Episode えくすとらぁ : 小話集その2
オマケシリーズその2です。今回はCh2~Ch4までの間にあったちょっとした話をお送りします。
本編とは少し変わって内容はざっくりとしか書いていないですがご了承ください。
また今回の回を飛ばしていただいても、本編にはさほどかかわりがないので大丈夫です。
【お品書き】※後ろの()は関係する本編エピソードの話数です。
EpisodeEX1 : 義姉の気持ち (Ch2・EP12 )
EpisodeEX2 : 艦内の洗濯事情 (CH4・EP21)
EpisodeEX3 : 無意識の内に (Ch4・EP22)
EpisodeEX4 : 銀の少女と金の少女 (Ch4・EP24~EP28)
EpisodeEX1:義姉の気持ち (Ch2・EP12 )
幼く、そして可愛くなってしまった“弟”。初めてそれを聞き、見た時はそれはそれは驚くものだった。
一言でいうならあり得ない。そう表現するのが最も適切かもしれないだろう。
それは彼――彼女――が少女になってしまったからだけではなく。
その見た目が余りに“彼女”に似ていたからというところが大きいかもしれない。
だから私が初めて“彼”を見たときにはいろいろな思いが胸に溢れた。
「クレア、ちゃんと着替えてる? 」
「着てるさ! 着てるから間違えても着替えさせようとか考えないでくれよ! 」
「ならいいわ。でも早くしてよ、まだ着てほしいのいっぱいあるんだから」
「わかってるよ。 うわ、なんだこれ短すぎる――」
でもいくら似ていても、“彼”は彼で“彼女”ではない。
会話していると自然とそう思えるようになって、今ではもう彼女の見た目に動揺することはなくなった。
まあでもよく見たら“彼女”とは顔が違う気もする、そうも最近では思う。
でもなんというか“弟”というよりは歳の離れた“妹”がいるみたいな気持には変わりはしたけれど。
「な、なあ。本当にこんなのをこれから着てかないといけないのか? 」
部屋の扉があき、オズオズとした様子で出てくるクレア。
そういう風に歩くから余計に虐めたくもなる。
「むしろもっと短い方が似合うと思うわよ」
「や、やめてくれッ! これでももう膝より高いんだぞこれ以上高くしたら……」
「高くしたら? 」
「うぅ……」
はぁ、いじりがいがあるわね本当。別に私そういう趣味はないんだけれど。
でもまあ、このままじゃ外に一人で出て行かせるのも不安だからこそ、こういう風にちょっと可哀想だけれど色々な事に慣れてもらわなければならない。
と……理性では判断している。
でもやっぱり――すごく可愛いわ。もっと恥らってくれないかしら!
「あ、アンジュ……目が怖い」
「気のせいよ。ほら、しゃんとしなさい」
クレアの背中をたたき、猫背気味に姿勢を正させる。
叩いたときに小さな悲鳴が聞こえたが気にしない。
「男ならしっかりしなさい」
「――わ、わかってるさ」
スカートを一生懸命伸ばそうとするクレアの手を払いのけ腰に手を当てさせる。
「ほら、写真撮るわよ」
「こんなので俺はこの姿で頑張れるようになるのか? 」
「……多分」
「多分ってなんだ! 多分じゃいやだ! 」
「うるさい。どうせ減るもんじゃないんだからいいじゃない」
「……」
クレアが無言になったところでシャッターを切った。
これを本人に見せると、自分の恥らっている姿を見て顔が赤くなるが、それが狙いだ。
次は、ちゃんとしよう。そう本人が意識しだす。
そうすれば、きっと、女の子として自然に生活できる日も遠くないのではないか、私はそう思っている。
だから、別にこれは私の趣味とかそういうのでは、ない。
ないのよ。本当に……きっと多分。
EpisodeEX2 : 艦内の洗濯事情 (CH4・EP21)
ランドリーブロックに洗濯してたタオルを取りに来たら、なんか洗濯籠の前に人だかりができていた。
「お、おい……これって」
「ああ、間違いないこれは……」
「何してるんだ? 」
籠の前にいるのは俺より後に部隊に配属された奴ら。
まったくこんなところで暇つぶししてるんなら俺と一緒にトレーニングすればいいじゃねか、プロテイン足りてないんじゃないかこいつ等。
