Episode 43 : 亡霊の散るとき
Ch5終了。
ブースターをふかして減速。足を前方に投げて踵から着地する。
やった……倒した、倒したんだッ!
間違いなく、俺は奴の首筋を切り裂いたのだ。
「はぁ、はぁッ……クソッタレのデカブツめ! ざまあみろッ」
興奮に支配された体は、思ったことをそのまま叫ぶ。
あの一撃で生き残る人間などいるまい。
激しく鼓動する心臓、上がる息。
俺の体の限界は既に近かった。
それでも奴の最後を見るまではこの膝を突くわけにはいかない。
最後の力を振り絞り、俺は反対を、反対を――――
「ふん、残念だったなぁ……この殺戮のバルツァーとまで呼ばれた俺が、貴様のような小娘ごときに倒されるはずが無かろう? 」
首から火花を散らした奴は、その顔に不敵な笑みを浮かべこちらを睨み付けていた。
バルツァーはまだ生きている。
そんな、そんな……なんで生きてるんだ。
押さえきれない動揺が俺の体を震えさせた。
俺の、俺の攻撃は無意味だったというのか……。
そんな筈は、そんな筈はない!
「う、うあぁあああ―――――――――ッ」
粒子ナイフを前方へと突出し走り出す。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ。彼奴が生きているのはおかしい、おかしいだろう!
「このぉおッ! 今度こそ今度こそ倒す、倒してやる‼ 」
勢いよく踏込ナイフをバルツァーへと突き刺しにかかる。
その間奴は一歩も動かず、ただ俺を見据えているだけだった。
そして、奴の懐にナイフが刺さった。それもかなり奥深く。
避けなかったのか? いや……避けられなかったのか?
そうか、先程のは虚勢で、もう避ける力も残って――
「――う、うぐッ」
「どうしたんだ。お前はその程度か? やはり先ほどのことはまぐれだったか娘よ」
「は、はなせ……」
バルツァーは、その俺の胴回りほどもある腕を使い、俺の胸倉を掴み持ち上げた。
手を振り回し、足のブースターを噴かす。しかし逃げる隙が生まれるどころかびくともしない。
「なぜ離さねばならぬ。お前から捕まりに来たのではないか。それとも俺がもう虫の息だとでも思ったか」
「そう、だ……」
「それはそれは、とても不愉快だ。付け上がりもいいところだなぁッ」
「あぐ‼ 」
強烈な衝撃が、戦闘服越しから腹部に伝わる。
あまりの衝撃になにかを吐きそうになった。直後に頭突きを食らい、そのまま後方仰け反り咽る。
「――がほっ、けほッ。う、うぅ……」
「情けない面だ。まだ抵抗するきがあるか、やはりお前のその意思だけは認めざる負えんなぁ!! 」
バルツァーは俺を掴んだ方の腕を振り回し、そのまま高く遠方に俺を放り投げた。
「俺が人なら、貴様の勝ちだっただろうが――俺は機械化特殊兵、貴様の攻撃など無駄ということを知れッ! 」
その言葉と供に眼前にバルツァーが現れたかと思うと、その拳が俺の頭部目掛けて放たれる。
反射的に左腕で拳を防ぐ。左腕に強烈な痛みを感じるとともに再びバルツァーは遠くに離れ、俺は激しく床に打ち付けられる。
「――いッ! グッ……ああああああッ! 」
床で何度もバウンドを繰り返し、数回目のバウンドで機材にぶつかり静止した。
揺れる頭に、歪む視界。もう何度目かわからない痛みに叫ぶ。
痛い痛い痛い――捩じ切れるような痛みが左腕を襲う。
早く、早く痛みを消してくれっ!
