Episode 29 : 作戦前夜
説明回的な回。
今日、ランド達が帰ってくるらしい。
海賊討伐派の軍人たちを連れて。
そもそも海賊討伐派とは――アンドロメダ銀河に勢力を置くアンドロメダ随一の国家、ヒューゴスティア連邦のネブラスカ宙域駐留軍内部にできた派閥の一つである。
元々ヒューゴスティア連邦は強大な国であるがゆえに支配宙域も広く、そして近隣諸国とのいがみ合いによる武力衝突が頻繁に起きている国であった。
それ故に宇宙――つまるところ生命維持装置なしでは碌に生活できない唯々広い空間――の警備などに手を割くのは手間でしかなくあまり乗り気ではない。
特に辺境地域はそれが顕著に表れており満足な警備態勢を敷くことが出来ていなかった。
ネブラスカもその一つであり、近頃では海賊による被害が多発していた宙域の一つのである。
しかし海賊は神出鬼没、その上、軍が行動を始めたころにはその活動圏を当初の5倍近くにも広げていて手が付けられない状態。
迎撃に出れば逆に自分たちに被害が出る始末。
業を煮やしたネブラスカ宙域駐留軍の司令部は、海賊討伐を引き上げ、代わりに民間船の護衛に回るなどして襲ってくる海賊から民間船を守る形態へと変わっていった。
勿論最初はそれが一番被害を少なくできると判断された結果によるものであり無償で護衛を承っていた。
その際に護衛を受けた側――民間船の人々は感謝のしるしに僅かばかりに謝礼を送る事が時々あったらしい。
しかしこれがダメだった。
元々無償で護衛を引き受けていた軍人は利益を上げることを意識していなかったのだがこれにより予定外の利益が発生。
彼らはその一部を自分の懐に入れ私腹を煮やしていった。
それに味を占め始めたのかここ最近では民間船を護衛する際に僅かばかりの謝礼を貰うことが当たり前となり、軍としても護衛を引き受けた軍人からその一部を払わせることで一つの収入源としていた。
多くの民間船が護衛を必要としている状況は変わらず、このように軍が少し大きな態度をとっても守って貰っているのだから仕方がないと受け入れざる負えないといった状況の人々も大勢いるのは間違いない。
それに護衛の謝礼として払わされる量も決して無理な額でもなく「海賊に襲われるくらいなら……」と感じる者も多いらしい。
軍としても海賊を探す手間が省けそれを撃破、その上副収入が入るのだからこれ以上においしいこともないだろう。
ただこうしてできたシステムは、軍を腐敗させていくことになり、結果、護衛は要らないと拒む民間船には脅迫まがいの事をして無理やり護衛を受け無理やり謝礼を払わせたり等の事もするようになったとか。
軍内部ではこの新しい体形に不満を持つ者も少なからずおりそれが海賊討伐派である。
つまるところ海賊討伐派とはこの様にして腐りきった現状に不信感や不満を持った軍人たちの集まりだ。
彼らは海賊を野放しにして私腹を肥やす軍の上層部を見限り、自分たちだけでもと独自に海賊討伐を行っていた訳だ。
ただ問題もあり、その問題とはその構成員の殆んどがまだ経験が浅い者ばかりであり実戦経験に乏しいという事だった。
もっと端的に言ってしまえば世間知らずな若造どもの集まりという事でもある。
結果、海賊討伐に言ったら逆に返り討ちに合うのも珍しい事じゃなく、唯でさえ少ない海賊討伐派はさらにその数を減らしていった。
そんな状況を改善すべく外部に応援を頼んだのが討伐派唯一の古参兵であり、リーダー的存在であった将軍だった。
そしてそんな将軍によって呼ばれたのは、一般人――宇宙を旅するものマグズ――と偽って来た俺達、<クラウソラス>の面々等言う訳である。
元々俺達は「海賊討伐をしろ」と言う命令をヒューゴスティア連邦諮問機関<コマンダーズ>によって受けていた。
