《香色。皆木さん》
九十九達が、茜色の空を見た日の1時限目休み時間。
渡り廊下の先で空を見上げる女子生徒。
皆木『やはり、ダメなのね。窓が開いた状態では、あの景色は見られない。この時間、同じ景色に出会える確率は3%未満。分かってはいたけど、残念な結果だわ。』
皆木からは、表情は変わらないが、肩から脱力感が見て取れる。
皆木『あの人と一緒なら、見られたかもしれないわね。渚君。私の知る限り、最高のタイミングを生み出す人。』
皆木は、ベランダへと視線を移す。そこには、九十九の姿があった。
皆木『あなたの秘密、しりたいわ。』
鋭い視線を送る。
皆木『購買部のお昼。あの激戦で難なく、焼きそばパンをゲットする、あなた、只者ではない。
まだあるわ、激レアで入荷のタイミングが不定。”二日目カレーのカレーパン”までも、手にしている。
私でさえまだなのに。 大体、カレーが被ってるじゃない。それも、解せないわ。って、それは関係ないわね。』
皆木は、ベランダに視線を固定し無表情だ。
明菜「あ、かおりん発見。やっぱり、かおりんも見に来たの。誘ってよぉ。」
背後から声をかけたのは、明菜。皆木と同じで、朝の景色を見に来たようだ。
皆木「明菜、残念な結果だわ。」
明菜「あちゃぁ、本当だ。窓全開だね。全然さっきと違うし、がっかりだよぉ。」
落胆の表情を浮かべ、首をかしげる明菜。
ふと、視線を空に向ける。
明菜「あれ、ナギー発見。」
明菜もベランダにいる、九十九を見つける。
明菜「おぉーい、ナギー。」
ベランダの九十九に向かい手を振る。しかし、九十九は気づかない。変わりに周囲の視線が、明菜と皆木に集まった。
皆木「いくわよ、明菜。」
皆木が下を向きながら、明菜の背を押していく。多少、顔が赤い。流石に恥ずかしかった様子だ。
皆木『明菜、あなたという人は。毎度毎度。もう少し、周囲を気にして欲しい。でも、これが、明菜なの。理解しているでしょう、香。そう、人はコントロール出来ない。ならば、自分が変わればいいの。とりあえず、今は、ここから撤退するのが得策。』
明菜「えっ、えっ。かおりん、ちょっと~。やぁ~。」
ずんずんずんと、背を押される明菜は、いちいち、声にする。その度に、周囲の視線が二人にむき、皆木の足が早足になった。
九十九「何やってるんだか。」
いつの間にかに、二人に視線を送る九十九。
九十九『ちょっと、皆木さんの声がきこえましてね。貴方にも聞こえましたか。いい事いいますね~。”人はコントロールできない。自分が変わればいい”。素敵な声でしたね。思わず反応してしまい、見てみれば皆木さんだった訳です。
あの声内容は、中々出来そうで出来ない、超能力入門編なんですよね。僕もついつい忘れてしまう事です。』
~3時限目の休み時間~
九十九が購買部へ向かう、後をつける皆木。
皆木『渚君に合わせれば、レアパンを買える確率は高いハズだわ。この2週間で、カレー・焼きそば・コロッケパンを難なく手に入れる、あなたのタイミング盗ませてもらう。』
廊下の柱や、階段に身を隠し尾行する。不意に振り向き、数歩戻る九十九。
皆木『っ!なんて事、後進するなんて予想外。』
しかし、九十九は皆木には気づかず、廊下の掲示板を流し見て、そのまま歩を進めた。
皆木『ふぅ~。ここで、掲示板を見る所あたりが、渚君のタイミングなの?。ふつうなら、購買部には走って行きたい所。休み時間も半分を過ぎたのに、余裕なのね。』
掲示板を一通り見た九十九は、歩を進める。
後をつける皆木。
皆木『さぁ、購買部まで来たわ。まだ、人が残っている当然よね。』
しかし、九十九は購買部をすり抜ける。
皆木『!?』
驚きの表情の皆木。
九十九は、購買部先の自販機でジュースを購入し戻ってくる。
そこには、もう、人影はまばらだった。そして、九十九来ると同時に、新しいパンが並べられる。
そこには、あのカレーパンも入荷された。
皆木『なぜなの、渚君。あなたの、タイミングの良さ。只、ジュースを買ったこの時間差で状況が一変するなんて。』
皆木は、考えると同時に購買部へ足が進んでいた。そして、
皆木「カレーパンを2個。」
おばちゃん「はい、300円だよ。」
皆木「あっ、財布・・・」
おばちゃん「あらら、生徒手帳でつけられるけど、どうする。」
皆木は顔を赤らめている。
皆木『私としたことが、こんなイージーミスを。なんて事、生徒手帳でつけなんて、入学早々借金を背負うの香。でも、見たところ、10個ほどしか無い、ここで諦めたらカレーパンは手に入らない確率が高いわ。くぅ~、どうしたら、』
横から手が伸びる。
九十九「ハイ、600円でカレーパン二つ追加ね。高木さん」
購買部のおばちゃんには、高木という名札が付いていた。
九十九「皆木さん、教室で返してね。300円。」
皆木「あ、ありがとう。」
皆木『渚君、ポイント高すぎです。そして、やっぱりタイミングがいいのね。』
購買部の袋を手に、並んで教室へ帰る二人。
ちょっと背の低い皆木は、九十九を見上げ顔みた。
キーン・コーン・カーン・コーン、4時限目終了のチャイムがなり、昼休みが訪れる。
慌てて教室を飛び出していく者、机を寄せ集まる者、にわかに教室・校舎が騒がしくなる。
そんな中、涼子と皆木な椅子を並べて雑談し始めている。
机の上には昼食が並んでおり、涼子はお手製のお弁当。皆木は、先ほど九十九を尾行した時に買った、購買部の袋がおいてあった。
涼子「速攻で教室出ていたけど、帰りが遅いね、明菜。」
皆木「今日の購買部は、いつもより戦場なの。」
涼子「えっ、なんでなんで。」
皆木は不敵な笑みを浮かべている。
涼子「また、そうやって香りは、意味深にするんだ。いいもん、別に知らなくたって。」
頬を膨らます涼子に、皆木が指でつっつく。
涼子「ぶぅ~。きゃ、ちょっとヤダ~。」
九十九は、カレーパンを食べながら、やり取りを見ていた。
九十九『何やってんだか。』
そこへ、明菜がヘトヘトになった様子で二人の前あらわれる。
明菜「うぅ~、買えなかった。やきそばパンもコロッケパンも売り切れ~。そもそも、三階からハンデありすぎだよ~。噂ではカレーパン入荷したって。でも絶対むり~。」
涼子「それで、結局どうしたの。」
明菜「とりあえず、卵サンドはゲットした。それと、ドーナツ。」
涼子「そう、良かったね。」
明菜「でもさぁ~、朝は目玉焼きだったんだよ~。それに、ドーナッツはやっぱり3時のオヤツでしょ~なんか寂しい。」
二人の会話を横目に、購買部の袋からパンを取り出す皆木。
明菜「あり、かおりんも購買部に行ったの。明菜の方が教室早く出たよね?いつの間に?