そんな心からの叫びに答えるかのごとく戦闘服の戦闘維持機構が作動し今度は麻酔を入れた。
即効性のある麻酔は、俺の体から即座に痛みを引かせる。ただ強力なものとあってか左の腕部は手先から首に近い肩の方まで感覚が消えた。
さらに追加で覚せい剤を注入された俺の意識は再び鮮明さを復活させる。
それでも戦意を軽く上げる程度で、この要塞に着いた当初と比べれば俺の戦意は余りに削られていた。
さらに意識が戻ったことで俺は自分の最悪な状況を認識した。
左腕が、明らかにおかしな方向へとねじ曲がっていただのだ。
もちろん左腕に着けられていた戦闘時の兵士の補助を司る戦闘服のパネルも合わせて破損していた。
さらに悪いことに粒子ナイフすら無くなっていたことに気付いた。
ある意味でこうして軽く考えられるほどに意識があるのは奇跡に近いだろう。
かれもこれもこの戦闘服を着ている恩恵か……。
無駄に周囲を確認しては状況を把握。そして復唱を頭の中で続けていく。
こうしていなければ正気を保っていられないと思ったのだ。
考えることを止めてしまえば、俺は恐怖に支配される。
だからこそ俺は思考する。
まだ、諦めない、諦めたくないからこそ思考するのだ。
「なかなか遠くに飛んだものだ。……流石に堪えているみたいだな。まあ、今までが異常と言うべきものではあるが」
バルツァーは悠然と、一歩一歩を踏みしめるように機材の陰から俺の視界へと現れる。
右手には拉げた棍棒――奴の重力剣――が握られており、俺に止めを刺しに来ていることを瞬時に理解する。
やつの姿に体は震え、意識せずとも嗚咽が漏れた。
あまりに無力、そして脆弱な体……どうすることもできない悔しさに溜まらず涙が零れていく。
「俺は戦う物を殺すために生きている。例えそれがお前のような娘であろうとも、それが俺に敵意を持っているのなら俺はこの剣を振ることを迷わない」
俺の前で停止したバルツァーは大きく剣を振り上げた。
逃げなければ。避けなければ。
そう思う反面、すでに腰は抜け、震える足にも体を動かす余力はなかった。
「ここまで善戦したこと賞賛にあたいする。そして絶望の中で死ぬといいッ! 」
それと同時に巨大な鉄の塊は俺に落ちてくる。恐怖に目を瞑る。
すまない。俺は誰かを救うどころか誰も――
轟音。からだを突き抜ける衝撃。
そして――
「……生きて、いるかクレア」
聞こえたのはモーゼフの声だった。
モーゼフ?
「――モーゼフ⁉ 」
目を開ければそこには苦痛に顔を歪めるモーゼフがいた。
その後ろを多数の兵士が通り過ぎていく。
「なんとか間に合ったみたいだな。大将がしぶとい人間でこっちも助かったぜ」
「……なんで」
「何を言っている。ここを制圧するのが俺達の任務だろう。だから来たそれだけだ」
体に広がる安心感。まだ動揺はあるものの、頭の中に残った冷静さを搾り取り思考する。
そして苦しそうな表情をしたモーゼフに俺の意識が向く。
バルツァーの攻撃はもうそこまで迫っていたのだ。そんな中俺を助けたという事は、
「怪我してるのかッ! 」
「大したことは無い」
「何処を怪我した! 言え! 」
「大丈夫さ。大将が無事なら、作戦はまだ――」
と何か言いかけたモーゼフは俺の目の前でその意識を失った。
「モーゼフ? モーゼフ! そんな! 」
何回か、彼の頬を叩くが反応が無かった。
くそ、くそがッ!
俺の意識に再び怒りが湧き出し、近くにあった机に手をかけ無理やりにでも立ち上がった。
周囲には何十人と言う兵士がバルツァーと対峙している。
全員、俺が巻き込んだんだ。俺がしっかりしなくてどうする。
自分い叱咤を心の中で入れた。そして震える口を、精一杯動かし叫ぶ。
「全員、聞け! 奴は機械化特殊兵だ! Mブラスターじゃ効果が薄い、実弾武装があるものはそっちを使え! ない奴は攻撃を同じ個所に続けてすこしでもダメージを稼ぐんだ! 」
もう耳元のイヤホンは破損して、応答を受け取ることは聞こえないが。
それでも彼らの動きが変わるのを見て、俺の声が届いたのを感じ取る。
「仲間を呼んだか……。だが、それがどうしたぁ! 」
バルツァーの叫びが司令室を振動させる。
奴はその眼に強烈な殺意を持ち。
拉げて潰れた剣を構えた。
一触即発。
両者がぶつかる直前の事だった。
両者の間にあった空間――の床――が突如粉塵を巻き上げる。
「うわぁッ! 」
「ぬうっ! 」
徐々に粉塵の中心に大型の影が浮かび上がる。
それはかなり大きなもので、粉塵が落ち着くのと同時にそのシルエットを鮮明にしていく。
それは間違いないMCSの影だった。
暫くして粉塵が消えた所にいたのは、特徴的な赤いMCS。
