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第十二話 答え

 夜が明けて、意識して何度か魔力を消費したせいか昨日よりも魔力の存在を感じつつ彼は目を覚ます。就寝する時間が遅かったためか最早昼と言っても差し支えない時間になっており、丸一日以上の間何も口にしていない彼の空腹は既に限界を超えていた。


「お早うございます佐藤様。お加減の方は如何でしょうか」


 彼が目を覚まして直ぐにメイリアが体調を尋ねる。心配そうな顔をして彼女がそう尋ねれば反射的に「大丈夫だよ」と誰もが言いたくなるだろうが、彼の場合は反射的に「たった今最悪な気分になったよ」と言いそうになる。そうならないように一旦間を空けてから彼は返事をする。


「もう大丈夫だよ。それよりもお腹が空いちゃって体調よりもそっちがね……」


 恥ずかしくて小さく笑うようにして彼はそう言うと、この調子ならあまり意識せずとも何とかなりそうだ、と考える。


「そう仰られるかと思いまして食事の用意は既にしております。すぐにお食べになりますか? 」


 そのようなことを彼が考えているとは知る由も無いメイリアは微笑みながら修也にそう尋ねる。修也はその顔を殴るために拳を作りそうになる右手に注意を払いつつ「お願いします」と答えるのであった。


 そうして出された食事は今までのものと比べて幾分質素なものであった。といっても彼の扱いが悪くなったという訳では無く、彼の体調を考慮してのものだろうと簡単に察しが付く。


「(元気を付けさせるためとかで訳の分からんごてごてした料理を食わせる文化じゃないくて良かった)」


 昨日散々痛んだ胃はまだ本調子ではないのか、普段の彼ならば物足りないと感じそうな料理が今は丁度良かった。胃が若干の拒否反応を示しているが、空腹を満たすためになんとかして料理を全て平らげると彼は一息つく。


 彼が食事を終えるとメイリアは残された食器を下げる。彼は瞑目しながら自分の胃が落ち着くのを待ち、体が楽になるのを感じると目を開いた。そうした彼の雰囲気を感じ取ったのかメイリアが彼に声を掛けた。


「佐藤様、昨日はただ事では無いご様子でしたが、一体どのようなことがおありになったのですか? 」


 「やっぱり、その質問はされるよなあ」と彼は考え、どのように答えたものかと「うーん」と言いながら悩み、やがて考えが纏まると彼女に説明をする。


「えーっと、昨日鍛冶屋の前で店員さんがヒール使ってたでしょ? 」

「はい。私もそのように記憶しております」

「ヒール、というよりも魔法自体が元の世界には存在しなくてさ。それでここに戻ってきて試してみたら魔法が使えちゃったから、本当に異世界に勇者として召喚されたんだな、って思って」


 彼の答えを聞いて彼女は「やはり」と思う。勇者として選ばれることによるプレッシャーは想像も出来ないが、並大抵の精神力では耐えられないであろうことは彼女にも予想が付く。そして昨日のような状態になってしまわないように、逃げ出してしまわないようにすることが自分の役目であろうと考えた彼女は彼に願い出た。


「佐藤様、勇者という役目はさぞ重荷であると思います。ですが、今この世界は勇者と言う存在を求めております。勝手な事を申しているとは思いますが、何卒この世界をお救いくださいませ」


 今までよりも深く頭を下げてメイリアは懇願する。普段の彼であれば「頭を上げてください! 」と言うところだが、流石に内容が内容なだけに彼は黙り込む。彼女が頭を下げ続けて彼の答えを待っているとついに決心がついたのか、彼は彼女に対して「わかった」と答え、レゲーム王の下へ案内するよう彼女に言うのであった。




「(まさかたったの二日で了承の返事をすることになるとはあの時は思っても見なかったな)」


 メイリアの後をついていきながら修也はそう考える。謁見の間で数日の時間を要求した時には具体的な日数はこれっぽっちも考えていなかったが、それでもなんとなく損した気分にならないでもない。だがこの世界の情勢がいつ急変するかもわからないため、早めに行動した方が良いと理性は訴える。


 謁見の間への道はやはり長く、そこへたどり着くまでの時間が修也の決心を鈍らせようとする。自分に戦う力がいくらあっても、やはり怖い物は怖いし、嫌な物は嫌だ。


 道のりは長く、時間もかかる。しかしそれでも一歩一歩確実にその時は迫っているのであり、それから逃れる手段を彼は持っていない。歩みを進めるごとに胃の痛みが強くなるのをひしひしと感じながら彼はとうとう謁見の間の扉の前に辿りついた。


「佐藤様、(わたくし)はこちらでお待ちしております」


 勇者の専属とはいえたかがメイド、謁見の間に入室することは許されないようだ。扉の近くで邪魔にならない場所に彼女は移動するとぴくりとも動かなくなった。


 彼がじっと扉を見ていると、ついに扉が開こうとする。それを見て彼は決心が鈍る前に早く開いて欲しいような、永遠に開かないままでいて欲しいような、相反する思いを抱く。そしてとうとう扉は完全に開いてしまい、彼は謁見の間へと足を踏み入れる。


 彼が召喚された時と変わらない光景がそこにはあった。ドレスで着飾った女達、輝く甲冑を着た男達、チョビ髭の男と玉座に座った冠を被った男。見れば見る程レトロゲームの光景と変わらないため修也は苦笑する。


「(そう言えばレゲーム王は召喚の儀式と言っていたし、そこから魔法の存在を推測できたかもしれない。とすると二日ってのも案外時間がかかった方なのかな? )」


 そのように余計な事を考えながらも、彼の足は確実に彼を部屋の中央へと運ぶ。


「勇者殿、よく来てくださった。体調を崩しておったと聞いていたが、もうよろしいのか? 」

「はい、問題ありません」


 レゲーム王の問いに修也はそう答え、レゲーム王は「そうか」とだけ言った。そして世間話もそこそこにレゲーム王は本題に入る。


「それでは勇者殿よ、先日の問いの答えを聞かせてもらえぬだろうか」


 この場を用意するように連絡が入った時点で聞いているだろうに、レゲーム王はわざわざそう問いかけてきた。そのことに修也は内心で舌打ちをするが、それをおくびにも出さずにこう答えた。


「勇者としてこの世界を救うために協力したいと思います」

これからは勇者がイラついている描写は多分しないと思います

内心どう思っているかはご想像ください

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