ただその際に諮問機関が介入していることを悟らせないためにその事を偽れとも注文を受けていた。
その為に将軍を利用しようとしたわけだったのだが此処で問題が生じた。
将軍はすでにこの世の人ではなかったのである。
彼は俺達と合流する数時間まえに海賊によって襲われて死んでしまっていたのだ。
当初はセクター5で合流する予定だったものの将軍がいつまでたっても来なかったので、俺達は仕方なく彼がいるかもしれないネブラスカ宙域駐留軍の惑星、惑星フェスタリオへと赴いた際にランド達が聞いたことである。
ただそこは流石の<クラウソラス>と言ったところか、それでも軍の内部まで入り込んだのをチャンスと踏んだランド達は、改めて海賊討伐を駐留軍上層部に提案していた。
まあ、あまり上手く進んでいなかったようなのだが。
そして交渉しては引き伸ばされて永遠と俺達はこのフェスタリオに縛り付けられていたのだが、数日前にある事件が起きた。
交渉帰りのランド達が非公認の武力制圧にあいかけたのである。
最初は粘りずよく海賊を討伐させてくれと言う俺達に業を煮やした軍の仕業だと思われたがそれは違った。
なんと俺達と敵対する理由など微塵もないはずの海賊討伐派の一派だったのだ。
ランド達は持ち前の戦闘能力によりこれを撃退した。
なぜ武力制圧に会いかけたのかは不明。
と言っても俺が知らないだけなのだが。
その後<クラウソラス>と海賊討伐派で話し合いが行われたらしく、結果、数日前に地上のランド達から帰還すると報告があったことを俺はハイドと話している中で知った。
これにより軍との交渉は中断――実質上取りやめになったのだが。
代わりに海賊討伐派協力の元、俺達は当初の目的『海賊を討伐する』を始められるという訳だ。
今俺はレマラ/L級駆逐艦<ヌアザ>内部にある小さな部屋に居た。ここは作戦室だ。
艦の外壁に限りなく近いこの部屋の一角にある窓には広大な星空が映り込んでいた。
そんな部屋には部屋の半分以上も占める長テーブルが置かれていてそこには数人の男女が離れて席についている。
俺、ルー、ハイド、ニコラス艦長。
もうすぐ来るであろうランド達を俺達は待っていた。
× × ×
ロランド・ファラレーエフは変わっている。
通称『ランド』と呼ばれるこの男は、ヒューゴスティア連邦議会議長・諮問機関【コマンダーズ】戦闘斥候コマンド・グラーディオ デルタ小隊「クラウソラス」の隊長であり俺の上官だ。
しかしこのランドと呼ばれる男はやはり軍人としては異端な人物だと俺は思っている。今の俺が言うのもなんだが彼は軍人らしくない。
ランドは年齢は確りと聞いたことは無いのだがたぶん50代後半、そんな彼の頭部は加齢によって真っ白な髪が生えている。
それでも彼が50代もしくは40代に見えるのはその鍛え抜かれた筋肉が圧倒的な存在感と生命力を発しているからだろう。
ただ、欠伸をしながら部屋に入ってくるランドを見ていると本当にこの人は軍人なのだろうかと疑ってしまう。
とりあえず彼の行動は雑なのだ。それでいて繊細でもある。
言っておいて意味が解らないだろうが本当にそうなのだからどうしようもないのがこの男である。
「よォ~久しぶりだなァ」
久しぶりに街中で出会った知人に挨拶するかのようにランドが言った。
そしてそんなノリは周りにも伝染していて、
「ども」「お変わりなく」「元気そうだな」
と軽く手を上げて軽い言葉を交わしていた。
これで良いのだろうか。
若干の不安を覚えつつも心のどこかで仕方がないと納得する。
そんな様子を遠巻きに眺めているランドと目があった。
「レディも久しぶりだな。友達とは仲良くやってるかァ?」
