《セピア色。すでに思いで、高校生初日。》
九十九「ふぅ〜、三国志ね。」
九十九が、机に向かい、腕組みをしている。
どうやら、遅刻のペナルティとして、出された、課題をやっているようだ。
机に、広げられたノートには、劉備や諸葛亮、曹操等、三国志の武将が書かれいた。
九十九「劉玄徳か、関雲長か、誰がメジャーで、うけるか、思案のしどころだ。」
本日の授業は全て終わり、教室には、九十九、一人。鉛筆をくわえ、腕組みしている。
部活が行われている校庭は、校舎を二つ隔てている為か、時折り聞こえる。大声も、気にならないようだ。
そんな中、九十九がふっと、こちらを見る。
九十九『貴方は、既にご存知ですが、今から、ターニングポイントで良い結果が得やすい、一つの方法を行います。』
『神野涼子さん、僕はまだ彼女を、神野さんと呼んでいます。
何度か、お伝えしていますが、近未来の彼女になる女性です。』
『できればもう少し、距離を縮めておきたい所なので、積み重ねと、タイミングを使い、方法を行います。』
『どうぞ、見届けて下さい。間もなく、涼子さんが来ます。先ほど、教室を覗いていたので、そろそろでしょう。』
九十九が、視線をノートに戻す。
翼徳、子竜と、また三国志の武将を羅列し始めた。
涼子『お、まだ、やってますねぇ。』
涼子は、ニヤリとして、こそこそと、九十九に近づいた。
涼子「はい、ホット。」
涼子は、朝の九十九を真似して、コーヒーを机に置いた。
九十九「あっあぁ、神野さん、ありがとう。」
机から顔を起こし、涼子を見上げる九十九。
涼子「いえいえ、感謝の印です、どういたしまして。」
笑顔で答えた涼子は、
そのまま、九十九のノートに、視線を落とす。
涼子「それ、課題だよね。なんでもいいから、三国志で5分話せ。だっけ?
なかなか、面倒そうだけど、順調?」
九十九「まぁ、5分程度なら、問題ないかな、ゲームなんかも流行ったしね。
誰か、皆が知ってそうな、武将の話しでもしようかなと。」
と、言いながら、涼子の買ってきた、コーヒーを開ける。
九十九「頂きます。」
涼子「武将の話かぁ、どれどれ。」
涼子「劉備とか曹操は、知ってる。諸葛亮?」
ノート見ながら、口に指をあて、頭を倒す。
涼子「あっ、孔明だね。うん、だいたいわかるよ、この辺は知らない。」
そう言うと、涼子は、ノートを指差した。
指の先を、九十九が確かめる。
九十九「張翼徳だよ。」
倒した頭を戻し、目を見開く涼子。
涼子「翼徳って、書いてあるよ。張って?」
九十九「張翼徳、張飛だよ。結構、有名人だよ。」
さらに、見開いた目を、丸くする。
涼子「張飛、知ってる。翼徳っていうのが、名前?あ、諸葛亮も、諸葛亮孔明か。なるほど。」
涼子は頷き、ふむふむ言っている。なんとなく、愛らしい。
九十九「納得したのね。」
と、コーヒーをふくむ九十九。
涼子「張飛と、九十九君は、似ている。」
九十九「ぶっ、なぜ?」
思わず、コーヒーを吹いた。
涼子「実は、九十九君の九十九って、
最初は苗字だと、思ってたから。」
九十九「ゴホッ、なぜ?」
またも、コーヒーを吹く、九十九。
涼子「なぜって、それはぁ。」
涼子が、照れ笑いをする。
〜入学式の朝〜。
涼子『新しい制服、新しい学校、た・の・し・み~。
えへへ、今日は、新しい教室に一番乗りして、最初をたっくさん堪能しよう。』
涼子は、頭に音符が見えそうなくらいの笑顔だ。
最初の、新しいを胸に、教室を目指した涼子であった。
涼子「おっはよ~、いっちばーん」
勢いよく、教室の扉を開ける涼子、教室には誰もいない。
そう、教室には、
涼子「えへへ、やったね。新しい教室で一番ゲット!?」
急に、口をとがらせた涼子。
ベランダへの、扉が開いているのに気付く。
そして、カーテンの間に人影を見つけた。
涼子『むにゅ~、一番ノーゲットなのぉ、そこに、いるのは誰』
喜びの興奮から一転、別の興奮が涼子を、動かした。
ベランダへと詰め寄る涼子。
そう、ベランダにいたのはもちろん、渚九十九であった。
ベランダにいる九十九が、片目を閉じる。
*キーィン:世界が反転し、九十九以外の動きが止まる、そして、こちらを見る。
九十九『おっと、回想シーンの途中ですが、失礼。
僕が、ベランダにいたのは、偶然か必然か?これまでの、僕の超能力を知る貴方は、
また、仕込みでしょう。と、思ったに違いありません。
そんなに、都合の良い、偶然が重なるかってね。』
『いえいえ、偶然も、小さな積み重ねと、タイミングの積み重ね。必然となりうるのです。
入学式の朝、普通に通うより、朝一番に行動した方が、面白いことが起こる確率があがる。
そう、僕や涼子さんのようにね。
超能力者であった貴方も、知っていた事ですよ、絶対に。』
『これは、そんな必然を求めた、二人の偶然、ターニングポイント。
では、回想シーンをお楽しみ下さい。』
九十九が、片目を開くと、世界がもとにもどる。
ベランダ:人の近づく気配を感じた九十九が、扉の方に視線をうつす。
そこには、神野涼子が、立っていた。
涼子「おはよう。」
一番の教室ゲットを逃した涼子、笑顔とも言い難い表情で、九十九へと挨拶をする。
涼子『うぅ~、なんで、もういるのよ。理由をしりたい。』
それを受けた九十九、いきなり挨拶に戸惑うも、声を返す。
九十九「あ、おはよう。」
涼子「来るのはやいね~、何時に来たの?家近いの?それとも電車の都合?
