心が綺麗で美しい、君こそ王妃に相応しい! 」
ナル王子とフィオーレは寄り添い合い、二人の世界に入る。赤毛に美しい顔立ちのナル王子と銀髪の可憐な菫の様な容姿のフィオーレはまるで恋物語の挿絵の様に見える。
その周に上級貴族の子息達も寄って来て、笑顔で囲んだ。皆素晴らしい容姿の持ち主で周りから黄色い悲鳴が上がった。
「ナル殿下。私もフィオーレ、いえ……次期王妃様を共にお支えします。」
とローザンヌと同じ公爵である宰相子息が言う。
「お似合いです。二人とも……。これからも、私は貴女の剣になります。」
と侯爵であり騎士団団長の子息がフィオーレに跪く。
「僕はずっと殿下と王妃様の味方だよ! 」
子息の中で一番幼い伯爵子息はフィオーレにピンクのバラを送っていた。ピンクのバラの花言葉は幸福。
「幸せになっ! フィー! いや……お幸せに、妃殿下。」
放蕩息子で有名な伯爵子息も、悲し気だが真面目にフィオーレに祝辞を述べた。実はこの二人幼馴染だったらしい。
「みんな! ありがとう! 私立派な王妃になるわ! 」
フィオーレは涙を浮かべ満面の笑みを浮かべた。周りの殿下と子息達も嬉し気に微笑む。
「何をやっている、ナル。」
「父上! 」
騒ぎの場に国王自らお出ましになった事で周りの貴族達はざっと引き、騒ぎの中心である殿下とフィオーレと子息達。そして地面に座り込んだローザンヌだけが取り残された。
「申し訳ありません父上。今からフィオーレとご挨拶に伺う所だったのです。」
「挨拶だと? お前の婚約者はそこにいるローザンヌだろう? その隣の令嬢は誰だ? 」
フィオーレは可愛らしい目をパチパチさせてドレスを掴み淑女の礼をとった。
「陛下、お初にお目にかかります。私はフィオーレ・ホーリーと申します。父はトラッシュ・ホーリー準男爵でございます。」
国王は首を傾げ、息子と同じ赤毛の髭を撫でた。
「何故、上級貴族のパーティーに準男爵の令嬢が居るのだ? 」
フィオーレの表情が凍り付いた。すかさずナル王子がフィオーレの肩を抱いた。
「父上、私が彼女をこの場に呼びました。父上にフィオーレを紹介したくて……。」
「私は何も聞いていないぞ? ナル、今日は王宮主催の上級貴族の為のパーティーなのだぞ? 王子自らその規則を破るのは、あってはならぬ事だ……。それに……。」
国王はローザンヌを見て、手を差し伸べた。
「いけません陛下。御手が汚れます。」
ローザンヌは躊躇った。衛兵に押さえ付けられた所為で、彼女の髪とドレスはぐちゃぐちゃになっていた。
「構うものか、さあ。」
国王の温かな手に触れローザンヌは立ち上がった。我慢してもぽろりぽろりとさ真珠の様な涙が溢れる。
「ナル……自分の婚約者に手を差し伸べず何故その令嬢と寄り添っている? 第一王子たるもが公の場で何を愚かな真似をしておる。……お前達もだ。」
静かに怒りを現す国王に怯えるナル殿下。そして子息達も国王の威圧を受けあ顔を青ざめさせる。
「先程ふざけた事をぬかしておったなナルよ……。婚約破棄だと? この、国王である、私が取り決めた婚約を、よもや王に無断で行おうとは……。王子といえど絶対に許されない事だ。王になる者が法を歪めることなどあってはならぬ。」
「ち、父上。しかしローザンヌは身分弱きフィオーレを、あろうことか苛め傷つけたのです。学園でドレスを裂き、水をかけ、卑劣な噂でフィオーレを学園中の笑い者にしました! これが王妃になる者のすることですか?! 」
ローザンヌは体を震わせた。何回か学園で彼女の振る舞いを諌めた事はあったが、そんな恐ろしい真似自分はしていない。
国王はローザンヌの様子を見て、ナル王子を更に睨んだ。
「ふん。それが事実ならばなんとも卑劣な行為だ。貴族の義務にも反している。」
「でしょう?ですから私はーー。」