へへへッ。といった様子で笑いながランドが俺に聞いてくる。
友達とは多分エレナの事だろう、エレナが目覚めたことは既にランドにも伝えてある事、基本的に俺がエレナの唯一の話し相手なのも彼は知っているのだ。
「ええ、まあ。友達かどうかはよく解りませんが」
「んっアレ、違うのか? でも送られてきた映像だとずいぶん仲がよさそうに見えたが」
「――えい、ぞう?」
ランドが言った『映像』という言葉に俺は首を傾げた。
可笑しいな――俺は確かに言葉でランド達に報告はしたが映像など一度も撮っていないから送ったことなどなかったはずだ。
「そんな物、一度も送った覚えはありませんが」
「あれ、そうなの? 不定期ではあったが間違いなく<ヌアザ>から送信されてきたぜ?」
彼が言いたいことはつまり<ヌアザ>からの現状報告としてそれが送られてきたという意味だ。
不定期ということ定時報告に時々まじっていたという事だろう。
となると俺じゃない誰かが映像を送っていたという事か。
俺は周囲をも見渡す、するとこの部屋で一人だけ――俺をチラチラとみてはあさっての方向を見る――可笑しな奴がいた。
「もしかしてルーさん?」
「ええっっと何が?」
「――あ、もういいです」
犯人は案外近くにいた。ついでに妙に納得してしまったせいかそれ以上追及する気も起きなかった。
ルーファス・リッチ、最近までは部隊の中でも真面目な方だと俺は思っていたのが先日の一見以降俺の見方が変わった人物である。
彼はこの<クラウソラス>で情報収集を担当している人だ。
そして部隊で唯一の元々が一般人であり軍人でなかったという人物でもある(他の人間から言わせれば俺も十分そう言えるのだが、俺の中では俺は軍人のままなのでノーカウントだ。)。
げっそりとした頬に細い黒縁メガネを掛けていてついでに身なりも整っているとは言えない彼は夜中に有ったら不審者と間違えそうだ。
まあ、実態もあまり変わらなかったりするから強ち、見た目通りで間違ってはいないけれど。
ちなみに彼は変態だ。
これは俺の心の中にしまっているのだが、正直犯罪一歩手前に近い事を最近している。
簡単に言えば盗撮で、その対象は俺だったりするわけなのだが……。
俺の食事中の写真や休憩室でうたた寝している写真を密かに彼は撮っていた。
いやまあ何とも怖い話で彼の部屋を訪れた時、偶々開いていたアルバムの中を初めて覗き込んだときはその場で戦慄した物である。
とりあえず公にすると一緒に俺も恥ずかしい思いをしそうなので、まだ黙ったままだが、いずれは言うつもりだ。
そんな彼に冷ややかな視線を送ったあともう一度ランドに向き直った。
「そうですね友達かどうかはよく解らないですが、仲はそれなりに良くなったと思います」
「そうか。そういえばレディ、ルーに何か言いたそうだったがさっきのは」
「いえ、大丈夫です」
俺はランドの言葉に被せる様にして言った。これから作戦が始まるというのに部隊内のちょっとした事で揉めたりはしたくない。
それに撮られているのは食堂や休憩室と言ったプライベートではない場所ばかりだからまだ許せなくない。
そんな事を思っている内に周りが静かになる。
ランドが周囲を一通り見渡すと口を開いた。
「んじゃまァ、そろそろ本題に入るぜ」
そう言ったランド一番手前にあった座席に腰を下ろすと携帯デバイスを取り出し、それをテーブル中央に置いた。
それに伴い後方からは複数人のクラウソラスのメンバーが入ってきてそれぞれが席に座り少しだけ人数が増えた。
「さてと取り合えずお前らが思ってる事は分かってる。なんで戻ってきたのかだろう? そしてお前らはこうも思ってるはずだ『作戦開始』だと」
