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Episode 21 : ランデブー

ラフプロットに細かく書き足しをしていたら時間がかかりましたotz

まだまだ執筆が間に合っていないため、もうしばらく更新が不安定になりそうです。

 

 ヒューゴスティア連邦・ネブラスカ宙域・セクター5周辺

 レマラ/L級<ヌアザ>艦内

 中央クルー休憩室



<ジークフリート>から飛び立ってからすでに一週間ほどが過ぎた。

 あの後は乗り物の窓から流れていく景色のように物事が圧倒言う間に過ぎ去っていった。

 官給品の受け取り、武器の手入れ、荷造り。

 準備期間がたったの一日だったのもあり、それはもう大忙し。

 ゆっくりする時間など碌に取れなかった。

 特に出発前夜、アンジェリカにこの任務のことを伝えたたら物凄い勢いで止められ『今すぐ軍人になるのを辞退しろ』と迫られてしまった時は肝を冷やしたものである。

 彼女と再会した時に言われた言葉が、この時肝を冷やした理由だ。

 でも任務は任務であるし、俺は彼女の前から居なくなるつもりなど毛頭なかった。

 だから俺は彼女を一夜にわたり説得し、最後は彼女が折れる形で納得することで話し合いを終息させた。



 ただし俺は、その時に彼女と一つだけ約束した「何があっても絶対に帰ると」



 指先から垂れたネックレスを見つめながら小さく息を吐く。


 俺は、絶対に帰るよアンジュ……。


 周りの照明を反射させ煌々と輝くネックレス。

 これは俺が<ジークフリート>から飛び立つ前、アンジェリカが俺にお守りとして渡してくれたものである。

 プラチナで作られた輪の先に、直径4cm、厚さ1cmのペンダントが付いている。

 ペンダントには綺麗な蒼色の宝石が銀色の装飾の内側に嵌められていて凄く綺麗だ。


 ペンダントに軽くキスをして、首から掛ける。

 それから軽くペンダントを握り“無事に帰れるように”と願いを込めた。


 一種のおまじないのような物なのだが、やるのとやらないのでは安心感が変わってくる。

 人によっては、安心感は戦場に置いて死につながる、そんな言葉を発する人がいる。

 確かにそれはある意味ではあっていると、俺も思う。


 奇跡を願うだけでは弾は避けてくれない。


 確かにそうだ。

 だけれど戦場では不安感に押しつぶされて冷静さを失う時だってある。

 根拠のない自信による安心感、確かにこれは人を死に向けるだけだ。

 でも自分を冷静にさせるための安心感、これはこの中に含まれてはいないと思う。


 だからこそ俺は時々こうしてペンダントに祈る。



「なぁレディ、また祈ってるのか? そろそろ周りが『シスター万歳』とか言っててうるせぇんだけど、どうにかしてくれね」


 突然横から聞こえた、やる気のなさそうな声に呼ばれ、現実に引き戻された。


 うぐぅ……。

 人がいい気分に浸っているときに横やりを入れないで欲しい、


「ランド、前にも言いましたけどこれは唯のおまじないみたいなものです。別に神に祈っているわけじゃありません」


 身長2m弱の、大柄な老兵を、俺は睨み付ける。

 睨み付けられた老兵は、手を頭の裏に回し、頭をかいた。


「おおう、あんまり睨み付けないで欲しいなァ。おじさん可愛い子に睨まれるの、あんまし得意じゃないんだよね」


 そう言ったランドはナチュラルに俺の隣に腰を掛ける。

 彼は自身が言っていることとやっていることが矛盾していることに気付いているのだろうか、できれば気づいていて欲しい物だ。

 ランドは此方を向き「そういうのはマルメラにやりゃあいいのに」と俺を冷かしてきた。


「はぁ……“サー”、用があるなら早く話してください」