「おうおう! やっぱりこっちが正解だったみてぇだなぁ! 」
「―――スィリ―⁉ 」
特徴的な角が2本生えた頭部、そしてバルツァーの剣とも引けを取らない大型の粒子ソード。
それは紛れもなく、クラウソラスのレジー・マードックその男だった。
「ん、レディ? なんでこんなところに」
「それはこっちのセリフだ!」
「いや、俺はおっさんの命令で……」
「それならなんで――スィリー後ろだ! 」
「なぜここにミョルニルがいるのかはしらんんが、しかし何者であろうが関係はない。お前もそこの娘もろとも消え去るがいい! 」
何処からともなく表れたバルツァーはスィリーの後方からその巨大な棍棒を振るった。
まずいッ。スィリーが。
刹那、強烈な金属音が発生した。
「おっと危ねぇ……いきなり攻撃してくるのはどうかと思うぜ」
「防ぐか、流石はミョルニル。紅き鬼神という訳だ」
「攻撃が重い、お前強い奴だなぁ」
「まだ仲間がいるとはおもわなかかったぞ! 」
「俺だって、ここにレディがいるとは知らなかったさッ! 」
スィリーがバルツァーの棍棒を払いのけ、バルツァーの胸に一撃を叩きこむ。
だが寸でのところでバルツァーはスィリーを殴り飛ばし攻撃を凌いだ。
スィリーは俺の近くまで吹き飛ばされてくる。
「――ちぃッ! なんだあの馬鹿力、人間じゃねェッ! 」
「スィリー、あいつは機械化特殊兵だ。下手な攻撃はダメージにならない。だから――」
「あ? ああ、分かった。助かったぜレディ。つまり思いっきり斬り飛ばせばせばいいってことだぁっ! 」
「まて、まだ話が――」
俺の話を聞き終わる前にスィリーが飛び出していく。
無暗に飛び出したらダメだ。それを伝えたかったんだが……。
MCSと機械化特殊兵、どちらも人間の運動能力向上を目的として開発されたもので、その開発思想は大きな面で似ている。
しかし両者には決定的な違いがあるのだ。
MCSが外骨格型の強化戦闘服であるのに対し、機械化特殊兵は人体そのものを改造しているという点である。
何が言いたいかといえば、即応能力に両者では違いがあるということだ。
そしてMCSは機械化特殊兵よりも戦闘時にタイムラグが発生しやすいのである。
理由はいくつかあるが、代表的な物で言えばやはりMCSが装着する物という部分が大きい。
生身であろうとMCSであろうと機械特殊兵であろうとその体を動かすには脳からの命令が必要不可欠なのには変わらない。
ただ、脳が判断し視界を下すまでの時間が、MCSは今あげた三者の中で一番遅いとされている。
生身や機械化特殊兵は感じたことがすぐ脳に伝わり、直ぐに行動に移すことができるのに対し。
MCSはどうしても情報を理解するという作業をワンクッション挟まなければならないのが主な原因だ。
駆動率、破損個所情報、エネルギー管理、残り戦闘継続可能時間。
全てを装着者は常に確認しなければならない。
そこに時間を少しばかりとられる。
所が機械化特殊兵はそれらの情報を肉体的感覚で把握することができる。
駆動率は疲労感、破損個所情報は痛覚、エネルギー管理は空腹感など、全てを人間の感覚として感じとれる、ここに両者の決定的な違いが生まれてくるのである。
そしてもう一つの大きな要因は行動するときのプロセスだ。
最近ではMCSに|ブレイン・マシン・インターフェイス《BMI》が導入されたことで、この問題は幾分か解消されているがそれでも違いはある。
機械化特殊兵が行動のすべてを直接、脳から各器官に送れるのに対して、MCSは装着者による操作を挟むという点だ。
例を挙げるのなら武装の切り替え、銃の射撃があげられる。
前者は脳から直接送られる情報で素早く行動が出来るのに対し、後者は一度、装着者がMCSに命令を送るというプロセスが発生する。
この僅かな差異が戦場では大きく響いてしまう。
だからその事を俺はスィリーに言わなきゃいけないのだけど。
「うぉぉぉぉぉぉォッ! 」
「どぅおらぁぁぁぁぁぁッ! 」
スィリーとバルツァー、両者共々、敵を叩き潰さんと交差する互いの巨大な得物で宙が火花を散らす。
空気を振動させる音は、火花よりも少し遅れてどこまでも響き渡る。
それはたった数秒の間に何十回と生まれては消える。
粒子ソードの刃から放たれる緑の光は次第にその軌跡を宙に浮かび上がらせていく。
「潰されやがれ糞じじぃがあッ」
スィリーが大きく振りかぶり。
「むやみに攻撃する馬鹿者ごときに負けるかぁッ」
その隙をバルツァーが狙う。
スィリーがそれに反応、頑丈な装甲に覆われた腕を盾として使う。
響き渡る轟音、続く衝撃波。
スィリーが床を削りながらもバルツァーの攻撃を防ぎきる。
