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Episode 27 : フェスタリオの酒場

 ヒューゴスティア連邦議会議長・諮問しもん機関【コマンダーズ】戦闘斥候コマンド・グラーディオ デルタ小隊「クラウソラス」


 コマンダーズの軍事工作を主とする部隊。

 戦闘斥候コマンドは各宙域に派遣され情報収集ならび危険人物の抹殺などが主だ。

 デルタ小隊は全9小隊からなる部隊の4番目。

 小隊の大半は特殊な経歴を持った人物で構成されている。

 俺もそんな変人の中の一人だ。


 マルティン・メラート、階級は少佐。今はクラウソラスの小隊副隊長を務めている。

 もともとはヒューゴスティア連邦航宙軍戦闘歩兵群「ミッドフェル」という部隊に居た。

 コマンダーズのグラーディオにスカウトされたのは4年前、休暇中にある惑星の酒場でランドに出会ったのがきっかけだった。

 たしかあの時もこんな感じだったような――


「隊長、いくらなんでも飲み過ぎではないでしょうか?」

「あァ、良いじゃねェかどうせ明日もだんまりだぜェ」


 既に酔いが回り、顔が茹蛸の様に赤くなったランドは出来上がっていてまともな会話が出来そうにない。

 ついでに隣のスィリーなんか机の上にだらしなく突っ伏しているのだから目を覆いたくなった。

 今こんな状態になっているのは二人が酒を大量にがぶ飲みしたからだ。

 全く先が見えないあの軍人たちとの会話に俺達は疲れていた。

 だからその鬱憤を晴らすために飲んでいたのだが。

 流石に飲みすぎだ。

 つまみとして出されたピーナッツを俺は口に放り込み、思いっきり口の中で噛み砕いた。


「はぁ」


 小さくため息を吐きながら顔を上にあげる。

 ボウッ――っと頭上に小さく揺れる豆電球の光が顔面に降り注ぐ。

 橙色とうしょくの光は室内の雰囲気を崩さない様に薄暗くなっていて眩しくなかった。

 ここは軍事惑星、フェスタリオの中央都市のフェスタリオの郊外にひっそりとたたずむ酒場。

 この惑星の性質上、惑星の住人の大半は軍の関係者とその家族が占めている。

 だからか聞こえてくる会話は軍人たちの自分たちの仕事についての話が多かった。

 しかしやはり酒場、流れてくるのは愚痴ばかり、どうやら彼らも上に不満があるようだ。


「こういう会話だって聞けば役に立つというのに」

「へぇ?」

「ああ、隊長。手洗いはそっちです」

「――おゥ、あんがとよ」


 千鳥足で店の奥に入っていくランドを見て思わず苦笑する。

 ぶれないなランドは……。

 まるで人の話を聞いてない様に見える。

 あれでも一応会話の内容を覚えているのがすごいところだ。


 そこで俺はやっと気づいた。

 一部の奴らがさっきから俺達の事を見ているということに。


 不味い……囲まれてる。


 仕事柄か何処にいっても信用されないのはいつもの事だったが、こういう事は久しぶりだ。

 しかし急に動くわけにはいかない、まだ気づいていないふりをしていなければ。

 突然、ポケットに入れていた端末が鳴る。

 ――突然びっくりさせるんじゃねェよっ!

 そしてかけてきた相手はランド。

 ランド?