 俺は眉を顰め、声のトーンを少し落とす。

 ちなみに“サー”は皮肉だ。

 基本的にランドが何もない時に俺と話す場合、彼は自分の自慢とちいさな教訓を言うだけ言って帰っていくのだが、何か用があるときだけは他人をいじる癖があるのだ。

 これは最近ランドを観察してわかったことだったりする。


「なんだぁ、バレてたか。ああ、そうだよ。『ニコちゃん』がレディを連れて来いって言ってな、今時間大丈夫か?」

「むしろ時間が無い様な事態に陥っているように見えますか」

「いんや、見えねえな」

「そういうことです」

「んじゃ俺について来い」


 そういうとランドは腰を、重そうに持ち上げた。

 これがあのMCSの操縦者なのだろうか……にわかに信じがたい物である。

 そんな事を思っていると、頭の中である疑問が湧いた。


「……そういえば『ニコちゃん』って誰です?」


 俺はそんな名前に聞き覚えはない。


「んっ、ああ艦長の事だ」

「えっ」

「いやだから艦長だって」


 当たり前だろという風に首をかしげるランド。


 はたして艦長は女性だっただろうか……。

 俺の記憶では、いかつい顔にスキンヘッドという風貌のこれまた大男だったと思うのだが。


「『ニコちゃん』ってニコラス・リードさんの事で合っていますよね?」

「ああ、ニコラス・リードのあだ名がニコちゃんだ」

「ちなみに皆さんそう呼んでいるのですか?」

「いや、俺だけがそうやって呼んでる。士官学校の旧友だからな」

「――理解しました」


 つまり俺はニコラス艦長の事を『ニコちゃん』と呼ばない方がいいという事で合ってるはずだ。

 にしてもクマみたいな男に“ちゃん”付けって、どういう神経してるんだランドは……。


「とりあえず行くぜレディ。あいつは時間に厳しいからよ」





「クレア君、よく来てくれたな」


 サッカーのハーフコートほどの広さを有した艦橋。

 その上部に位置する司令席に座った艦長。


 彼こそが『ニコちゃん』ことニコラス・リード艦長だ。

 齢56歳、クラウソラス専用艦「ヌアザ」艦長を長年務めている男。

 クマみたいな体をしているがランドと比べると一回りほど小さく見える。

 スキンヘッドにした頭には、無数の傷が付いていた。

 彼自身、元々兵士だったのだろう。

 彼は立ち上がると俺に握手を求めてきた。


「リード艦長、お呼びでしょうか?」


 俺は握手を返す。


「ああ、少しな。それとわたしの事は『ニコラス』か『ニコ爺』と呼んでくれていいぞ」

「――ではニコラスさん、どういったご用件でしょうか?」

「あ……ああ、まあ気まぐれな様なものだ」


 何故だか少しだけ残念そうな顔をするニコラスはともかく、気まぐれとは一体どういうことなのだろうか……。


閣下ミッシェルから君を出来る限り艦橋に置いて欲しいと頼まれていてな。何時呼ぼうかとランドに相談したら今日でいいと言うので呼ばせてもらった次第だ」


 今の俺が艦橋に居ることに意味はあるのだろうか?

 確かに前の俺は艦隊を指揮したことはあるし、艦長も務めていた。

 でも今の俺の経歴にそっち方面に関する経歴は一切ない。

 口を出そうにも口を出したら怪しまれるか、または笑われてしまうだけだろう。

 なのに艦橋にいろなんてミッシェルは一体何を考えているのだろうか。

 此処に来てから、いや来る前からミッシェルが一体、何を考えて行動しているのか俺にはさっぱりわからない。


「まあ君の将来が有望そうという事だろう」

「――へっ」


 丸で俺の考えていることがわかったかのようにニコラスが発言する。


「あの――」

「なんで君が考えていることが分かったのか? そう聞きたいのなら教えてやろう、君の顔に書いてあるからだ」


 顔に出てるってことか……?