「――! スィ、スィリー‼ 驚かすなよ」
「お前さっき忙しいって言ってただろ、なにしてるんだよこんなところで」
そうだ、こいつさっき「忙しいから今度な!」 とか言って俺の誘いを断ったのだ。
にしても暇つぶしでこんなところにいるのはかわいそうな奴だな。
「ちげぇよ! 俺今日の洗濯当番なんだよ」
――そういうえばそう言うのがあったな。うん忘れていた。
「ああ、そうか。そういえばそう言うのあったな」
「というかお前も今日当番だったんだぞ! さっきお前も呼ぼうとしたら何も聞かずジムに行きやがって」
「俺は聞いてない」
「いや、言ったね! 」
俺は鍛えること以外にあまり興味ないからたぶん聞き逃したのかもしれない。
なら仕方な――
「仕方なくねェよ! 」
「……そうか、すまねぇ」
「いいよ。許すさ。 さて、はぁ……」
とりあえず言いたいことを終えたのか目の前の奴の視線が再び籠の中に戻った。
「なあ、さっきから籠を見て何してるんだ? そこに本でも隠して読んでるのか? 」
「――! な、ば、馬鹿な事を言うんじゃねェ! 俺はああいう本をここで読むような奴じゃねェよ! 」
「じゃあ、なんでさっきから籠の中を凝視してるんだよ。見せろよ」
「い、嫌だね! 」
俺が籠を覗き込もうとすると、それを体でガードする目の前の野郎。
いい度胸、してるじゃねぇか。
「うおりゃあああ」
「しまッ――」
タックルをかまし、野郎を後ろの籠ごと突き倒す。
倒れた籠の中からは俺達の洗濯ものが出てきた。
なんだ、ただの洗濯ものかつまらん。
「あああぁぁぁぁ……」
「なんだ、何もないのか……おいおい、落ち込むなって! 俺が次は全部やってやるからよ」
そうやって嘆く野郎を押しのけ新しい籠に洗濯物を入れ込んだ時だった。
なにか形が違う布地を見つけた。
「おい、なんか変なのが混じって……」
ひっぱりあげれたそれは女用のパンツだった。
白のレース地で一か所に装飾用の黒いリボンが付いたやつ。
「ああああぁぁぁ。だから止めろって言ったのに」
俺がそれを引っ張り上げたところで下の野郎が再び嘆きだした。
「おいおい、てめぇじゃこれははけねぇって」
「俺のじゃねェよ! 」
「じゃあ誰のだよ」
「そんなの――く、クレアちゃんのにきまってるじゃねぇか」
野郎が言いずらそうに口ごもりながらパンツの持ち主の名前を言った。
「ああ、なるほど。レディは可愛いの穿いてるんだな」
「バカッ! 何言ってるんだ。そんな事他の奴に聞かれたら、何言われるかたまったもんじゃねェぞ! 」
「でもよ。別にお前が盗んだとかそう言うのじゃないんだろ? 」
「あ、あったりまえだ! いくら可愛い子がいてもちゃんとわきまえてるさ! 」
野郎が、必死に頷いていた。
普段は別々に洗っているのだが、何かの手違いで混じったのだろう。
なら別に仕方ない事だ。
「じゃあ返してくる」
「お、おい! そんなことしたら俺達が……」
「流石にレディはそんな事で怒ったりしないし疑いもしないだろうぜ」
「……」
まったくへタレめ。だから女一人抱けずに青春を潰すんだ。
と心で毒づきつつ。俺はレディを探すことにした。
× × ×
暫くレディを探していたところ食堂にいた。
ちょうど夕時だったらしい、レディの周りには何時ものように人だかりができていた。
娯楽が少ない艦内、野郎ばっか。そういう環境だとレディみたいなのが一人いるとそこに群がりたくなるのはなんとなくわかる。
俺もたまにあの中の一つになるしな。ただし飯の時間が被った時だけだ。
「おーいレディ」
人垣を押しのけ俺はレディへと近づく。
レディはいつものように周りの人間に食べれなくなったおかずを配っていた。
もっと食べなきゃ筋肉はつかないぜ。と前に言ったらため息を吐かれたから今日は言わない。
「スィリー? 珍しいですね今日はまだ早いのに」
「ああ、渡すものがあったからな」
「渡すもの?」
俺はズボンのポケットに突っ込んでいたパンツを取り出しレディの近くに置いた。
「ほら、間違って俺達の洗濯ものにまじってたからな。返しに来た」
「……ど、どうも……あ、あ、あ、ありがとうございます」
レディの肩が小さく震え、俯いていて顔は見えなかったが髪の隙間から覗いた耳が真っ赤になっていた。
