Episode 38 : 反撃
ミスにより一度、今話の本文を全削除してしまいました。
スマートフォンでの復旧を試みましたが、もしかするとルビ振りがうまくいってないかもしれません。
見つけた方は報告していただけると幸いです。
『はっ……? 』『司令が……消えた』『今、画面に映っているのは……あの時の』『一体何が――』
目の前のモニターに映った通信ならび各艦の艦長達が、突然の出来事に対応しきれていなかった。
流石に目の前で、司令官が横に吹き飛べばこうなるのも無理ないかもしれない。
気合を入れるとはいえ、少しやりすぎたか。
俺は、もう一度聞こえる様に命令する。
「撤退しろ」
そう言うと一つのモニター、一人の中年男が、事態を理解したのか俺を睨み付けてくる。
『な、なぜお前の命令など効かねばならん――あいつはどうした! あの男を出せ』
確かに、俺は無関係だったかもしれない。でも、今はもう、十分関係している。
だから、ここですごすご引き下がる気はない。
「今、あなた方の質問に答えている余裕はない。秘匿通信で動画データを送る。それを見て納得してほしい」
俺は手元の端末をメインコンソールに繋ぐ。
端末画面に接続エラーの文字が現れた、すぐさま端末のシステム掌握モードを起動させる。数秒後エラー画面は無くなり、接続が完了された。
そして素早く指揮下の艦すべてに送る用設定し、送信した。
暫くするとモニターの向こう側からざわつく声がした。
『これは……』
「見てもらったのなら解るだろうが、彼は正常な精神状態ではない」
『だがしかし……それなら非常事態条項に乗っ取り――』
「今はその時間すらないと言っているんだ少佐! 俺の命令を聞けばこの場はひとまず助かる、それだけは保証する。それとも“彼の様”になるつもりなのか? 」
『そ、そんなことは……』
「なら俺に従え。生き残りたければな」
男は暫くするとモニターを消した。
そして変わる様に通信員が俺に連絡を入れる。
『あ、あの……』
「今だけだ、俺の指示に従ってくれ」
『は、はいッ! 指示を』
意外なことに、この艦のクルーは俺が指示することに異議はないようだった。まあ死ぬよりはマシと考えたのかもしれない。理由はともあれ、従ってくれるのだ。俺も久々に全力を出させてもらおう。
「後方の敵はアステロイド帯、左側から迫っている。残っている右翼、左翼の艦はダミー及びGTフレアを正面宙域に散布したのち、ポイントG7までアステロイド帯を右周回で移動するように言え。中央にいるすべての艦には、右翼、および左翼が撤退するまで敵の攻撃を引きつけた後、同じルートで後退すると伝えろ、以上だ! 」
『はい、直ちに』
此方の残り艦数は40隻、うち左右両艦隊が10隻づつ。
敵のステルス艦が何隻いるのかは不明、送られてくる損害データと攻撃開始時間を照らし合わせて見た感じ、俺の予想では敵は少なくとも20隻以内……。
さらに言えば一方向からの敵は7隻を超えることは無いはずだ。
好都合なことに敵は分散している、と考えると各個撃破の危険性も低いと見える。
ならばまだ、巻き返すことは十分可能なはずだ。
『左翼艦隊、GTフレア及び、ダミー射出しました』
『同じく、右翼艦隊もGTフレア及び、ダミー射出しました』
「よし、左翼艦隊を先に、その後ろから右翼艦隊を続かせろ。左翼艦隊の航行速度は通常の三分の一だ」
これで右翼艦隊が、左翼艦隊に大きく離されることは無いはずだ。
それに右翼の移動中に攻撃されても左翼部隊が近くにいれば、まだ対処のしようはある。
その逆もまた然りだ。
『左翼、右翼、両艦隊の離脱により中央艦隊への攻撃が集中、中央艦隊のシールドダメージ60%に達します』
「周囲に弾頭を射出、発射から2秒後、起爆させろ」
『は、はい』
通信員が困惑しながら命令を送り出す。
敵がいもしない空間に攻撃する意味が解らないのだろう。
だがこれにはちゃんと意味がある。
『弾頭射出――起爆します……あの、この攻撃の意図は何なんですか? 』
「十分意味はある。ただ、使い方が少し特殊なだけだ」
『それは、一体……』
対艦迎撃ステーションの通信員が俺に疑問を投げかけたその直後、艦橋が外からの光に照らされる。