目の前の光景がにわかに信じられなかった。
あんなの人の戦いじゃない。
そもそも目が追いつかない。
目を瞬く暇もなくスィリーが攻撃に転じ、バルツァーはそれを的確に防いでいく。
今度はバルツァーが攻撃し、スィリーが防ぐ。
それが幾度となく目の前で繰り返される。
周囲で早速やることを失った兵士たちも、俺と同じように彼らの戦いを眺めていた。
「ッ――――糞があああああ! 」
轟音、そしてスィリーの大絶叫。
直後俺から2m先の場所にスィリーが落ちてくる。
「――スィリー!」
スィリーが無事なのか。それが心配だった。
俺はスィリーに向かって近場の物につかまりながら近づいていく。
「クソッ。レディ……あいつ、とんだ化け物だぜ! 」
無事なようだ。スィリーの言葉には同意しかねるけれど。
だって俺からしたら周りにいる奴はみんな化け物にしか見えないのだから。
それとちゃんとここで伝えなければいけない。
「スィリー。MCSじゃ機械化特殊兵の反応速度についていくのは至難の業だ。ここは俺が策を考えるからスィリーはそれまで奴の気を引いてくれ」
「……あ、ああ。そういえばなんかレディいつもと違う? 」
「今はそんなこと言ってる場合じゃない! 」
「それもそうだな! 」
スィリーは再び素早く立ち上がると、バルツァーに向かい飛び出していく。
この後の流れを聞かないあたりがスィリーの悪い癖だが、今はそんなこと注意してる時間は余りない。
なんとかして奴を葬り去る方法を考える方が先なのだ。
普通にスィリーが戦って勝てる見込みは五分かそれ以下、この場にいるスィリー以外の人間が勝つ見込みはそれ以下と考えた方がいい。
スィリーだけに頼る今の状況は危う過ぎる。何か代案も探さないといければ。
その時だった。突然俺の付近の床が揺れたのだ。
「――うわっ」
少々激しかった揺れに尻もちをつく。
何が起こった?
スィリーとバルツァーは今の揺れに気付いていないのか、はたまた構っていられないのかは知らないが戦闘を続けている。
外部からの攻撃か? いやそれにしては揺れが大きいうえに揺れたのは近場な気がする。
じゃあ、スィリーとバルツァーが何かした? いやあれも先ほどから互いに得物をまじ合わせているだけ。
そんな風に考えていると、近場にいた兵士が俺によってきた。
「おい、こっちにこい。お前の近くの穴が崩れている」
「穴? 」
「そうだそこのMCSが床から出てきただろう。あの穴だ。近くで突然爆発が起きた」
「理由は分かるか? 」
「さぁな。ただあれはエネルギー系の爆発だ。何が爆発したかは知らん。それよりさっさと立て爆発で穴がさらに崩れそうだ」
「そうか……」
爆発で床が壊れたか……それならどうにかして天井を壊したら――
そんな風に考えていると体が宙に浮いた。
「……な」
「立てないなら立てないと言え、ほら移動するぞ」
兵士に抱き抱え上げられ俺は兵士が密集する場所まで運ばれていった。
「ちぃ、なんで当たらないんだ」
「実力が違うんだよ小僧」
一旦距離をとったスィリーとバルツァー。
ただひたすら互いの得物をぶつけ合うという戦闘を長い間続けていた為か、両者に軽い疲労が見られた。
ただ遠目に見ていても確認できたが。スィリーのが明らかに疲労している。
幾ら強化外骨格のMCSと言えど中の人間の体力が落ちれば、その影響をもろに出してしまう。
その点、機械化特殊兵にはそもそも体力が落ちるということが無い。
この差は大きかった。
「紅いのが押されてる」
隣で立つ兵士がつぶやく。
この場にいる人間のだれもがスィリーの疲労に不安な表情を見せ始めていた。
だからこそ、ここだと思い俺は口を開いた。
「俺に案がある」
その声に、二人の戦闘に気を取られていた兵士達が俺の方を向いた。
× × ×
「つまりアレを中央の柱まで追い詰めて、柱を破壊、落した天井で潰すという事だな? 」
話を聞いた一人の兵士が俺に尋ねる。
俺は頷いた。
「あの柱、かなり太いぞ。生半可な爆発物じゃ……」
「それなら問題はない。エネルギーパックを柱に何個か固定した後、爆破させれば十分だ」
エネルギーパックの爆発は下手な手榴弾より威力があるのは誰もが知っている。
それを何個か同時に爆発させればその爆発力はそこそこの物になるだろう。
それを理解したのか俺の言葉に周囲は頷いた。
「爆破いいとして、あれに気付かれない様にはどうする」
「もう少しスィリーに頑張ってもらう」
「あの紅い奴か……さきほどからかなり無理をしているように見えるが」
「ああ、だからこそ。迅速に事を運ばなければならない」