 俺は少しだけ首をかしげつつ端末の応答ボタンを押した。


「もしもし」

『おう、メラ久しぶりだな!』


「誰のまねですかッ!」と思わず言いそうになるのを抑え会話を続ける。


「ああ、久しぶりだなどうした?」

『んッ、ああ飲み屋で飲んでたんだがよぉ、話してたやつが爆睡しちまってさ暇になったんだよ』

「なら起こせよ」

『え、ああそう? でも起こしたら五月蠅いぜ』

「五月蠅いのくらい我慢しろ」

『そうか、でも下手に起こすと殴られるぞ?』

「殴られるならゆっくり起こせばいい」

『そうか? じゃあ起こそうかなァ』

「それでいい」

『そうか、じゃあな』

「ああ」


 端末を触り通話を終了する。

 どうやらランドも気づいていたらしい。

 あの茹蛸状態で。

 一体ランドは何時から気づいていたのだろうか。

 まずは何気なくスィリ―を起こせと言われた。

 周りがそれで動く可能性はあるが、それは大丈夫という事らしい。

 つまり周りは俺とスィリーでどうにかしろという事だ。

 信頼が厚いのはいいがかなり神経を使うことになるかもな。


「おい、スィリー。起きろ。そんなとこで寝てたら注文できん」

「……ん、ああ? 俺はもう腹いっぱいだァ」

「俺が腹減ってるんだよ。起きろ、何なら別けてやってもいい」

「はぁ、じゃあもう少しまってくれ、食べれる量を考える」

「ああ早くしてくれよ」


 今の会話で。スィリーも気づいてくれた。

 武装がほとんどない状態のスィリーがどのくらい相手できるかは分からないが、もうすぐ本人が教えてくれるだろう。


「そうだなァ、5人前」

「思ったより食べれそうだな」

「別にいいだろォ、早く注文してくれ」

「わかった。でも緊張で固まってしまうかもしれない」

「そうか精々がんばれよ」


 俺は大声を出し店員を呼ぶ。

 踊ったり歌ったりする人間のせいで大声を出さないと聞こえないのが酒場の不便なところだ。

 そして少し経ち、人垣の奥――厨房の方から可愛らしいエプロンドレスに身を包んだウェイトレスがにこやかな笑みを浮かべて現れた。


「ご注文はいかがなさいますか?」


 甘く、そして美しい管楽器の様なエンジェルボイス。

 俺の耳元で囁かれるその声に暫し幸福を覚えてしまう。

 ただし俺の背中には冷たく冷えた筒が押し付けられていた。

 多分だが拳銃――Mピストルだと思う。


「そうだなおススメを知りたい、君のおススメを教えてくれないかい?」

「はい、ではこちらをどうぞ」


 俺の後ろに立ったウェイトレスはメニューを俺だけに見せた。

 よく見るとウェイトレスの腕は逞しい筋肉が付いている。

 間違いない、軍人だ。

 彼女がこちらに向かってくる際の歩き方をみて半分疑ってはいたのだが、これで確信した。

 そして差し出されたメニュー表――もとい脅迫状には、



 “お前たちは包囲されている無駄な抵抗はせずに投降しろ。抵抗すればここで射殺する”



 と書かれていた。

 恐ろしい。どうやら抵抗すると、後ろの鉄の塊は俺を殺すように動かされてしまうらしい。

 相手のおおよその位置は予測が付いたが此処にきて移動を始めているのが見えた。

 始めるなら今か?