続いて艦隊通信ステーションから通信が入る。
『爆発の衝撃により敵の光学兵器が爆発地点周辺で拡散しました』
『……爆発で出るエネルギー波を利用して攻撃を防いだ、というのか』
対艦迎撃ステーステーションの通信員が、小さく呟いた。
この使い方は予想していなかったようだ……だが、これはあくまで逃げの一手。
今、俺達に驚くような余裕などないということだけは、理解してほしいものだ。
敵とて思考している、この手もそう長くは持つまい。
この隙にでも前方のに部隊は合流を図っているだろう、急がねば後ろからも挟まれ挟撃に合う。
この作戦はなによりも迅速に行動することが全て。退却した左翼艦隊が、3回目に発射される弾頭の爆風が収まる前に、ポイントに到着していなければ、タイミングがずれてしまう。
完全に賭けだ。
一か八か、そんな危うい状況の中、事を進めなければならない。
それでもやらなければいけない。
「中央艦隊は残った弾頭を継続して射出。退却準備が整うまでの間これで時間を稼ぐ。再度弾頭を射出するよう指示しろ。攻撃間隔は20、2、20だ」
『は、はいッ! 中央にいる各艦は、20、2、20の間隔で弾頭を射出、シールド代わりに利用し退却準備を整えてください』
続いて、第二射が発射される。数秒後、艦橋の窓いっぱいに眩い光のカーテンが広がった。
続く報告は、先ほどと同じように敵の攻撃を防いだとのことだった。
「左翼艦隊は今どこだ」
『ポイントG7まで距離7000の位置です』
「了解した。ダミーの射出準備だけはしておけ」
『承諾しました』
眩いばかりの光のカーテンが消えるのと同時に、再び辺りが明るく照らし出される。
次の発射と同時に退却する。
これが成功しなければ次に繋げることはできない。
『次弾装填まで5秒』
「後方の艦隊はまだ、到着していないか?」
『まだです』
「艦のエネルギーをスラスターに集中させろッ! 後方の部隊が到着したと同時に逃げ出す」
『発射、3秒前』
彼らが着かなければタイミングが合わなくなる。
『発射1秒前』
まだか――そう思ったその時だった。
『左翼艦隊、G7ポイント到着しました!』
勢いに飲まれ、滑舌が悪くなった通信員の声が、モニターから響き渡った。
間に合った――
「艦を180度回頭、中央にいる艦隊は全速力でポイントH1まで退却しろッ!」
『退却ッ』
猛烈な横Gが体にかかる。
激しい回頭は艦そのものすら軋ませ、実行された。
そして真反対まで回頭を終えると、勢いが残るうちに今度は前方からの強烈なGを受けることとなる。
余りに激しく揺れ、コンソールにつかまっていた手が、力尽きて離れる。
「うあッ」
そのままの勢いで床へと尻もちをついた。
だが、尻もちごときなんだ。
素早く立ち上がり、再び声を張り上げた。
「ポイントG7にいる左翼艦隊を、アステロイド帯後方から回り込ませH3ポイントへ移動させろ! ただし航行と生命維持装置以外のシステムはすべて停止させてだッ」
『わかりました』
相変わらずの、加速により発生するGは、声を出すのすら億劫にさせる。
強烈なGが肺を圧迫し、息苦しくなるのが原因だ。
命令をし終えると、戦略モニターに目を戻す。
味方のマーカーは、俺の予定通りに動いている。
このままいけば後ろの敵を包囲できる可能性が高い。
例え敵の姿が見えなくとも3方向から一か所に攻撃を集中させれば、幾つかの攻撃は当たるはずなのだ。
だが、このことに敵が気付いては元も子もない、だからこそ一旦、左翼艦隊と右翼艦隊を合流させるような動きをさせた。
反面、敵が予定位置を通り過ぎてしまう可能性が高まるので、時間が押しているというわけだが。
「後方の状況はどうなっているか報告しろ」
『はい! 敵はダミーへと攻撃を集中している模様。今のところは、こちらが移動したことは気づいてないと思われます』
「了解だ。速度、現状維持、このまま突き進め」
敵がアステロイド帯の正面空間に現れるのは、およそ2分後。
各艦が所定の位置に到着するのはおよそ2分ちょっと。
時間があればもう少しマシな作戦を立てられたかもしれないが、これじゃただの博打だな。
手元の端末に目を向ける。
そろそろ攻撃準備に移らなければいけない頃合いだ。