その言葉に周りは頷いた。もちろん俺も頷いた。彼らが返ってきたという事はそういう事だと誰もが思っている。
「確かに俺達はやっとこの惑星から離れることができるわけだが……」
そう言ったランドは一拍間を置く。どうやら何かあるらしい。
「酒場で揉めたってのは話したと思うんだが、どうやらやりすぎたらしくってな。若干信用がない」
がはは。と豪快に口を開け笑うランド。
つまり相手としては格下の補助要員程度に思っていた俺達が想像以上の戦闘能力を保有していたから裏切られるかもしれないと危惧しているという訳だろうか。
「と言う訳であまり自由には動けなねェ」
その言葉に周りがブーイングを飛ばす。
流石は戦闘狂のたまり場だ、頭の中でそう思いつつ俺は苦笑した。
「んな訳で俺達は軍の海賊討伐派と供に今後は行動する。誰か異論はある奴いるか? いねぇな。よし次行くぞ」
速い――異論は認めないという事か。
ランドは手元の端末を操作する。するとホログラムで投影された立方体が現れる。
その側面、4面は画面になっており、同じ情報がそれぞれに投影される。
「海賊は<エレフセリア>と名乗っている。規模はかなり大規模で、正直言って国内の海賊の中じゃ一番でかい勢力かも知れねぇ」
エレフセリア――旧人類が使っていたとされるいくつかの言語の中で<自由>と言う意味を持つ言葉である。
自由を名乗る海賊。なんというかあまりよくない傾向だ。下手すると反政府組織になりかねない雰囲気を名前から醸し出している。
そんな事を思っていると正面のパネルに詳細なデータが表示されていく。
「この間俺達が調査した“ゴースト”もエレフセリアによる襲撃を受けた可能性が高い」
ランドが言った“ゴースト”とはエレナを発見したあの客船の事だ。
内部は極彩色に彩られたゴシック調の船内とは程遠く、それは凄惨たる地獄のような場所に変わり果てていた訳だが、どうやらそれをやったのも今回の標的となった海賊達の仕業という事かもしれないらしいという事だ。
俺はエレナの事を思い出すと胸が痛んだ。そして彼女の為にもこの任務は成功させなければいけないとも思った。
「そして不審な点が幾つかあってだな。この海賊達、レーダーに映らないそうだ」
ランドが言い放った言葉に周りがざわめいた。
レーダーに映らない――背後をやすやすととられてしまう可能性があるという事だ――つまり俺達がかられる側になる可能性も否定はできない。
「落ち着けぇ、たしかに近づかれて乗り込まれる可能性が高いって言うのはやべぇが、俺達ならそれも問題はないだろ? それとも俺達は突然の不意打ちにすら耐えることのできない軟弱な奴らだったか、ちげぇだろォ。いいか、俺達は狩られたと見せかけて狩る、それだけだ」
その言葉に周りは今度は歓喜に沸いた。
無茶苦茶な言葉ではあるが、前回の客船探索の時の事を思い出せばその言葉は決して不可能ではないと誰もが解っているからだろう。
それにしたって無茶苦茶なのは変わらないのだが。
「基本方針は“出てきた敵は潰すだ”いいな?」
周りは再び大きな歓声に包まれる。
ランドは両手を上げそれを沈めていくと再び口を開いた。
「いいか敵は巨大だ舐めてかかるなよ。だがその一つ一つは決して強くない、上を潰せば瞬く間に崩れると予想している。だからこそ早急に奴らの本拠地を見つけ潰す。作戦決行は明日明朝からだ、それまでは各員自由時間とする。ってことで解散――おっと言い忘れてた今送った情報には目を通しておけよ、じゃ解散」
ランドの『解散』と言う言葉と供に作戦室から皆が出ていく。
そして俺が丁度出口へ差し掛かった時だった。
「おっとレディ、お前には違う話がある」
ランドが何時も通りの気さくな口調で俺を呼び止めた。
ご一読ありがとうございました。