えぇ~!それに、そ、そ、それは、幻の二日目カレーのカレーパン。
なんで、どうして、かおりんズルい。いったい、いつ買ったの。明菜が行った時はなかったよ。」
軽い錯乱状態の明菜。
皆木「入手ルートは秘密よ。二つあるから、一つは、卵サンドと交換してあげるわ。」
明菜の動きが止まる。そして、強烈なハグ。
明菜「かおり~ん、超大好き~。」
皆木「きゃっ」
皆木に抱き着く明菜。
力いっぱい抱きしめられ、呼吸ができない皆木が、腕をはがそうとバタバタする。
九十九『何やってんだか。』
影峰『いいなぁ~あれ。』
涼子「ちょっと、明菜、落ち着いて、ね。」
涼子に、肩をたたかれ我に返る明菜と、解放される皆木。
皆木「ちょっと、後悔した。減点。」
涼子「まぁまぁ、香りも、怒らない怒らない。でも、いいなぁ~。私もカレーパン食べてみたい。」
明菜「半分こしっよか。」
涼子「えっ、いいの。でも、せっかくだし一個丸々食べたいんじゃないの。」
明菜「大丈夫、気にしないで。その変わり、お弁当分けて~ちょうだい。りょうちんのお弁当、美味しいいんだよね~。」
涼子「本当、手前みそだよ。」
二人の契約が成立しようとしていた所に、皆木が割って入る。
皆木「その必要はないわ。」
やりとりを見ていた九十九に、皆木が指をさす。
涼子と明菜はの二人は、視線を指先に移す。
九十九の机には、二つ目のカレーパンがおいてあった。
明菜・涼子「あぁ~、幻の二日目カレーのカレーパンだぁ。」
やり取りを見ていた九十九、片目状態になっている。
九十九『ふぅ~、やはりこうきましたか。カレーパン買おうとした時から、薄々感じてはいたけど。まさか、涼子さんに渡るとは、これも運命かもしれませんね。将来の彼女に譲りますか。』
皆木「渚君、あなたも、二つカレーパンを購入しいたわね。ここは、涼子に献上して高感度UPを図るタイミングよ。」
腕組みをした皆木が、九十九を見下ろす。
九十九『タイミングときましたか。皆木さん、中々やりますね。その通りです。』
九十九「明一中トリオの頼みじゃ断れないよ。いいよ。」
涼子「え、でも、悪いよ。それに、恥ずかしい。」
明菜「りょうちん、何が恥ずかしいの。」
涼子「だって、男子にお弁当分けるの恥ずかしいよ。」
皆木「なにを言っているの涼子、手料理弁当を食べられるなんて、渚君は超幸せ、幸せ絶頂間違いなしよ。そうよね、渚君。これは、男子の夢よ、憧れよ、桃源郷なのよ。」
皆木から、ただならぬオーラを感じる。
九十九「ありがたく、頂戴します。」
九十九『なんなんだ、この威圧は。』
明菜「あ、でもナギーお箸と器がないよ。」
九十九「あっ、そういえば。」
皆木「では、明菜のドーナツを渚君へ。そして、涼子のお弁当は、明菜がもらう。これで決まり。ベストな形だわ、渚君。」
九十九「えぇ?男子の夢と桃源郷は?」
皆木「決まりだね、ナギー。」
涼子「ありがと、九十九君。」
九十九は、キョトンとしている。机の上にはドーナツが置かれていた。
皆木『渚君、本当。いいタイミングなのね、素敵だわ。これからも見せてもらう。』
立ち尽くす九十九に、視線をおくる皆木香。
個性豊かな香りさん、果たして九十九の超能力に気付くのか。そして、誰もが持っている事に気付き、その能力を開花させるのか。
九十九『素質有りますよ、皆木香さん。貴方もそう見ている。素質高いですよね、彼女。』
九十九はドーナツをかじりながら、こちらに笑みを浮かべている。
そして、明一中トリオは、朝見た景色を、放課後もう一度見に行く作戦を立て始めたようだ。