既にスィリーが戦闘を始めてから数十分。その間、スィリーが戦闘で休むタイミングは皆無で、俺の言った通りバルツァーをずっと釘づけにしてくれていた。
だからこそ早くこの戦いに蹴りを着けなければいけない。でなければ全滅するのも時間の問題だった。
「了解した。後は俺達がやる」
「いや、俺も」
人手は一人でも多い方がいいだろうと思い、立ち上がろうとすると兵士達に止められた。
「君は怪我がひどい、いざというとき足手まといになる。ここで待機して居ろ」
「……すまない」
「なにか武装はあるか? 」
「いや、なにも……」
「ならこれだけでも持っておけ」
兵士はホルスターポーチからMピストルを取り出し、俺に渡した。
そして渡したのを確認するとすぐに振り向き駆け出して行った。
なんとも情けない話で、思いついた話を話すだけで後は他人任せなのが不甲斐無いことだが、今は彼らに頼らざる負えない。
「どうした小僧! その先程までの威勢はどうしたぁぁぁぁぁぁァッ‼ 」
「――くっそっがぁあああ!! 」
未だに激しい攻防を繰り広げる両者。
それでも目に見えてスィリーが押され始めていた。
バルツァーが大きく飛び、その勢いを利用しスィリー目掛けて棍棒を振る。
その勢いは重力を利用していた時よりは遅くはなっていた。それでも巨体による勢いは十分にあるはずだ。
直後、大きく火花が散る。
スィリーは間一髪と言ったところで粒子ソードを体と棍棒の間にはさみ攻撃を防いでいた。
ただバルツァーの攻撃を吸収しきれていなかったのか、MCSの膝のモーターが悲鳴ともいえる駆動音を響かせ、脛のアブソーバーは火花を散らす。
「限界の様だな。紅の鬼神と言えど、この俺の敵ではないという事だ! 」
「……なんてパワーだー。こんなのって――反則、だろ」
「反則? 違うな。これが実力と言う物だよ! 」
スィリーの限界を悟ったバルツァーは押し込む力を更に強くいれると、比例するようにスィリーの体勢が屈みこむような形へと変わっていく。
粒子ソードの粒子の光が点滅し、MCS腕部のモーター各所から火花が散る。
「終わったぞ」
後ろから声。
声の方へと振り向けば一人の兵士が設置終了を俺に伝えるために近くまで戻ってきていた。
「リンクを俺に貸してくれ、スィリーに伝えたい」
兵士から通信用のリンクを借りて周波数をスィリーの物に合わせる。
「スィリー、後ろの太い柱までそのでかいのを連れてけ。 そこでそいつを潰す」
「どういうことだ? よくわからないんだが、わかったぜ! 」
スィリーへと用件を伝えると。
残った兵士たちに俺は声を掛ける。
「紅いMCSの援護。 柱までの誘導を手助けしてやれ! 」
命令後すぐにバルツァーへと射撃を開始させる兵士たち。Mブラスターの青い光線がバルツァーへと殺到する。
するとバルツァーは後方へと跳躍しスィリーから離れた。その隙をスィリーは逃さない、軽い追撃をバルツァーへと加え、後退。
ヒット&アウェイを繰り返していく。
よし、このままいけば――
「俺をどこかに誘っているだろう? 」
「なッ――」
バルツァーの口元が大きく歪み、スィリーがその言葉に声を詰まらせる。
そして奴の視線がスィリーから俺達兵士へと向けられる。
――不味い。
「奴がくる! 反撃しないで逃げろおおお! 」
バルツァーは既にこちらへの跳躍を開始して、手近にいた兵士が銃撃を加えて反撃をしたものの頭部から叩き潰されていた。
勢いは止まらない。バルツァーは次から次へと兵士を文字通り叩き潰していく。
スィリーがバルツァーを追いかけて兵士への追撃をぎりぎりで止めに掛かる。
大半の兵士たちはそのタイミングを利用し司令室から撤退を完了する。
「やはり、貴様を真っ先に殺しておくべきだったなぁ! 」
出口付近までたどり着いた俺の前にバルツァーが立ちはだかり、その大きな棍棒を振り上げた。
先程から兵士たちの攻撃を受けていたせいかバルツァーの表面の肉体は削げ落ち、内部の鋼鉄の体がむき出しで俺を睨み付ける。
なにがなんでも俺は逃してくれないらしい。
でも俺が狙われるのは予測していた。
だから――
「スィリー! 」
俺は後方へと引っ張られスィリーに抱えられる。
刹那、俺のいた場所にこん棒が振り下ろされ大きな粉塵が上がる。
「やっちまった。すまねえレディ! 」
「いいとにかく全力で柱までいけ」
「――わ、わかった」
粉塵の中から二つの赤い光が輝く。
粉塵が消え、棍棒を振りかざしたバルツァーが飛び出してきた。
「スィリー、全力で下がり続けるんだ! 反撃はするなよ! 」
「んな事くらい解ってるよ! 」
その直後に俺の目の前にこん棒が迫っている。
スィリーは限界まで速度を上げて後退している。
でも奴の速度じゃ――やられる!