「……だが所詮は学園内の事だ。学園内であるならまだお前や他の上級貴族達が手を打てばどうにかなったのではないか? それくらいの事が出来なければ、お前達は何の為の王族だ? 上級貴族だ? そんな事で政治を、この国を動かせると思っているのか? 」
「ううっ!! 」
王子が唸る、国王の正論にぐうの音も出ない。
「そして私が一番許せないのは……この公の場で、ブロークンハート公爵令嬢に婚約破棄を言い渡した事だ。あまつさえ衛兵に捕らえさせようとするなど言語道断! ホーリー準男爵令嬢は確かに辛い思いをしたのだろう。しかしここは社交界、学園の子供の場で無いのだ。ここに立つ者一人一人が重責を負う上級貴族ばかり。失敗はそのまま家名の恥となり引いては国そのものの恥となる場合もある。皆ここに居る者は全て家名と国を背負う者達ばかりだ……それなのにナル、お前はローザンヌを公の場で辱めた。これは国の重鎮であるブロークンハート公爵を貶めたに等しい。そして彼女の将来を己の欲で潰そうとした事……許しがたい。」
ナル王子とフィオーレの顔が真っ青を通り越し、白くなっている今にも気絶しそうだ。
「よってナル・ビーエルニー。お前から王位継承権を剥奪し、弟のソル・ビーエルニーを次期国王とする。」
「そんな!? 」
「嘘っ!? 」
ナル王子とフィオーレは悲鳴を上げた。
「ああそれとナルよ、王位の争いをさけるためお前は結婚する事も子供を成す事もを禁じる。」
「ち、父上! どうかお許しください!父上! 」
「許さぬ。私と王家に傷を付けた愚か者めが。処刑せぬだけ有り難く思うが良い。」
国王はそう言い放つとフィオーレの方を向いた。
「ホーリー準男爵令嬢よ、そなたも公の場でブロークンハートの令嬢に謝罪させ公爵家を貶めた……これをどう責任をとるつもりだ? 」
「ひいっ! わ、私は……か、下級貴族の娘に過ぎません陛下。身分弱き私には差し出すものがございません。」
フィオーレは涙ながらに国王に訴えた。しかし、その様子に同情する程我が国の国王は甘く無かった。
「爵位と命を差し出せ。ホーリー準男爵家は取り潰しの上、当主とその奥方、娘であるフィオーレ嬢を斬首の刑に処す。しかし一族に罪は問わない……これは慈悲である。」
「そっ、そんな! 斬首だなんてあんまりです陛下! 」
死刑宣告を受フィオーレは床へ崩れ落ちた。そして放心した殿下を一瞬睨み、ころりと儚気な表情を作ると貴族子息達の方へ助けを求めた。
「エドワード! 助けて! 」
宰相の息子へ呼びかける。
「あー、すまない我が家は王家が第一なのだ……。」
ちらちらと国王の様子を伺う宰相の息子。
「ランス! 私の剣! 」
「いや……私はまだ見習い騎士で。」
騎士団長であるの鬼の形相を見てごにょごにょ話す侯爵子息。
「私の味方は貴方だけロナルド! 」
「僕、僕……どうして良いか分からないよ〜。ウワーン。ごめんね、フィオーレおねーちゃあん!!! 」
年下伯爵子息は、素が出る程国王に怯え泣き出した。
「小さい頃から、貴方だけが私の本当の王子様よジスカルド兄様!」
「フィー。……安心して、僕もすぐ後を追うから。」
放蕩息子は病んだ目で、少し満足そうに微笑んだ。
「・・・そんな! みんな、みんな酷いっ! 私はこんなに弱いのに! 」
フィオーレ様号泣。
「これに関わった貴族子息達にも追って沙汰を申し渡す。一旦、当主の元へ皆戻れ。」
国王の命により、クモの子を散らす様に貴族子息達はその場から去る。
「……陛下、発言をお許し頂けますでしょうか? 」
「うむ許す。そなたには迷惑をかけたなローザンヌ。」
「もったいなお言葉ありがとうございます陛下。ですが……今回の事は私の不徳が招いた事でございます。この力不足、どう償っても足りません、どうか私の命で皆様の減刑をお願いいたします。」
ローザンヌ嬢は、天使だ。と誰かが言った。公の場で貴族の女性は髪を解かないが、今のローザンヌの髪は解けその金の髪は豊かに波打っていてまるで許しの天使の様だった。
国王陛下無双物語でしょうか笑