もしくは、一番が好きとか?
あっ、私は、神野涼子。明智第一出身なの、貴方は名前は?』
涼子の興奮からくる、矢継ぎ早の質問に押された、九十九が答える。
九十九「えっと、九十九です。」
名前を伝えた九十九、ほかの質問に答える間もなく、涼子が切り返す。
涼子「九十九君かぁ、よろしく。」
九十九「よろしく。」
涼子「それで九十九君は、なんで、こんなに早く来てるの。」
無意識に、ちょっと口調が強くなる、涼子であった。
九十九『ん?なんか怒ってる?』
*キーィン:九十九が片目を閉じると世界が反転する。
正直であれ、九十九。思い込みの、マイナスと感じる感情に、押される必要はない。
怒っているか、いないか?それは、九十九が決める事ではないし、伝えられてもいない。
勝手に判断してはいけない。
九十九『だよね。』
九十九が、何かと意識を共有しおわり、
閉じた片目を開くと、世界が元にもどる。
九十九「ん、それは、朝一番で来ると、何か変わった事が、起こるかなと思ってね。
折角の高校生初日だし、一つのアクションをと思ってね。」
九十九は、意志にしたがい、正直に伝える。
涼子『むむむ~、私と同じ考え。そっかぁ、同じならいいか。適当な理由だったら、落ち込む所だったけど。』
涼子「そうなんだ、私も一番狙ってたのにな~、残念。」
九十九「えっ、それは、ご免。」
九十九『私と同じ考えを持つとは、この人、いや、神野涼子さんも超能力者?』
九十九「えっと、じゃあ、女子では神野さんが一番って事で。」
それを聞いた涼子、今度は笑顔で答える。
涼子「わっグッジョブ。男子で一番、九十九君だね。それで、なにか、いい事あった?」
九十九「あたっよ。」
涼子「何、なに?」
九十九「朝から、女子と話せた。ありがと。
えぇ~と、神野さん。」
涼子の顔が、真っ赤になる。
涼子「えっ、えっ、別に特別な意味はないし、これからクラスメートな訳だし。
そんな、意識されても、困るっていうか。それに、そのセリフなんか、キザっぽくないですか。」
九十九は、慌てる涼子を、微笑みながら返す。
九十九「中学では、そんなに女子と会話がなかったからね。
高校入って、しばらくは、昔の仲間と一緒にいる程度と思ってたからね。なんか、ラッキーってね。
あらためて、よろしく、クラスメートの神野さん。」
涼子「え、はい、よろしくお願いします。九十九君。」
九十九と涼子は、顔を合わせて笑ってしまった。
~そして、初めのホームルーム~
担任の挨拶から始まり、入学式の段取りと一日の予定が配られる。
そして、担任の指示から、各生徒が自己紹介をしている所。
明菜「赤坂明菜です。えっと、明一中出身、スマホはパケホでやりたいと思います。」
出席番号1番の赤坂明菜、独特な自己紹介で、いきなり緊張も揺らぎ、
あとの生徒たちも、軽快に個性的に進める。
影峰「影峰光です。よろしくです。」
涼子「神野涼子、明智第一中。趣味は、新しい事をする事です。」
時折、笑い声が伴う自己紹介が続くなか、涼子が気付く。
涼子『あれ、あの人が、千葉さんでしょ。んで、手塚君と手塚さんで。
あり、九十九君は???』
そして、九十九の前が席を立つ。
智「中山智です、嵐の大野君と同じ名前です。顔はジャニーズ向きではありません。」
ここでも、若干の笑いが入る。
涼子『おぉ、次が九十九君だ、聞き間違えたかな?そんな事ないよね。』
少し、ソワソワする涼子。となり席で、明菜が気付く。
明菜「りょうちん、どうしたの。トイレ?」
涼子「ん、なんでもない。ちょっと気になってね。」
明菜「朝、話してた男子。」
涼子「そう。」
