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第七話

 「夏月の様子がおかしい」

「確かに」

「心ここにあらずって感じね」

荒太が言うと長七郎と駒乃が頷く。

三人は長七郎の部屋で話し合っていた。 内容は大切な兄弟とも言える夏月の事だった。 夏月は誰の目から見てもボーッとしている。 今までは誰も何も言わなかった。 だが今年は流石に気になる。 理由は粗方見当が付く。 一〇年前に迷い込んだ少女の事についてだろう。 真夏の夜中、この世界での夏、最後の日にその子は来た。 真夜中に玄関の引き戸から顔を覗かせるその子を発見したのは夏月だった。 その次に荒太、そして黒陽、鈴と発見した。 すぐに帰ったその子は下界では秋になっていた。 そして夏月が図書館に通い始めてから少し経つと、本を返しに行った荒太に一人の少女が話しかけた。

「あの、その本……。 夏月くんが借りた本ですよね? 夏月くんの家族ですか?」

控えめに問いかけてきた少女はとても綺麗だった。

「……一応な」

「なら伝えてください。 いつも待っていますと」

少女の問いかけに荒太が頷くと、それだけを言って少女は立ち去った。 その時は荒太は何とも思わずに帰った後に夏月に言うと夏月はそっかと言って笑っていた。 子供のような無邪気な笑顔だった。 それを見た瞬間に荒太は凄まじいほどの恐怖に襲われた。 山神としての禁忌をこいつは犯そうとしている。 直感的に気づいてしまった。

 そしてその少女が何年か前に迷い込んできた少女だという事も見当が付いた。

黒陽にはまだ伝わっていない。 今の所、荒太が言っているのは駒乃、長七郎だけだった。 これが広まってしまって日本の山神の総元締めである藤爺ふじじいの耳に入ったらと、黒陽の耳に入ってしまったらきっと夏月はただじゃすまないだろう。 だがこのまま放っておいていざ禁忌を犯してしまった後では何も弁明は出来ない。 そう考えると今言ってしまった方がいいのかもしれない、という思いも募る。

「でも、夏月はそこまで馬鹿じゃないでしょ」

駒乃が伸びをしながら言うと荒太はふぇ? と素っ頓狂な声を出す。

「だって、一番チビっつったって、夏月と私達は一緒でしょ?」

山神としての年月はさと言う駒乃に荒太は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。

「そうだけどさ、あいつはいつまで経ってもガキだから」

「荒太だって俺と大して変わんねぇだろ」

荒太の言葉を遮りながら言われた言葉に荒太は後ろを向くと襖に寄り掛かりながら眉間に皺をよせた夏月がいた。

「聞いてたの?」

長七郎が問いかけると夏月は頷いた。

「俺だって禁忌くらい分かってる。 禁忌を犯すつもりはねぇよ。 別に。 俺はあのに対してそういう感情は抱いていない」

すっぱりと言い放つ夏月に荒太は怪訝そうな顔をした。

「アンタ、本当ね?」

駒乃が問いかけると夏月は本当じゃなかったら言わねぇとそれだけを言うと散歩行ってくるとだけ告げて襖を閉めて家を出た。

「……もう少し様子を見てみましょう」

駒乃が息を吐きながら言うと荒太は何も言わずに自分の部屋へと戻り長七郎は頷き駒乃も自分の部屋へと戻った。









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