もしかするとこれは普段穿き用だったから見られたくなかったのか。ああ、そういうことなら……。
「おい、おい。どうしたんだよ。大丈夫だダサくねェよ。むしろ可愛いと思う――へぶゥッ」
刹那、視界が黒ずみ一瞬のうちに視界が天井。
続く背中の鈍痛。
意識が途切れる前に聞いたのは叫ぶレディの声だった。
――また何か悪いことを言ったらしい……。
EpisodeEX3 : 無意識の内に (Ch4・EP22)
海賊船に襲われた客船――通称ゴースト――の調査をすることになったわけだが、とりわけ被害が大きいと思われる客室の捜索を任されたのだから、嫌な現場に出くわすことは覚悟はしていた。
ただ……。
『酷い……』
震える声でそう呟いたのは隣にいる少女だった。
よく見ればMブラスターを支えている細い腕を小刻みに震わせている。
――クレア・ハーミット、最近になって俺達の隊に入ってきた少女だ。
10代ど真ん中といった見た目に反してかなり落ち着いている少女で、ここに来るまでも訓練を重ねた結果もあるのだろうが、その動きには鮮麗さがあり驚いた覚えがある。
だからか、突然現れた惨状に動揺を隠しきれていない彼女の様子は少しだけ意外ではあった。
「ヘルメットを取っても呼吸はできるが、止めておいた方がよさそうだな」
少し話しかけてみたが無反応。
インターリンクからは乱れる呼吸が小さいながら聞こえた。
ランドは大丈夫だと言っていたが、やはり彼女を連れていくのはもう少し反対すべきだったかもしれない。
ここでこれ以上立ち止まっては彼女が進めなくなるかもしれない、意識を周りから任務へと移さなければ……。
彼女のヘルメットを小さくたたいてやったところ、年相応な様子で怯える少女の顔が俺を見上げていた。
兵士である前に一人の少女なのだ、俺は彼女の顔を見てもう一度そのことを再確認をした。
「レディ、進むぞ」
『はい』
とにかく長居はせず、彼女よりも先に進んで、あまり無理をさせない様にしよう。
そう心の中で呟き俺は歩き出した。
何か所か回っていると、客室のドアは蹴破られ、ドアは傾き、蝶番一つだけでドア枠に引っかかている部屋に入ることになった。
ここの死体は比較的綺麗ではあったが、綺麗であるがゆえに何が起きたか理解できる状態に俺は少なからず吐き気を覚えた。
『どうかしたんですか?』
部屋の外で待機していたレディが、小さく呟くように俺に尋ねてきた。
「お前は来なくていい」
ただの死体ですら怯えていた少女だ。数々の理不尽な暴力にさらされ衰弱死してしまった女性の死体など見せることができるわけがない。
跳ねつける様な言い方で俺はレディに答えた。
ただ、それがいけなかったらしい。
『――うっ』
小さな呻き声に振り向けばいつの間にかレディが部屋に入ってきていることに気付いた。
目を大きく見開かせ、俺の目の前にある死体をまじまじと眺めている。
幾ら彼女が兵士として訓練されていて、立派に自分に与えられた使命を果たせる人物だったとしても。やはり、年頃の少女にこれは見せて良い物ではない……。
俺はレディと死体の間に立つように移動する。
「レディ……俺としては、君にこういう物は見せたくは無かった」
レディを外に誘導しようとした時だった。
『お気遣いありがとうございます……でも私だって『クラウソラス』の一員です。特別扱いは無しにしてください』
先程まで小さく震えていた彼女の体は今は石像の様に動かず。平坦な口調でそう発した。
「――でも、君は女の子――」
『それは差別でしょう? 』
俺の言葉を切りレディは強い口調で言った。
そのサファイヤの様な瞳はまだまだ怯えている様子も見えたがそれ以上に、何か別の物を発しているように感じる。
もしかすると俺の言いぐさが彼女のプライドに傷をつけてしまったのかもしれない。
彼女自身、こんな世界に身を置いているのだから何か大きなものを抱えているはなんとなくは察している。
「それでもな――『私は、今ここに、一人の兵士として、覚悟の上で立っています。その気遣いは無用です』
俺がもう一度口を開こうとした時、レディは先ほどよりも強い口調でそう発した。
言い聞かせるように、そして自分の存在を示すように、ハッキリと力強く。