 俺は顔を触り、顔に表情が出ているか確認する。


「おいおいレディ、なにしてんだ?」

「そんなに、表情に、出ているのか調べているんでふ」

「そ、そうか……」

「く、はっは。面白い御嬢さんだ」



 おかしい、俺は元々表情に感情は出にくいタイプだったはずだがなぁ。

 ――ああ、それにしてもホッペがモチモチしてるなこの体。





 ×     ×     ×





「では今回の任務では『コマンダーズ』の任務という事は伏せて行うという事ですか?」


 あれから暫くしてランドは艦橋から立ち去り、今ここには俺とニコラスだけが残っている。

 そして俺はニコラスから直接今回の任務の細かい説明を受けていた。


「そうだ、幸いにしてレマラ級、並びレマラL級は連邦のデーターベースには無いからな。わたし達はそれを利用し、この宙域を偶々通りかかったマグズという態を装う」

「グラーディオとバレてはまずい。そういうことですか?」

「ああ、そういうことだ」

「……では軍とはどうやってコンタクトを?」

「そこは安心しろ手配済みだ。わたし達は海賊討伐を既に受託している」

「えっ、でもそれじゃあ、グラーディオだと知られてしまうのではないのでしょうか?」

「偽装はばっちりだよ」


 自信満々と言った様子で言い放つニコラス。

 たぶんグラーディオは至る所に潜んでいるのだろう。

 そうでなければこんなことはできないはずだ。

 頼りがいがある反面、恐ろしいとも思ってしまう。


「そろそろ彼らと合流するポイントだ、空間図を見て怪しい物がないか教えてくれるかい?」

「えっ、あ……私ですか?」

「他に誰かいるかな」

「――了解しました」


 俺は司令席後方に用意された補助席に座るとホログラムを呼び出し、空間図を表示した。


「空間図に表示された内容と各種探知機能の結果を照合します」


 俺は各種レーダーによる観測の結果と空間図を合成する。


「異常は?」

「ありません」


 空間図には<ヌアザ>以外の反応はな――いや、たった今、一つレーダーに反応があった。


「――セクター5に極小の感あり」

「駐屯軍か?」

「いえ、反応は一つ、此方に気付いている様子はなく、真っ直ぐネブラスカを目指して航行しています」

「ふむ……もう少し詳しく」

「了解」


 艦長の言葉に俺は素早くこたえる。

 艦首に取り付けられた特殊なカメラを起動させ反応があった方向にカメラを合わせた。


 拡大――。


 小さく点にしか見えなかった星々は見る見るうちに大きくなっていく。

 そしてその中心にベージュ色の人工物が見えた。


 拡大――。


 クジラの様な船体は細長く艦首側上部に大きな窓がいくつも見える。

 艦尾側には十字をえがくようにして航行翼が付けられていた。

 船体の大部分はベージュ色に塗装され、所々にアクセントとして赤色のラインが入っていた。

 モニターの計測系によると、全長は600m、全幅90m、全高250m。

 如何やら大型の客船の様だ。


「客船の様です」

「ふむ……客船か。オープン回線で接触を図れ」

『了解しました』


 ニコラスが下の階層に居るオペレーターの一人に客船に連絡を取る様に促す。

 オペレーターの落ち着いた声がヘッドセットに反響した。

 続いてニコラスが俺に命令する。


「クレア、客船に武装があるか調べろ」


 その言葉に頷くと俺は手元のパネルを操作しカメラを拡大させた。

 船体の細部をモニターが映し出す。


 船体の数か所に大きな黒い円が見えた。

 更にカメラを動かしたとき、俺に濡れ手で胸を触られたような感覚が襲う。



 武装が――破壊されているっ!



「武装が破壊されています」


 冷静に報告をしたつもりだが、多分俺の声は震えていたと思う。

 そして俺の心中で渦巻く水底の様な不安感はオペレーターの報告で更に荒れた。


『応答ありません、それと救難信号が――』

「……どうやら、いきなり見つけてしまったようだな」


 ニコラスのトロンボーンのように低く胸の奥をスッと抜けていくような声が、いやに俺の耳に響いた。


「海賊による、仕業でしょうか?」

「多分な。付近に他の艦船の反応が無いのを見ると、奴らが何処かに潜んでいるか、それとも襲われてもう何日か経過しているのかもしれん」


 やり場のない苛立ちに頭の芯がチリチリと音を立て、俺は小さく足踏みをする。

 海賊に襲われた船の結末は2種類だ。

 襲われた後船ごと宇宙に漂う無数の塵の一つになるか、クルーを皆殺しに宇宙空間を漂う幽霊船にしてしまうかの二種類である。

 前者は主に武装した艦船を襲う際にとられる手法で、後者は武装が少なくメディアに取り上げられやすい艦船を襲った際に行われることが多いやり口である。

 今目の前に映った客船はたぶん後者の状況にあるだろう。 

 多分生存者はいない。

 そして俺達はこういった船を“ゴースト(幽霊船)”と呼ぶことが多い。

 生存者がいないのと、その凄惨な光景から、死霊がいるのでは、と言う理由から“ゴースト”である。


「どうしますか?」


 これをこのまま放置すればこの船がたどりついた先の宇宙港はパニックに陥るだろう。

 それは芳しくない。

 宇宙に出ることを拒む人間が増えてしまうということは物流の停滞につながる可能性がある。

 そうなると今まで物資を運んできた船はさらにその量を増やし海賊のいい標的となるだろう。

 最悪のシナリオだ。


「内部を調査、状況の確認をする。部隊編成の準備をさせろ」

「了解」


 俺は手元の端末を操作しランドにコールした。


『どうした』

「“ゴースト”発見、内部の調査をします。部隊の準備を」

『……わかった招集する。レディお前はどうする、来るか?』

「行きます」

『そうか、なら空間戦闘服に着替えて強襲ポッド前まで来い。30分以内に支度しろ』

「了解」


 俺は端末の通話終了ボタンを押して通信を切る。

 そしてニコラスの方を向いた。


「気を付けて行って来い」


 ニコラスと目が合うと軽い言葉をかけてくれた。

 そして俺はニコラスに一礼し艦橋を後にする。

ご一読ありがとうございました!

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