明菜が、涼子の脇腹を、突っつく。
明菜「りょうちん、あーいう人が好みだっけ?確かに明一には、いなかったけど。
なんか、色々、いが~い。なんなら、応援しちゃうよ。」
涼子、慌てて振り返る。
涼子「ちっがーう、そういう事じゃなくて。」
明菜「照れない照れない、新しい事するって。恋だったんだ~、ふぅ~ん。」
流し目で涼子を見る。
涼子「勘違いだからね、へんな誤解はやめてよね、明菜。」
全力で、明菜を否定する涼子を、向きになっちゃって、の視線でみている明菜。
そんな中、九十九の自己紹介が終わっていた。
涼子「あぁ、名前、聴こえなかった。明菜のせいだからね、なんて言ってた?」
明菜「ごめ~ん、聞いてない。」
顔の前で、両手を合わせ頭を下げる、明菜であった。
涼子『えっと大野君、じゃなかった、中山君でしょ。九十九君で、今、野口さんだから、
九十九君は、"な"から"の"の間って事だよね。
もぅ明菜は、なんか誤解してるし、他の人に聞いて、また誤解されるかも、聞きにくいよ~。』
『九十九君、あなたの名前は、なんていうの?』
自己紹介は続いている。
皆木「皆木、皆の木で、皆木。名前は香。お見知りおきを。」
皆木の自己紹介、それ聞いて、稲妻のような衝撃が涼子を襲い、涼子は思わず立ち上がりそうになる。
九十九『ん、名前?ひょっとして、名前は九十九で、苗字じゃないって事ぉ~』
『えぇ~確かに、朝、名前はって聞いたけど、普通は苗字で答えるよね。
九十九君のバカバカ、なんか、すっごい恥ずかしいよ。』
明菜「りょうちん、顔が赤いけど、大丈夫。やぱっりトイレ、お腹でもいたいの?」
涼子「お腹は、大丈夫、逆にすっきりしたから。」
それを聞いた明菜、鼻をおさえる。
涼子「涼子どうしたの?」
明菜「りょうちん、教室で、おならはよくないぞぉ~」
涼子「はぁ、してません。もう、さっきから、勘違いばかりして、もう。」
ほほを膨らませる涼子。
~放課後の教室に戻る~
涼子「そんな訳で、名前は?って聞いた。九十九君が、そのまんま名前で答えてくれたから、
しばらく、九十九君の苗字が、渚だって知らなかったのよ。」
九十九、コーヒーを飲みほした所で、涼子の説明が終わった。
九十九「そっか、なんか、初日でお互い、笑えるね。」
涼子「ほんとだね。」
九十九「そっか、神野さんは、僕を名前で呼ぶのは、そんな理由だったんだね。初対面から、
ずっと名前で呼ぶから。最初はとまどったけどね。なんかもうかなり昔、セピア色って感じかな。」
涼子「なんか解る、色ぼけた感じの話だよね。」
九十九が、片目を閉じ振り返る。
*キーイン:九十九が片目を閉じると、世界が反転する。
九十九『さて、ずいぶん貴方を、待たせてしまいましたね。先もお伝えしたように、
そろそろ、僕と涼子さんの距離を、縮めたいと思います。
タイミングの積み重ねで、今、名前の話題になっています。
僕はいまから、一つの方法を、行います。もしかしたら、これから、彼女を名前で呼ぶ事に、
成功するでしょう。』
九十九は、改めて、貴方を見据える。
『方法とは、そう、実行する事です。思い、考え、勝手に色々な結果を想像する。
そして、恐怖心にとらわれ、最初から何もしない、あきらめる。そんな事が、多いようです。
超能力者のごくたちは、そんな、ターニングポイントで実行する事を、知っています。
もちろん、貴方もそうしていました。
まぁ、気付かない時も、ありますよ。僕にもあります。でも、今回は、実行します。
是非、この後を一緒に、体感して下さい。それでは。』
九十九が、閉じていた片目を開くと、世界が元にもどる。