異世界トリップチートものかと思わせといて、斜め上の結末を迎える話
どうぞよろしくお願いします
「ここは何処だ?」
えっと、確か俺の名前は山田 太郎 という超平凡な名前であり、俺自体も同じく超平凡な男子高校生だ。しかし、いつもように目が覚めたら、ずっと遠くまで白い景色が広がっている謎の空間に居た。目に付くもの(といっても何も無いが)が全て白のため距離感も全く掴めない。
「ここは一体何処なんだ・・・」
「フォッフォッフォッ、では教えてやろう我が後継者よ。ここは神の空間だ。そして、精神だけを呼び寄せたのじゃよ」
その声と共に俺の前にまるで仙人のような姿をしているよぼよぼな爺が現れた。
「よぼよぼな爺とは神に対する礼儀がなっとらんのぉ。まぁ良い、お主全知全能の力がほしいじゃろう?欲しいだろうな男子高校生ならばな。チートしたいじゃろう?ハーレムしたいじゃろう?儂の後継者になるというならその力さずけてやろん事も無い。」
いきなり電波な爺さんが夢に出てくるなんて・・・俺の妄想癖もここまで来てしまったのかと思うと、自分の人間性に疑いを持たざるをえない。
しかしこれがよく聞く異世界トリップチートものならば、多くの人間は頷くんだろうなぁと思うけど、生憎俺の返事は
「NOだ!!
全く何が全知全能だ、ボケェ。よくさぁ、一神教の神様って全知全能だけどさぁ、それってよく考えるとおかしいんだよ。だって考えてみろよ。"全知"なんて力があったら、"全能"なんて要らねぇんだよ。なにせ全てを知っているんだぜ。つまり、これからどんな事が起きるのか分かってんだからよ、ほんのちょっと力がいいわけよ。それこそ人数人操れるぐらいでいいんだよ。逆に"全能"さえあればどんだけ頭悪くて、失敗してもよぉ、過去に戻ってやり直せるはずなんだよ。だからそのふたつをセットで渡してくる時点で俺はお前を信じられないんだよ。」
突如、饒舌になった太郎に神を名乗る存在は表情に出さないように驚いていた。
((・3・)アルェー、こいつ超平凡なんじゃないの?いやなに、急にどうした!?)
一見平凡を装っているが、彼の心は大荒れだった。
実は、太郎は大の宗教マニアであり、神の概念とかにも手を出していたのだ。しかし、普段はその博識を発揮することが出来ず、フラストレーションが溜まっていたため、つい饒舌になってしまったのだ。
「てかさ、あんた自分は神とか言ってますけど、誰なの?ヤハウェ?ゼウス?もしかしてオーディンとか?」
「い、いや、私はそれらとは違う神なのだ。」
しどろもどろになりながらも神が答えると、
「?じゃあ全知全能の神が沢山いるってことだよね。つまりさ、みんな好き勝手やってんでしょ。そんな中に入るのは、気が滅入るなぁ。そんな神の後継者とかいやだな。」
「グッ、そんなことは無い。神はみんな人格者じゃよ。(不味い、このままでは計画に支障が・・・)」
「いやいや、あんた神話ちゃんと読んでる?ヤハウェはファラオに罰するためにモーセに飢餓を呼び寄せる杖をあげちゃったりして関係の無いエジプトの民を苦しめるし、ゼウスは見境なくヤりまくるし、オーディンはまあ酷いエピソードはないけどラグナロクで死んでるじゃん。」
「し、しかしそれは人間の創作であって・・・」
「ん?事実と違うんだ。へぇー」
とても興味深いことを聞いた太郎は、さらに話を聞きたくなり、
「どんな感じに違うの?」
と聞いた。
「そ、それはだな、ヤハウェは慈愛溢れる者じゃし、ゼウスは妻であるヘラに誓をたたてておるし、オーディンはまだまだ生きとるのじゃ!」
「ありゃ、ほとんど反対のことなのか。んで話戻すけどあんた誰?」
「(ギグっ)だから、今挙げた3人の同僚だと言っておるじゃないか。」