「――ッ」
「うおおおお! 」
一瞬後、目の前で大きな破砕音が響き渡った。
スィリーが腕を俺と棍棒の間に刷り込ませたのだ。
ただ、MCSの装甲は衝撃を抑えきれず砕け散り、その大きな破片を宙へと散らしていく。
「――ちぃッ! 」
完全に捨て身だった。
痛みに耐えるスィリ―はそれでもなお、俺を抱えて後退を続ける。
かなりの無茶をさせてしまったことに罪悪感を覚える。
「すまない」
「……全然、大丈夫じゃないが――平気だ! 」
スィリーは歯を食いしばった様な声を上げ答える。
今だけは、その意地の強さを尊敬できそうだ。
上を向けば、バルツァーがブラスターの光線で元の面影を消したその顔を、悔しそうに歪ませるのが見える。
やはりスィリーの行動はかなり予想外だったようだ。
バルツァーが再び跳躍、先程の勢いを超えるスピードで迫る。
柱まではもう少し。
こちらがやられるの先か、奴が柱まで誘導されるのが先なのか――もはや神のみぞ知る領域へと突入する。
「貴様らの思い通りにはならん! 過去も! 未来も! すべては俺が決める‼ だから俺は貴様らなんぞに……負けることなど許されてたまるものかあぁぁぁぁ――――――! 」
棍棒が勢いよくその手から射出される。
バルツァーが大きく叫び、その手を俺へと伸ばしてくる。
脊髄まで響き渡るようなその叫びは、彼のすべてを物語る様に思えた。
それでも“俺達”だって負けるわけにはいかない。
――だから。
「スィリー! 俺を柱に投げろおおおお! 」
俺は思いっきり叫んで、スィリーから柱の方へと投げ飛ばされる。
スィリーは開いた手を使い、飛び込む棍棒を撃墜した。
「――レディ! やつがいくぞ! 」
スィリーの叫びにより、俺の視線は正面へと戻される。
勢いづいたバルツァーは“柱にたどり着いて”いた。
俺は加速する勢いの中、手に持ったハンドガンのセーフティを外し、スライドを引いて狙いを定める。
狙うは柱に取り付けられた、エネルギーパック。
しっかりと脇を閉め、全ての神経を腕に集中させる。
あとはトリガーを引くだけ……。
「――これで俺達の勝ちだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァっ‼ 」
トリガー引き、直後マズルフラッシュが上がる。
さらにその一瞬後には大きな爆発が生まれて――――
「――ぐぅッ! 」
爆風で体が大きく仰け反り、柱の破片が体にぶつかる衝撃を感じる。
全身の感覚が消えゆく中、バルツァーが崩れた天井に潰されていくのを見た。
今回で2チャプター続いた海賊編(作者が勝手にそう呼んでる)が終了です。
ここまでたどり着くのに想定以上の話数を使ってしまいました。
それとクレアがここまでボロボロになってしまったのも、自分で書いていて言うのも変だと思われそうですが予想外だったりします。
それと次回以降についてですが、これまで書こうと思って入れるのを忘れていたオマケ話を少しだけはさんでからの本編再開とさせていただきます。
ここまで読んでいただきありがとうございました! また次回で――