 しかし、下手に暴れれば関係のない非番の軍人まで相手どらなくてはならない。

 厄介な相手だ。


「なぁ、早く食べようぜ?」


 スィリーが俺に合図を促す。


「ああすまん。ちょっと高いんだ」


 俺はさわやかな笑みを浮かべつつスィリーに言う。

 その際に後ろの冷たい金属が更に深く押し込まれた感覚があった。


「金なんて気にする必要はねぇ、俺達は払わなくてもいいからな」


 スィリーの言葉に俺達を囲む男達が動揺し動きを止めた。

 今しかないか。


「じゃあ5人前でお願いするよ――ッ!」


 振り向く素振りをしつつ後ろのウェイトレスの顎に頭突きをお見舞いする。

 ウェイトレスはそれを避けようとしたが、俺の伸ばした足に引っ掛かりバランスを崩した。

 その隙にウェイトレスの左手にあったMピストルを奪い、電源を落とす。

 俺は席を立ちあがりつつ回転を掛けウェイトレスの腹部に軽い蹴り居れた。

 軽い呻き声を上げたウェイトレスを俺は抱き寄せ、首元に素早く手刀をたたき込み気絶させた。


「なっ、くそッ! グレイソン!」


 彼女の仲間だと思われる男が叫び声を上げる。

 周囲で俺達を囲んでいた男たちは如何やら、この状況でこうなるとは予想していなかったらしい。

 今何が起こっているのか、関係のない者たちはまだ理解していないのか、男の叫び声で顔を上げ始める。

 ただ立ち尽くす男達に素早くスィリーが突進を掛け制圧していった。


「な、なんだ喧嘩か?」


 流石に周囲の人間もこの異常事態に不信感を抱いてきているらしい。

 さてどうするか……。

 俺の手元にはウェイトレスにしては少々筋肉が付きすぎた女性。

 そして足元には電源こそ落としたもののピストル――

 まあ先ほどの流れを見られていたのならともかく、どうやら周りはスィリーの方に注目しているらしくこちらには気づいていない。


 足元にあったピストルを適当な場所に蹴り飛ばし俺は叫ぶ、



「た、助けてくれ! 人が倒れたんだッ!!」



 すると周囲の人々の視線がこちらに向き始めた。

「お、おいこっちで人が倒れてるぞッ!」「なんだ」「こっちのがやばいんじゃないか」続々と周囲の人間が集まってくる。よし、上手くいった。

 俺は心の中でガッツポーズをとる。そしてスィリーの方を向く。

 スィリーは完全に敵を制圧していた。

 スィリーの周囲に倒れる男達を介護する者もいるが、あまりにも突然の出来事にスィリーに注意を向ける余裕はなさそうだった。


(おいマルメラ、どうすりゃいい?)

(お前は外に出てろ、俺はあとで行く)

(わかった。遅れんなよ)

(了解だ)


 アイコンタクトと軽い身振りで会話を交わすと、スィリーが人ごみに紛れ店の外へと出て行った。


「救急車を呼ぶ、だれか見ていてくれ!」

「あ、おい。どうすりゃいいんだ」


 俺は気絶させたウェイトレスを静かに、ただ素早く床に倒すと店の外に走り出した。




「よし、よくやったマルメラ。こっちも順調だったぜ」



 外に出ると一人の男の肩に手を回したランドと複数の黒ずくめ(クラウソラスの隊員)が店の外で俺を待っていた。

 よく見ると複数人の男女が取り押さえられているのも見える。


「隊長、これは一体?」

「ああ、ホテルの奴らよんだんだよ」

「いえ、そこではなく隣の奴とかそこらへんの人とか」


 ランドと仲良さそう(実際はランドが首をがっしりホールドしているだけ)な男は明らかに戦闘服に身を包んでいたが、その他の男女は一般人然としていた。


「ああ、こいつ等も囲んでたんでな抑えた」

「よく気付きましたね」

「んなの俺じゃなくても気づけるよ。明らかに遊びに来た奴らじゃねェもん動き」


 そう言いながら隣の男を睨み付けるランド。

 ランドに睨み付けられた男は目に怒りの色を見せるが言葉は発さなかった。

 しかしこいつらは一体何者なのだろうか……。

 一番の候補として考えられるのは、あのザンズバルスとやらの送った刺客だろうか。

 しかしそれにしては敵意があまりに少ない。

 あのウェイトレスにふんしていた兵士もそうだが、俺達の事が解らなく怯えていると言った印象を受ける。


「隊長、彼らは何を持って送られてきたのでしょう?」

「さあな、出来れば聞きたいんだが話してくれねぇんだよこいつら」


 聞きださないといけない話は山々なのだが、生憎ここではそれはできなかった。

 そもそもこの異様な光景をずっとこの場で展開させるわけにもいかない。


「ではどうしますか?」

「この男とあと何人か連れてく、乗せる車両は既にこっちに向かってる」

「他の者は?」

「まあ茂みにでもほかっておけ、あくまで俺達に敵意は無いことを分かってもらわなきゃいけぇんでな」

「了解」


 全く持って仕事が早い男だ。

 そもそも外にどうしているのだろうか、トイレに行ったのではないのか。

 まああまりその辺は聞かないでおこう、前に聞いたとき生々しい話をされたのが今でも軽いトラウマだ。

 と、まあとりあえずその辺は置いておこう。

 ランドが先に指揮官らしき男と供に車に乗り込むと車が静かなエンジン音を立て走り出す。

 そしてその車両が街の方に消えていくのを見守ると振り返った。

 あとは残りのこいつらを死なない程度に薬物で麻痺させる作業をしなければならない。

 俺は軽く体を捻った後、部下に命令を下した。


ご一読ありがとうございました!

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