「はぁ、じいさんあんた馬鹿だな。俺は神話にいる神の名を聞き、あんたはそれに答えた。つまり、神話の内容はともかく、神が存在するということが仮定される。そのうえで、俺はあんたにどの神話の神なのか教えてくれなければ、あんたは神じゃないと疑われるに決まっているだろう。」
「ぬ、ぬかせっ。わしは神話に残されていない神なのじゃ!!」
「それで、何の神なんだ?」
「そ、それは・・・」
「やっぱり神じゃなかったか、まぁ期待などしていなかったが。となるとさっきのヤハウェとかの話も嘘か。でも最近宗教について語ってなかったからいいストレス発散になったよ。じゃあな。」
と言い、太郎は自分に目が覚めるように暗示をかけ始める。
「(こ、こいつこの空間から逃げ出そうとしているのか!?)させんぞぉぉ、人間風情がこの大悪魔であるわしを小馬鹿にしおってぇぇぇ。貴様を乗っ取って、魔界へ繋ぐゲートを開く役目を魔王様から頂いたというのに。貴様の精神ををここで殺して、人間界を征服するのじゃぁぁ。」
なんだそんなことを考えていたのかと、太郎は暗示をかけながら思った。しかし、このじいさんはダイアクマトいうらしいし、自分では勝てないだろう。ここは、ばっちゃんから教えられたあれを唱えよう。
「死ねぇぇぇ。」
と叫びながら、悪魔は鋭い爪を太郎の首元にへと貫こうとしたが、なぜなら
「う、ぐ、ぐるしい。(体が何かに締め付けられるようだッ)」
こいつは何をしたんだと思い、太郎を注視すると、
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
(っこいつ念仏唱えてやがるっ、畜生こんなところでわしが死ぬなど、ゆ、ゆるされ・な・・・いコトなのに・・・・・・)
そう後悔しながら、悪魔はその空間から消えた。
一方、太郎は
「あれっ、あいつ消えたな。助かったのか?助かって良かったぁ」
太郎は決して怖くないわけではなかったが、その感情を押し殺し、頼みの綱である念仏を唱えていたのだ。
地面にゴロンと寝転がり、安心するとすやすやと太郎は眠り始めたのだった。
さらに一方その頃、
魑魅魍魎が渦巻く魔界にある、天高くそびえる魔王城では大混乱が生じていた。
配下A「ま、魔王様大変です。ゲート設置のために人間界へお行きになられたグリモア様の生命反応が消えました!」
魔王「な、なんだと!!どういう事だ。天使に我らの計画がバレたのか!!」
配下B「いえ、本作戦は厳密にメンバーを絞り、執り行いました。よって、裏切り者がいるとしか・・・」
まおう「いや、私に忠義を誓ってくれたお前らに限りそんなことは無いだろう。」
配下AB「ありがたき幸せであります、魔王様。」
魔王「しかしどういう事だ。あの大悪魔であるグリモア卿が死ぬなど、はっもしや、恐ろしい敵に出くわし、命を刈り取られたのかもしれない。このまま作戦を続行すれば、多数の犠牲者がっ。こうしては、おれん。皆のもの聞くのだ!今作戦は中止とする!!繰り返す、今作戦は中止とする!!」
魔王「今回は、部下を1人失ったがその代わりに人間界にとんでもない敵がいるのがわかった。次こそは必ず、人間界を征服してみせる!」
そんな魔王の決意など知らずに、太郎は目が覚め、床から起き上がった。
「やっぱ、夢かぁぁ。確かに悪魔に念仏が効くのは、変だもんな」
「しかも、妙に凝っていたなぁ。悪魔が殺しに来る時は少しちびりそうだった。」
「せっかくの休日だし、変な夢のことなど忘れ、もう一度寝るか」
と呟きつつ、再び床についたのだった。
このとき、魔王は知らなかった。まさか、部下を殺した相手がただの宗教マニアであったことを。
太郎も知らなかった。今後、人間界を征服しに来る悪魔共を念仏で無双するだなんて。
「俺はチートとかいらないから、平凡に宗教学に浸れればいいやぁ」
この願いが全く叶わないことで、のちに太郎は神を呪うことになる。
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