口を強く閉じ、確りとブラスターを握る姿は先ほどまでとはがらりと雰囲気が変わっているようにも見えた。
俺を見据えるその瞳には、すでに怯えはない。
彼女が発した言葉はプライドの為ではなく、本気なのだ。
ならば、彼女の言うとおり平等に一人の兵士として、俺は扱おう。
そう決めた。
「了解だ。ハーミット」
EpisodeEX4 : 銀の少女と金の少女 (Ch4 EP24~EP28)
何時ものように昼食が終わって数時間たち、私の部屋の扉が開いた。
「エレナ、気分はどうですか? 」
長く、そして透き通るようなブロンドの髪を靡かせて、私より少し年下くらいの女の子が入ってくる。
この子の名前はクレア・ハーミット。心に傷を負った私に少しだけでも安らぎをくれるそんな子。
「全然、元気だよ。クレアは元気? 」
「もちろん元気です。体調管理は常に徹底していますから」
「そっかそっか。小っちゃいのに頑張るねぇ」
今ではこうして会話もできるようになったけど、会ったときは正直こうなるなんて思ってもなかった。
あ、ホッペが膨らんでる――。
直ぐに感情が表情に出るところとかが話しかけやすかったかもしれない。
仲良く成った今だからこそそんな風に思える。
あった当初は正直邪魔な子だとすら思ってたくらいだから。
× × ×
私が此処に来た頃はどうしようもなく心が荒んでいたと思う。
誰とも話したくないのに、毎日きまった同じ時間にやってきては可愛らしい笑顔を浮かべて話しかけてくるそんな子。
正直に言えば、クレアの幸せそうな笑顔が憎くて仕方なかった。
私はあんなにもつらい目にあったのに、何も知らないで無神経に話しかけてきて、私が無視していてもずっと隣で安心させようと頑張って話しかけてくる。
一人にしてくれればいいのにと何度も思った。消えてほしいとさえ数えるのが面倒なくらいに思っていた。
だからある日、私はクレアに「来ないで」とだけ言ったことがある。本当に声が出たかは分からないけど。でも直ぐに部屋を出て行ったから通じていたとは思う。
ある意味これがクレアと仲良くなるきっかけだったのかもしれない。
私は一人になってやっと落ち着けると数日間は思っていた。
でも、クレアが来なくなって何日かたってから、私の心の隅で、小さく何か暗い物がどんどん膨れ上がってきた。
孤独による恐怖。
たぶんそんなやつ。
明るい部屋が見る見るうちにどこまでも続く深い闇に思え。
いつまでも開かない扉は、あの時のクローゼットみたいに見えてくる。
何もなくて清潔感がある室内からどこからともなく血の臭いが感じられ。
何時まで経っても助けてくれる人は来なくて、お腹が空いて、喉が渇くような感覚。
そんな在りもしないコトが起きているような感覚が日を追うごとに加速していった。
そんな暗く深い世界に行きかかった時、クレアはまた私の目の前に現れた。
何時ものように明るい笑顔を浮かべて。優しげに私に尋ねるのだ。
「気分はどうですか? 」と――。
その時の私がどんな気持ちだったかは上手く言えないけど、クレアと話したくなったのは間違いないと思う。
私はその日、初めて彼女と会話をしたのだから。
× × ×
「あお! わはひのはなひきいへまふか⁉ 」
フッと我に返る。
目の前では口の中にたくさんのパンを銜えたクレアが涙目に私を見つめていた。
「どうかしたの? 」
「これひひょう、はんほふひにいれないへくらはい! くるひいへす! 」
「え? 」
よく見たらクレアの口に向かってパンを無理やりにでもねじ込もうとする私の手が視界に映った。
おっとっと……またいつもの癖が出ちゃったみたい。
「ごめんごめん。クレアが可愛いからつい」
「――つい、で殺そうとしないで! 気管支に入りそうだった! 」
「ごめんってばー、本当悪いと思ってるから」
これからどうなるのかは分からないけれど、私は多分もうちょっと頑張ってみようと思う。
それでいつかはクレアと一緒に私は私の夢を叶えたいなって思う。
次回から新チャプターとなります。
次回投稿は出来る限り早くしたいとお思いますが、数話だけ書き溜めてからの投稿を予定していますので遅れることをご了承ください。