「中央にいる艦隊、および元右翼の艦に通達。砲撃準備、目標はアステロイド帯正面宙域、H2ポイントだ」
『砲撃準備、承諾。通達します、砲撃ポイントはH2。各艦、エネルギーの充填を開始してください。』
「元左翼艦隊には、1分後、砲撃の準備をしろと伝えろ」
モニターにそう言い終えると椅子に座った。
加速する艦で立ち続けるという物は、いささか体力を使う。
それにずっと力んでいても頭が固くなるだけだし。
暫し、ため息を吐こうとしたその時――――俺の体は横に“吹き飛ばされていた”。
顔に広がる熱、回転する視界。
床にたたきつけられたときには、短い悲鳴が漏れた。
「私が、私は、こんな風になるはずじゃなかった。ヤツが……ステルス艦が、私の作戦を台無しにした。解るか、私の気持ちが、侮辱されたこの心の痛みが。私はエリート、そうなるべくして生まれた人間だ。だからこそ、この戦いの勝利者は私でなければいけない! 助かったぞ、クレア・ハーミット……貴様が、貴様がこの戦いの風を変えた。私は再び勝者と、勝者になれるッ」
視界の端に、ストラフェルの狂気に満ちた顔が見えた。
奴は、意識を取り戻したのだ。
いや、そもそも元から気など失っていなかったのかもしれない。
ハッキリしない感覚の中、彼が近づく足音が頭に響く。
立ち上がらなければ。
でも、思ったように体が動かない。
「その前―――潰す。―――邪魔されては面倒だか――」
腹部に鈍痛。背中に衝撃。
痛みに思わず声を上げた。
敵は、俺じゃない……敵はあっちなんだ。
勝ちたいというのなら、俺ではなく目の前を見ろ。
「――貴様ごとき―――上に立つ資格など――」
再び腹部に衝撃。
今度は吹き飛ばされなかった。しかし代わりに圧迫されるような痛みが、腹と背中、両方から襲った。
あまりの痛みに体を縮こまらせる。
明滅を繰り返す視界。遠くなっていく音。
頭の中は白く濁り、意識を保つのが関の山。
「これで、これでぇッ」
ストラフェルが獣にも似た叫び声をあげ、踵を振り上げた。
くそッ……。
目をつむり歯を食いしばった。
身を縮め、痛みを待った。
鈍い振動が床に響いた。
しかし、何時まで経っても、俺に痛みは襲ってこなかった。
何が起きたのか分からない。
不意に、体が宙に持ち上げられた。
そして耳元で低い声がする。
「生きているか?」
それは間違いなく、ストラフェルの声ではないことが分かった。
白止む思考を振り払い、目を開ける。
「お前は……」
俺を宙に浮かしていたのは、“ストラフェルの忠犬”だった。
こいつはさっき、ストラフェルに……。
「殴られるのには慣れてんだ。それに、あんたを見ていたら気が変わった。今、俺はあんたに賭けたい」
「さっき、俺はお前を……」
「自分から火に飛び込む人間はいない、そうだろ? それだけだ。だから何も言うな、あんたはあんたの仕事をしろ」
男は俺をコンソール前に下ろすと、俺の体を支えてくれた。
既にモニターでは通信員たちが焦ったような声を上げていた。
既に予定時刻から15秒も遅れていたのだ。
俺が巻き込んでおいてこれは、ないな……。
俺は通信機をオンラインに切り替える。
「各艦、正面宙域に全力砲撃ッ――敵は目の前だ。ありったけの光の束を喰らわせてやれッ!」
直後、激しい疑似砲音が艦橋に幾度となく響き、ぼんやりとした視界に激しい閃光が飛び込む。
目の前のホロモニターには、無から突如として出現した艦船が、現れては爆散する光景が映しだされた。
作戦が、上手くいったのだ。
『着弾確認。敵艦視認、沈没を確認しました――やったぁッ』
『倒した……倒したんだッ!』
モニターからは歓喜の声が聞こえ出しはじめていた。
確認された敵性艦は全部で6艦。
艦橋の窓から見える景色を見る限り、撃ち漏らした可能性は少ないだろう。
ひとまず、危機は去ったか。
そう思うと少しだけホッとした。
肩の力を抜くと、隣から声がした。
「少し休んだ方がいい」
「ああ、そうさせてもらう」
俺は男に椅子まで運んでもらうと、痛む身体を摩りながら深く息を吐いた。
次はまだ書き上がっておりません。
今年中の投稿を目指して頑張ります!
今後ともよろしくお願いします。




