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第八話 収穫

 修也が店に入った時の感想は「やはりか」というものであった。店に入ってすぐの場所に、店と同様に横に長い棚が商品で埋め尽くされている。その棚の後ろを見てみると同じような棚がいくつも並んでいるのが見えた。置いてある商品を見てみるが、紙や鉛筆といった日用品、保存食や飲料水といった食料品などばかりで何に使うのか全く分からないような物は置いていなかった。強いて言えば蝋燭と一緒に置いてあったので蝋燭立てと推測するしかなかった見慣れない物ぐらいだろうか。


「(あまり収穫は無さそうだな)」


 全く見たことも無い上に用途に見当が付かないような物が置いてあれば彼でも何か情報が得られたかもしれない。


 無論完全に収穫が無かった訳では無い。商品の質はそれ程悪そうには見えないが周囲には子連れの客も多いことから、恐らくこれが一般的な品物である、またはそういう設定なのだろうと彼は当たりをつけることが出来た。また、自分の知識を遥かに超えた品物は雑貨屋には置いていないということ、電球などではなく蝋燭が置いてあることから電化製品は無いだろうということがわかった。


「(或いは電化製品は非常に高価で一般的では無い、開発されたばかりで実用化に至っていないという設定も考えられるが……。まあ電化製品を見かけたら思いっきり追求しよう)」


 一通り店内を見て回り、やはり特に欲しい物は見当たらなかったためアースとメイリアに退店する旨を告げる。


「佐藤様、この店の品物は高価なものではございません。本当にご遠慮などなさらずに結構ですが……」


 代金の心配は無いにもかかわらず何も買わないの修也を見て、彼が遠慮したと判断したためかメイリアが彼に声をかける。


「いや、特に使い道が分からないような物が置いてなかったし、これくらいのものが一般的だってことがわかっただけで十分だよ」


 「本当に遠慮などしていないため気にしないで欲しいのだが」と彼は思う。そもそも大抵の物は現在使っている部屋に一級品が置いてあることが彼でも予想できるので何かを買う必要は彼にとって全く無いのである。


 彼が本心から何もいらないことを告げるとメイリアもそれ以上は何も言わず、結局彼らは何も買わずに退店するのであった。


「それでは次は鍛冶屋に向かいますね」


 店を出るとアースがそのように修也に声をかける。「恐らく次の店でも何も買うことは無いだろう」と考え若干の申し訳なさを感じながら修也はアースについていく。彼は念のために周囲の観察をしてはいるが、雑貨屋へ向かうまでに見た街並みと大差ないため「何か面白い物は無いだろうか」と本来の目的を忘れる始末であった。


「(正直もう帰りたい)」


 元々インドア派である彼は特に用事でも無ければ外に出ようとはしない。今回は情報収集という目的があったものの、雑貨屋でのことを考えると鍛冶屋でもあまり大した情報は得られないだろうと彼には思えてならない。それ故部屋に戻りたいとどう切り出すべきか彼が考えているとようやく目的地に到着した。


「こちらが鍛冶屋にになります」


 そのようにアースが説明するが、修也の興味は店自体よりも店の前の光景に向いていた。


「アースさん、店の前でたくさんの子供が遊んでるんですけど……」


 来店した客のだと思われる子供がわいわいと遊んでいるのがわかる。あんな風にしていると店側に迷惑なのではないかと修也が思っているとアースが説明を加えた。


「店内には刃物などの危険物がそれなりに置いてありますから、大抵の親はああして店の前で遊ばせているのです。店によっては店員が子供の相手をしたりもしていますね」


 良く見てみると確かに店員と思わしき大人が一名子供の相手をしている。「あれだけ多くの子供が居ては怪我をしないように見張るだけでも大変だろうに」と修也は心配するがそれ以上気になる事も無いため店内に向かうことにする。


 彼が店内に入ってまず思ったことは「女性客が多い」ということだ。店の作り自体は雑貨屋とそれ程変わらないが、店内の様子を見て納得する。


 大小様々な鍋や包丁や(くわ)らしきものが置いてあるが、多くの客は店に置いてある品物にはあまり興味を示しておらず、壊れた鍋などを手に受付らしき場所に並んでいる。恐らく修理のためにそれらを持ち込んでいるのであり、家事の延長であるため女性客が多いのだろうと彼は見当をつけた。


「(思っていたのとちょっと違うな)」


 ゲームで鍛冶屋と言えば武器や防具が置いてあるので、この鍛冶屋も同じようにそういったものが置いてあるのだと修也は考えていた。確かに個の店にもそういった物が置いてないことも無いが、商品として並べているというよりも展示品として飾ってあるという印象を彼は受けた


「アースさん、あそこに剣と鎧が置いてますけど何のために置いてあるんですか?」

「あれは店の技術力を見せるための物ですね。この店ではこれ程のものが作れる技術があるのだと示すためでもありますが、客寄せのためでもあります」


 そう言ってアースはある方向に顔を向ける。それに(なら)って修也もその方向を見ると小さな男の子が憧れの眼差しを武具に向けているのが見えた。受付に並んでいる男性の中にも同じような視線を武具に向けている者がいる。


「ああして印象に残すことが出来れば『何かあればこの店を利用しよう』と思わせることが出来ますからね」


 アースの説明に「成程」と修也は頷く。それから修也は数分程店内を眺めたが、雑貨屋の時と同じくめぼしい物は見つけることが出来なかった。段々と自分の置かれている状況を忘れて単に暇つぶしをする感覚になりながら彼は店を出る。


「次は服飾店ですが、如何なさいますか?」


 王宮に帰りたがっている修也の雰囲気を察してか、アースは雑貨屋を出た時と違い修也の意向を伺う。「そんなに自分はわかりやすいか」と彼はショックを受けるが、「もしかしたら見るべきものがあるかもしれない」という考えと「すぐにでも帰りたい」という気持ちとの板挟みになり彼はしばし悩む。


 「念のため服飾店に行くべきだろう」と彼は判断して服飾店に行くことアースにを告げようとした時、彼の近くから泣き声が聞こえた。


 「何だ?」と思いそちらを見ると一人の男の子が泣いていた。走っていて転んだのか足に擦り傷がある。どうしたものかと彼が悩んでいると先程子供たちの相手をしていた店員がその男の子に駆け寄ってきた。


「走ったら危ないって言ったろ! 『ヒール』!」


 店員が男の子の擦り傷に手をかざして『ヒール』と言うと淡い光が患部を包み、元から何も無かったかのように傷は消えてしまった。


「魔法……」


 思いがけず非常にあっさりと、それこそ今まで自分が悩んでいたのはなんだったのかと言いたくなるほどあっさりと重大な情報を手に入れた彼はそう呟くのが精いっぱいだった。

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